2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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2024年7月22日、古舘伊知郎氏の新刊『伝えるための準備学』が、ひろのぶと株式会社から刊行されました。刊行を記念したイベントでは田中泰延氏と対談し、古舘式の「準備学」について、そして本には収まり切らなかったエピソードなどを語りました。本記事では、29歳でテレビ朝日を退社しフリーになった当時の状況を明かします。
古舘伊知郎氏(以下、古舘):(テレビ朝日の退社について)当時は29歳とかで、ちょっと売れたからって調子づいてフリーになるやつなんていなかったんですよ。NHKのアナウンサーで、何十年も売れて全国区の人が民放に天下ってきて、月金のワイドショーの司会(になる)とかは、あまたありましたが。
調子づいて29歳でフリーになるスポーツアナなんていないから、一瞬びっくりして「おぉ、辞めるんだ。大変だぞ。辞めたいってもう決めたんならしょうがない」で終わっちゃったんです。
そうしたら今度は2日経ったら、知りもしないその当時の編成局長、取締役編成局長に1階の喫茶部というところに呼ばれたんですよ。かなり偉いですよ。「これは保留されるな」と思ったんです。
(会場笑)
古舘:これは、さっきのワイマールと違ってもう決めたことですから、揺るがないと思って座って「何ですか?」と言ったら、「古舘君っていうの? 君だよね」って、俺をよく知らなかったので、「はい、僕です」と。
「辞めるんだってな」「はい」「お前、フリーっていうのは大変だぞ。一寸先は闇だぞ。本当にその気なのか?」「はい、もういいんです。結婚もしていませんし、別にどうなっても。とにかくがんばりたい一心で」「そうか。じゃあ、がんばれ」って。それで終わったんですよ。
(会場笑)
古舘:何なの?
古舘:それから3ヶ月ぐらいしたら、これがまた私が売れたんですね。そうしたらテレ朝が焦ったんですよ。別にテレ朝はいちいち焦らなかったと思うけど、アナウンス部が焦ったんですね。
アナウンス部がなんで焦ったかというと、「第2、第3の古舘を出しちゃいけない。アナウンス部が崩れてしまう。崩壊する」と。俺から言わせれば「何言ってんだ」と。俺しかフリーになる力量のやつはいなかったんだよ。
(会場笑)
古舘:何を言っているんだ、馬鹿も休み休み言いなさいと。気が弱いから、そういう時だけ腕を組んではいませんよ。
(会場笑)
古舘:またいい人に戻りますが、箱根にテレビ朝日の山荘(テレビ朝日強羅クラブ)があるんですよ。そこに法政大学のマスコミュニケーションの教授の先生を呼んで、「なぜ古舘はあんなに若くしてテレ朝を辞めたのか?」っていう、アナウンサーを中心とした研修会をやったらしいです。「第2、第3の古舘を出すな」という議論をみんなでして、最後に出た結論が「古舘は金で転んだ」。
(会場笑)
古舘:俺、どこから裏金をもらうんですか? なんかそっちへ(結論を)持っていったらしいですよ。でも、金で転んだっていうのは、後で考えると正しいと思うんですが、金稼ぎに転んだっていう意味だと思うんですよ。
そういう意味では、僕はフリーになってもっとお金を稼ぎたいと思ったのも事実なので、間違っちゃいないんですけどね。だから、辞めてから「あいつ辞めたけど売れてんな」というふうに注目された。
だから、けっこう僕はそのたび当てが外れるんですよね。そういうのは楽しいですし、「引き止めてくれなかったんだ」って、それがまたエネルギーになるじゃないですか。
あんまりみんなが引き止めてくれたりすると、「俺ってすごい」とか思って調子に乗ってつけ上がっちゃうと思うので、冷や水を浴びせてもらうことで原点に戻れるじゃないですか。
古舘:これもけっこうよくネタにして言っていたんですが、テレ朝で僕をかわいがってくれた制作畑のプロデューサーがいたんですよ。つい半年ぐらい前に、40年ぶりぐらいに再会しました。
僕がフリーになりたてで、29歳か30歳になりたてぐらいの時。どうでもいいですが、今はもう六本木のロアビルが取り壊されそうになっていますけど、夜中にロアビルの前を酔っぱらって、歩いていたんですよ。TBSのスタッフか誰かと、男5、6人で。
そうしたら目の前に、一切お酒を飲まない、しらふのプロデューサーさんが1人で歩いてきて帰る(ところだった)んですよね。そこですれ違って「おぉ、古舘」って言われて、「どうも、ご無沙汰しています」って。
そうしたら、「お前、フリーになったな」「はい」「がんばれよ」「はい、がんばります」って頭を下げて。「お前、大丈夫かよ。フリーって波風あるぞ?」「大丈夫も何もがんばります」「そうか、がんばれよ」ってすれ違ったんです。
そうしたら、飲んで、帰ろうとかやっている時にもう1回すれ違った。もう1回背中に「古舘」って呼ばれたから、また「何すか?」って振り返ったら、「お前な、絶対に1年以内に潰れるから、楽しみに待っているよ」って言ったんですよ。すごいことを言いますよね。
俺はその時、頭に来た。傷ついた。3年を5年、5年を10年もたせたいと思って必死なわけじゃないですか。それまで7年間給料取りだったわけだから、怖いですよ。そりゃそうなんだ。
古舘:怖いところに塩を塗るかのごとく、「1年で必ず潰れるから楽しみにしているぞ」って意地悪なことを言うなと傷ついたけど、今思うと強烈なエネルギーが生まれた。絶対に1年で終わるまいと、準備に準備を重ねる。今思えば、その時に僕は産声を上げましたね。この話、(書籍には)入れていないですよね。
田中泰延氏(以下、田中):はい。
古舘:いいチョイスでしょう?
(会場笑)
古舘:本当に、その時に産声を上げました。絶対1年で潰れない、あの給水ポイントまで走っていこう。給水ポイントでスペシャルドリンクか何かを飲んで、また次の給水ポイントまで走っていこうと思いました。42.195キロ、そのぐらい思いました。
何にも悪いことをしていないのに、かわいがってもらって一緒に番組をやって、リポーターもいっぱいやってきたのに、なんであんなに意地悪なことを言うんだろう? と。でもね、3年ぐらい経ったら思い出したんですよ。
「お前な、フリーになるんだったら俺が面倒見てやるから。それで、この番組の専属リポーターになったら、お前の給料分ぐらい出してやるよ」って言われたことがあったんですが、俺は真に受けなかったんです。その番組が好きじゃなかったんですよ。そのわがままさと、「そんなこと嘘だろう」っていうので忘れていたんですよね。
辞める時に何の相談もしていないことに怒っているんですよ。だから、「お前は潰れるから楽しみにしている」って言ったんだなというのを、3年経ってから、あぁ俺も悪いことしたな、義理を欠いたなと。
古舘:(辞める前に)「辞めることにしました。あなたのお世話にはなりません」って言えばよかったんですよ。だけど、そういうことを言わないで、若いから馬鹿丸出しで義理を欠いて出ているんです。そういう意味では、わかったんですね。
でも、それまではすごくエネルギーになりましたから。ああいうふうに人に意地悪を言っちゃいけないし、傷つくっていうことは、大事な準備の始まりなんだって思ったことは事実です。
ある仕事で40年ぶりにその人と再会したんですよ。そうしたら、「いやぁ、古舘さん、ご活躍で。絶対に売れると思った」って言っていました。
(会場笑)
古舘:びっくり仰天。人間っていうのは、言ったことを忘れます。受けたほうはじくじく思い出して発酵させています。俺も人をいっぱい傷つけているなと思いました。言ったことを相手は根に持っているし、言い放ったほうは忘れていると思いました。だから、いろんな人を傷つけている分、本当に因果応報だなと思いましたよ。
田中:しかし、それで準備に走るっていうのが、「悔しい」っていうのも1つあるってことですね。
古舘:悔しいですね。
田中:古舘さんはいろんなことに取り組まれるわけですが、そのたびごとに「しょせんはニセモノだよ」ということもおっしゃっていて。でも、それで準備していく中で、「この人は本物だ」とみんなが思うような発展を遂げていく。
この間もおうかがいしましたけど、ずっと客人を招いて1ヶ月に1回トーク(『古舘と客人と』)をやっていらっしゃいますし。
古舘:この前、南海キャンディーズの山ちゃんが月1の対人ライブに来てくれたんですね。丸の内のCOTTON CLUBというところで、(スライドを指しながら)その時の写真なんですが。
彼がレギュラーで『(山里亮太の)不毛な議論』というのをTBSラジオでやっていて、けっこう山ちゃんのファンが多いんですよ。おとといだかに、そこ(ラジオ)で俺のことをネタにして、人のことを「変質者、変質者」と言っていました。
(会場笑)
古舘:ここに出てくれたので、「じゃあ今度、久々に飯を食いに行こうか」って寿司屋に行ったんですよ。俺は必ず先に行って待っているんですが、後輩にプレッシャーを与えるために絶対に先に行くんですよ。
(会場笑)
古舘:そうすると、遅れてもいない人が「すいません」って入ってくるからおもしろいんです。「いや、そんなん俺が先に来ただけだ」って言うのが好きなんです。
(会場笑)
古舘:それで、山ちゃんが遅れてきて……。(行った店が)マグロがおいしい寿司屋なんですよ。仙台からちょっと北に上がった塩竈って、マグロの水揚げが数量で言えば日本一なんです。でも、大間のマグロとかのほうが有名じゃないですか。
田中:はい。
古舘:(席に)座って、山ちゃんも甘えるのがうまいから「古舘さん、なんでここに連れてきてくれたんですか?」「まぁ、1杯飲みなさい」って、乾杯ってビールを飲んで。なんで塩竈のマグロを食ってもらいたいと思ったかというと、大間のマグロがあまりにも有名だけど、なんで大間はブランド化したのか。
「同じ海、同じマグロが泳いでいるのに、函館側の戸井のマグロより、こっち側の青森の大間のマグロのほうがブランドになるっておかしくない?」って。これは、原発でプルサーマル計画があるから、大間に原発の補助金が流れるんですよ。
大間の一本釣りが一時いろんなテレビ局で(話題になって)、渡哲也さんが「マグロ!」って言ったり。
(会場笑)
古舘:テレビ東京で、今は数少なくなってきた大間のマグロの一本釣りで、マグロと人間が1対1で戦うといって、ヘロヘロになりながら260キロを超える大きなマグロを……ここで260キロのアンドレ・ザ・ジャイアントと重なるんですよ。
(会場笑)
古舘:各局がドキュメンタリーやドラマで、本マグロが揚がるっていうのをやったじゃないですか。あれは大間のマグロのブランディングのためであり、その背景には原子力発電所のプルサーマル計画がある。
燃料を使えば使うほどプルトニウムが増えるという技術は、僕は事実上終わっていると思います。高速増殖炉の「もんじゅ」だって、もうやめましたしね。あれで何兆円使ったんですか? って、僕はちょっといろんな思いがありますが。
「とにかく、そういうことで大間のマグロがブランディングされたんだよ。それに比べて塩竈はブランディングされていないけど、こっちのほうが(水揚げ量は)多いんだよ」って。
今は配信があると思ったから気を使った言い方をしましたけど、(実際にはその場で)30分しゃべっちゃったんですよ。もう、とっくのとうにマグロが来ているんだけど、ちょっと干からびている。
(会場笑)
古舘:でも、さすがに山ちゃんが嫌な顔をしたんです。
(会場笑)
古舘:「あぁ、30分ぐらいしゃべっちゃった。山ちゃん、ほら、もうマグロを食べたほうがいいよ」って。酒が進むにつれて、また違うことで30分しゃべっちゃって。
そうしたら、山ちゃんがそれをそっくりラジオでやってくれて。「本当にマグロを食いたいのに、30分、本マグロの話。『延縄のほうがおいしいんだ。一本釣りは血が回るから味の問題では……』とかいろいろ言って、あの人おかしいわ」って。
(会場笑)
古舘:また別の話で30分、しゃべっている。私はそういう人間なんですよ。
(会場笑)
田中:(カンペを見て)……あっ、(会場からの)質問もね。
古舘:質問の時間にいかなきゃいけない。
田中:そうなんです。せっかくお越しのみなさん、ここで、この本に(まつわる質問を)……。
古舘:田中さん。遮って悪いけど、今日はあれですよ。ブログを拝見したんですが、51歳のスポーツドクターの方で、長州力のファンで、北九州(在住)の80歳を超えたお母さまを誘って一緒にお見えになった人もいらっしゃるらしいです。
田中:はい。そちらにいらっしゃる二重作(拓也)さん。
(会場拍手)
話者1:母が……。
古舘:あっ、お母さま。
話者2:75歳なんです。
(会場笑)
古舘:……。
(古舘氏が土下座をする)
古舘:そうじゃないかなって噂をしていたんです。そうですよね。
話者2:私、歳を取るのがものすごく自慢なんです。1歳違いがすごくって、1歳の時には「んがんが」言っているよって。もう生まれたばかりの時は、まだ目も見えないよって言ってすごく威張っているんです。残念ながら80歳にはまだ届かないので、少し威張り具合は控えております。
古舘:お母さん、めちゃおもしろいじゃない。
(会場笑)
古舘:どうもすいませんでした。80歳を超えていると思い込んでたんですが、お母さんも知らなかったから許されますよね。
話者2:いや、80歳にしても……。
古舘:見てから言ったんじゃないんですから。
(会場笑)
古舘:見る前に言っていますからね。訳わからない……。
話者2:80歳でもすごく若い人、たくさんおられます。
古舘:そうですよね。
話者2:はい。うちのお隣とか、みんな90歳ぐらいでもご主人もお元気です。
古舘:そうでしょう。でも、お母さんもおしゃべりになられて、3歳ぐらい若返ったんじゃない?
(会場笑)
古舘:『ベンジャミン・バトン』みたいに、どんどん若くなっていますね。
話者2:ありがとうございます。ただ、ちょっと長く時間を取っちゃいけないと思うんですが。
古舘:いけないと思います。
話者2:ご近所の方や私を知っている方に、「70歳にも見えません、65歳ぐらいです」って言われます。
古舘:なんだ? お母さん。本当ですか?
(会場笑)
古舘:どうもありがとうございます。
話者2:ありがとうございます。
古舘:いや、でも本当にお若い。よくお母さまをお連れになって、本当にありがとうございます。お母さん、どうもすいませんでした。また若返っていますね。
(会場笑)
古舘:暗がりだから……あっ、そういうことを言っちゃいけない。質問を受けないと。
田中:はい。
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