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新しい社会を創る、新しい仕事(第2部)(全3記事)

スタートアップ経営者だけど「漁師見習い」? 1つの職業にとらわれない「新しい仕事」の実践者たち

「Cross the Boundaries」を旗印に、日本最大級のスタートアップカンファレンスIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)が2024年も昨年に続いて京都で開催されました。今回のセッション「新しい社会を創る、新しい仕事」第2部には、株式会社ウィズグループ 代表取締役の奥田浩美氏、インティマシー・コーディネーターの西山ももこ氏、JPYC株式会社 代表取締役 岡部典孝氏、富士通株式会社 Ontennaプロジェクトリーダー 本多達也氏の4名が登壇。1つの仕事にとらわれない、新しい働き方について語ります。

前回の記事はこちら

「インティマシー・コーディネーター」に向く人とは?

奥田浩美氏(以下、奥田):では、西山さんは、このインティマシー・コーディネーターという職業がどういう人に向いていて、どういう仲間がいたらいいと思われますか?

西山ももこ氏(以下、西山):今の本多さんに同意しつつも逆なんですが、「やりたいよりは向いている人」というところです。どこまでもコーディネーターなので、役者も忙しいし、監督も忙しいし、いろんな意味で振り回される仕事なんですね。

振り回されるのに、「やりたい」だけではどうしても追いつかないところがあります。だから、どちらかというと自分が裏方に回れて、そこをちゃんとコーディネートできる人です。

そこで考えていくと、(向いているのは)制作したことがある人です。「やりたい」というのも1つですが、それよりも、こういうことが苦にならなくて続けていける人、仕事としてちゃんと終わらせられる人を探しています。

奥田:向き不向きがあるなと。お話を聞いていたら、おそらく私はそこが苦手な気がします。私はプロデューサーなので、「これはこれくらいやったらいい」という思いが、口に出なくてもひしひしと伝わっちゃう気がしています(笑)。

西山:そうですよね。プロデューサーは、比較的コーディネーターには向いていない。

奥田:ですよね。そこの対話を発生させて、いい感じの裏方になるということですよね。

西山:調整がすべての仕事なので、調整し続けることが苦にならない人がやったらいいかなと思います。

これまでは“限られた人しかなれない仕事”だった

奥田:日本ではどういうかたちで増えていきそうですか?

西山:もともと、私ともう1人の2人しかいなかったのですが、1人の人は自分でトレーニングを始めていて、私は私で会社で新しい子を育てていきます。

それプラス、教育という部分では、アクセスできる人がなれる仕事になっちゃいけないと思うから、今後はもうちょっと幅広く、いろんな方を育てていけたらいいなと思っています。

奥田:7月に事業を起こされると聞きました。

西山:会社にして、チームにして働けたらいいなと思っていて。特に最近の映画だと、「インティマシー・コーディネーターを入れました」みたいなことが謳い文句になっています。でも私からすると、「それ、インティマシー・コーディネーターの仕事じゃなくない?」「これって、もっと専門家を入れないと危なくない?」というか。

例えば、「これはインティマシーじゃなくてメンタルヘルスの分野じゃない?」と思うことがすごく多いのですが、メンタルヘルスの部分も「インティマシー・コーディネーターを入れたから大丈夫です」と、バーンとしちゃっているところがあって。

だから今後は、海外だとけっこう普通にいますが、セットカウンセラーといったチームで、ハラスメントや表現講座を受け入れる会社にしたいと思っています。

奥田:やることがいっぱいですね。

法律とハッキングを組み合わせた活動家「リーガルハクティビスト」

奥田:では、次に岡部さん。(岡部さんの仕事は)再現性が超難しいと思っています(笑)。

岡部典孝氏(以下、岡部):それが最近、同じような人が少しずつ増えてきています。必要なスキルで言うと、間違いなくテクノロジー、ソフトウェアを実装するところと法律です。この2つは外せません。

あとはマインドセットとして重要なのが、アントレプレナーシップです。誰もやったことがないものを作る仕事なので、当然「0→1」なんですよ。しかも、捕まるかもしれないリスクを自分で追わなきゃいけないので、雇われていたらまず無理なんですよ。

奥田:(笑)。

岡部:だから基本的には、アントレプレナーシップがあるソフトウェア開発者が法律を勉強するか、アントレプレナーシップがある弁護士がソフトウェア開発を勉強するかの2択です。

奥田:すごい。でも、絶対に必要ですよね。

岡部:絶対に必要なので、そこに突っ込んでいく役です。極端な話、そこで突っ込んでいけば、すぐにお金にならなくても支えてくれる人はたくさん出てきます。

「まずはお前が突っ込んでいってくれ」というところにお金はつくので、それで食ってはいけます。最悪、例えば弁護士業をやりながら食い口は自分で稼いで、そっちをプロボノでやるところからスタートする。私も大学で教えているので、そこで聞いてくれた人がそのうち起業家になって、育ってくれるといいなと思っています。

奥田:後半の3人はアントレプレナーシップも溢れ出ていて、お三方ともおもしろい背景で暮らしていらっしゃいます。本多さんはデンマークに2年間留学して、その間にお子さんがお二人生まれて、今は子育て真っ最中です。

本多達也氏(以下、本多):はい。子育て真っ最中です。この文脈で、そんな背景いる?

奥田:(笑)。必要じゃないですか。でも、いろんな方向から社会を見ていて。

海外の学校に進学後、帰国して感じた“息苦しさ”

奥田:西山さんは、アフリカの取材がずっとメインだったんですよね。

西山:今もそうで、先週、アフリカから帰ってきたばかりなんです。

本多:そうなんですか。

西山:ロケコーディネーターをやっていて。だから、アフリカ大陸が専門ですね。

本多:ロケコーディネーターの資格。それは気になりますね。

奥田:先ほどチェコの話も出ましたが、そのあたりをもうちょっと。広い視野を持たれている方々だからこそ、新しい価値が見えているんじゃないかなと思っているんです。

西山:アイルランドの高校に行って、チェコの大学に行ったのですが、日本に帰ってきたら、急に「仕事しなきゃ」「ちゃんとしなきゃいけない」「モチベーションを持たなきゃいけない」「ゴールを持って生きていかなきゃいけない」というのが、すごく息苦しくなってきて。

「なるようになるや」と言って、アフリカのロケコーディネーターを始めました。インティマシー・コーディネーターをやりつつ、ロケコーディネーターをやっているのは、やっぱりインティマシー・コーディネーターがお金にならないからなんですよ。

お金にならないから、アフリカのロケコーディネーターでちょっと稼いで、インティマシー・コーディネーターをやるかたちで組んでいるので、相変わらずいろいろやりながらという感じですね。

奥田:自己紹介の時、「その紹介いる?」と言いましたが、いろんなことをやっていると、「そもそも仕事ってなんだっけ?」「自分が1つの仕事でお金を全部回さなきゃいけないのか」「自分が稼ぐ必要あるんだっけ?」とか、海外もすべて含めた大きな経験が必要です。

岡部典孝氏が「漁師の見習い」もやっている理由

奥田:(岡部さんは)漁師ですよね(笑)?

岡部:そうなんです(笑)。実は私は漁師の見習いもやっていて。青ヶ島という人口160人の離島に移住して、うちの会社でも漁業を定款に入れています。

本多:漁業が定款に入っている。

岡部:はい。漁業が(定款に)入っていて、マグロを釣ったりもしています。なぜそんなことをやっているかと言うと、リーガルハクティビストとして必要なんですよ。

本多:その条件を入れちゃうと、なかなかなる人がいなくないですか(笑)?

奥田:このセッションは、1つの職業じゃなく生きている人たちです。

岡部:160人しかいないところになぜ行ったかと言うと……。

奥田:島に160人ですか?

岡部:村に160人なんですよ。

奥田:人口が?

岡部:はい。さっき言った立法事実というのは、1個だけあればいいんです。それで事実になるので、一例やるのが大切です。邪魔をする人がいなければいいので、160人だとまず邪魔がいないというのが1つです。誰もやっていないから、邪魔する動機もないし、邪魔もできない。

「青ヶ島をDAOヶ島に」地方創生への取り組み

岡部:もう1つは自治体なんです。160人しかいないのに、村長も議会もあるので、実は特区が通せるんです。だから、もし法律が邪魔して「これは捕まえるリスクがある」となったら、「特区で通しに行きます」というのがやりやすいんです。

奥田:ドローンも飛ばせるし、モビリティも好きにやれる。

本多:なるほど。

岡部:何でもやれる。人も少ないし、海にも船がぜんぜんないから、たいていの実証実験が通るんです。

奥田:確かに。やっぱり漁師の免許があったほうが、海まで行けますよね。

岡部:はい。海にも行けるので、海も使えます。(青ヶ島村は)八丈島の南にあるのですが、小笠原まで無人なので、300キロくらいの海が使い放題です。

本多:300キロくらい使い放題プランだ(笑)。

岡部:「実証実験をやるエリアを海に設定しよう」みたいなこともやっていますし、本当にめちゃくちゃおもしろいところですね。今は「DAO」という分散型組織も注目されていると思いますが、「青ヶ島をDAOヶ島にするぞ」と言って、おもしろい人をたくさん移住させるプロジェクトもやっています。

奥田:「DAOヶ島」をめっちゃ宣伝しています(笑)。でも、本多さんもすごくいっぱいいろんなことをやっているじゃないですか。

本多:やってないわ(笑)! 魚を獲ったりはしてませんから(笑)。

身につけたノウハウは積極的に他人に共有

岡部:でも、そうやってDAOを広めていると、「DAOの規制緩和をやりましょう」みたいな時に政府から呼んでいただいてお話ができたり、自民党から呼んでいただいたりして、そこで提案したことが、実際に法律の規制緩和の反映につながっています。だから、全部つながっています。

本多:「岡部さんをどうやって増やすか」みたいなものって、難しいですね。

奥田:でも、私も今は仕事を50やっています。

(一同笑)

奥田:それくらいやると、新しいものを作るのに抵抗感がなくなるので、そのうちいくつかが数年で入れ替わっていきます。

本多:なるほど。

岡部:やり方、ノウハウ、自分で身につけたものは、とにかくどんどん他の人に伝えて、他の人が真似できるようにして、真似してもらっています。

本多:なるほど。「(大学を)卒業して大企業に入る」とは、ぜんぜん違うモチベーションですね。

奥田:卒業して大企業に入っても、その大企業をいい感じで転がしているわけじゃないですか(笑)。

本多:確かに。そういう意味でも、事例というか、こういうケーススタディを見せることが大事ですよね。

奥田:後半は、何の仕事をしているかわからないけれども、その中でも1つ、2つくらい「仕事」という役目をつけて過ごしている人たちを出しました。

社会のジレンマを突破するために必要な人材

奥田:あと4分くらいになったので、それぞれどんなワクワクした未来、あるべき未来を描いているのか。「自分たちが今やっていることから、こんな仕事も生まれてくるかな」ということでもいいので、未来に向けての自分の思いを、岡部さんから(お願いします)。

岡部:JPYCという会社は、「社会のジレンマを突破する」というミッションを掲げています。社会のジレンマを突破するには、第一の事例を作る人が必要です。その人たちがやりやすい、挑戦しやすい社会を作るという思いで、決済の仕事をやっています。

なめらかな社会、手数料がかからない社会を作って、挑戦者をとにかく応援する。挑戦者が、お金や仲間を集めやすくする。そういう仕組みも含め、エコシステムとしてお金が集まって、法律や規制も早く変わっていく。このサイクルをどんどん早くしていって、イノベーションのスピードを上げていく。

AIがこれだけ発展して世の中が進歩すると、法律側が追いつかないので、スピードを上げていかないと成長が阻害されると思っています。成長が阻害されないように動いていくのが(僕たちの)大事な役割だと思っていますし、そういう世界を作っていきたいです。

奥田:そういう社会を実現するために、絶対に必要な条件だということで、リーガルハクティビストを1つの仕事にされているという理解でよろしいでしょうか?

岡部:そのとおりです。

撮影現場では「人権」という言葉が忘れられがち

奥田:では、ももこさん(お願いします)。

西山:私の場合は、どうやって安全に撮影現場を作っていくかです。やはり撮影現場では、「人権」という言葉が忘れられがちなんですね。「一人ひとりに人権があるんだよ」と、働いている人に思ってもらえるよう、安全に撮影をしていくのが1つです。

また、この業界は、ある意味学歴が必要ないんです。学歴が必要ないからこそ、教育を受ける機会がなかったり、教育を受けたいと思ったけどドロップアウトしちゃったりした子たちに向けて、いつでも逆転できるよという社会を作っていきたい。だから、教育システムというか、インターン制で育てていく。この業界で働ける人材を育成していきたいと思っています。

奥田:ありがとうございます。本多さん、お願いします。

本多:ポイントは「心の余白」だと思っています。2ヶ月前までデンマークにいたのですが、(デンマークの人たちは)ちょっとすれ違うだけでニコってしてくれます。

また、デンマークにはろう学校がないんですよ。つまり、耳が聞こえない子どもたちや、いろんな障がいのある人たちとそうでない人たちが、小さい頃から一緒に暮らしています。なぜそれができるかと言うと、小さい頃からそれぞれの違いを受け入れ合って、自分らしく生きられる社会を作っているからです。それってやっぱり、心の余白だと思うんですよね。

例えばデンマークでも、デジ庁(デジタル庁)みたいなところでシステム障害とかのトラブルがたくさんあるんですよ。でもみんな、「じゃあ、もうマイナンバーをやめよう」みたいな感じにはならないの(笑)。「そういうトラブルはあるけど、進めるごとに我々の生活や社会はよくなっていくよね」みたいな感じなんですよね。

日本はリーガルガッチガチで、そこから何もできない。もっと心の余白みたいな(ものが必要だと思います)。日本人って、もともとそういうのが得意だと思っているんですよ。ハイコンテクストで空気を読む一方で、「おもてなしの心」や「相手にちょっと手を差し伸べる」ことが得意な人々だと思っているので、そういうのを広めていきたい思いがありますね。

奥田:ありがとうございます。

数年後にはまったく知らない仕事が生まれてくる

奥田:まさにお三方、今日は本当に新しい仕事を紹介してくれたと思います。今回、私がこの2部のセッションを企画したのですが、その背景には、まずみなさんに社会の変化を知ってほしいし、新しい仕事が生まれていて、3年後にはまったく知らない仕事が次々と生まれてくることを知ってほしい、という思いがあります。

そして、このような登壇者がふだんどんな生活をしていて、どんな思いがあるのか。新しい仕事を生み出す勇気の裏に、どんなものがあるのかを感じてほしいというのが、このセッションの背景です。

また、このメンバーではなく、今日聞いていらっしゃる方が「私はどんな仕事を生み出していくんだろう?」「仕事以前に、どんな社会を生きていきたいんだろう?」と(感じてほしい)。だから、私は最初のセッションの自己紹介で「職業は『地球』です」と言いましたよね。

職業「地球」というのは、「それは地球の未来に必要ですか?」という意味です。どんな未来を作りたいかを、どんな会社でも、どんな政府でも言い続ける職業を生み出したという意味で、今日は全部で6人の方(第1部3人、第2部3人)に出ていただきました。

これは、社会の中でちゃんと成立している、あるいは成立しかけている仕事です。ぜひみなさん、次の地球にあるべき未来を一緒に作っていきましょうということで、最後の言葉にしたいと思います。

本多:すばらしい。

奥田:ありがとうございます。

(会場拍手)

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