本企画、「キャリアをピボットした人の哲学」では、インタビュイーにこれまでの人生を折れ線グラフで振り返っていただき、その人の仕事観や人生観を深掘りしていきます。
今回は、『コンサル時代に教わった 仕事ができる人の当たり前』著者の西原亮氏に、今までの人生を振り返っていただきました。本記事では、成果を出せず最低レベルのE評価だったという同氏が、優秀な同僚が切られるコンサル会社で生き残れた理由についてお伝えします。
『コンサル時代に教わった 仕事ができる人の当たり前』著者の人生遍歴
——グラフを見ると、大学卒業後は就職をせず、アルバイトで雀荘勤務と牛乳配達をされていたとあります。卒業後は就職や家業を継ぐという選択もあったと思いますが、当時はご自身のキャリアをどのように考えられていましたか?
西原亮氏(以下、西原):まったく考えていなかったですね。大学は慶應だったので、みんな商社や銀行とか、大手のところを受け続けているのを見ていて、「なんで自分の道が決まっていないのに、就職するんだろう」と思っていました。
というのも、僕はたまたま縁があって、大学生時代にラジオのパーソナリティをやらせてもらっていたことがあるんです。なので、「そういうことを仕事にできるんじゃないか」とおぼろげに思いながらも、就職と向き合わずにいましたね。
ないしは、牛乳屋さんは家業なので、むしろ僕は嫌がってたんですよね。会社もボロいし、自慢できないし、お金を稼げそうにないし。「絶対こんな仕事嫌だな」と思っていました。
——なるほど。この後に牛乳配達を手伝いながら、夜は予備校勤務をされるようになったとのことですね。
西原:はい。牛乳配達を始めたきっかけは、ちょうど大学卒業したぐらいの時に、父親が脳梗塞で倒れて、会社が回らなくなってしまって。そこから牛乳配達をもうちょっとしっかり手伝うようになりました。
でも、家族だからというのもありますが、週4日~5日働いても、本当に月8万円ぐらいしかもらえなくて(笑)。日中は牛乳配達をしながら、夜は予備校で契約社員として働いていました。当時は何も考えてなかったですね。
家業を継ぐのは「絶対に嫌」コンサルに就職した経緯
——この後、25歳の時にコンサルに転職された経緯を教えていただけますか?
西原:はい。これはやはりあるあるで、牛乳配達から家業に入って、だんだん仕事に関わっていくと、いろんな課題を解決したくなってくるんですよね。父親が脳梗塞から復帰して一緒に仕事をするようになると、意見の相違とか、「こういうことをやってみたい」「いや、ダメだろう」という諍いが増えました。
特に昭和世代の父親なので、僕は高校まで敬語でしゃべってたくらい厳しくて、ワンマン社長だったから、なかなか「こういうふうにしたらいいんじゃないか」ってアイデアが通りにくい。だんだん、それが嫌になってしまったというのが本音です。
——家業を継ぐという選択はなかったということですが、なぜコンサル会社を選ばれたのでしょうか?
西原:僕はそもそも就職活動のやり方もぜんぜん知らなかったので、とりあえず転職エージェントに登録して、どんな仕事があるのか聞くことから始めました。エージェントの方に「今まで何をされてきたんですか」と聞かれて、「いちおう牛乳屋さんで細々と問題解決してきたんですかね」とさらっと言ったら、「まぁしいて言うなら……コンサルって業界じゃないですかね」と言われて。
どんな仕事かを聞いて、「なんかおもしろそうだな」と思ったので、コンサルに就職しようと決めました。
ただ当時はリーマンショック後だったので、「めちゃくちゃ難易度高いですけど大丈夫ですか」と言われていました。そこで転職活動して、結局(コンサル会社の)内定を3社か4社ぐらいもらって、前職に入った感じですね。
不況でもコンサルの内定を3〜4社もらえた戦略

——コンサルに絞って就活して、不況の中でも内定を3〜4社ももらえたのはすごいですね。選考で工夫されていた点はありますか?
西原:僕が勝ち取れた理由の1つは、足を使ったってことなんですね。コンサルの面接では、事前にケーススタディをよく出されるんですよ。例えば前の会社であったのは、「あなたはこれから中目黒で美容室のグループを作っていきますと。どういう要素が必要かを検討して、この美容室を世の中に広めるための事業プランを作ってきてください」とありました。
僕はもともとロジカルではまったくなくて、感情の赴くままに話すタイプなので。10日間ぐらいかけて中目黒の立地を見て回って、写真を撮ったりして、自分に唯一できることを考えて、行動に移していきました。
当日のコンサルの面接では、ケーススタディを説明する場面でいきなり、「お前さ、こんな資料で通ると思ってんのかよ。ぜんぜん何言ってるかわかんねえよ」とゴリゴリに詰められたんです。でもそこで、「ロジックもスキルもない。ただ足を使えるというのは嫌いじゃない」と言われて通ったんです(笑)。
——成長を見込まれて採用されたんですね。
西原:そうですね。うんちくではなく、足を使って行動できるってところが評価されたのかなとは思います。面接対策をしたわけではなくて、等身大の自分が「今できること」をめちゃくちゃ具体的にした、というのが唯一の戦略だったかもしれません。
株主総会でCEOと大揉め、プロジェクトに入れない仕事生活
——そこでコンサル会社に入社されますが、プロジェクトに入れない日々が続いたとありますね。
西原:先ほどお伝えしたとおり、僕は完全に右脳派だったのですが、会社に入ると全員左脳派なんですよね。僕は人を笑顔にするのが得意だったんですが、当時のコンサルは真逆の世界です。
当時、400人ぐらい集まる株主総会で僕が司会をやらせてもらった時に、当時のCEOと揉めるという事件を起こしまして。
現場の社員の質問に役員が答える時間があったのですが、同期の現場社員の人が、当時のCEOの方に「もっと社長からも気軽に声をかけてもらえると、コミュニケーションが取れていいなと思います」みたいなこと言ったんですよ。
そしたら、当時の社長が「お前、クライアントに対してフランクなコミュニケーションを求めんのか。それはお前の甘えなんだ」とその場で言っていたので。僕はその社員からマイクを取って「いや、彼が言いたいことはそんな真面目な話じゃなくて、こういうことなんです」と言ったんです。
そしたら「何言ってんだ!」「そもそも、あんたの顔が怖いから近づけないんだよ」とか、株主がいっぱいいる中で、大揉めになってしまいました。
周りにいたプロジェクトリーダーからは、「あいつをプロジェクトに入れたら、クライアントに迷惑をかけるんじゃないか」と言われて危険人物認定されて、プロジェクトにまったくありつけない状態になってしまいましたね。
E評価なのに、なぜか自分だけはレイオフされず
——プロジェクトに入れず成果も出せていなかったとのことですが、周りがレイオフされる中で、西原さんだけはレイオフされなかったとあります。どんな部分が評価されていたのでしょうか。
西原:これは僕も後から聞いて驚いたんですけど、当時リーマンショック後だったので、20パーセントぐらいがレイオフされて、どんどん人がいなくなっていきました。
当時の事業部のトップからは、「お前はうちの会社で誰よりも稼いでいないから、レイオフのリストの一番上に載ってるよ」と言われたんです。でも蓋を開けてみたら、僕を除いてバーっと切られていったんですよ。
「あれ、なんで俺は切られないのかな」って思ってたら、当時僕が衝突したCEOとか役員の人たちが、全員僕のことを「あいつだけは辞めさせちゃいけねえ」と言っていたと聞きました。
というのも、昔のコンサルって今より過激で、「例え相手が誰であろうと、自分がこうだと思ったことを物怖じせずにぶつける」というマインドセットがあったんですね。
なので、「自分が違うと思ったことを、物怖じせずに伝えられるというマインドセットだけは、絶対なくしちゃいけない」ということで、「あいつを辞めさせちゃったら、うちの会社としても懐が狭い。あいつが活躍できるような世界を作るんだ」と言ってくれていたようです。でも、プロジェクトに入っていないから、評価はA〜Eのうち全部最低評価でした。
「フリーアドレスだから」とCEOの席で仕事
——西原さんの気質を見て、今後の伸び代に期待されたということですね。
西原:そこらへんのストーリーで言うと、「社内はフリーアドレスで、どこの席で仕事してもいい」と言われていたので、僕は役員室のCEOの席で仕事していたんですよ。
そしたらCEOが来て、「おい、お前何やってんだよ」「はい、フリーアドレスでどこでも座っていいって聞いたので、ここで仕事してます」と。CEOも「確かにそうだな」と言って、そのまま役員室で1週間仕事していました。そういうのをよくやっていたので、上の人からすごくかわいがられてたというのはあると思います。
でも、一部の人からすごく嫌われていました。「おべっか使ってるんじゃないか」とか、気に入られようとして、そういうことをやってるんじゃないかと。でも、そんなことはまったくなくて、僕は上の人がすごく好きなので、等身大で接していただけなんです。
「これはどう思う?」と聞かれた時に「いや~、これダサいっすね」と平気で言ったり。ちょっとかわいげのある感じを出していましたね。
「ダサいですね」「興味がないです」ズバッと言うのに好かれるわけ
——今ご自身が経営者という立場で、つい目をかけたくなるのはどんな方でしょうか?
西原:仕事の成果で定量的に数字を出すということ以外にも、こういうところは大事ですよね。やはりAIと仕事してるわけじゃないですから、愛嬌は、むしろこれからは超重要になってる要素だと思いますね。
常に笑顔でいるとか、相手の話を本気で聞くとか、自分が興味なかったら「興味がないです」ってちゃんと言えるとか。「こいつは嘘つかないな」って思われることですね。
例えば、コンサルで(お客さんから)「ゴルフを始めるから、ゴルフクラブを買ったんだよね」と言われた時に、みんななんとなく「あぁ、そうなんですね」「ゴルフ楽しそうですね」って言っちゃうんですよ。でも僕は「いや、○○さん。僕、ゴルフめちゃめちゃ興味ないんですよ」って言います。
「本当に興味なさすぎて、ゴルフの魅力教えてもらっていいですか」って言うと、「お前興味ないのかよ。じゃあゴルフの魅力を教えてやるよ」ってなるんです。だからなんとなく話に乗っかっちゃダメで、興味がなかったら正直に言って、相手の話を本気で聞くスタンスが大事です。これをやると、相手との関係性が一変するので、めっちゃおもろいんですよ。
——上司との関係性づくりで悩んでいる人にも参考になるお話ですね。ありがとうございます。
参考リンク:『コンサル時代に教わった 仕事ができる人の当たり前』(ダイヤモンド社)