「読者が選ぶビジネス書グランプリ2025」にて、ビジネス実務部門賞受賞『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』(すばる舎)の著者である今井孝氏を招いた特別セミナーが開催されました。本記事では、後悔しない意思決定のヒントや「やらなくていいこと」の見つけ方をお伝えします。
「たった2時間で幸せになれる」と気づいたきっかけ

米良克美氏(以下、米良):(先ほどのお話を)聞いているだけで私もちょっと幸せになったんじゃないかなと思っているんですけれども、(書籍の内容について)6章立てでご案内いただきました。
最初に、全部の時間が幸せじゃなくて、自分の大切な時間が2時間あれば幸せになれるという全体のコンセプトを1章で示していただき、そのために2章ではムダを取る。3章では「そもそも自分の幸せは何だっけ?」ということを見つめる。4章では、それをスケジュールに落とし込む。そんな話が出ました。
5章では、それを長期的な目線に立って時間の使い方を見て、最後の6章、「自分の幸せを味わう」。これができたら私はもう幸せになれるんじゃないか。2025年から幸せが爆増するんじゃないかなと思っているんですが。
最初に本についておうかがいしたいんですけれども。この1章のコンセプトの部分。我々は、ともすると「24時間全部幸せな時間じゃないと」と思ってしまう。でも、「たった2時間で幸せになれるんだよ」というコンセプトを今井さんがお考えになったきっかけはありますか?
今井孝氏(以下、今井):実は僕、めちゃめちゃ突き詰めて考えるのが大好きで、「本質って何だろうか?」とめっちゃ考えるんですよね。なので、(ピーター・)ドラッカー先生とかが大好きなんですよ。ドラッカーの本とかめっちゃ読んでいて、(その本だと)そもそも「企業の目的ってなんだ?」「利益を出すことじゃないよ」みたいな。
グロービスの方は知っている方が多いと思うんですけど、目的を突き詰めて考えると、「顧客の創造が企業の目的だ」というんです。たった1つなんですね。そういうのが大好きで、本を読んで「おぉ」と感動したりするわけですよ。「人生の目的は何だ?」と考えたら、いろいろあるけど、結局自分が幸せになることが目的だよなって思ったんですよね。
昼間は働いていても、“夜の2時間”で幸せになれる
今井:「なんでMBAを取りたいんだろう?」、(例えば、)達成感を味わいたいからですよね。「なんでビジネスをやりたいんだろう?」、ワクワクするしおもしろいからですよね。自分が世界を動かしている気持ちになったら爽快ですよね。とか、世の中の問題解決をしたい人がいたら、それができたら本当に気分がいいですよね……みたいなこと(を考えるの)が好きで。
「あぁ、そうか。幸せになることが大事なんだ」というところから、まず考えが始まりました。「じゃあ、幸せな一生って何だろう?」と考えていろいろ勉強するうちに、人生80年だったら3万日ぐらい毎日幸せだったらいいんだな、みたいな考えに到達しました。
それで「幸せな1日って何だろう?」と問いを立てていたら、「あっ、なんか今日幸せだな」と思ったことがありました。で、「あっ、昨日も幸せだった、なんでだろう?」。誰々さんのコンサートに行ったから「あっ、幸せだ」と。
あれ、待てよ。でも、昼間は普通に仕事をしていた。いつもと変わらない。夜2時間ぐらいだけいつもと違っていた。ということは、幸せな1日というのは24時間じゃなくて2時間ぐらいでいいんだなと思った。
実際、いろんなことがうまくいっている人をインタビューしていったらやはりそんな感じだったので、「あっ、この仮説はたぶん正しいに違いない」と思って、そこにたどり着いたわけです。
意思決定で自分に問う「あと10年しか生きられないとしたら」

米良:ありがとうございます。おもしろいですね。今井さんが突き詰めて考えていって、いわゆる演繹的にたどり着いた答えと、周りの幸せそうな方々にインタビューして帰納的に見つけた方法がバチッと当てはまって、やはりこの仮説は正しかろうと、そんな感じで身につけたんですね。
今井:そうですね。エビデンスは僕の周りだけですからね(笑)。でも、この本を読んで共感してくれる人がまあまあ多いので、たぶん合っているんだろうなと思います。
米良:いや、私の周りでもそんな感じがします。これはパラダイムシフトだなと思っていて、全部幸せじゃないとダメだと思っていたのが、たった2時間、自分の限られた時間でも大丈夫というのは、我々にとって大きな福音になるなと思って聞いておりました。
今井:ありがとうございます。うれしいです。
米良:それでは、2章以降は具体的な方法論に入っていくわけなんですけれども。まず最初に、時間を作るために要らないものをなくしていくアプローチが必要だとおっしゃっていました。私が一番印象に残ったのが、「やらなくてもいいことを見つけるためには自分に問いかける」とありましたよね?
今井:うんうん。
米良:「もし、あと10年しか生きられないとしたら、これを本当に続けるだろうか、やめるだろうか?」、そういったことを今井さんは毎日自分に問いかけていらっしゃるんですか?
今井:毎日やっているわけではないですけど(笑)、意思決定の瞬間瞬間では「これってずっとやるのかな?」とかは考えますよね。
「無人島に住んでいても、それをやるか?」
米良:例えば、「あと10年しか生きられないとして、やるのかやらないのか」も、重大な意思決定では思い出されるということですね?
今井:そうそう。日々の食事ぐらいでは思わないですけども、重大な意思決定の時はそうですね。例えば1年の何ヶ月かを取るような事業を始めるとか、もしくは習いごとを始める時は考えますよね。あと、ちょっと海外旅行に行こうかどうか迷うとかね。そういう時はいったん自分に聞きますね。
世の中の答えはロジカルシンキングで出るかもしれないんですけど、自分が幸せになるための意思決定はやはり自分に聞くしかないんですよね。なので、いい質問を自分に聞かないと答えが出にくいかなと。
米良:めちゃくちゃ大事ですね。自分にきちんと正しい問いを出す。自分に投げかければ正しい答えに導かれるということをおっしゃっていただいたんですが。ちなみに今井さんが「あと10年しか生きられないとしたら?」みたいな感じで自分に問いかけていらっしゃる言葉は、これ以外にありますか?
今井:実は「あと10年しか生きられないとしたら?」というのは76ページに(書いてあります)。で、この本の92ページに、「やめるかどうか?」みたいなほかの質問もいくつか書いています。
例えばもし今、(何かを)やめる時に、それをもうやっていなかったとして、また始めるかなって。これはまさに、ドラッカーのパクりなんですけど(笑)。
米良:サンクコストみたいな話ですよね。
今井:そうです。極端なシチュエーションを自分でイメージする。それを今回はやめるかどうかで書いていますけど、何かを始める時にも、「これ、本当に始めるかな?」とかね。
あと例えば「無人島に住んでいてもそれをやるかな?」というのは質問に書いてあるんですけど、無人島ということは自分1人なんですね。極端なケースで、誰もいないということ。「誰もいなかったら別にダイヤの指輪、しないな」とかね(笑)。
米良:確かに。誰かに見られるからやっているわけですもんね。
今井:そうそう。意思決定の時にはそんなシチュエーションを考えますね。
幸せの種類を3つに分ける
米良:それこそ92ページに、それ以外のめちゃくちゃ大事な問いもいくつか入っているんですけれども。本書をみなさんにも読んでいただいて、私自身も自分に問いかけるかたちで、「要らないものなんじゃないか? 本当に必要なのか?」、そこを見極めていきたいなとあらためて思いました。
2章で要らないものを取った後は、3章にちょっと山場というか、「じゃあ、そもそもあなたにとっての幸せって何ですかね?」みたいなところを突き詰める章が入ってくるわけなんですけれども。
これは秀逸だなと思ったのが、「幸せなことを挙げてください」と言われると難しいんですが、今井さんは3つの種類に分けたらわかりやすいんじゃないかと書かれていますよね。この幸せの3つの種類について解説いただけないでしょうか?
今井:はい。「自分の好きなこと、やりたいことを挙げてください」と言われると、(それを)書いている時に、「いや、これは無理なんじゃないかな?」と自分の頭がブレーキをかけることがけっこうあるんですよね。
なので、セミナーとかで「やりたいことリストを作ろう」とか「好きなことを挙げよう」といっても、なかなか書けない方がまあまあ多くいらっしゃるんですよ。
だから工夫をして、(幸せの種類を)3つに分けると、けっこうスラスラできることがわかりました。1つが「簡単にできること」ですね。例えば僕だったら、「餃子を食べる」とかもそうですね。「アロマ」とか「ネイルサロンに行く」とか。「ランニング」「お風呂に入る」、そのレベルのことを挙げましょう。それはみんなポンポンポンと簡単に出るんです。
「ちょっとがんばったらできること」「とんでもないこと」のリストを書く
今井:次のカテゴリーは、「ちょっとがんばったらできること」。例えば「旅行に行く」とか、「楽しいけどお金がかかるし時間もかかるな」「休みも取らないといけないな」みたいな「まあまあがんばったらできる」レベルのことを、「ちょっとがんばったらできる」のカテゴリーに書く。
そうしたら、「大変だけど旅行も行きたいし、どこかの有名なレストランにも行きたいし」とかが出てきます。最後に、「とんでもないこと」。
「1億円の豪邸を建てる」とか「ハリウッドデビューする」とか。「できないんじゃないかな?」と思うことでも、このカテゴリーがあると、みんな書けちゃうんですよね。「あっ、これは何を書いてもいいのね」みたいな許可が出るので。
なので、でっかいこともどんどん書くと、トータルとしてまあまあいいリストができあがるんですよ。
米良:なるほど。簡単にできることリスト、ちょっとがんばればできることリスト、そして自分にとってとんでもないことリストの3つを書き上げていく。その営みの中で、やはり「自分ってこういうことが好きなんだ。こういうことを幸せに感じているんだ」みたいなことに気づいていく感じですかね?
今井:そうですね、おっしゃるとおりで、「あっ、僕は餃子が好きだったんだ」と気づいたことがあるんですよね(笑)。
米良:(笑)。
今井:「好きな食べ物は何ですか?」とか「好きな映画は何ですか?」とか「好きな音楽は何ですか?」と聞かれることは、たまにあると思うんですけども、ああいうのは考えておいたほうがいいと思うんですよね。そういうのを言語化しておくことによって、自分の価値観がすごくわかってくると思います。
米良:なるほど。
今井:セミナーでやってみると、隣の人とまったく違うことに気づいて、「あっ、そこが自分なんだ」と、やはり自分の価値観があるんだなというのをあらためて再認識すると思いますね。
米良:なるほど。「何が好きなんですか?」と聞かれたら、「いや、そんな普通ですよ」って答えちゃいがちだけれども。言語化して、例えば人のものと見比べてみると自分の輪郭がビビッドに浮き上がってくるみたいな感覚ですかね?
今井:おっしゃるとおりですね。
米良:いいですね。ご自身でワークするようなことも入っていますので、みなさんもぜひ自分の幸せリストを書き出してみながら、ご自身の幸せに着目していくというところですかね。