本企画、「キャリアをピボットした人の哲学」では、インタビュイーにこれまでの人生を折れ線グラフで振り返っていただき、その人の仕事観や人生観を深掘りしていきます。
今回は、『人生から逃げない戦い方 メンタルダウンから生き延びた元幹部自衛官が語るユル賢い生存戦略』著者のわび氏に、今までの人生を振り返っていただきました。本記事では、後悔しない転職をするための考え方や、「人生から逃げない戦い方」についてお伝えします。
「つらい時は逃げてもいい」とは言うけれど…
——ここまで、わびさんのキャリアチェンジの経緯や仕事選びの軸についておうかがいしてきました。ここからは、書籍『人生から逃げない戦い方 メンタルダウンから生き延びた元幹部自衛官が語るユル賢い生存戦略』の内容についても、おうかがいしたく存じます。
まず、この本のタイトルでは「人生から逃げない戦い方」とありますが、どういった思いが込められているのでしょうか?
わび氏(以下、わび):私自身、最初の本(『メンタルダウンで地獄を見た元エリート幹部自衛官が語る この世を生き抜く最強の技術』では、つらい時は「逃げてもいい」と言っていたのですが、SNSで発信していく中で、「逃げた後のほうがつらいんじゃないか」と思うようになりました。
やはり「がんばらなくていい」とか「逃げていい」という言葉が一般的にもよく言われている中で、ミスリードを起こしていないかな、と不安になったんですね。
人生には、逃げていい時と悪い時がある
わび:というのも、逃げていい時と悪い時があると私は思っています。本当に自分が目指すべき、人生の目的から外れないというのが、ものすごく大事だなと思っていて。
例えば「やりたいことがほかにあるから、ここからは逃げる」とか、さっき言ったようなポジティブな転職、つまり目的のある逃げはぜんぜんありだと思うんですけど。「ただ苦しいから、とりあえずここからいなくなりたい」とか、逃げた先に何もないような逃げ方は、極力やめたほうがいいなと思います。
とはいえ、私もパワハラを受けてうつ病になったことがありますので、大前提としての「我の健在」はあると思います。自分がちゃんと生き残ることが大事なので、そこを損ねるような状況だったら、逃げていい。そのへんの取捨選択が大事ですね。
——わびさん自身が、目的から逃げてしまった経験で言うと、さきほどお話しいただいた、市役所の仕事を選んだことでしょうか?
わび:それもありますね。あとはメンタルを病んだ時に、そこから逃げない方法はなかったのかと、今は思うことがあります。例えばもうちょっとうまく受け流す方法はなかったのかとか、あるいはもっと立ち向かって戦える方法はなかったのかとか。
今、私は戦略的な思考というか、けっこう長いスコープ、広いレンジで物事を考えられるようになったと思っているんですけど。それまでは狭い視野でしか見られていなかったので、今ある壁に対して、本当に苦痛にしか感じられなかったんですね。でも、もうちょっと視野を広く考えられたら、そんなに大したことなかったんじゃないかなと思います。
もし今、パワハラを受けていた時代に戻れたら
——もし、今のわびさんの思考を持ったまま、その当時にタイムスリップしたら、どんな働き方や上司との関わり方をされますか?
わび:おそらく、パワハラとか、自分の業務を後回しにされたりしても、今だったら、「上司が見てくれなかったから悪いんだ、いいや」と思って、普通に帰ると思うんですよ。ほかにも生きていく道はたくさんあるとわかっているので、何か言われても反論できると思います。
でもその時は、やはり階級社会ですし「上司の言うことは絶対だ」という思い込みが強かった。「ここで逆らったりしたら、この組織で生きていけなくなる」という考えが、どんどん上司を付け上がらせたのかなって思います。
今パワハラで悩んでいる人は、「生きていくにはここしかないんだ」とか「悪いのは自分なのかもしれない」という思考になっているから、嫌なことをされても従わざるを得ないのかなと思うんですね。
でも、今は人手不足で、年収にこだわらなければ転職先はたくさんあります。「逃げ道はいくらでもある」と思えれば、反抗するのもあんまり怖くなくなるはずです。私自身も、何度か転職を経験してこの感覚を持てるようになってからは、前の会社でも今の会社でも、言いたいことはズバズバ言っています。
仕事をがんばらないために、あえて「仕事は攻める」
——ありがとうございます。書籍の中では、その職場にとどまったままでも、うまくやっていけるようなヒントが書かれていました。職場でメンタルを守りながら働く方法について教えていただけますか?
わび:そうですね。例えば、「仕事をがんばらないために、仕事は攻める」ということを本の中で書いています。仕事はイニシアチブを取るのが大事で、主導権を握ったらすごく楽になるんですね。
どうせ仕事って、嫌でも好きでも回ってくるじゃないですか? だったら先に仕事を取りにいって、自分が自由にできるように進め方やスケジュールを組み立ててしまうという考え方です。
相手からの指示を待っていても仕事の期日は変わらないので、待っている時間が無駄じゃないですか。なので待ちが発生しそうな時は、先に仕事を取りにいって自分でマイルストーンを置いていく。それに向かって自分の好きなように動いていけば、そんなにがんばらなくてもよくなるんです。
——仕事は受け身にならないほうが、実は楽だということですね。
わび:そうです。受け身になると、自分の予定がどんどん食われていくのでつらいですよね。だいたいの受け身の人って、相手都合の予定が先に入ってしまって、自分のやりたい仕事が押し出されるような働き方をしていることが多いと思います。
スケジュールは「予備の時間」を入れておく
——書籍の中では、「仕事に充てる時間と、予備の時間に分ける」ということもおっしゃっていましたね。
わび:はい。自衛隊の教科書には「予備は戦勢支配の主要な手段」と書かれています。つまり、戦いの流れを支配する手段として、「予備」が非常に有意義な方法だということです。
やはり予備の時間がないと、何か緊急の仕事が入った時に後手後手に回ってしまうので、必ず持ったほうがいいなと思います。でも、社内でみんなが見られるようなスケジュールに「予備の時間です」とはなかなか書けないので、工夫して予備の時間を作るようにしています。
——例えば資料作成に90分ぐらいかかりそうだったら、プラス30分で、120分の枠をカレンダーに入れてしまうとか。自分の中で、ちょっと余裕を持ってスケジュールを確保するイメージですかね。
わび:そうですね。最初の話に戻ると、受け身の仕事のやり方では、その予備の時間が確保できないんですよね。だから先んじて動いて、自分でスケジュールを押さえていくやり方にしたらけっこう楽ですね。
職場の人間関係は最低限でいい
——ここまで、無理せず仕事をスムーズに進めるためのコツについてお聞かせいただきました。実務以外の部分では、職場の人間関係で悩まれる方も多いと思いますが、ポイントはありますか?
わび:私は、仕事はお金を稼ぐ手段としか思っていないので、そこで発生する人間関係って、ものすごくドライでいいかなと思っているんです。最低限仕事が回る関係さえ維持できていれば100点だと思っています。
でも、その考え方を持つには、仕事以外にいろんな世界を持っておくのが大事かなと思います。例えば今忙しい人って、仕事と家の往復になりがちだと思うんですけど。そうではなくて、私の場合だと畑仕事をしたり、最近は射撃場に行ったり、SNSで仲良くなった人と関わるとか。
そんなふうに、「仕事の人間関係がダメでも、円滑な人間関係を保てている世界がある」と思えるようになると、あんまり仕事の人間関係にこだわらなくてもよくなる。
さらには、職場の人間関係に執着がなくなったら、自然と(職場でも)うまくいくんです。執着していると、考え方や行動が打算的になるんですよね。ちょっと打算的な感じで近づいてくる人って、なんとなくわかってしまうし、相手も嫌な気持ちになりますよね。
執着しなくなったらどうなるかというと、会社や自分の部署の目的に対して、「どうしたら一番うまくいくかな?」って最短ルートで考えるようになるので、人間関係によどみがなくなるんです。こういう考え方って、職場で好かれもしないけど嫌われもしないので、仕事をする上ではありだと思っています。
——「コミュニケーションが上手じゃないといけない」とか「職場の人と良い関係性をつくらないといけない」という執着を捨てることが大事なんですね。
わび:そうですね。やはり仕事の人間関係っていろんな思惑があって、シンプルじゃないと思うんです。そこでうまくやろうというのは、とても難しい。円滑な人間関係を築ける世界ってほかにもたくさんあるので、職場では、あくまで仕事がちゃんと回るぐらいのコミュニケーションでいいと思います。
本当にダメになっても、そこで終わりじゃない
——ありがとうございます。最後に読者へのメッセージをお願いします。
わび:私がSNSで発信していていつも思うのは、本当にダメになっても、そこで終わりじゃないということです。
私の人生グラフを見てもらえたらわかるように、本当に一時期は自殺を考えるぐらいメンタルがやられていまして。ビジネスパーソンとして一番伸び盛りの30歳から35歳の期間を失っているんですね。
でも、今もそんなに大した会社員じゃないですけど、その期間がなくても、ここまではがんばれるっていうのを体現できているかなと思うので。しんどくて「もうダメだ」と思った時は休んでもいいけど、またがんばれる時も来るし、諦めちゃいけないよっていうのは常々言いたいですね。
——わびさん、ありがとうございました。
関連サイト:
『人生から逃げない戦い方 メンタルダウンから生き延びた元幹部自衛官が語るユル賢い生存戦略』