2024.10.01
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2024年7月22日、古舘伊知郎氏の新刊『伝えるための準備学』が、ひろのぶと株式会社から刊行されました。刊行を記念したイベントでは田中泰延氏と対談し、古舘式の「準備学」について、そして本には収まり切らなかったエピソードなどを語りました。本記事では、2014年に復活を果たしたトークイベント「トーキングブルース」の舞台裏で、古舘氏が“痛感したこと”を明かします。
古舘伊知郎氏(以下、古舘):(スライドを指しながら)またいいセリフを入れてくれて。
(会場笑)
田中泰延氏(以下、田中):ここにね(笑)。それ以外とか、その前からもそうだったんでしょうが、そこからあらゆる活動をされた。
「トーキングブルース」を含めて古舘さんがおっしゃっているのは「準備とは最悪の本番を想定することだ」という原理で、この本(『伝えるための準備学』)の中に書かれていることですよね。
古舘:はい。もっと言うと、準備というのは近未来を生きることだと思っているんですよ。というのは、明日の「トーキングブルース」のために通しでリハーサルをやらないといけない。
いい本番を迎えたくて、その準備の最終調整に入っている時は「あれ? 明日の本番をやっているのかな?」と、時空、時間が歪むんですね。だから、準備というのは未来を生きていることなんだなと。
今どきの量子力学じゃないけれども、昔からずっと時間の流れというのは、過去から今、今から未来に向かって直線的に進んでいくという常識で生きてきたと思うんですが、この頃、反対のことを言う学者も出てきましたよね。「時間というのは、未来から今に流れてきているんだよ」と。
古舘:例えば僕が「なんか喉が渇いたな」と思って、冷蔵庫に向かって扉を開けて、冷蔵庫の扉部分に入っているミネラルウォーターを取り出して、グビグビ飲んで喉の渇きを癒した。ということは、もう冷蔵庫の扉に向かっている段階で、未来から流れてきた時間をキャッチして飲みに行っているんじゃないかという考え方ですよね。
だから、もしかしたらそういうのも未来から来ているのかな? と感じると、僕は昔インドへ一人旅をしたことが……。話がいろいろと飛ぶでしょ!?
(会場笑)
古舘:本当にいろいろとね(話が飛ぶ)。頭がおかしいと思いますよ。あのね、今から30年近く前にインドに一人旅したんですよ。その時に出会った言葉があって。
バラモン教でもあり、後に生まれた仏教でもあると思うんですが、「未来は懐かしい。昔は新しい」って日本語で書いてあったんですよ。だからおもしろいなぁって。たぶん直線的な時間の流れじゃなくて、時間というのはスパイラル上というか、螺旋状にグルグル巡っているんじゃないかと思いました。
中島みゆきさんが「まわるまわるよ時代は回る」と歌っているようになっているんじゃないかなと。そうすると、過去に新しいものは行きついていて、未来が懐かしいというか、いつか見た光景だと思うんじゃないかと。だから既視感のあるようでデジャブみたいなものもひっくるめて、時間の流れは一線状なのかなと思ったんです。
古舘:だけど、この「準備とは最悪の本番を想定することだ」っていう、未来から時間がやってくるということを強烈に思い知ったのが2014年なんですよ。
先ほど言いかけたように、ちょうど『報道ステーション』を始めて10周年で、古舘プロジェクトができて30年か。そういうのが重なって、テレビ朝日のEX THEATER ROPPONGIというのが六本木にあるんですが、あそこがこけら落としだったんですよ。
その時にテレビ朝日から「古舘さんも『報道ステーション』で何かストレスが溜まっているようだから1日渡す。『報ステ』をやってもらっている以上、そんなに長くはやってもらえないから1日だけやらないか?」と、EX THEATERで「トーキングブルース」が復活。『報道ステーション』を始めた2004年から「トーキングブルース」はずっと休止していました。
だから「『トーキングブルース』をやらないか?」と言われて、2014年にワンナイトでやったんですよ。それで、この時は900人ぐらいのキャパでいっぱいになって、芸人さんとかがけっこういっぱい聞きに来てくれて、呼んでもいないのに小泉進次郎も来ていましたね。
(会場笑)
古舘:ぜんぜん呼んでいないんですけどね。いろんな人が来てくれて。1日だけの本番が土曜日なんですが、毎日『報道ステーション』に出ていて、月から金でやっているわけじゃないですか。
土日もずっと被災地へ取材に行ったりもしていますし、原発取材もしていますし、いろんなことをやっているので土日もほぼ休みがないんですよ。ずっと『報道ステーション』に埋没しながら、「トーキングブルース」も準備、準備、準備なんですよ。
古舘:そんなことをやっていて、前日の夜ですよ。今でも覚えていますが、明日の「トーキングブルース」が一発勝負で、『報道ステーション』の反省会が終わったのが24時40分。
それから地下のリハーサル室を借りて、今日もここに来ている古舘プロジェクトの山名(宏和)という、今は「トーキングブルース」のプロデューサーをやってくれている人とか、スタッフとかマネージャーが5、6人いたかな?
「いよいよ明日なんだから、ちゃんと通しで(練習をしよう)。もちろん順番が変わってもいい。でも、ライティングの明かりが変わっているところは順番を間違えないでくださいよ。お芝居じゃないんだから、多少言い方が変わってもいいけど本番さながらにやれ」と。それはもう準備の最後の調整だったので、臨んだんですよ。
『報道ステーション』脳になっていて、「トーキングブルース」脳になっていないから、言葉が出てこないんですよ。「えーっと、えーっと……」って、最悪なんです。それで、いろいろと知恵をくれている放送作家同士が「えーっと」と言って立って、逡巡している時に顔を見合わせている。そういう時って嫌な奴に見えますね。
(会場笑)
古舘:こっちが苦吟している。生意気に、自意識過剰に言えば、こっちが苦しみの極地にいる。その時に、あとでダメ出ししてあげようという良心の塊であるはずのブレインの人が、こうやって座ってメモか何かを取ってやっている時に、ニヤッと笑っているような感じがするんですよ。
自分の心持ちがもう焦っちゃって、悪い奴になってる。それでぜんぜんダメなリハーサルで終わった。「明日大丈夫?」って感じ。それで俺も、夜中の3時ぐらいに顔面蒼白になりましたね。
古舘:とりあえず寝ておかないともたないなという本能的な判断があって、うちに帰って4時間ぐらい寝たのかな。それで、本番当日ですよ。「でも、準備もしたしいいや」って開き直ろうというのと、「怖いな」というのが相半ばで本番をやったんですが、スムーズにいったんですよ。
会場:おぉー。
古舘:本当にすごい。その時に「準備とは最悪の本番を想定することだ」(と痛感した)。前日の夜に僕は最悪の本番をやっていたんだ。それで前日に最悪の本番を本能的にやっておくと、次の日の本番は、それよりはマシになるんですね。マシになったということで安堵して、いい意味で調子に乗れるんですね。
だから、やはり準備をすること、リハーサルをすることは大事で、実は最悪の本番を経験して、あとは上がるしかないという谷底に落ちることなんだということを、その時に思い知ったんですよ。
そしたら、そのブレインの中で一番心配している古舘プロジェクトの人が、あまりにも心配で本番で袖に立っていてくれたんですね。2時間15分ぐらい一発勝負でしゃべって、「昨日の最悪の本番よりマシで良かった」と思って、スーッとステージの下手に入っていったら、その人がいたんですよ。それで、2人で合流するかたちで水か何かを飲みながら楽屋に戻る。
ホッとしているじゃないですか。その人は伊藤(滋之)というんですが、そいつに向かって「なぁ、伊藤。俺は本番に強いんだよ」って言ったらしいです。俺はそれを覚えていないんですよ。
(会場笑)
古舘:1週間ぐらい経ってその人に会って、「いやぁ、いろいろと面倒を見てくれてありがとう。前の日の夜中、みんな顔を見合わせてたろ。どうなることかと思ったんだけどな、俺も本当にビビったよ。だけどなんとかやりこなせてさ、本当に良かったよ。お前のおかげだよ」と言ったら、「いやいや(笑)。俺のおかげというか、終わった瞬間に寄り添ったら、『だから言ったろ。俺は本番に強いんだ』と、自慢していましたよ」と。
(会場笑)
古舘:最悪ですよね。急に思い出しました。
田中:あぁー。
古舘:俺ね、嫌な奴なんですよ。
(会場笑)
古舘:だから、先に言っておいたほうがいいと思って。期待値を下げておいたほうがいいですね。
田中:しかし、古舘さんはこの本の中でもおっしゃっていますが、「最悪の本番を準備の中で済ませておくことで、本番は超本番」と。
古舘:もう近未来で生きているのかもしれない。
田中:準備が本番、本番は超本番。これは真似できるかどうかは別にして、すごく大事な考え方だなぁと。
古舘:今もこうやってボーっとしているようで、本のネタバレになることを避けながら、本には書いていないことで、この本番、生に耐えうることを探しているんですよ。
だから、泰延さんがしゃべっている時に準備しているので、その超本番は近未来を生きている。そして、最悪な本番をやっている時は本番であるというふうに、時間がズレるということを教わったのは高塚光さんです。この方は、超能力の使い手の人だったんですよ。
今から30年ぐらい前かな。1980年代後半ぐらいに、『超能力者 未知への旅人』という映画にもなりました。高塚光さんは東急エージェンシーに勤めていた代理店マンで、超能力があって、手をかざすとたちどころに腰痛が治ったり、いろんな事象が起きたので、会社を辞めて超能力者になるんですよ。
僕の6つ上の姉さんが末期がんで、もう死にそうだったんですよ。藁をも縋る思いで高塚光さんに人伝を頼って会いに行って、「うちの姉が死んじゃうかもしれないけど、少しでも楽にさせてあげてほしい」と頼んだら、「いいですよ」と言ってもらえて。
それで、姉さんに高塚光さんのところに行ってもらって、手かざしとかいろんなことをやってもらって少し楽になったとか、ならないなんて時期があったんですよ。
古舘:高塚さんにお礼を言いに行った時に、「古舘さんだって超能力者になれるかもしれませんよ」と(言われて)、あまり神がかり的な超能力者だと自己演出しない人で、すごくいい人なの。
すごく普通の感じで「古舘さんだってできると思いますよ。能力の上に『超』が付けば超能力なんですから。僕が『あぁ』と思った始まりは……」って、教えてくれたんですよ。
銀座の四丁目に佇むんだそうです。服部時計店、セイコー、そして目の前に銀座三越がある、あの四丁目に佇んで、ずっと目を細めてボーっと1時間以上経っているんだって。それで今のこの銀座四丁目の景色、光景を「古いなぁ、江戸時代みたいだなぁ。古い町だなぁ」って、1時間半ぐらいボーっと瞑想状態に入る。
それで1時間ぐらい経って、フッと我に返って「本当に古い町だな」と思って目を見開くと、30年後の銀座四丁目が見えると言うんですよ。だから、今を相当古い過去だと思うと、フッと戻った時に反動で今の景色をもとにして、30年先の銀座四丁目が見えることがある。
流行っていたα波とかβ派とか、頭のメカニズムみたいなものが、脳内で変われば超能力って開発されるかもしれないと思って、俺は2時間佇んだんですよ。
(会場笑)
田中:銀座に!?
古舘:(2時間後に目を見開いても)まったく今の銀座でした。
(会場笑)
古舘:寸分違わぬ、何も諸行無常していない。それで超能力を諦めたんです。
田中:諦めた(笑)。
(会場笑)
田中:高塚光さん、懐かしいですね。代理店を辞めたあとも、超能力者なのにネクタイを締めて眼鏡をかけて、サラリーマンみたいな感じの方でしたね。
古舘:そうですね。懐かしいですね。
田中:いやー。
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