2024.10.10
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人事図書館と一般社団法人プロティアン・キャリア協会のコラボイベントとして、『ゆるい職場』著者の古屋星斗氏を招いたトークセッションが行われました。「キャリアに悩む若手は、なにをすればいいのか?」と題し、若手ビジネスパーソンの悩みを解消するヒントを探ります。本記事では、古屋氏が注目している“今の若手のお悩みポイント”について語りました。
古屋星斗氏(以下、古屋):選択の回数が増える時代に、私が注目しているキャリアのお悩みポイントを列挙していこうと思ってます。1点目が「ゆるい職場」ですね。
ご存知の方も多いと思いますが、「経営幹部のマインドが変わった」「上司がゆるくなった」とか、そういったふんわりした原因ではなくて(要因は)法改正なんです。OJTやOFF-JTも減ってますし、労働時間が減って、休暇取得率はものすごく上がってますよね。
上司・先輩のコミュニケーションスタイルは「褒める」が基本になっているわけですよ。私の本にデータは全部載っているので、全部は申し上げませんが、データを取ってみると、厳しい指導ってほとんどされてないんですよね。あと、質的負荷。ストレッチな経験みたいな実感も減っている。あらゆるデータが職場がゆるくなっていることを示唆しております。
なんですが、お伝えしたいのは、ゆるい職場って「選択の時代」とめっちゃ相性が悪い可能性がある。「最低必要努力量」という概念を神戸大の金井(壽宏)先生がおっしゃっていますが、別の研究者が「1万時間の法則」とも言っています。これって、たぶん普遍の原則なんです。
なぜかというと、人間って社会で生きてるじゃないですか。だから、自分の専門性に対して高いお金を払おうという方がいる状況って、周りの人よりも自分の専門性が相対的に高い状況だということなんです。それが(習得するための時間が)1万時間だったということなんですよ。
そういう意味では、みんな同じ条件じゃないですか。周りの人に、相対的に「これは『自分ならでは』です」と言うためには、一定の投資が必要だという状況は変わってない。だけど、それを職場から調達しづらくなっているんですよね。本業の職場だけでそれを調達することが、かなり難しくなっている。
つまり、職場だけで今までどおりにがんばっていても、最初の選択のタイミングまでに間に合わない。最低必要努力量に到達しないことになり得るという意味で、「選択の時代」と「ゆるい職場」は、めちゃくちゃ相性が悪い可能性があるということです。これが1点目。
古屋:つまり、職場で得られるものに対して、考えざるを得なくなっちゃっているということです。こういうお悩みポイントがある方もいらっしゃるかもしれませんね。
実際に2019年ぐらいから2020年にかけてインタビューした時に、まさにこういう意見が挙がりました。「思ったより厳しくない」「待ってるだけでは成長機会はない」「会社は好きだが、これが当たり前だと思ったらまずいな」とか。
「待ってるだけじゃなくて、自分で何かをしなきゃいけないんじゃないか?」といった悩みを抱える方が、ゆるい職場によって顕在化してるのかなと思いますね。
2点目は、さっきちょっと申し上げましたが、「ありのまま」か「何者か」という点です。これ、どうですかね? ありのままでありたいというのは、私の定義では「自分が良いと思うものを大事に仕事をしたい」。
例えば、自分が好きな場所で働きたいとか、休みを好きな時に取れる職場で働きたいとか、家族を優先するスタイルでできる仕事をしたい。「自分が後悔なく仕事をしたい」という気持ちは、誰しもありますよね。私もあります。でも、強い・弱いはありますよね。というのは、「何者かになりたい」という非常にアンビバレントな気持ちが同時に並列してるから。
「何者かになりたい」の定義としては、「社会から良いと思われる仕事をしたい」「この職種で一人前になりたい」「とある分野の第一人者になりたい」「『この道の人間です』と言えるようなレベルになりたい」「30代前半までに大きな成功体験をしたい」といった声がいろいろあります。
「社会から良いと思われる仕事をしたい」という気持ちと、「自分が良いと思うものを大事に仕事をしたい」という2つの気持ちを同時に持って、現代の社会人はキャリアを作っているという特徴がございます。
これを両立するのは相当難しいですよね。どこかのタイミングから両立できるようになるかもしれませんが、たぶん右(「何者かになりたい」)が先で、両立できる場合は左(「ありのままでありたい」)が徐々にできていくという状況なんだと思います。
みなさんは今この瞬間、どっちが強いでしょうか? もしくは去年と比べてどうでしょう。ありのままであるお仕事、できてますか? それとも何者かである仕事ができてますか?
古屋:3点目が「不満」か「不安」か。その気持ちって不満ですか? それとも不安ですか? と、ご自身のネガティブな感情にぜひ向き合っていただきたい。
20〜30代の若手社会人の不安要素を分解すると、「職場でスキルや技能の獲得が十分できていない」「周りと比べて成長速度が遅いように感じる」という不安を述べられる方が、他年代と比較して顕著です。
今の自分のお仕事へのネガティブな気持ちを、私は「キャリア不安」と呼んでいます。たぶんこれがない人はいないと思うんですが、もしあった場合に、その気持ちは不満が大きいか、不安が大きいかを考えていただきたいなと思いますね。例えば不満とは、「待遇が良くない」「自分があんまり評価されてない感じ」とか、満足してない状況。
大西拓馬氏(以下、大西):ちょっといいですか?
古屋:どうぞ。
大西:私もすごく(キャリア不安を)感じますし、自分の周りとかも……。
古屋:言っちゃった。
大西:(笑)。感じていた時期もありましたし、社内でも後輩とかから「このままここにいて大丈夫なんだろうか?」と聞くことは多かったり、大学の友だちもけっこうそういうタイプの人がいるんです。
一方で上司の方というかマネージャー層の方も、「若手がぜんぜん成長してこない」みたいに、同じ悩みをお互い違うところから見てるというか。これってそういうものなんですかね?
古屋:そうですね。みんな現代社会で生きる社会人ですからね。だから、そういう話を率直にすればいいと思っていて。「マネージャーはすごく強いもの」という一種のマッチョイズムがある中で、相談相手がいないし、部下のケアもしなきゃいけないし、大変になっていますので。
古屋:そういう中で、「自分はこう思っている」「自分はこの職場の仕事を続けて、昔はこういう不安を持ってたんだけど……」と、不満・不安の感情を共有する。こういうコミュニケーションを「自己開示のキャッチボール」と呼んでます。
大西:確かに、昔はそういうのがあった。残業後の飲み会とか。
古屋:そうそう。
大西:週に何度も(飲み会に)行っていた時代に育ってきた上司たちだと思うんですが、今はそれがなかなかできない。そういった時代の変化から、お互いに悩んじゃうところがあるんですかね。
古屋:飲みニケーションって不満型のマネジメントですよね。不満は解消できるわけですよ。「社内で評価されてない」と思ってる時に、尊敬する上司や先輩が肩をポンと叩いて「ちょっと一杯行こうよ」と、飲みの席で「俺はお前のことを評価してるよ」って言われれば、その不満はふわふわーっとどっかへいっちゃったんです。
ただ、「この仕事をしていても別の会社や部署で通用しなくなるんじゃないか?」と思っている、キャリア不安を持っている若手に同じことをしても、なんの解決にもならない。
大西:確かに。
古屋:「そうですか」と思うだけですよね。自分が社会で通用するかどうかと考えた時に、不満型のマネジメントはなんの解決にもならないです。
大西:今までは飲み会で解決できていた不満が不安に変わったから、飲みに行ってももはや解決できない。そういった時代になってきているということですかね。
古屋:まったくですね。
大西:ありがとうございます。
古屋:私の本にもそういう話を書いてますが、今、本当にマネジメントは大変ですよね。
古屋:続いてお悩みポイント4ということで、「転職か在職か」。人事をやられてる方は特にそうなんですが、定着率をめちゃくちゃ気にするんですよね。KPIとして離職率を置いたりするのも大事だと思うんですが、それって個人のキャリアにとってそんなに重要ですか?
そんなことより、みなさんは「なぜその会社に在職し続けてるのか」を言語化できますか? これ、ぜひ考えていただきたいんですよ。自分のことを言ってみて、自分の納得感は何パーセントですか? 隣にいる方の理由の納得感は何パーセントですか?
というのは、在職してる方の中には「ポジティブ在職者」と「ネガティブ在職者」がいることがわかってきているんですよ。わかってきているもなにも、実際にそうじゃないですか(笑)。
職場によってはしがみついてる上の世代の方々もいるでしょうし、若手ですごく生き生きと在職してる方もいる。つまり何が言いたいかというと、転職って「選択」なんですよ。「転職する」と選ぶことが必要で、意思決定が必要じゃないですか。でも、転職しない、つまり在職し続けるのは意思決定が必要ないんですよ。
このために、非常にもったいない状況があり得るんですよね。私が申し上げたいのは、「転職も選択なんだから、在職も選択しよう」ということなんです。
なので、「転職か在職か」というのはイーブンの選択としてあるので、理由を持って選択できているか、理由を持って在職できているか。KPIの作り方だと思っているんですが、在職率じゃなくて「ポジティブ在職率」で見る。
旭化成の三木(祐史)室長と共同研究していて、その資料なんですが、おそらく今後は「積極的在職」や「ポジティブ在職」がすごく大きなファクターになってくるだろうなと思っています。
それで、みなさんはどうかってことなんですよね。もちろんみなさんいろんな理由があると思うんですが、それを自分の言葉で話せますか? それを実際に話してみて、自分の納得感は何パーセントですか?
古屋:ポイント5です。さっきちょっとお話がありましたが、「仕事に熱意は必要か?」。エンゲージメント全盛の時代じゃないですか。エンゲージメントによって、従業員の給料が変わる時代になってるわけですよ。
それはぜんぜん良いことかもしれませんが、私はこういう調査をしてるんです。「仕事はそもそもつらいもので、楽しさを見出すことは困難だ」という質問をして、統計的な調査を取ってみると、この回答はどうなると思いますか?
びっくりしたんですが、この回答はきれいに正規分布するんですよね。つまり、どっちもいるんですよ。相当バラバラ。「仕事はめちゃくちゃ楽しめるよ」と(回答した人もいる)。
私の『ゆるい職場』の隣に並んでる、この『ジョブ・クラフティング入門』という本では「ジョブ・クラフティングできる」と。……これ、時間大丈夫ですか?
大西:大丈夫です。
古屋:大丈夫ですか(笑)。ちょっとみなさんの眼差しが熱すぎて、どんどん話しちゃってますが……。
大西:ぐっちゃんの新幹線に間に合えば大丈夫。
(会場笑)
古屋:このペースでいくと間に合わなくなっちゃうかもしれないので、ちょっと巻いていきます。「(仕事を)楽しめない」という方は相当数いらっしゃるが、「楽しめる」という方も相当数いらっしゃる状況です。
でも意外なことに、「困難だ」「仕事はそもそもつらいもので、ジョブ・クラフティングはできるはずがない。意味がない、無意味だ」とおっしゃっている方もいる。ちなみにみなさんはいかがですか?
あえては聞きませんが……いや、逆に聞いてみましょう。「仕事はそもそもつらいものであり、そこに楽しさを見出すことは困難だ」という質問に対して、そう思うか、そう思わないかの二択でいくとどうでしょう? じゃあ、そもそも仕事はつらいものだ、楽しめないと思う方はどれぐらいいらっしゃいますでしょう?
(1人も手が挙がらない)
古屋:……ほら、やっぱりこうなっちゃう。
(会場笑)
大西:挙げづらいですよね(笑)。
古屋:人事図書館ですからね。だから、もう聞かないことにします(笑)。
(会場笑)
古屋:でも、そういうみなさんだということを認識したほうがいいと思うんですよ。ぜんぜん悪いことじゃなくて、すごく素敵なことですし、すばらしい。たぶん現代社会に最も適応されていて、今後おそらく各分野の第一人者になられていく方々が、この中には相当多いと思うんですよね。
ですが、ここからが大事ですよ。世の中にはそういった方々ばかりではないということなんです。みなさんと同じ数だけ、そう思ってない方がいらっしゃるということなんですよ。これを考えないと、今後マネジメントができない。
なぜかというと、「そもそも仕事はつらい」と答えた方のほうが、実は幸福感やキャリアの進捗度合への満足感が高いんですよ。たぶんキャリアに関しては、キャリアに対する期待値が低いから満足感が高いところがあると思うんですよね。
たぶんみなさんはキャリアに対して期待値が高いので、満足ってそんなにしないですし、それで不安に思っちゃったりするじゃないですか。それはすごく良いことなんですが、「仕事がつらい」と思ってる人のほうが、幸福感とか生活満足感をひっくるめて高いという結果が出ております。
だから申し上げたいのは、「そもそも仕事に熱意は本当に必要なのか?」ということを考えなきゃいけないんです。エンゲージメントという言葉は当たり前に使われてますが、それは本当に万人にとって大事なのか。
申し上げたいのは、エンゲージメントが低くても成果をあげる方はいらっしゃるわけです。私はこれを「職人肌」と呼んでます。粛々と目の前にある仕事をこなしていくことに対して、ものすごく効果的・能率的で、仕事が嫌いで早く帰りたいからこそ、すごく生産性が高い。そういう方も、日本社会には実際にいらっしゃるわけですよね。
エンゲージメントが高くて「おっしゃ、俺は仕事が大好きだ」と言ってるけど、「こいつ、ぜんぜん仕事できねぇな」っていうやつと、どっちがいいですか? という話なんですよね。実際、そうじゃないですか(笑)。
私はぶっちゃけエンゲージメントがめっちゃ高い人間です。うちの研究所内には、そうでなくてすごくドライにかまえてる人間がいて、その人間とこの話でいつも相当揉めるんですよね。
(会場笑)
古屋:だけど、揉めたほうがいいということなんです。
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