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『地方副業リスキリング』発刊記念!第3回「地域越境ビジネス実践×地方副業リスキリング」オンライン対談セミナー(全3記事)

越境先と自社に帰ってきて「2度死ぬ」越境経験者 「基本うまくいかない」前提で取り組む意義

『オンリーワンのキャリアを手に入れる 地方副業リスキリング』の刊行を記念して開催された本イベント。株式会社ドコモgacco EduWork事業開発室長の山田崇氏と、『地方副業リスキリング』著者の杉山直隆氏、監修者の南田修司が登壇。本記事では、「基本うまくいかない」前提で地域企業課題の解決に取り組む意義を語ります。

地方企業で地域企業課題の解決に取り組む意義

杉山直隆氏(以下、杉山):それではトークセッションに入りたいと思います。今日は「地方企業で地域企業課題の解決に取り組む意義」をテーマにさせていただきたいと思っています。

山田さんもこの越境プログラムを会社で実践されていて。あと、ご自身が学びたいということで越境対談もやっていらっしゃるんですが。まず最初に越境対談を連続20人でやっていらっしゃる中で、いろいろな方とお話して感じていることからうかがいたいなと思っているんですが、いかがでしょうか。



山田崇氏(以下、山田):ありがとうございます。越境対談は1時間の生放送で実施をしております。具体的には45分ぐらいお話をいただき、私が少し質疑をしながらやっています。

今日はせっかくなので、教科書の『オンリーワンのキャリアを手に入れる 地方副業リスキリング』から引用してお話したいと思います。私の中には2つの観点があります。まずは104ページの第4章なんですが、「実はもうマッチングサービスがありますよ」というところです。

これは、それぞれの企業が目的やターゲットによって選べます。「ふるさと兼業」、みらいワークスの「Skill Shift」、塩尻市時代もやっていた「パーソルキャリア」だったり、越境対談の第1回目の加藤遼さんがやっている「JOB HUB LOCAL」など、こういったものがあります。

実はもうすでにいろいろな選択肢があるということ。これは今、私自身もしっかりと捉えていくことができています。

確かに民間企業の取り組みなので、お互いが競合する部分はあります。でも新しい流れや文化を作っていく時は、イノベーター理論の2.5パーセントから13.5パーセントのアーリーアダプターへと、キャズム(障壁)を超えていくところに挑戦する段階だと思っています。

まずは同じことをやっているみなさんと共創していく。「共に創っていく」というコ・クリエーションが大事かと思います。それが私のキャラクターだったらできるんじゃないかなと思っているところが1つですね。

越境体験を言語化することの重要性

山田:2つ目は、実は越境している方や登壇していただいた方からも「すごく良い機会だった」とおっしゃっていただいていて、すごくありがたいなと思っています。

教科書186ページの第6章に「経験を応用につなげるチャンクアップ・チャンクダウン思考」に書いてあるんですが、これは「具体をやってみて抽象化をする、概念化をする」ということにつながります。このチャンクアップとチャンクダウンの言語化は、プログラムの中でも実際の越境者には必要だと感じています。

なぜならこれは新しい事業、新しい取り組みをしていく時に見せたほうが早いから。例えば地域の企業の経営者に納得してもらう時に「こんなことをやりたいんだ」という妄想やビジョンよりも、「やってみたらこうでした」と見せたほうが早かったりするんですよね。このへんは抽象を具体化していくことなんですが……。

仮に4ヶ月や6ヶ月間具体をやった時に「私にとっての学びは、こうだったんです」というのがチャンクアップになります。この時抽象的に概念化をしていくことが必要になるんですね。

つまり送り出した側の企業からすると、この社員がどうだったのかが帰ってきた時です。自社の中でどういう成長があったのか、自社にとっての新しい価値創造が生まれたのか。これを企業がどうやって捉えていくのか。この言語化はすごく大事なところだと(本を読んで)共感しました。

今回、越境対談するみなさんは、具体をちゃんと抽象化するプレゼンを用意してくださっているので、私自身もすごくわかりやすくて。

今日お聞きのみなさんの中には、初めて越境・地域越境や地方副業について聞く方も多いかもしれませんが……。すでに(越境を)やられている方たちが言語化していることが、自分自身の学びにもなっているなと感じています。

杉山:はい。ありがとうございます。山田さん、いろいろ(本を)読んでいただいてありがとうございます。

「基本うまくいかない」前提で学んでいく

山田:いや、すごくおもしろい。おもしろいというか、具体例があるから、私自身もけっこう抽象化に役立っているんですよね。「これは引用したいな」と辞書的な使い方をさせていただいたり。

19ページの「そもそもリスキリングとは何なのか」では、「そうそう、このダボス会議ね」と思い出したり。会社にもっと(越境を)広げていきたい人は、「2018年ダボス会議で初めて登場したんだよ」と言える。こんなふうに引用していただくと良いかなと思いますね。

杉山:もうバリバリ引用していただいて……。南田さん、今のお話はどうですか。

南田修司氏(以下、南田):いや、もう辞書的に使っていただいているなんて、なんてありがたいんだと思っていました。でも本当にいろいろな方々の話をうかがっていくと、「やっぱりここが鍵だよね」「ここが共通しているね」と重なるところが、どんどんピックアップされていくんですよね。

今、山田さんがおっしゃったように、ご経験されている方から「あー、そうそう」「いや、うちもそうだったな」という反応をもらうと、我々もとてもうれしいし。まだ(経験)されていない方も「ここが大事なんだな」「みんながここを重要視するんだ」と見えてくれば、取り組みやすくなるんじゃないかなと思っています。

山田:そうですよね。あと1つ、杉山さんと南田さんにはちょっと耳障りかもしれないんですが……。これは指南書ではなく、あくまでも過去の事例だということ。というのは、基本うまくいかないんですよ。うまくいかないから、学びは成長なんです。うまくいっていれば地域は困っていないんですよ。

越境学習者は「2度死ぬ」という言葉の意味

山田:法政大学大学院教授の石山恒貴さんは『地方副業リスキリング』の対談特集の第1回目のゲストの先生なんですが……。教科書の190ページに「越境学習者は2度死ぬ」と書いてあって、もしこの本を読んで「確かにそうだ」と思ったとすれば、「死にます!」ということになりますよね。

(一同笑)

南田:そうですね(笑)。

山田:かつ今の世代には難しいんですけど、精神と時の部屋というか。『ドラゴンボール』の(漫画に出てくる)スーパーサイヤ人は死にかけると強くなるんですよ。大丈夫です、死なないから。なぜなら結局戻れるところがあるからです。

これは大学生にもインターンシップの方にも言うんですが、どれだけやっても1ヶ月で帰れるからと。自分のホームタウンがあるんだから、「送りバントだけして帰ってくるな」「ちゃんとフルスイングしてこい」と言うんですね。「うまくいかないんだ」という前提が、石山恒貴さんの言っている「2度死ぬ」というところなわけで。

具体的に「2度死ぬ」というのは、越境した先で1回死んで、「いや、よかった」と帰ってきた自社で「もう1回死ぬよ」ということです。なぜなら(会社には)越境者がまだ少ないから。経験者からすると「あー、わかるわかる」となりますよね。

杉山:そうですね。

山田:ありがとうございます。

人口減少×長寿社会…前例のない現象が地域で起きている


杉山:今のお話ですごく重要な部分は、次の質問にも通ずるかなと思うんですけど。取り組む意義ですよね。……実は、うまくいけばいいという話ではないのかなと思っていて。

本の中でも「どういう刺激がいいのか」ということを書かせていただいたんですが、あらためて山田さんが考える「地域の企業で越境体験をする意義」、どのようにお考えになっていますか。



山田:えーと地域課題の解決に取り組む意義、まず私の主観からお話をさせていただくと……。

今、地球全体で(人口が)80億人をちょっと超えています。2019年は77億人、これが2100年には地球全体で110億人になっていくと言われています。地域から捉えると日本には1741の地方自治体があります。中山間地域であったり町村だったり、合併によって旧町村みたいなところもあります。

地球全体で人口が減る現象は、実はすごくマイノリティなんですよ。かつ100歳まで人が生きるのも、世界の中では前例がない。特に私の出身の長野県は男性が長寿日本一になったこともありますし、女性ももともと長寿だったんですけど。

実は前例のないことが地域で起きている。これは別にいい・悪いじゃなく、単にサンプルが少ないんです。私たちの両親やおじいちゃん、おばあちゃん、組織で言うと上司が経験したことがないことをこれから私たちよりも若い世代の方たちが経験していく。要は現象として身近になってくるんですよね。

地方で起きたことは、ゆくゆくは都市部でも起こる

山田:そういったことが、少しずつアジアでは起こり始めているんですよ。地域で起きていること、本当に小さく解決できることが、ゆくゆくは都市部でも起こっていく。これは10年~20年の単位です。2050年だと日本全体でも1億人に欠けるかどうかという推計が出ています。

そうなった時「あぁ、岐阜のあそこでやっていたことが、ひょっとしたらケースとして役に立つんじゃないか」とかですね。いずれ都市部や海外にも輸出ができるような、新たな取り組みになるんじゃないかと思っています。

これは小さくできるのが大切なんですよ。小さな単位だと意思決定が早く、早ければ1ヶ月ないしは6ヶ月以内に結果までが見える。そこが私は意義だと思っています。2050年、2100年まで、地球全体がどうなっていくかを考えた時、日本の地域の小さな単位で起きていることは、実はすごくマイノリティというか。

ちょっと広い視点ですが、小さな単位で実践ができ、実証ができ、検証したことを広げられることは「すごい意義だな」と感じていますね。

杉山:そうですね。なかなかそこまで広い視点で見られないと思うんですけど。確かにそういう広い視点で見ると、小さなところでやっていると思っていても、実はすごく意味のあることだと感じますね。

山田:意味づけていく力も必要になってくるんですよ。これをご自身でできる人もいるんですが、得意な人と一緒になって発信したりプロジェクトにしたり。

さっき『信濃毎日新聞』の話をしましたが、松本平、木曽まで含めた地域の地方新聞の中に発行部数約6万部の『市民タイムス』というのがあって、要は地方紙です。だいたいどこの地域でも新聞はあるけれど、東京だからって新聞が電話帳くらい厚くなることはないですよね。何が言いたいかというと、地域で小さくやるとすぐに(新聞の)カラー一面に載りやすいというね。

杉山:あぁ~。なるほど。

山田:今はWeb版ですね。リンク1つでこうやって共有できるんですよ。もう世界にまで発信ができるようになってきているんですね。めちゃめちゃ地域優位じゃないですか?いや、(公務員当時感じたことですが)東京の公務員はめちゃめちゃ優秀なんですけど、載る誌面の面積は小さいんですよ。

小さく始めてかたちにしたことを、ちゃんと地域の信頼あるメディアが取り上げてくれて、しかもカラーで一面になって。周りの家族も喜んで、それが遠くの親戚まで届くというね。

30年前の(たとえば)「NHKに載らないと!」という時代とは、大きく変わってきたんですよね。それぞれ個人がXやLinkedInとかいろいろなところでメディアにもなり得ますし。これは地域で挑戦するアドバンテージになるなと思いますね。

越境学習者が起こす行動の影響力の大きさ

杉山:そうですね。ムーブメントが作りやすいと言いますか。共創という話もありましたが、共感する人も集まってきたり。山田さんが実際にご経験されていることかなとは思うんですが……。

山田:あともう1つ都市部の企業側からの話をすると、「地域越境ビジネス実践プログラム」として、今、石川県の企業2社で実証して4ヶ月目になるんですね。今、珠洲市に1人の社員が行っているんですよ。当時大学生にも言った話なんですけど、やっぱり同じことが起きているなと思っていて。

珠洲市にはNTTドコモの社員がいないので、その地域で社員が地域の人や地域の会社の人たちにヒアリングをすると「NTTドコモ=その人」になるんです。

ちょっとわかりづらいかもしれないですけど。例えば地域に信州大学の学生がいない場合、その学生の声が小さかったり、あいさつに元気がなかったりすると、「スギヤマくんが元気がない」じゃないんですよ。その地域では「今の信州大学の学生は元気がない」になってしまう。

NTTドコモの1人の社員がしたことが、珠洲市の中では「NTTドコモの社員はすごいんだ」となる。そのNTTドコモの社員が1ヶ月でやったことが、その地域では「4万7,000人のドコモの社員は、みんなすごいんだ」になってしまうんです。ふだんいない人たちが地域に来た時には、そういったことが起こる。

1人の社員が企業の看板を背負うことに

山田:実はこれにはいい面と悪い面もあって、私も送り出しをする前のマインド形成、マインド研修で伝えるようにしているんですが……。ふだんいない人が来ると「残念ながら、代表性を持ってしまう」と。

でも4万7,000人のNTTドコモのグループの中では「あなたはドコモだ」とはあまりなり得ないじゃないですか。全員がそうですよね。こういったことが今回の実証のプログラムでも「やっぱり起こるんだな」と感じましたね。

杉山:南田さん、今の山田さんのお話は、これまであまり出てこなかった話かなぁと思うんですが、どうですか。

南田:いや「まさにそれだ」と思って聞いていて。確かにいろいろな研修で地域にいらっしゃったら「その人が……」という話はもちろんあるんですけど、必ず「○○社さんは本当に……」という話が出てくる。代表性を持つという意味では怖さでもありますけどね。

杉山:はい。ありますよ。

南田:でも、それを良くも悪くも背負っちゃうのはすごく大きいなと。あと加えて感じることは、例えばリスキリングやリカレント教育、副業を経て、自分自身が学んで成長する。地域に飛び込んでいくと、もう「学ぶこと=実際には課題解決を一緒に推進している」という現在進行形なんですよね。

その地域の未来を一緒に作っているというか。未来を作る過程が結果的に学びにもなっているし、学んでいる過程が結果的に地域の未来を一緒に作っている。そういう当事者になったこともすごく大きいかなと思います。また地域にとっても、すごく意味のあることだなとめっちゃ感じますね。

山田:そうですね。教科書121ページに「『株式会社“私”』で考える自分の事業ポートフォリオ」とあるんですけど。そのものずばりではなくても「ご自身のキャリアにつながる」と書いてあります。

地域に行くと、株式会社ドコモgaccoないしNTTドコモが「あなたイコールになるんだよ」と。なぜなら(ほかに)いないからなんですよね。実はそれでその地域での会社のプレゼンスやブランドイメージも上がっていくんです。

杉山:そうですね。そうやって広がっていくと、草の根でブランドイメージを高めていくこともできる。今後の新たなルートなのかなとは思います。

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