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"仕事" に何を求めますか?―ポスト資本主義の仕事論(全4記事)

近年増えている“ストレスがまったくない職場”の問題点 ブラックな働き方の先にある“人が透明になる社会”の怖さ

働く人と会社のつながりや、生きることと働くことのつながりについて考えるイベント「Lifestance EXPO」。本セッションは「"仕事" に何を求めますか?―ポスト資本主義の仕事論」と題し、影山知明氏、ナカムラケンタ氏、幅允孝氏の3名がトークセッションを行いました。嫌なこともなく待遇にも恵まれている「ストレスがぜんぜんない職場」の懸念点について、影山氏が警鐘を鳴らします。

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働き方の「選択肢」がないと、疲れてしまう

幅允孝氏(以下、幅):影山さんは、実はベンチャーキャピタルの仕事とかもまだ少し続けながら、クルミドコーヒーを経営している。それこそまったく温度が違うというか、時間の流れが違う。

やはりそれは根城ありきで、ベンチャーキャピタルの仕事をやる時は「よしいくぞ」みたいな感じで勇ましく、ちょっとモードを変えるというか、スイッチや回路を変えて臨まれている感じなんですかね?

影山知明氏(以下、影山):そうですね。まあ、勇ましくかどうかはありますけど。

:(笑)。

影山:加えて言うと、既存の大きなシステムの中での経済の回し方や働き方とか、そういうことの醍醐味やおもしろさ、それが生み出せる社会に対しての革新や利便性があることに対してのリスペクトや関心もありますのでね。自分の中でも、とっても大事だとは思っています。

:わかります。「選べる」ということが重要なのかなと思っていて。先ほど見ていただいた「鈍考」も、別に田舎暮らしがしたいわけじゃなくて。

すごく高速回転でぐるぐる回っている東京の仕事が、ヒューマンスケールをちょっと超えてきて、ずっと回っていると溺れてしまいそうだから、少し時間の流れの遅い場所を作ってゆっくり本を読むことを選択できる自分でいたい。「自分は今はちょっと疲れているから、時間の流れの遅い場所に身を置くぞ」と自発的に動けるというか。先ほどの根城というんですかね。

一方で「しっかりとエネルギー充電できたから、今はちょっと走ってみるか」と、頑張って働く自分を選べる状態を自身で確保しておくのはすごく大事なことなのかなと思っています。走り続けるしか選択肢がないって、やはり疲れちゃうところもあるんじゃないかと思いました。

スピードが加速する時代の中で疲弊していく組織

:どんどん大きい話になっているんですが、今日はサブタイトルに「ポスト資本主義の仕事論」というところがあって。これは、資本主義をどう捉えるのかというところです。

今は「晩期資本主義」とか「ポスト資本主義」など呼ばれていて、斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』の刊行以降、後期のマルクスがすごく読まれるようになったりしました。

ヒューマンスケールを超えたスピード感だったり、世の中の開発も含めて、実は人間よりもシステムやテクノロジーが上位にいって、そこのうねりみたいなものに一個人があらがえなくなっているのではないか? という危惧も感じている。

世の中がより加速し増大する世の中において、影山さんやナカムラさんは自分なりにちゃんと自分の居場所を作ったり、自分の生き方を実践しているんですが。私は正直言って、世の中がこの後どうなっちゃうのかが不安。「わくわくするぞ」よりは「これ、大丈夫かな? 不安だな」という危惧を感じています。

この場ではポスト資本主義が何かという議論よりは、そんな未来を見据えた時に、今それぞれの立ち位置でやっているお仕事がどういうふうに変容していくのか、いかざるを得ないのか。もしくは、どう守ろうとするのかということについてうかがいたいんですが、ナカムラさんはいかがですかね?

ナカムラケンタ氏(以下、ナカムラ):そうですね、なかなか難しい質問だなと思います。僕は「生きるように働く」という言葉を掲げてやっていたりしますが、ここ数年また思うこととしては、社会的に意義のあることがとても必要とされている。

最初は「自分がどうしたいのか」ということを見ていたし、その仕事自体が社会に対してどうなのかもすごく大切になってくる。

例えば、坂本(大祐)さんが目の前に座っていらっしゃいますけど、「チロル堂」なんかはまさにそういうものだと思います。駄菓子屋さんがグッドデザインで大賞を取る世の中になったわけですからね。

どんどんスピードが早くなっていって疲弊していく中で、組織が個人のゆりかごというか、拠り所みたいなものになっていかないと、もうけっこう疲弊しているなという実感があります。

トップダウン型の組織の限界

ナカムラ:もちろん「自分がどうありたいのか」というのもある。社会も考えなきゃいけないけど、「そもそも今、自分が大変なんだ」ということに直面しているというのは、本当に誰にでも起こり得る状況だと思っていて。

その時に、会社やチーム、コミュニティ、ご近所さんとか、そういうものが拠り所になれるのかがすごく大切だと思っています。

先ほど話したように、ちゃんとケアする機会を作ることもそうだし、何か困ったことがあったらちゃんと支え合っていくとか。結局チームというものが、先ほど幅さんがおっしゃっていた「自分がやりたいこと」を実現する拠り所にもなると思うんです。

そういう時に、トップダウン型の組織はもう限界だと思っていて。ルールのもと、それぞれがやりたいことができる環境が必要です。例えば、メンバーから「給料を上げてほしい」って言われるわけですよ。

:もちろん。「賞与もいっぱい欲しい」とか。

ナカムラ:そうですね。同じ人から別のタイミングで「残業も減らしたい」と言われるわけですよ。

:「代休もちゃんと(取らせてほしい)」。

ナカムラ:給与を上げたいということと、残業を減らしたいということは、切り離せないんですよね。それぞれ個別に相談されても根本的に解決できない。その2つも含めて、一緒に考える必要がある。

どうすればいいか。情報をオープンにすることもそうだし、ちゃんとチームに裁量を委ねていくことも大切。その中で、みんなが考えられる組織というのが1つのやり方なのかなとは思います。

:なるほど。

「1個の答えしか持っていない組織」の弱さ

:つまり、先ほどの「お客さんとお店側」じゃないけれど、働いている・雇っているではなくて、もう少しそれぞれの立場を開示しながら、なんとか着地点を見つけるというか。

ナカムラ:そうですね。そのためには、お互いにいろんなことを共有しないといけない。1個だけ、一部分だけ取り出しても、解決することは難しいから、すべてをオープンにしてみんなで話し合っていくことがチームには求められていて。そういうチームができると、それは拠り所になるというか。

:なるほど。

ナカムラ:プラスにも働くし、ネガティブの時も助け合えるというか、そういう組織になっていくんじゃないかなとは思います。

:でも、一方でものすごく大きな企業とかだと、利潤の追求に対する貪欲さは歴史的にも先例がないぐらい効率化しているじゃないですか。その大波が来ている時に、小さな自分たちの組織はどうやって抗っていくと思いますか?

ナカムラ:まず、小さな組織は小さいからこそゲリラ的に動ける部分は大いにあると思っていて、それをトップだけが差配するのはスピード感としては遅いわけですよね。ちゃんと情報も開示していきながら、その都度、現場にいる人たちがジャッジできるようにしたほうがいい。

話し合える人数はたぶん10人前後ぐらいなのかなと思いますが、みんなで話し合う。それが100人となったら分解しなきゃいけないと思っていて。それぞれのチームが自分たちで考えられるようなものになっていくと、結果として大きな組織にもなれる。

例えばトップダウンの組織だとして、彼らはトップダウンだからこそ1個の答えしか試せないんですよ。でも、その中にいろんなチームがあればみんな違う決断をするわけです。

時代がコロッと変わった時に、1個の答えしか持っていない組織は弱いんですよね。すごく(時代の流れに)乗ることもあるけど、バタバタって倒れちゃうこともある。でも、それぞれが考えていれば、3割は倒れちゃうけどチームとしては7割残ることのほうが、実は強みなんじゃないかなとは思います。

:なるほど、ありがとうございます。

ブラックな働き方を選ばざるを得ない理由

:影山さんにも同じ質問をぶつけたいんですが、加速し、大きな利潤を追求しようというシステム自体がすごく増大していく世の中において、クルミドコーヒーをベースにしながら、自分の仕事と生き方をなんとか継続する。

16年から、さらに20年、40年、50年、ひょっとしたら影山さんがいなくなったその先までが続くことを実現させるために、これからどういうことをやっていこうと思っているかを教えてください。

影山:自分の肩書きを「カフェ店主」と言いましたが、実は「カフェ店主(革命家)」というふうに思っていましてね。穏やかな革命なんですが、クルミド共和国という独立国家を作りたいと思ってやっているもんですから、この話題についてはぜひ2時間ぐらいいただいてじっくりお話ししたいというところで、今「5分前」というサインが出た。

:時間がなくて、ごめんなさい(笑)。

影山:ポイントだけ触れると2ステージあると思っています。ひとまず「ブラックステージ」というものがあって、とりあえず企業はブラック化していく。勤務時間だけじゃなく、精神的なものも含めてなっていって、いろんな意味でつらい。じゃあ、なんでそういう働き方を選ばざるを得ないのか?

最初は自分が生きるように働いていると思ってやっていた仕事でも、気がつくと人員が減らされ、同じ業務量をより少ない人員でこなさなきゃいけない。組織は効率を求めるからですね。そうして本当はやりたいことだったはずなのに、楽しんでできなくなっていくという状況もいっぱい起こっていると思うんですね。

そういう状況に対して、それを選ばざるを得ない理由をシンプルに言ってしまえば、ひとえに「お金」だと思うんです。

:なるほど。

影山:結局、「稼ぎがなくなると生きていけなくなる」という不安感が常に片側にあるので、職業選択の自由度がずいぶん狭められていると思うんですね。それに対して解決策があるとすればすごくシンプルで、お金に頼るのを半分にすればいいと思っているんです。

「お金がないとできないことがあまりに多すぎる」

影山:僕は、お金自体はとっても好きなもの。好きって言うのもあれだけど、大事なもので、人類の偉大な発明の1つだと思っているので、お金がなくなればいいとはまったく思わないです。ただ今は、生きていくことにおいて、お金がないとできないことがあまりに多すぎる。

そこを減らしていくための処方箋が3つぐらいあると思っていて、今日は入り口だけ話しておくと、1つはあるものを使う。着るものも食べるものも住むところも、僕らに全部割り当てて十分余りあるぐらい、もうこの世にあるわけですから。

:もうすでに?

影山:すでに。だから、それは新しく作らなくてよくて。その分配の問題があるので、まちという単位でそこをどう構築できるか。

2つ目は、社会関係資本をもう1回取り戻す。子育てにしても、学ぶことにしても、いろんなものがお金を払って手に入れるサービスになっちゃっているけれど、一昔前を想像すれば、お互いに助け合う中で成り立っていたことっていっぱいあるわけですね。

:そうですね。

影山:そういった意味で、社会関係資本はその解決策になる。最後は、自分たちで作る。食べるものにしてもエネルギーにしても、もう1回見直す必要があるんじゃないかということで、お金に頼るの半分にできれば、ずいぶんそのへんの自由度が変わってくる。

でも、その先にはさらに怖い未来が待っていて、ブラックの先は何色かというと「透明」だと思っています。

「ストレスがぜんぜんない職場」の増加

影山:効率を究極に高めた企業は、ちゃんと利潤を生み出せるようになっていく。それで一人ひとりに対してのお給料も増えて、待遇も改善される。

近年そうであるように、企業が社会的・倫理的な存在になっていて、ある意味ストレスがぜんぜんない職場は増えていると思うんですよ。みんな嫌なことはなく、ストレスがなく、揉めごとがあれば会社がちゃんと仲裁してくれるし、待遇も恵まれていて満たされている気持ちにはなっているんだけれど、それって一人ひとりが透明になっていくというか。

「別にあなたじゃなくてもいいよ」というか。決められたものの中で、こういうことだけ気持ちよく、機嫌よくこなしてくれる人がいさえすれば成り立っていく社会構造になっていった時に、すごく恵まれている気はするけれど、ぜんぜん生きている情動を感じないというか。

そういう透明な世界がいずれ来る気がしていましてね。その頃には、僕は透明な世界に対して「野生の王国」を作りたいと思っていまして。

:いいですね。21世紀のムツゴロウさんですね(笑)。

影山:そうか、王国といえばね(笑)。一人ひとりの欲望とか、情動とか、怒りといったものがあっての人間なわけじゃないですか。クルミド共和国は、そういったものが渦巻く野生の王国になっていく。共和国なのか王国なのか、よくわからないという。

:いやいや、僕は全面的に賛成です。

影山:本当ですか? ありがとうございます。

:生成AIやChatGPTなどを見ても、誰かが言ったことやネットに浮かんでいることを、きれいにそれっぽくまとめてくれるから誰でもできるんですが、あれは透明な誰かが作ったものであって。

人間はこれからの時代において、その人じゃないと出てこない、ちょっと偏っていてなんかいびつだけど、「どうしてもこれが好きだ」とか「美しい」とか、勝手に湧き出てしまうものがその人をその人たらしめるのだとしたら、それを大事にせずしてどうなるのか。

今の世の中は、自分の情動を感じにくくなっている

:精神科医の中井久夫さんが、いじめにおけるステージについて、「孤立化」から「無力化」の次に最後は「透明化」と言っているんですよ。

影山:やっぱりそういう言葉を使うんですね。

:そうそう。個人としての尊厳どころか存在感が奪われてしまって、透明になってしまうというのが一番末期的なところなんです。今、世の中がそういうふうに今向かっている中で、「じゃあ野生の王国を作るしかない」という結論に達しましたね(笑)。

影山:(笑)。今日の1時間のセッションの中で。

:セッションの中で(笑)。だから、自分の情動に対して不感症になりがちな世の中なんですよ。「これ、きれい」「これ、実は好きだった」ということを忘れたり、ちょっと思ってはいるんだけど「もう疲れて面倒くさいから手を伸ばせない」とか。

自分を知らぬ間に包んでしまっている透明な膜というかオブラートというか、まずはそこを意識する。できたらそれをろうそくで溶かすじゃないけど、ちょっと温かいものを浴びて溶かしていって、「そもそも自分は何にどう感じるのか」ということに対して繊細になることもすごく重要なのかなというのは、今のお話を聞いていて思いました。

というわけで、1時間があっという間に経ってしまいました。世の中に対するアティテュードが似たような人たちが集まってしまったという反省点はありつつなんですが、自分の「仕事」と「生きる」ということを考えていらっしゃる方にちょっとでもヒントになればなと思って、この会を終わらせていただきたいと思います。

今回は「仕事に何を求めますか? ポスト資本主義の仕事論」ということで、影山さん、ナカムラさんのお二人に登壇いただきまして、お話しいただきました。お二人、本当にありがとうございました。みなさんも盛大な拍手を。どうもありがとうございました。

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