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フォーマットを壊し新たな価値を 大ヒットアニメを生み出してきた異端力と戦い方のヒント(全3記事)

実は型破りなアニメ『名探偵コナン』 業界の常識を打ち破るプロデューサーの発想術 [2/2]

コナンならではの“アニメ的”な要素に着目

作者の青山剛昌先生には、今、またアニメにもなっている『YAIBA』という大ヒット作がすでにありました。その時は「青山先生の新作がミステリーなの?」という感じもありましたけど、青山先生は元来『シャーロック・ホームズ』が大好きで、『名探偵コナン』という名前をつけるぐらいですからね。

それが1994年の1月に連載開始。その前の年の1993年の年末のパーティーで、僕も先生に挨拶させていただきました。それはもうまったくこういうことが決まる前でした。

コナンと金田一の違いは、よくおわかりの方もいらっしゃると思います。コナンの第1話「ジェットコースター殺人事件」はけっこうがんばって作りました。首が飛んだりとか、ちょっと大変なシーンもあるんですけども、最後には工藤新一君という主人公の高校2年生が、薬を飲まされて体が縮みます。

金田一とコナンの違いは、とりあえずその1点ですね。どう違うかというと、体が縮むのはフィクションです。青山剛昌先生が考えたオリジナルな設定です。はっきり言うと大嘘です。基本的に薬を飲んで体が縮むことはないわけですね。

ところが、体が縮むというフィクションを前面に出した上で、次にリアルなミステリーを作っていく、この話の持っていき方が非常にアニメ的だなと思ったんですね。

工藤新一の実写のドラマはその後も何本か作りましたけども、『名探偵コナン』そのものは、なかなか実写映画にはなりません。リアルな江戸川コナン君のような子は見つけるのが難しいですし、本当に実写化できたとしても成長しちゃいますので。

なので、なんとか『名探偵コナン』をテレビアニメにしたいと思って、1994年1月からマンガ連載が始まり、テレビアニメ化しようと活動した結果、1996年1月、要は丸2年経ってテレビアニメを開始できたんです。

『Get Wild』がアニメのフォーマットに与えた影響

その間に実は『魔法騎士レイアース』という、これもこれで非常にがんばったとても良い作品があったんですけども、このアニメのプロデューサーをしていました。その間は、それがいつ終わるかどうかも踏まえて、『名探偵コナン』をどこに着地させるかをずっと探るというんですかね。

プロデューサーは、作品を作ることがもちろん大事です。けれども、その立場において、いわゆる原作側、出版社側、我々テレビ局側、スポンサーも含めて、間に挟まれながら一番ベストな枠はどこだろうとやっていくんです。結果、1996年1月に『名探偵コナン』をスタートできました。その時に一番考えたのが『名探偵コナン』のフォーマットですね。

ちなみに実は『シティーハンター』ではテレビアニメとして初めて、『Get Wild』という曲のイントロを本編に被せながら後CMをなくしてそのままいくやり方をしたんです。それは1つのパイオニアで、いまだに『Get Wild』はそのまま愛してもらっている。

4月8日は『Get Wild』の発売日でした。テレビアニメも1987年4月6日に始まっています。それで(日本記念日協会に認定された記念日として)唯一、音楽の記念日になっている「Get Wildの日」が、実はこの前の4月8日でしたね。

アバンタイトルに込められたねらい

(スライドを示して)『名探偵コナン』のフォーマットです。非常に見にくいと思いますが、私の手書きです。テレビなり何なりで番組を作るのにキューシートがこんなに汚くてはいけないかもしれませんが、手書きでも何でも書けなければいけません。

毎週土曜日、夕方6時。「みなさんもオンタイムで見てください」とは言いながらも、今や「見逃し配信」なんていう言葉もあるわけです。「オンタイムで見て」という我々の、昭和から平成にかけての動きが、まるで通じない時代になっていますけども。

この『名探偵コナン』のフォーマットを見ていただくと、最初に本編があります。「今日はどんな事件が」とかのプロローグですね。これは本当に話によって違うことがあるので絶対とは言いませんけども、こんなことをやっているんだなと思ってオンエアを見ていただけるとうれしいと思います。

オープニングの頭はアバンです。声優の高山みなみさんが江戸川コナン君として「たった1つの真実見抜く、見た目は子ども、頭脳は大人。その名は、名探偵コナン!」と言う、15秒で入れるアバンがあります。

このアバンに流れる曲は、今はRainy。さんが歌っています。歌の初めに七五調でせりふを2行分しゃべります。その次は今日の話の内容ですね。今日は何が起きるのか。もう今は1,160話まで来ていますけども、毎回絶対にあるのが、「たった1つの真実見抜く、見た目は子ども、頭脳は大人。その名は、名探偵コナン!」というせりふです。

初めて『名探偵コナン』を見る人も、この言葉で「コナンは真実を見抜き、見た目は子どもだけど頭脳は大人なんだよ。それが名探偵コナンなんだよ」ということが理解できる、そういうアバンをやります。

どんな歌手にもイントロは15秒

そのアバンが終わった後、オープニングの歌がかかりますけども、流れるのは曲のイントロです。なので『名探偵コナン』のオープニングの音楽は、イントロを15秒で発注しています。過去、B'zやZARDや倉木麻衣さんなど、どんな人にも15秒でお願いしている。

その歌が終わった後にCMが入って、前提供です。これも江戸川コナン君が「『名探偵コナン』はご覧のスポンサーの提供でお送りします!」と元気に言います。

これも今はなかなか普通になってきましたけども、初めは提供で声優さんがどこかの会社名を言うのは営業行為として、なかなかやりにくい時代もありました。例えば「ご覧のスポンサー」ならばいいんですけども。

「『名探偵コナン』全体の主役は江戸川コナン君なので、ここは通しましょう」という話で、コナンは1996年の第1回から江戸川コナン君にそう言ってもらっています。

そしてCMに入ります。ポイントはCMが空けた後のサブタイトルですね。炎が燃えているところに、視点が船みたいにバーッと行って、ドアがバンと開くとサブタイトル。

イメージとしては「ミステリー城へようこそ」ということです。東京ディズニーランドの「ホーンテッドマンション」を思っていただければおわかりかと思います。「さぁ、ここからはミステリーの世界ですよ」といざなう感じですね。

それで、一応前編が終わって中CMの手前ではアイキャッチでドンとドアが閉じる。それで、CMが明けるとまたドアが開く。

このへんの感じは、アイキャッチがない作品もありますけど、基本的にテレビアニメは、だいたいこれ(スライド)を見てわかりますように、オープニングがあって前CMがあって、前編があって、中CMがあって、後編があって、後CMがあって、エンディングと。ほぼだいたいの作品はこんなかたちになっています。それに準じてやって、後編の本編があって、その後にエンディングです。

歌詞に字幕がついている理由

おまけで言いますと、『名探偵コナン』は必ずオープニングにしてもエンディングにしても、歌詞スーパーをつけております。

これはやはり音楽そのものがいわゆるテーマ曲というか『コナン』の主題歌ということで使うので、アーティストエリアの世界観とアニメのコナンエリアの世界観との共通の交わりを必ず1つ持ってほしいと思ったからで。それを見せるかのように歌詞スーパーをつけています。

それで、その後に予告。コナンの予告はドラマ風に作っています。だいたいアニメの予告は、主人公か誰かが、「次回は俺はこんな目に遭わせられる。これはどうやって解決したらいいんだ?」みたいなことを、コナンのようには言わないです。

コナンは、その時その時の次のシーンを予告にはめて、そのシーンはわざわざ次回のシーンとして録っています。それで次に後提供があります。これはみなさんおわかりだと思いますけども、「ネクストコナンズヒント」です。

その後「エンド」があって、それは両方とも5秒、5秒、トータル10秒ですけど、これに1つ力を入れています。

ネクストコナンズヒントの着想元は『サザエさん』

このネクストコナンズヒントをどうしてつけたか。実は僕、ほかの番組でも同じような演出をいろいろやりました。例えば『YAWARA!』では、「バルセロナまであと何日」を入れました。

『コボちゃん』を1年半やったんですけども、そこでは「コボなぞ」と言って、なぞなぞをやりました。『ブラック・ジャック』ではNG集、『犬夜叉』では「犬夜叉のツボ」をやりました。

これをなんでやるかというと、ライバルというか参考があるんですね。それは『サザエさん』のじゃんけんです。これになんとかついていこうと。

『サザエさん』のじゃんけんはすごいですよね。今はもう視聴率ということじゃないかもしれませんが、『サザエさん』そのものは日曜日の夜、「あぁ、明日から仕事か……」という人もいれば、「あぁ、楽しい週が始まるぞ」という感覚がする人もいる。

これはテレビで日曜日の6時半に放送し続けているパワーですね。『コナン』は今土曜日の6時で、そんなパワーも欲しいと思っています。

ネクストコナンズヒント、そしてエンド。エンドはその時その時によって我々がシナリオを書いて、声優さんが5秒で掛け合います。

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