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福島靖氏インタビュー(全3記事)

面接で「後輩を指導できなさそう」と思われる人の伝え方 歳を重ねるほど重視される経験の「ノウハウ化」

本企画、「キャリアをピボットした人の哲学」では、インタビュイーにこれまでの人生を折れ線グラフで振り返っていただき、その人の仕事観や人生観を深掘りしていきます。

今回は、『記憶に残る人になる トップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』著者の福島靖氏に、今までの人生を振り返っていただきました。本記事では、歳を重ねるほど重視される経験の「ノウハウ化」についてお伝えします。

転職すべきタイミング

——福島さんは、リッツ・カールトンやアメリカン・エキスプレスといった大企業から、プライベートジェットを扱うスタートアップ企業まで複数回転職をされていらっしゃいますが、転職すべきタイミングや、すべきでないタイミングはどう考えていらっしゃいますか?

福島靖氏(以下、福島):僕はもともと、学歴も人脈も何もないところからスタートしたので、「have to(〜しなければならない)」ではなく「want to(〜したい)」で考えるようにしていました。

have toで考えると、どうしても義務感が働いてしまって、次の新人が入るまでとか、後輩が育つまで会社を辞められないと考えてしまう。そうしている間に自分がつらくなってダメになってしまう人もけっこう見てきたので、転職したいと思った時が転職のタイミングだと思います。

ただ、その中で1つ大事なのは、自分の一番の関心事を知っておくことだと思います。すべてのことはコアに「関心」があって、関心がなくなったら終わりだと思うんです。これは本当に夫婦でも仕事でも、関心がないものに持とうとしても無理なので、自分が関心があることとないことをしっかり考えておくことが大事だと思います。

アメリカン・エキスプレスを辞めたわけ

福島:これは本に書けなかったんですが、僕がアメックスで働いていた頃、会長が交代しました。
アメックスでは、リッツ・カールトンで言うクレドみたいな、Blue Box Valuesという基本理念があったんですよね。紙コップとかにまで印字されていたんですけど、項目が少なくなって、具体的な表記がちょっと抽象化されました。

上司に「そういえばこれ、変わりましたね」「印字されたものが減って表記も抽象化されたのは、僕たち自身がもっと考えろっていう会長からのメッセージなんですかね?」って聞いたんですよ。

そうしたら、「えっ、変わったの?」って、変わったことに気づいていなかったんですよ。そこに惹かれて入社したというくらい大事にしていた、「何のためにその会社が存在しているのか」という理念やビジョンに、周りが関心を持っていないことがめちゃくちゃショックでした。

「自分が一番関心があることに、この会社は関心がないんだ」と思って、退職を決断しました。その時点でいろいろオファーをいただいていたので、次のプライベートジェットの仕事に進んだんですね。

目の前のポストや給料に飛びついて後悔したことも

——自分の関心とのミスマッチが出てきた時が転職のタイミングということですね。転職での失敗経験や「もっとこうしておけばよかったな」ということはありますか?

福島:僕の場合、転職回数もそこまで多いほうではないんですけども、最後に転職したのがプライベートジェットを扱うベンチャー企業でした。そこを辞めた理由としては、最終的に、やはりその商品を作った創業社長以上に熱くはなれなくなってきて辞めました。

でも、そういったことに薄々気づいてはいたんですよ。僕の場合は、やっぱり自分を売って仕事をしたかったんです。アメックス時代も言われて一番うれしかったのは、やっぱり「福島さんだから契約した」という言葉でした。「アメックスだから」と契約してくれても、それは会社の価値であって僕の力じゃないので、うれしくなかったんですよね。

自分が一番喜ぶ状態をわかっていながら、それを無視して目の前のポストやお給料に飛びついてしまったことは、いい経験もできたのですが、けっこう後悔はしてますね。

「目標がない人はダメ」という風潮

——『記憶に残る人になる トップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』の中で、福島さんは目標達成型ではなく、展開型のキャリアを歩んできたとおっしゃっていましたね。

福島:そうですね。僕自身、いまだに目標がないのですが、世の中があまりに目標に過敏になっているというか。この20年で、「目標がある人はいい、ない人はダメ」という風潮になっていると思っています。もしかしたら、ワタミの創業者の渡邉美樹さんが『夢に日付を! 〜夢実現の手帳術〜』という本を19年前に出して、社長たちの中で大ヒットしたのが(関係しているかもしれません)。



夢を必ず持って、そこから逆算して「今日やるべきことをやる」というのは、腹の底から言える目標がある人がやる分には、僕は有効だと思います。

でも本当に腹の底から言える目標を持っている人って、ごく少数だと思っています。何かしら目標を作らないといけないと思って、想像の範囲でこしらえる目標なんて、たかが知れてるわけですよね。

そうではなくて、まず自分がどんな状態になったら一番ハッピーなのかを考える。僕なら、目の前の人の記憶に残った瞬間が一番うれしいので、そのためにはどうするかを考えて、真の目標を立てる。そこから「今日やること」を逆算していくほうが、よほど効果的だと思います。

目先の目標ではなく人生のゴールを描く

——キャリアの目標を持たないほうが突き抜けられると、『記憶に残る人になる トップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』にもありました。目標がないとモチベが上がらなかったり、先のキャリアが見えないと不安になってしまうこともあると思うのですが、そういう場合はどうしたらいいでしょうか?

福島:そうですね。目標がない人が持ったほうがいいものは「目的」なんです。僕の場合は、目標を持たない代わりに、「その先で何を得たいのか」という本当の目的、つまり自分の「あり方」を持っているから不安にならないんですよね。

例えば「消防士になりたいです」とか「弁護士になりたいんです」という目標は、みんな持っているんですけど。それになって何をしたいのか、どんな状態を作りたいのかまで考える人は少ないんですよね。

「僕は消防士になっていろんな人を笑顔にしたいんです」というのだったら、僕なら「人を笑顔にしたい」というほうに重きを置きます。そしたら、職業は消防士じゃなくてお笑い芸人でもいいわけですよね。目先の一番近い目標地点よりも、もっと先の人生のゴールを描いていくと、不安はなくなると思います。

40歳で会社員としての熱量を持ち続けられなくなった

——なるほど。40歳の時には、会社員としての熱量を持ち続けられなくなったとグラフに書かれていますね。40代に入って、何かキャリアの考え方に変化があったのでしょうか?

福島:今のコンサルティングの仕事は、独立して自分で価値を提供してお金をもらっているので会社員とは違いますが、結局困りごとがある人の会社に入るという、人の商品のサポートなんですよね。

やっぱりその商品に熱量を持っているのは社長だし、「いや、このほうがいい」と社長が言っているのに、僕がNGを出すなんてしてはいけないわけです。僕は能力を提供してお金をいただいていますが、最終的にエンドユーザーに届くものは僕のノウハウではないんです。

そうした時に、今、自分の商品を持ちたいなと思い始めています。まだ具体的なことは決めていませんが、自分で1つホテルを経営してみようかなとか。

僕は、みんながやっている当たり前のことに、少しだけ変化を加えて特別感を出して単価を上げたりすることがすごく得意なんです。

本当に些細なことですけど、どこの会社でもお客さまにお茶を出しますよね。例えば夏だったら、お茶の中に冷蔵庫で作った白い空気が入った氷を入れて出しますが、それをセブン‐イレブンで売っているかち割り氷に変えてみるとか。僕は何万社も訪問経験がありますけど、そんなものを出してる会社は1社もないんですよ。

誰もが当たり前にやっているところに変化をつけて、特別なものを加えてお客さまを感動させたいんです。僕のところには、そういったエモーショナルなことをしたい会社の依頼しか来ないし、僕もそういうことしかしたくないですね。

「こんなシステムを作ってくれ」と言われて、「なぜ必要なんですか?」と聞いた時に、「こんな人を笑顔にするためで……」と言われたら燃えるんですけど、そうじゃなくて「いや、これに必要だから」と言われたら「他にいってください」と思ってしまいます。

40代になり、本心からやりたいものを選べるように

——仕事を選ぶ上でも、エモーショナルな部分をすごく大事にされてきたんですね。

福島:30代の頃は、まだ自分自身の軸が確固たるものになっていなかったので、どちらかというと「営業職なのかマーケティングなのか」といった目先のカテゴリで選んでいたなと、すごく思うんですよ。



僕の中で30代は非常に怒涛の時期でして、いろんな方の前でお話をするパブリックスピーカーになった年代でもありました。そうすると、自分の経験をさらにノウハウとして言語化して伝えないといけないので、30代の経験を経て、僕は一気に抽象的な考え方ができるようになりました。

なので、具体的な職業などのカテゴリじゃなくて、自分に嘘をつかないとか、自分が本当にときめくものを選択していきたいといった、抽象的な選択に変わってきたことが大きな変化だと思います。「これは違う」とか、「これは(自分に)合っている」という直感は、めちゃくちゃ冴えるようになってきましたね。

年を重ねるほど、経験のノウハウ化が重要になる

——40代に入って、自分が本心からやりたいものを選べるようになってきたということですね。最後に、転職や今後のキャリアの方向性に迷っている人に向けて、メッセージをお願いします。

福島:ここまで話してきたことと重複しますが、やっぱり今までの職場で何を学んだのかを考えて、自分の経験をノウハウ化することですよね。私もふだんとてもたくさんの採用面接をしますが、「自分の強みはコミュニケーションスキルです」と書くだけなら誰でもできてしまうので、まったく信用ができない。

でも、「実はそれを得た原体験はこういうことがあって、こういう時にある人からこう言われたから僕はこう気づいたんです」と書いてあると、「この人は本当にコミュニケーション能力を持ってるんだな」と思うんですよね。

あと、ノウハウ化されていないと、「その人しか使えないんだろうな。後輩を指導できないだろうな」と思ってしまう。なので年代が進めば進むほど、やっぱりノウハウ化することがめちゃくちゃ大事だと思っています。それは本に書かれているノウハウではなく、自分の経験から学んだノウハウを言語化するということです。

あとはそれをしっかりと発信している人。やはり相手に伝わる言葉って、言語化力と編集力の2つの力で成り立っていると思います。まずは言葉にならないことには意味がないので言語化力が必要ですが、本当に大事なのは、相手に届く言葉にさらに編集していくこと。これができている方は、本当に役職を問わず、すばらしい結果を残されていると思います。

転職で自分のやりたいことを実現するには

福島:結局、自分の能力の使い道なんて自分じゃわからないと思うんですよね。それを知っていたら、その人はもうやってるわけです。

僕は12年前に営業を始めた頃、ある保険会社の方から、「新人の保険の営業マンの前でリッツ・カールトンの経験をしゃべってほしい」と言われました。僕はこの時、初めて自分のリッツ・カールトンでの経験や、そこで身につけた能力が、講演家の仕事につながると気づいたんです。

自分の能力がわかったところで、その使い道は人から教えてもらわなければわからないんだと、今すごく痛感しています。じゃあどうやって相手が(自分の能力に)気づくかというと、自分で発信するしかないんです。「私の強みはこれだ!」と思っていたとしても、相手に見つけてもらえなければ、オファーは来ないですよね。

だから、自分の強みやあり方を見つけるのは大前提として、それを発信していく。しかもちゃんと相手に伝わるような発信をしていかないと、誰にも見つけてもらえない。延々と同じことをルーティンワークでできる範囲でやってしまう。結果、お給料も役職も上がらない人生になるんだろうなと非常に思いました。

なので転職したい方は、XやInstagramで的確に自分の思いややり方を言語化して、相手に伝わるかたちにして発信する活動をしたほうがいいと思います。そうしたノウハウを教える編集者の方のサポート体制を作れたら、編集者の方ももっと活躍できますし。もっと自分の能力を言語化して発信していくことで、心から望んだことを叶える転職ができるのかなと思いますね。

——福島さん、ありがとうございました。

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