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なぜあの人は好きなことだけやって年収1000万円なのか? 〜異端の経営学者と学ぶ「そこそこ起業」〜(全5記事)

好きなことで起業、赤字を膨らませても引くに引けない理由 倒産リスクが一気に高まる、起業でありがちな失敗 

趣味やスキルを活かした低投資・低成長・低関与の「そこそこに稼ぐ」ことを目指す起業スタイルに注目した「そこそこ起業(ライフスタイル企業家)」。本イベントでは、東京都立大学大学院経営学研究科准教授の高橋勅徳氏が登壇。今回は、倒産リスクが一気に高まる、起業家がやりがちな間違いについて語ります。

「そこそこ起業」の実践者はどこにいる?

司会者:残りはみなさんからの質問の時間にしたいと思いますので、チャットにどんどん投げてください。今すでに、お一方あげていただいていますね。

研究方法についての質問です。「たくさんのそこそこ起業をしている方にインタビューされたと思うのですが、どうやってそういった方を見つけてくるんでしょうか」というご質問ですね。

高橋勅徳氏(以下、高橋):先ほどのマウンテンバイクの話は、連載のために毎月ネタを探している時に知り合いの先生が紹介してくれました。それ以外のものは、正確に言うと、見つけてきたんじゃなくて、出会っていたけど使っていなかったというのが正解になります。これはある意味、僕は研究者としてすごく反省があります。

先ほど冒頭の自己紹介のところでも言いましたが、企業家研究の研究者として大学の先生になって、学会の中で評価を獲得していこうとする時、要は学会誌に査読付き論文を獲得しようとか、学術出版で本を出してもらおうとする時に、いやらしい市場性があったんですよね。

今流行りはITベンチャーだとか、バイオベンチャーだとか。あるいはソーシャルビジネスで差別問題を扱っているところだとか、環境問題を扱っているところだっていう意識がずっと働いていて。

それ以外に、例えば調査の過程でたまたま出会った人とか、旅行先で出会った人とか。それこそ僕は新宿の近くに住んでいるんですけど、歌舞伎町で飲んでいる時にたまたま会ったバーのおっちゃんの話とか、全部研究と関係ないと思っていて。記憶はしているけど、調査の対象に入っていなかっただけだったんですよね。

研究者として名乗り始めてから27年。人生で言うと50年生きてきたから、実は「そこそこ起業」をしていた人にめっちゃ会っているんですよね。そういう意味では、「どうやって見つけたんですか」じゃなくて、実は出会っていたというのが正解です。

就労人口の3割は自営業

高橋:先ほど言ったように、就労人口の3割は自営業をされているんですよ。ですので、みなさんの身の回りでも、実は「そこそこ起業」で生きている人はいっぱいいるはずなんです。あるいは、そういう人たちって町中でもたくさんいます。

それを「俺には関係ない」とか「ビジネス的に関係ない」とか。「あの店舗だったら月の売上200万円くらいでしょう。だとするとうちの会社だったら商売にならないよね」という感じで、全部自分に関係ないと思って見ているのが現実だったりしますね。

でも「そこそこ起業」という、Lifestyle entrepreneurshipという新しいラベルで見ていくと、好きなことを自分でできて、しかも好きなことをやりながら今までより豊かな生活ができるヒントを見逃していた可能性があることを知ってもらうためにこの本を書いたんです。

これは僕にとっても、学びの過程でした。先ほど言った繰り返しになりますが、企業家研究の研究者としてあらゆる企業行動を研究対象にするって言いながら、20年以上、自分の親父に類するような生き方をしているすてきな大人たちを、ずっと出会って話ししていたのに見逃していた。

みなさんと比べて、僕がそういう人に会っている頻度が多いとすれば、たまたま僕が大工の家で生まれて、自営している知り合いが同級生も含めて非常に多かったからだと思います。



茶飲み話や飲み場で聞いていたというのも、やはり出会いが多かったきっかけではあります。それを全部研究のチャンスに変えて本にしてしまったのが、今回の本でもあります。

「そこそこ起業」にまつわる不安

司会者:ありがとうございます。ハヤノさんから、ご自身も「そこそこ起業したものです」と。「人生100年時代として、そこそこ起業がいつまでできるかという不安もよぎります。サーフィンやボディービルは年齢の壁もあり、そのあたりを取材された方々はどう考えているかをお聞かせください」。

高橋:まさに2週間ほど前に、出版で協力してもらったお礼でマウンテンバイクのショップをやっている富田さんのところに行って、本を持ってお礼をしに行った時に、そういう話になったんですよね。

富田さんは52歳で、足とか見たらめっちゃムキムキなんですけど。彼が言っていたのが「ひょっとしたらこの先、体力が落ちて、今やっているように山の林道に入って飛んだり跳ねたりする楽しみができなくなるかもしれない」と。

「でもそれって、テクノロジーでけっこうカバーできるところがある」と。僕もぜんぜん知らなかったんですけど、自転車の技術開発のレベルはめちゃくちゃ上がっているんですよね。

電動付きは今注目されていますけど、普通のアナログの自転車でも、ギアとかタイヤの素材レベルまで全部すごく変化している。そういうのでカバーできて、けっこう年を取っても楽しむ方法がある。みんな、技術のキャッチアップができないからそれがわからない。

だとしたら「俺がそれをやって楽しむ姿を見せていく」と富田さんはおっしゃっていました。林道で飛んだり跳ねたりできなくなったとしても、「年寄りで、今まで飛んだり跳ねたりを散々やって、足の骨も2本、3本折って初めてできる楽しみ方を見せていくことで、また仲間が増えていく」という話をしていたんですよね。

僕はボディービルが趣味で、YouTuberの人もチャンネル登録していっぱい見ているんですけど、やっぱり似たような感覚です。

若くてまだ始めたばかりの人たちが見たい動画もありますし、ある程度トレーニングした人が「もっと化け物みたいな筋肉になりたい」という人たちが集まるチャンネルもあるし。年を取ってきて、この先70(歳)、80(歳)まで元気に歩けるようにっていう人たちのための筋トレを紹介する動画もあったりして。

それは自分が趣味として続けている限り、「そこそこ起業」で飯を食っているボディービルの人も年を取っていくわけですから、その年に合わせてトレーニングスタイルも食べ物もサプリメントも変わっていくんですよね。

仲間も同じように年を取っているので、コミュニティも一緒に成長していくのが1つの特徴になっています。というのが私からの答えになりますかね。

倒産リスクが一気に高まる「初期投資」の罠

司会者:ありがとうございます。他にも、例えば先ほどのマウンテンバイクの方なんかも、いろいろ商売を変えながらやっていらっしゃいますね。

高橋:そうです。若い頃はクラブでDJをやっていて。そのクラブにはアメリカでけっこう有名なラッパーとかが来て、シークレットライブをやるような有名なクラブをやっていたりするんですけど。

子どもが生まれて小学校に行って、もう夜の仕事はやっていられない。自分も体力的についていけなくなった時に、昔やっていた自転車で事業を起こしていくという過程があったので。まさにライフスタイルに合わせて商いを変えていくことも、Lifestyle entrepreneurのおもしろいところです。

司会者:ありがとうございます。あとスズキさんから「そこそこ起業において、よくあるリスクやデメリットは何ですか」。

高橋:リスクで考えていくと、これはよくありがちです。たぶん飲食系の開業関係の本を見て、「お店を開こう」と思う人は多いと思います。「そこそこ起業」で自分が好きなショップを開きたいっていう人はけっこう多いです。

そういう人がやりがちな間違いは、要は初期投資が高すぎることです。家賃や改装費で、投資が高すぎて回収できなくなるケースが実に多いです。あるいは、借り入れが大きくなってしまって、それが経営を圧迫して、損益分岐点を超えるまでの距離が長くなってしまうことも頻繁に起きます。

実はライフスタイル起業に関する研究が、低投資をすごく強調するのは、そこにリスクがあると周知するためだと思うんですよ。

なので、まずリスクとしては、投資がかかればかかるほどビジネスの規模を大きくしなきゃいけなくなるんですよと。だとすれば、いかにこじんまりとまとめるのか。いかに持ち出しを少なく済ませられるのかを意識しないと、倒産リスクは一気に高まります。

すぐ辞められる状況を作る「リスクマネジメント」

高橋:当然のことながら、好きなことなので意地になって続けて、また赤字を膨らませて、にっちもさっちもいかなくなることがありますので。もうパッとやってすぐ辞められる状況を作るためにも、できるだけ低投資でやらなきゃいけないのがリスクマネジメントだと思います。

デメリットは何かというと、先ほど言った「怖い大人」の人たちです。「そこそこ起業」で、とりわけ観光経営学の分野で、マウンテンバイクの有名なライダーがやっているような、ベッド・アンド・ブレックファストという小さな宿があります。

そのニュージーランドの宿にお客さんがすごく来て、町に観光客が増えていく現象が起こって。次世代の観光業の、持続的可能な観光業のスタイルとして、Lifestyle entrepreneurshipが注目されている側面があります。

そこに注目されて、本人がその気になってしまって、ビジネスの規模を大きくしてしまうと、やはり生活が破綻してしまうことはあります。とりわけ、毎日自転車に乗りたくてこの宿を始めたのに、気がついたら自転車に乗っている時間がなくて、いろんなところに呼ばれて、いろんな交渉をしたり、代表として挨拶したり、事務仕事をやったり。

お店を維持できないから従業員を雇わなきゃいけなくなって、従業員の給料を払うためにまた別の仕事をやらなきゃいけないというかたちで、大きくなってしまうかもしれない。

うまくいくLifestyle entrepreneurの事業には、そういう悪い大人が近寄ってくる時があるので、それに対していかに低関与を維持するのかが、要はデメリットとデメリットの対処法になってきます。

もちろん色気が出てしまって会社を大きくしようとした時は、普通のベンチャー企業と同じようなデメリットが起きます。成長しようとしたら、リスクはやはり大きくなっていく。そこを全部捨てた時に、得られるメリットは長期的、あるいは非金銭的なところでも大きくなるということを、まず意識しないと「そこそこ起業」は難しいんじゃないのかなと思います。

司会者:ありがとうございます。今日のセミナーは以上とさせていただきたいと思います。

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