2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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2024年7月22日、古舘伊知郎氏の新刊『伝えるための準備学』が、ひろのぶと株式会社から刊行されました。刊行を記念したイベントでは田中泰延氏と対談し、古舘式の「準備学」について、そして本には収まり切らなかったエピソードなどを語りました。本記事では、仕事における「準備」の重要について説きます。
古舘伊知郎氏(以下、古舘):みなさん、今日は暑いのに並んでくださって本当にありがとうございます。手を挙げているTシャツの方、はい。
質問者1:楽しく聞かせていただきました。
古舘:(Tシャツに)何て書いてあるんですか?
質問者1:「毒霧」と書いていまして、武藤敬司さんの……。
古舘:あぁ、毒霧か。(グレート・)ムタね。
質問者1:はい。質問にちょっと絡むんですが、2023年2月21日東京ドームで。
古舘:武藤の引退(試合)。
質問者1:生で拝見させていただきまして、あの時の(朗読した詩の)内容はどういう準備をされたのかなと。
古舘:あれは完全に準備で、丸暗記状態ですね。(朗読した時間は)2分45秒かな。ちょっと忘れたんだけど、ノアから……ノアっていうか武藤から、「古舘さん、3分以内で猪木さんの引退の時みたいなものをメッセージ出してくれ」って言われて。
俺は、武藤だから610文字でまとめようと思ったんですよ。最後の決めはもう思いついて、「さよならムーンサルト」でいこうと。やはりかっこいいじゃないですか。ムーンサルトで、両膝に人工関節が入っていますから、もう膝なんか伸びない状態で60歳までやってきた武藤。
真剣にがんばってきて、大向こうを唸らせたレスラーはみんな体がガタガタになっていきますから。首、肩、腰、膝、足首と、みんなそうですよね。猪木さんだって誰だってそう。ぴんぴんしている人は、よほど手を抜いたレスラーですよ。
(会場笑)
古舘:やっぱりそうなんですよ。
古舘:ボクサーは首から上、頭がパンチドランカーになりかねない。網膜剥離、いろんなことが起きてきますよね。レスラーは首から下をやられるわけです。武藤もガタガタじゃないですか。
だから、「よし。じゃあ、610文字で愛を込めて、プロレス愛をうたっている武藤敬司をみんなで送り出そうじゃないか」という思いで書いて、放送作家の人にも相談したりして、お知恵を拝借して。
僕は冒頭はちゃんと自分で「山梨県富士吉田市に生まれし1人の男の子(おのこ)」みたいな古くさい言い回しから入ってやっていたんですよ。自分で書いて、それを丸暗記して、初めは610文字でやろうと思ったら1,780字ぐらいに……。
(会場笑)
古舘:しゃべりと同じで長いの。これだと大変な時間になっちゃうからヤバいということで、もう切って、切って、610文字にして、それでなんとか丸暗記してやったんです。
これがまた、内藤(哲也)との試合が終わって、それからアドリブ的に解説席にいた蝶野(正洋)を呼び込んで、ちょっと戦ってみせたりっていうご愛嬌があったじゃないですか。その後に締めで俺なので、ちょっと気恥ずかしかったですが、リングの真ん中に立ってああいうのをやれるのはうれしかったですよね。
「武藤のすべての戦いが終わって、今、胸中に何が去来するんだろう」とか、アドリブで言いたくなるんだけど、そういうのを抑えて丸暗記したものをやりました。
古舘:気がついたら終わって、しゃべり終わって控室に戻ろうかなって思ったら、横にくりぃむ(しちゅー)の有田(哲平)君がいて。(有田氏は)プロレス大好きで、武藤大好きでね。
こっち側に藤波辰爾と長州力がいるっていう並びで、こっち側に野田(佳彦)元総理がいたんですよ。藤波のたっちゃん(藤波辰爾氏)と一緒に(席を)立って、「それじゃあ、また」って言おうとしたら、もう総理じゃないのに「古舘さん、こっちを見ているから野田総理を紹介してよ」って。
俺も違和感なく「野田さん、どうもご無沙汰しています。プロレス好きでしたもんね。藤波辰爾さんです」って紹介しながら、「なんで俺が紹介するんだ?」って。
(会場笑)
古舘:別にそんな野田さんと親しいわけじゃないのに。そんなことをした記憶が今よみがえりましたけど。
帰る道すがら、やっぱり藤波辰爾はいいことを言いましたね。「古舘さん、俺の意見に過ぎないけれども、あれは武藤と内藤の試合が始まって、武藤が入場する前にドームを暗くしてピンスポでリングの上で古舘さんがやるべきだった。最後に持ってこないで……」と。
レスラーは幕開けのことを「口開け」という言葉を使うんですが、「口開けで言うべきだったんじゃないか?」と。もう遅いっつうの。
(会場笑)
古舘:そんな記憶がございます。
質問者1:ありがとうございます。
田中泰延氏(以下、田中):いやぁ、いい質問です。
(会場拍手)
古舘:ありがとうございます。
古舘:ほか、ございませんか? はい、火消し娘さんどうぞ。(別の参加者に向かって)次にいきますから、ご安心ください。
質問者2:地声でいいですか?
古舘:地声で。
質問者2:今日はすごく楽しみにしていたので、本当は質問を考えていたんですが、今の話を聞いて変えます。続きなんですが、猪木さんのお別れ会に行かせていただいた時に……。
古舘:両国国技館。
質問者2:そうです。あの時の古舘さんがしゃべっていた猪木さんへの言葉は、本当に胸に刺さって、もうとんでもない気持ちで帰っていったんです。
古舘さんってプロレスラーよりも猪木さんのそばにいた人だし、もうさまざまな思いが(あって)、どれを最後に話したらいいんだろうって、とっても準備に悩まれたと思うんですが、そのへんの話を聞かせてください。
古舘:はい。これはもう本当におっしゃるとおりで……ちょっと逸れるけど、死んでからより猪木さんを思うんですよ。生きている時は甘えがあって、いつでも猪木さんに会えるっていうような甘えがあったことに、猪木さんが死んでから気づきました。
猪木さんのファンで、例えば作家の村松友視さんとか、何人か仲良しがいるんですよ。そういう人と集まって、たまに飲んだりすることが年に1回ぐらいあって、「死んだほうが猪木さんのことを語りたくなるよね」ってみんな言うんだけど、ずっと語っていたい人なの。
だから、あの時も本当に「あれも言いたい、これも言いたい」って、削ぎ落とすことばっかりでしたね。それで時間もあるし、なんか森喜朗が延々としゃべっているし。
(会場笑)
古舘:最後だったから、俺が決めなきゃいけないから、実況で猪木と誰かが闘っているのも再現してやりましたよね。「アントニオ猪木という存在は、僕にとって肉体言語でした。肉体言語だからこそ、その言語を俺が担当しなきゃいけないんだと思ったんだ、猪木さん」とかやったんだよね。
作ったものは膨大でしたけど、それも削ぎ落として短く、短くしたのが、あの時の(お別れの言葉でした)。武藤の(引退試合の)時と同じですね。ありがとうございます。
田中:ありがとうございました。
(会場拍手)
古舘:さっき手を挙げた方、最後に。
田中:じゃあ、最後。
古舘:ありがとうございます。その、目の前の……黒いTシャツの方。どうぞ。
田中:じゃあ、最後のご質問をいただきます。
古舘:時間オーバーですみません。
質問者3:今日はお会いできて光栄です。
古舘:ありがとうございます。
質問者3:質問なんですが、私は子どもの時から高校までボーイスカウトに入っていました。ボーイスカウトを作られたイギリスのベーデン=パウエル卿という方がいらっしゃって、その方の言葉に「備えよ常に」というものがあるんですね。準備と備えって何が違うんだろう? ということを感じたわけです。
古舘:また深いところに来ましたね。僕はこの流れで、プロレスの話で切り抜けようと思って……。
(会場笑)
質問者3:(質問を)どっちにしようかなと思ったんですが。
古舘:いや、すばらしいのが来ましたね。
田中:うん。
古舘:お二方もすばらしいんだけど、また違う角度から。
古舘:僕の勝手ですが、備えっていうのは心持ちのことを言うんだと思うんですよね。それで、備えっていうのは心の構えなんだと思うんです。「備えるぞ」という自覚や意識、意志なんだと思うんですね。実際に作業を進めていく工程が準備かなっていう感じがします。
「備えよ常に」というのはすばらしい言葉で、常に備えていないと、いい時や楽しい時に浮かれちまう。ダメな結果が出た時にうなだれちまう。これが一番良くなくて、常に備えていれば平常心でいられるかもしれない。だから、まずは備えなきゃいけない。
備えるんだっていうのは、心の構えだと思う。実際に長く準備を重ねていかなきゃいけないという作業工程で「ing」、走り出すと、もうそれは準備になるのかなっていう感じがしますね。
田中:なるほど。
古舘:スタート地点に「備え」がいてくれて、そこから先に走り出すともう「準備」期間に入ってくるのかなっていうイメージを持ちます。でも、いい言葉ですね。「備えよ」というのは大事ですよ。
古舘:あのね、僕が最近誰に聞いたかも忘れちゃったんですが、ずっとランニングが得意な人がいて、その人は「ランニングが得意だ」って言っていたんです。誰だっけな?「今日はちょっとダメだな。別に体調は悪かないのに、なんでダメなんだろう?」と思って走っていたんですって。
同じ1日の10キロの走りの中で、「ダメだな。コンディションが悪いな」と思っていて、フラットなところを走っているのに「ダメだな」と思っている。今度は同じくフラットなところを走っているのに、走りがすごく快調になってくると「いい感じじゃん」となる。
「どうしてこんな交互に来るの?」と、後でそのコースを入念に見てみると、苦しくてしょうがない時は若干の上り勾配だそうです。「調子がいいな、快調だな、このままずっと走り続けようかな」という調子で乗れる時は、若干の下り勾配だそうです。あまりにも若干なので、それが自覚できないんだそうですよ。
だから、もしかしたら準備の秘訣もそこにあって。さっきも言ったように「つらいな」とか、「もう準備したくない。投げ飛ばしたい。もうやめたい。遊びに行きたい。酒飲みたい」とか思うところは、若干の上り勾配で成長しているんじゃないかと思うんですよ。
田中:なるほど。
古舘:それで、「もう準備はほどほどで、これぐらいで大丈夫だ」なんて思っている時が落とし穴で、下っているんじゃないかなと。悪い意味で自分の実力が落ちているんじゃないかなって。そうやって言い聞かせるのも備えだと思うんですね。備えて、怖がって、一生懸命準備するしかないかなって気がしますけどね。
田中:なるほど。最後の最後に、本当にいい質問をありがとうございました。
(会場拍手)
古舘:いい質問をありがとう。あの方、仕込みじゃないんですか?
(会場笑)
田中:仕込みじゃない(笑)。仕込みじゃないので。
古舘:ひろのぶとの方じゃないですか? ねっ、お母さん。また若くなっちゃう。
田中:ということで、今日は「準備」について、本当にたくさんお話をうかがいました。
古舘:みなさん、ありがとうございます。
田中:いつもインタビューをさせてもらう時も、気がついたら3時間とか経っていたり、大変なことになっているんですよ。今日はもうそういうことで、絶対にオーバーするっていう時間の感じも含めて、僕、本当に今日が幸せなんですよ。
古舘:こちらこそありがとうございます。
田中:ということで、今日は『伝えるための準備学』刊行記念でした。
古舘:よろしくお願いします。買っていただいてありがとうございます。
田中:トークイベント、古舘さんにたくさんのお話を頂戴いたしました。古舘伊知郎さんでした。ありがとうございました!
古舘:ありがとうございます!
(会場拍手)
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