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そのとき、どうやって仕事を選びましたか?―今の仕事について、一回立ち止まって考えてみること(全4記事)

本屋から蒸留家へ、江口宏志氏が歩んできた異色のキャリア 職種を変えながら「自分の成長を事業にしていく」働き方とは

働く人と会社のつながりや、生きることと働くことのつながりについて考えるイベント「Lifestance EXPO」。本セッションは「そのとき、どうやって仕事を選びましたか? ―今の仕事について、一回立ち止まって考えてみること」と題し、江口宏志氏、篠田真貴子氏、幅允孝氏の3名がトークセッションを行いました。本屋から蒸留家へと異色のキャリアチェンジを果たした、江口氏の仕事の選び方とは。

そもそも“ライフスタンス”とは何か?

司会者:ご登壇者のみなさまをご紹介させていただきます。mitosaya薬草園蒸留所代表の江口宏志さん。

江口宏志氏(以下、江口):よろしくお願いします。

司会者:そして、エール株式会社取締役の篠田真貴子さんです。

篠田真貴子氏(以下、篠田):よろしくお願いします。

司会者:ファシリテーターはPARADEの幅允孝が務めます。よろしくお願いします。

幅允孝氏(以下、幅):よろしくお願いします。

司会者:それでは幅さん、進行をお渡ししますので、よろしくお願いいたします。

:PARaDEの幅と申します。ふだんは有限会社BACHの代表をしていて、ブックディレクターとして、公共図書館、企業図書館、病院の図書館とか、本を手に取ってもらえる場所、環境、モチベーションを作る仕事をしています。実はこのLifestance EXPOに関しては、PARADEという会社ができた時から関わっております。

「Lifestance EXPO」と言っても、そもそも「何だそれは?」と思われた方も多いと思います。よく「ライフスタイル」って言うじゃないですか。どんな洋服を選んだり、食べ物を選んだり、どういうコミュニティと関わっていくかとか。それって消費者からの目線なんですが、物を作るのは生産者ですよね。

物がたくさん売れるのが正義と言われていた時代が少しずつ変わってきました。作り手も消費者も、環境のことだったり、社会をより良くするためにどういうことができるか、働く人たちのために何ができるか、とか。

ただ「作る人」や「消費者」ではなくて、お互いにスタンスを確かめ合いながら、一つひとつ消費行動やコミュニケーションをとれたほうが、世の中はもっと健やかになるんじゃないかと。そういうことを考えた何社かのブランドや企業が参加して、このPARaDEが立ち上がりました。

ひたすら読書と向き合う私設図書室兼喫茶店を開設

:PARaDEが考えるライフスタンスは、世の中が不透明で見えないちょっと世知辛い時代に、何を選ぶのか、何を飲むのか食べるのか、何を買って何を着るのか。その一つひとつが世の中に対するアクションにつながるんじゃないか? と考えていて、それらのアクションについて一緒に考えるためにLifestance EXPOを開催しています。

今回のトークセッションは「そのとき、どうやって仕事を選びましたか?―今の仕事について、一回立ち止まって考えてみること」ということで、江口さんと篠田さんのお二人をお招きし、お話ししていこうと思います。

一度立ち止まって仕事を辞めた時の話とか、また別の仕事を選んだ時の話とか。今は、1つの会社にずっと居続けるということが逆に稀有な時代になってきたと思います。

それぞれのキャリアを自分の中でどういうふうに考えたのか。もしくはよろこび勇んで行った会社が、なぜかちょっと馴染まなくてモヤモヤするとか、そんな経験をみなさんも持ってらっしゃると思います。そういうことを考えるきっかけになればと思い、今日はこのお二人に来ていただいております。

私は今、京都で私設図書室兼喫茶をやっています。私は私で生き方と働き方を考えていて、29年間ずっと東京で仕事をしてきたんですが、「ちょっと回転数が早すぎる。ヒューマンスケールを超えているんじゃないか。時間の流れの遅い場所を作ろう」と思い、2023年の5月に私設図書室兼喫茶店を作りました。

90分で6名だけWeb予約でお客さんに来ていただいて。任意ですが携帯電話を預けるロッカーも準備し、手回し焙煎のコーヒーを一杯飲みながら、ひたすら黙って本を読むだけの場所を作りました。

自分自身もコロナ禍で、走り読みや斜め読みが増えすぎちゃって。やれ「ワクチンって何なの」「生成AIは何なの」とか、持っているのがプラクティカルな本ばかりというか。「うーん、それってどうなの?」と思った時に、時間の流れの違う場所を作って、働き方とかを考え直そうとしています。

「5回辞めて6回入社した」篠田真貴子氏のキャリア遍歴

:今日来ていただいているお二人も、今までの人生の来歴の中で働き方をかなり大きく変えながら歩んでこられました。まず簡単に、篠田さんから自己紹介をお願いいたします。

篠田:ありがとうございます。あらためまして、エール株式会社の篠田と申します。転職とか、「これからの仕事が」「ライフスタンスが」というお話がありましたが、それで言うとエールは6つ目の会社なので、5回辞めて6回入社をしています。なので今日は「どのネタでいきますか?」という、お寿司屋さん状態です。

会社は変わっても、領域としては事業部のファイナンスと言われるものです。ご存知の方だとわかるけど、知らない人はなんのことだかわからないFP&Aという領域からCFOをやって、前職のほぼ日の上場をリードしたりもしたんですが、ずっと組織と人の関係性を専門にやっています。

自分が職場を変えてきたからこそ、そもそも自分がこの場でどう活きるのか、どう活かされるのかというところに意識が向くので、そこから関心が出ました。それが高じて、エールは主に大企業に社外から関わって、そこの組織変容・組織開発のお手伝いをする事業を仲間と一緒に経営をしています。

今日、入口でみなさんにチラシをお渡ししているかと思うんですが、そこに事業内容が詳しく書いてあります。そこにあるように、多くの方に副業として社外からお話を聴くお仕事に関わっていただき、(サポーターは)もう3,500人いるんですね。8割ぐらいが副業なんですよ。

中には、ご自身の本業とはだいぶ違ったスタンスの職場、あるいは仕事であるとエールを捉えてくださって、ご自身の暮らしや職業人生の中に「違ったスタンスのものも取り入れたいな」という方が多く関わってこられています。

今日の「ライフスタンス」に関心を持って集まったみなさんには、そういう意味で1つのサンプルとして知っていただくのもいいかなと思って、チラシを配りました。

:ありがとうございます。

篠田氏が監訳を務めたベストセラー『LISTEN』

篠田:私からは、あとスライド2枚だけ軽く。もう10秒で終わります。

『LISTEN』は、篠田さんの名著ですよね。

篠田:ありがとうございます。私の著書じゃなくて監訳という、「何をやっているんですか?」という役割ではあるんですが。エールに関わるタイミングでアメリカで出た現状を知り、すばらしいなと思って周りの人に言っていたら、いろんなご縁がつながって日本語版が出ることになり、監訳者として関わりました。

今、8万8,000部まで売れていて、この間また増刷しました。ありがたいことに、こういう翻訳書のビジネス書としては軽いベストセラーの部類に入るかなと思います。

この本はちょっと分厚いんですが、COTEN RADIOという歴史のキュレーションプログラムの番外編に一度出させていただいて、「聴く」という話や私のキャリアの話をしております。1回30分で、早回しだったら15分ぐらいでバーって聞けるので、もしよかったら聞いてみてください。

:いやいや、ちゃんと低速で聞きましょう!

篠田:すぐ「早回し」って言っちゃうんですが、私が小走りしたら幅さんに「いや、ゆっくりで大丈夫ですよ」と言われました。

:前のセッションでも話しましたが、急ぐ時は急いで、ゆっくり行く時はゆっくりとペースを自分で選べる状態が一番良いですよね。選べなくなり、早回ししかダメになると、一番つらいと思います。

篠田:確かに。自分でペースを選べないことの無力感たるや。

:そうなんですよね。だから好きなペースで聞いてくださいね。

篠田:というのを、自己紹介代わりにご紹介しました。

:ありがとうございます。今日はよろしくお願いします。

篠田:よろしくお願いいたします。

本屋から蒸留家という異色のキャリアチェンジ

:では続いて、江口さんにも自己紹介をしていただきたいと思います。実は私の会社である有限会社BACHを19年前に立ち上げた時は、江口さんと事務所をシェアしていたので、当時はルームメイト。

江口:確かにルームメイトですね。

:もっと言うなら、僕が前職で青山ブックセンターに勤めていた時からの縁なので、もう25年ぐらい前から知っていて。後で江口さんから説明があると思うんですが、当時はユトレヒトという本屋さんも一緒にプロジェクトをやることが多かったので、まさか蒸留のおじさんになっているだろうとは思ってもみませんでした(笑)。ぜひ自己紹介をどうぞ。

江口:どっちかというと、幅さんの話も聞きたいぐらいだけど。

:僕の話はいいですよ(笑)。主役ですから、どうぞ。

江口:プロフィールを出してほしいって言われたんだけど、なかなか僕が出さなかったから、「篠田さんはこんな感じで出してくれています」と言われた資料がすごく良くできていたので、そのフォーマットを丸パクリさせていただきました。

:これ、すごいよね。このままですよね。

篠田:恐縮です。

江口:写真の感じもちょっと意識して、篠田スタイルで。一応事前に篠田さんに許可はもらっていますので、そこは大丈夫だと思います。最初にソニーのマークがついてますが、大学を卒業して5年ぐらいソニーミュージックの通販部門にいてサラリーマンをやったんですが、その後は自分で事業をしているという感じです。

僕の特異なところは、事業や職種を変えながら、なんとなくずっとやっているところです。先ほど篠田さんがおっしゃったみたいに、普通は1つの職能があって、それにフィットする会社に移っていくと思うんです。僕の場合は先ほど言ったとおり本屋さんをやっていて、今は蒸留家をやっていたりという感じで、職種を変えながらやっているというのが1つ。

:では、今のメインは蒸留家ですか?

江口:そうなんだけど、いろいろと思うこともある。

:えっ、もう飽きました?

江口:(笑)。

:江口さん、当時からめちゃめちゃ飽きやすかったんです。

江口:いや、そんなことはない。

:「ちょっと本屋さんに飽きてきたから、うどん屋でもやろうか」みたいな感じでしたよね。

江口:いやいや、そんなことはない(笑)。なので、今はmitosayaという会社で蒸留所をやっています。

:千葉県のね、すばらしい場所で。

1ヶ月敬語禁止? 体を張った企画をまとめた書籍『ない世界』

江口:株式会社苗目というのは、隣の隣の町でハーブとエディブルフラワーの農場をやっていまして、それにも関わっています。あと、2023年の5月に東京の清澄白河にCAN-PANYという飲料の充填工場を作りました。

そこでの僕の役割は、ふだんはなかなか行けないものですから、味見担当ということで「Chief Tasting Officer」と名乗らせていただいております。

:(笑)。

江口:先ほど言ったとおり、僕は職種をいろいろ変えながら、自分の成長を事業にしていくということを考えているものですから、それぞれの節目節目で「本にする」ことで1つまとめていきたいなというのもあって。

もちろん「本にする」といっても、自分がしたいといってもいきなりできるものでもないんですが、声をかけていただいたタイミングがあれば、できるだけ本というかたちにまとめるようにしています。ブックデザインについての本とか、本にまつわる活動についての本とか、それこそ自分自身のライフスタイルや生き方を考えた本とかを執筆しています。

『ない世界』は、隠れた名著だと僕は思っているんです。

江口:そうですか、ありがとうございます。『ない世界』は雑誌の連載というのもあって、毎月「何かをなくしてみよう」というコンセプトで書いています。

例えば、敬語を1ヶ月まったく使わないでどんな人にも外国人のようにフランクに接するとか。あと、やっぱり僕はすごくお酒が好きだったので、今月は1ヶ月お酒を飲まないとか。それこそ携帯電話を使わないとか、もういっそ髪の毛を丸坊主にしてみるとか。

:「毛のない世界」。体を張っていた企画ですよね。

江口:そんなことを1年やっていました。

:自分なりにライフスタンスを実験していましたよね。

江口:そうだよね。早すぎた「1人LifestanceEXPO」。

篠田:1人EXPO。

江口:そうですね、そんなことをやったりとか。蒸留家になる時は、蒸留所を作るまでのことを本にさせてもらったりとか。

『mitosaya薬草園蒸留所で作る13のこと』は2024年の3月に出たばかりなんですが、これは妻との共著なんです。今、mitosayaという蒸溜所を始めてちょうど7年ぐらいが経って、そこでやっていることを「作る」というテーマで13に分けて、それぞれ紹介する本を出したりしています。

:江口さんのシートを見ていておもしろかったのが、自分の趣味や興味・関心を深めていくことに名前をつけることで、仕事へと発展させて、本にしてすっきりするというターム。

江口:そうだね。もちろん、日々の興味や趣味はみなさんあると思うんだけど、かたちにしていくには、そこにいったん名前をつけてしまうのがいいなと思います。

この後のグラフでも見てもらえると思うんですが、本屋さんの名前やmitosayaという名前にしても……実はmitosayaの由来をちょっとだけ話すと、(植物には)実があって、さやがある。

普通はお酒を造るというと、お米を磨いて磨いて日本酒にするみたいに、本当に実の真ん中を使うんです。だけどそうじゃなくて、さやの部分も含めてものづくりをしようという名前をつけた時に、自分たちのやる事業が自ずと方向づけられていった感覚があって。だから、名前がすごく大事だなと。

それは、けっこうダジャレと一体化しちゃうというか。本当を言うとmitosayaは、うちの娘の2人がミトちゃんとサヤちゃんという名前で、「それを2つくっつけたらそんな意味ができるね」という何気ない会話から生まれたんです。

でも、そうやって名前がつくことで、対外的にも自分たちが考えていることが伝わりやすくなるし、自分たちにとっても行動指針であることがけっこう大事だなと思って。ふだんはなかなか自分を振り返ることがないので、今回は言われたからそれを意識している部分もあるんだけど、そんなふうに思った。

:確かにmitosayaも、できる前からみんなmitosayaって呼んでいましたよね。

江口:そうなんだよね(笑)。

:実体ができる前から名前があると、そこに向かっていっている感じがしますね。

江口:それだけずっと言われると、「さやってふだんは捨てちゃうけど、さやの分から使い道を探すのがmitosayaの事業の大事な部分なんじゃないの?」って僕も思うし。周りもみんなが「うちはこれを使わないけど、mitosayaだったらさやを使って……」。

:「できるんじゃないの?」というか。

江口:そんな感じで、名前を付けるのは大事だなと思います。

:わかりました。

江口:(スライドを指しながら)これは僕がやっているmitosayaの場所と、右側の2つは先ほど言ったCAN-PANYという飲料の製造充填工場の写真です。

自然物をうまく使いながら、こういったものをできるだけみんなが楽しめるようなかたちにしていこう、ということをふだんやっております。

:なるほど。

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