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『ゆるい職場』著者・古屋星斗さんと考える、キャリアに悩む若手は、なにをすればいいのか?(全6記事)

「あなたはなぜ、今の会社を辞めないんですか?」 若者キャリアの研究者が説く、“短距離走型”の令和で必要な考え方

人事図書館と一般社団法人プロティアン・キャリア協会のコラボイベントとして、『ゆるい職場』著者の古屋星斗氏を招いたトークセッションが行われました。「キャリアに悩む若手は、なにをすればいいのか?」と題し、若手ビジネスパーソンの悩みを解消するヒントを探ります。本記事では、若手のキャリア形成における「スモールステップ」の重要性について語りました。

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この20年は、エンゲージメントとWillが天下を取った労働社会

古屋星斗氏(以下、古屋):最後にもう1点。さっきの話ですが、「Willは必要なのか」。リクルートという会社が2000年ぐらいに「Will-Can-Must」をスキーム化しました。実はこの20年の現代社会って、エンゲージメントとWillが天下を取った労働社会なんですよ。

「Willって本当に必要ですか?」と、僕はさまざまな研究結果から思うんですよね。いや、必要だと思います。あったほうが絶対にいいんですが、そんなにすぐに全員に必要なのかと。つまり、右下の落とし穴にはまってませんか? ということなんですよ。

さっき行動と情報という私の研究をお話しくださいましたが、Willがあるけどちっちゃな行動の頻度が少ない状況って、いわゆる昔からある、漠とした「夢見がちな若者」みたいな状況になっちゃっていませんか?

そうじゃなくて、(スライドを指しながら)ゴールデンルートはこの黄色のルートです。Willがない、スモールステップが少ない、モヤモヤした不安がある。「Willを作れ」でこっち(右下)に行くんじゃなくて、上に行って探索者になる。

つまりスモールステップ、まずは行動の頻度を上げる。目標は明確じゃないかもしれないけど、まずはこういう所に来てみるとか、さまざまな人に誘われてどこかへ行ってみるとか、いろんな人に自分の悩みを打ち明けてみるとか、自己開示する。

そういったかたちで探索して、スモールステップを増やすことで、自分だけの目標が見つかる確率を上げて右に行く。そこからWillを見つけるのがゴールデンルートなんじゃないかなと思います。「Willは、本当に全員が今すぐに見つけるものなのか?」という点について、いろんなご意見があると思いますが、悩むポイントとして挙げさせていただきます。

小さな行動がキャリアにおいては大きな価値を持つ

古屋:さっき「スモールステップ」と申し上げましたが、私の研究から発見されているのは、その後キャリアを変えるような大きなアクションを起こせている若手社会人の方々に観測されるのは、このスモールステップというものです。

僕は「可視の経験」と呼んでいますが、職務経歴書やSNSのプロフィール欄に書くことができるような経験じゃない、誰でもいつでもできる軽易な行動がスモールステップです。

スモールステップは4つの性質があって、詳しくお話しする時間はないですが、まずは目標が明確じゃない。インプリシットラーニングと言って、潜在学習性があります。つまり、目標が明確じゃなくても、その目標が明確になったあとにブーストをかける力が見られます。

2点目が、スモールステップに関しては、必ずしも自律性を求められてないんですよね。誰かに誘われて行ったとか、誰かに強制されて「会社に行けと言われたから行った」というのが、スモールステップとしてものすごく価値があったりする。

3点目。それ(スモールステップ)自体では、承認欲求などの高次な欲求、たくさん「いいね」がもらえるということはない。「自己開示しました」と言っても、誰でもできますから、別にそんなにたくさん「いいね」はつかないですよね。

でも、だからこそリスクはないわけです。そういうスモールステップが、実はその後の大きなキャリアチェンジに対して、ポジティブな影響があることが私の研究でわかっています。

どんなことがスモールステップになるかというと、例えば自己開示。やりたいことを話してみるとか。あとは「ゴールテープを張る」と呼んでますが、お試し期間を設定するとか。自律じゃなくて他律でもいい、他人に率いられても効果があるので、友だちに誘われたイベント等に行く。

自分がやらなくても、友人・知人を応援することでも効果がある。与えることとか、今日できる一番小さなことを1つする。そういう小さな行動が、現代においてはキャリアにとても大きな価値を持っていることがわかっております。これが私のスモールステップ理論です。

人生100年時代のキャリアはすべて“短距離走”

古屋:選択の回数が増えてますから、やはり“短距離走”になってるわけですよね。「人生100年時代」と言うと、みんなマラソンみたいな職業人生をイメージされるわけですが、そんなものはもう日本に存在しないわけですよ。全部、短距離走です。

「転職まで何年か」「ライフイベントが起こるまで何年か」という短距離走を何本か走り切る人生になっていくわけですよね。そんな中で、「トラックレコード」と呼んでますが、「50メートルを何秒で走れますか?」「100メートルハードルを何秒で走れますか?」みたいな、「自分がやった」という経験をたくさんする。

キャリアブレイクという言葉もありますが、ブランクがOKになってきている。「1本やったら休んでOK」になってるわけですよね。そういう意味では「仮決め」がすごく大事かもしれませんよね。今はWillがなくても、何かこれはというものはなくても、もしくはそういった方が部下にいても、仮決めをする。

ある種、平成型のキャリアは動機なき遅い選択でよかった。大きな会社で有名な会社に入れば、そのあとは選択せずにずっと在職し続けるという非選択を続けてもよかった。動機がないから行動もしない。だから、社会人になったあとの日本人の学習時間はすごく短かったわけですよね。

なんですが、選択の回数がめっちゃ増えてるわけですから、それで大丈夫ですか? 統計的に、20代で過半数は転職してます。早い選択で動機を生み出すことが必要ですが、行動するから動機ができるわけですよね。

15年ぐらい前までの日本は、人生最後の選択が就活だったわけですよね。ですが今は、人生最初の選択が就活になってます。マラソン型で、就活の前までに「どのマラソンを走るか」という本決めをけっこう早くにしなきゃいけなかったんですが、今は短距離走型になってるので、仮決めでいい。常に、ずっと仮決め。

「あなたはなぜ、今の会社を辞めないんですか?」

古屋:かつての安定は大きな会社に入ることでしたが、おそらく現代では、キャリア安全性が高くて、そして心理的安全性が高い職場に入ることが安定で、自分が貢献もして、そこから恩恵も受けるという相互関係ですよね。

会社が自分を育てるのが当たり前でしたが、それだけではゆるい職業ですから、1万時間は獲得できない。獲得できたとしてもすごく遅れてしまうし、選択のタイミングに間に合わないかもしれない。自分が会社「も」使って成長するというのが、令和型のキャリアなのかなと思います。

私の話は以上です。最後にでっかい宿題を置いておきますが、「あなたはなぜ、今の会社を辞めないんですか?」。……よろしくお願いします(笑)。

(会場笑)

大西拓馬氏(以下、大西):古屋さん、ありがとうございました。悩みポイントや観点をたくさんいただいたなと思ってます。今は、人生最後の就活が最初になっていると。僕も自分の結婚式で、部長の前で「夢は東急の社長です」と言ったのを今でも覚えてますし、転職すると言ったらめちゃくちゃ怒られました(笑)。

(会場笑)

大西:「エンゲージメントが低いけど生産性が高い社員」って、たしかに鉄道の現業職場には実際にいらっしゃったなと。「運転士この道20年」みたいな人なんですが、正直運転は嫌いなんですね。ただ、早く帰りたいので絶対にミスをしないし、仕事はピカイチで同僚からの信頼も厚いんです。

古屋:(笑)。いますよね。というか、エンゲージメント自体が欧米の概念なので、たぶん日本的な仕事観がすごくあるんじゃないかなと思うんですよね。僕は職人肌と呼んでますが、粛々とべらんめえ口調で良いものだけ作り続ける、みたいな。

我々は、ぜんぜん違う仕事観をすごく置いてけぼりにしようとしてるかもしれないですよね。そういう方々にインタビューをしてますので、もしご関心があればググっていただければと思っております。

大西:ありがとうございます。

「お前は何がやりたいんだ」と聞かれるWillハラ

大西:ぐっちゃん、ここまでで気になるところとか、古屋さんに聞いてみたいことはいかがですか?

山口裕也氏(以下、山口):やはり気になったのが、Will。Willなきキャリア開発は本当にあると思っていて。(Willは)わからないですよね。僕も今は人事にいますが、ずっと製薬会社で営業をやっていて。それこそWill-Can-Mustのフレームを覚えたばかりの人から「Willハラだな」みたいなことをされて。

古屋:(笑)。「何がやりたいのか?」って言われる。

山口:「お前は何がやりたいんだ」と、ちょっと謎かけコーチング的なことをされて、何も言えずモヤモヤするみたいな。正直、そんなのなかったんですよ。行動を起こすとそういうものが見えてくるというのは、今思い返すとすごくあって。スモールステップのところって、まさにそうだなと思います。

古屋:おぉ、ゴールデンルート。

山口:今、ゴールデンルートを行ってるんじゃないかなと思いつつ聞いてました。でもやっぱり、研修から帰ってきた上司はちょっと危険だなと思いましたね。

(会場笑)

古屋:「お前は何がやりたいんだ」とか、いきなり「Will」とか言いだして危険ですよね。

山口:超危険。それがすごく蘇りました。

大西:(笑)。

古屋:スキーム化されちゃってるんですが、あれが本当に良くなくて。もちろんそのアプローチが当てはまる方もいますが、型にはまったWill質問ほど厄介なものはないですよね。

山口:すべてに十把一絡げにそれをやるので。

古屋:「ご自身はあるんですか?」と聞きたいですよね。

山口:確かに(笑)。

古屋:たぶん、社長が言ってるようなことそのまま繰り返されると思うんですよね。マネージャーはそういう立場だから。

山口:そうですね。そういう場では、「じゃあ、Willがないんだったらそういう研修をしよう」といってやっても、会社のWillが自分のWillみたいな感じになる。

古屋:そうならざるを得ないです。だから、ほとんど意味がないですよ。

山口:それで、建前の「かりそめのWill」みたいなものができていた感覚はありましたね。

古屋:そもそもライフキャリア全体が、労働時間的にもミッション的にも本業の視野がすごく狭まってるわけです。複業・兼業をされてる方だと、下手すると収入という面でも狭まっている可能性がありますよね。

本業の経営戦略とすごくフィットしてるWillが、なぜその人の人生全体のWillだと思うんですか? ということはありますよね。会社限定のWillを聞いてるってことなんですか?

山口:すっぽりかぶっちゃってる感じだと思いますね。

古屋:もちろん、あったほうがいいのは間違いないと思います。

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