2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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入山章栄氏(以下、入山):ここからは『Forbes JAPAN』2024年5月号の「『最愛の仕事』の見つけ方」特集に出られている石倉さんと山田さんをお迎えして、今回も「最愛の仕事の見つけ方」というテーマでお話ししていこうと思います。『浜カフェ』リスナーの方が、どうやったら最愛の仕事を見つけられるのか、聞いていきたいなと思っています。
石倉さんだったら、まずはどうアドバイスをされます?
石倉秀明氏(以下、石倉):社会的にはよく「好きなこと、得意なことを見つけましょう」と言われるじゃないですか。でも僕は、それで見つかったら奇跡に近いなと思っていて。
僕は仕事を選ぶ時に「やりたいか・やりたくないか」じゃなくて、嫌なことだけを決めて、それが「あるか・ないか」で決めます。僕には「絶対にこれはやだ」という条件が3つぐらいあって、それがなければがんばってみるかと。
入山:差し支えなければ、その嫌な条件はなんですか。
石倉:仕事ができないけど、年上というだけで上司になるとか「嫌なリスト」があるんです。わりと「嫌でなければOK」ぐらいで考えてきたんですよね。先週もお話ししたんですけど、どの場所に行くかが大事だと思うんです。
例えば僕が野球選手でそこそこ打てるバッターだとして、メジャーリーグに行っても、打てる人なんていっぱいいるわけですよ。でも草野球に行ったらめちゃくちゃ活躍できる可能性がある。だったら僕は「草野球に行こう」と思うタイプなんですね。
入山:なるほど。
石倉:(例えば)何か会社で新しい事業、プロジェクトがあります。それを誰に担当してもらおうかと考えた時に、出てくる名前はだいたい知っている人ですよね。経営陣や人事が名前を知っている人や、上司から名前が出た人。どういう人の名前が出るかと言うと、今、わりとがんばっている人なんですね。
実は自分が活躍できそうな持ち場を見つけてやっていると、気づいたらおもしろい仕事がきたり、やりたい仕事に名前を挙げてもらえたりするようになる。だから、僕は周りが弱っちい分野を選ぶことを、すごく大事にしています。
入山:すごくいいヒントだし、僕もちょっとよくわかりますね。山田さんは、今のお話はどうですか?
山田尚史氏(以下、山田):そのとおりだと思います。もう少し前提の話なんですけど、やりたいことがあるけどできない以外に、そもそもやりたいことが見つかっていない、自分のやりたいことがわからない状況も多いと思っています。
もし(僕に)ご相談いただいたら、まず自己理解を深めることが絶対に大事だと言いますね。(石倉さんは)自分が嫌いなことを決めるとおっしゃっていましたけど、「自分は何が好きなのか」「自分の個性は何なのか」を深掘りすることが、すごく大事だと思います。
僕自身も含めて、自分自身のことは思うよりわかってない。認知的不協和(自身の思考や行動と矛盾する認知を抱えている状態、またその際に覚える不快感)もあるから、目を背けたいこともありますし。それに自分がこうだって思い込んで説明をつけた感情でさえ、よく考えるとぜんぜん違うことがあると思うんですよね。
入山:無意識で言い訳していますよね。
山田:そうなんですよ。それを内省したり、壁打ちしてもらったりして深めていくのがいいんじゃないかなと思っています。それでもやることが見つからない人には「目の前のことには全力で取り組んだほうがいい」と言いますね。一番良くないのが「どうせやりたいことじゃないしな」と手を抜くこと。
入山:なるほど。3段階あるんですね。つまり、山田さんみたいに本当にやりたいことを自分で見つけて、見つかったらそれを全力でやる。
だけど、必ずしもそういうものがあるとは限らないから、石倉さんのアプローチで、最低限やりたくないことは絶対にやらない。でもだんだん結果を出していけば、いろいろな人が注目してくれて、やがてやりたいことが見つかるかもしれない。
一番良くないのは、やりたいことも見つからず、やりたくない仕事を「やりたくねえな」と言いながらやることだと。
山田:そうですね。やりたくないから手を抜いて、「自分はここにいるべきじゃない」という思いを抱えながらやっちゃうことはあると思うんです。でも「これが天職」とは思っていなくても、目の前のことに全力を出すのはすごく大事だと思っています。
入山:石倉さん、いかがですか。
石倉:それはおっしゃるとおり。僕は全力を出すには、けっこうな訓練が必要だと思うんですよ。全力を出し慣れていない人は、全力の出し方がわからないと思うんです。
入山:おもしろい。
石倉:僕は高校時代に陸上競技をやっていたんですけど。実は陸上競技も同じで、トップスピードで走ることに慣れていない人は、トップスピードが出せないんです。実は自分ができると思っているよりも速く走る練習をしなきゃいけないんですね。仕事においても、だまされてもいいから、1回真剣に取り組んでみることは大事かもしれないなと思います。
山田:そうですね。一生懸命とは「がむしゃらに長時間働け」ではなく「真剣に取り組め」という意味なので。 私もすごく共感できるところがあります。自分のやる気に火をつける人は、周りの人にも火もつけるんですよ。「この人と働いていると元気が出るな」という人と一緒にいるのも、大事かもしれないですね。
石倉:自分のやる気が出るルーティーンとか、仕事のリズム、自分がどうやったらすごくノリノリで働けるのかという要因を知っておくこともけっこう大事だと思います。朝早く会社に行くと、たくさん来ていたメールを一気に処理できて、「今日はいい感じだな」と思うのか。それとも前の日にすごく寝た日がいいのか。
なんでもいいので自分で法則性を見つけていくと、わかってくるんじゃないかな。もしかしたらプラセボ(偽薬。医学的効果のためというより気休めのための薬や処置)かもしれないですけど。
入山:おもしろい。要するに自分で自分をだますということですね。
石倉:何かにハマると、実はプラセボ効果があるんじゃないかなって。
入山:なるほど。山田さんはいかがですか。
山田:自分をメタ認知しようと努力することは、すごく大事だと思いますね。
入山:自分が何を考えているかを俯瞰することですよね。
山田:そうですね。物事は短期で結果が出ることは、ほぼない。長期的な粘り強いコミットがすごく大事なんです。
入山:人の行動の半分ぐらいは習慣(でできている)と言われていますから、おもしろいですね。習慣化して、メタ認知で全体を俯瞰して、ということですね。タガエミちゃんは、お二人に何かありますか。
田ケ原恵美氏(以下、田ケ原):そうは言っても、人間って人と比べちゃうじゃないですか(笑)。
入山:あぁ~。なるほどね。やっぱりタガエミちゃんも比べちゃうわけですね?
田ケ原:はい。私の妹は、今、社会人3年目なんですよ。友だちが転職しだして、転職したら収入が上がったと言っていて「これでいいんだっけ?」と。そこも1つ必要な視点かなとは思うんですけど、そういうのはどうやって乗り越えるんだろう?
石倉:僕にはすごくいい方法があります。これは僕以外で言っている人を見たことがないですけど、Xとかで人に誹謗中傷だけしているアカウントを3つ見つけて、30分くらいずっと見ていくんですよ。そうすると、この人よりは私のほうが優秀だなと。
(一同笑)
田ケ原:確かに。
石倉:比べる相手のハードルを下げると、「私はまともだな」となるので大丈夫です。
(一同笑)
比べる相手を間違えないことはすごく大事。だって誰でも「孫正義さんと比べたらぜんぜんだな」となるじゃないですか。でもTwitterでクソリプばっかりしている人と比べたら、「私は毎日仕事をしているし、成果も出しているし、えらいな」となります。
入山:おもしろいな。
入山:山田さん、いかがですか。
山田:僕はめちゃくちゃ(周りを)気にしちゃうんで、なるべく見ないようにする。と言いつつ、「今、自分は心理学の防衛機制(ストレスに対処するための無意識的な心の働き)を発揮している」とメタ認知する。
入山:防衛機制ってなんですか?
山田:自分の傷ついた心を守る働きがいくつかあって。(例えば)「あんなの大したことないよ」と言い聞かせようとするとか。
入山:言い訳とか。
山田:そうですね。「これは心の正しい働きなんだ」「そりゃ人間だから防衛機制が起こるよな」と思いつつ、最終的にはその劣等感をバネに、創作や事業に打ち込めるようにがんばる。
入山:山田さんはメタ認知能力で「自分の今の心理は防衛機制からきているな」とちゃんと把握し受け止める。でも「悔しいからがんばろう」とそれを活かすと。
山田:そう努力していますね。
入山:なるほど。石倉さんはいかがですか。
石倉:僕は凡人の生存戦略なんで……。(例えば)同じ学力の人が、自分が行けるギリギリの学校で一番下のほうにいるのと、自分が行ける学校よりもツーランクぐらい下の学校に行ってトップでいるのと比べると、将来後者のほうが収入が高かったり、成功率が高いんですって。
入山:それは、やっぱり成功体験なんですかね。
石倉:結局比較の中で「自分はどういう位置にいるか」という経験によるんです。自分が上のほうにいると成功体験が積まれて自信ができて、またチャレンジして……というのがあるらしいんですよ。
だからもちろん、高いレベルのところでやるのも生存戦略の1つなんだけど、やっぱり人は比べちゃう。比べた時に「自分はがんばっているな」という経験があると、実は将来的には良いというのが、教育経済学で言われているらしいんです。
田ケ原:やっぱり内省が必要なんですね。内省しなきゃとはわかってはいるけど、今の自分の立場を受け入れられないのかなという気もしますね。
入山:僕もこの話をよくするんですけど、脳の神経には認知系と感情系があるじゃないですか。認知では理解したいんだけど、感情がじゃまをするんですよ。認知的には失敗は学びの機会でしかないんだけど、感情がそれを受け入れない。
だから僕は「失敗した時は自動的にお祝いするルールを作ったほうがいい」とよく言うんです。ケーキやスイーツの食べ放題が好きな女性なら、「失敗したら絶対にスイーツ食べ放題に行くというマイルールを作りましょう」と。そういうことをやると、感情系が和らぐじゃないですか。
田ケ原:確かに。
入山:「あ、失敗した! やった! 今日はスイーツだ」と思えるから、そうしたらあとは認知のほうでちゃんと理解するだけ、というのが僕の考えなんです。タガエミちゃんや、タガエミちゃんの周りの人はそこがまだ難しいという。
田ケ原:そうですね。あと他人をうらやんじゃう気持ちが強いのかなぁという気がしますね。
入山:お二人はどうですか。
山田:いや、めちゃくちゃ勉強になった。「失敗したらケーキを食べられるんだ」と思えば、なんでも挑戦しようとなりますよね。
入山:お二人は感情のポイントはないんですか。認知の能力がすごく高いと、悔しさや落ち込みの感情もあるじゃないですか。
山田:新人賞に出して落ちるって、本当に人生を否定された感覚なんですよ。自分の人生が否定され続けるところでも、がんばろうと思えるかどうか。本当にやりたいことかどうかはあると思いますね。
石倉:なるほどなぁ。僕はあんまり感情的ではないんだよな。「小説を出して落ちました」となったら、僕だったら、どういう基準で誰が審査しているかを突き止めて、どういう作品が受かっているかの戦略を立てるのが、楽しくなっちゃいそうな気がするんですよ。
山田:それは僕もすごく戦略を練っています。『Forbes JAPAN』のインタビューでお答えしたんですけど、経営の経験を使って新人賞を突破した感覚があります。
入山:そこは『Forbes JAPAN』の5月号を読んでいただいて。その感情も突破できると。
山田:そうですね。石倉さんは(僕と)ぜんぜんタイプが違うから、今日は多様性は大事だなと思いましたね。
石倉:すごくきれいにまとめてくれる!
入山:すばらしい。ありがとうございました。
入山:石倉さん、山田さん、ありがとうございました。タガエミちゃん、今週も2人の話は最高だったね。
田ケ原:はい。特にお二人のお話を聞いて、メタ認知がいかに重要かがよくわかりました。
入山:アプローチは違うんだけど、結局2人とも、自分が何を考えているかを俯瞰的に認知する。まさにメタ認知能力が高いのが本当によくわかったよね。いや、われわれも日々のことを考えるヒントになったよね。
田ケ原:見習いたいです。
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