2024.12.03
企業の情報漏えいで最も多いのは「中途退職者」による持ち出し 内部不正が発生しやすい3つの要素
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工藤拓真氏(以下、工藤):こんばんは、ブランディング・ディレクターの工藤拓真です。今日のゲストは、3回目になりますが、アニメーション映画プロデューサーの石井朋彦さんに来ていただいています。
石井朋彦氏(以下、石井):よろしくお願いします。
工藤:よろしくお願いします。今、楽屋裏というか「はい、お疲れです」の時にお話しさせていただいていたら、「それ、いい話だから次にやれ」とVoicyプロデューサーに言われ……。
石井:プロデューサー優秀ですね(笑)。
工藤:(笑)。そそくさと、それを早めに。
石井:それを本編でしゃべれということですよね(笑)。
工藤:今、話していたことは、石井さんのお話がめちゃくちゃ絵に浮かぶ。
石井:そうですか。それはうれしいですね。
工藤:本当に映像で浮かぶところがあって、「なんでなんだ?」という話をしていたわけですよ。確かに、書籍『自分を捨てる仕事術』の中でも、鈴木敏夫さんがこういうふうにメモを取るとか、こういうふうにしゃべれという話があって。
石井:あとは「映像が浮かぶようにしゃべれ」っていう。でも、これはビジネス書ですから、いい感じに書いているじゃないですか。
工藤:(笑)。いい感じですよね。
石井:だから、いい感じじゃないもうちょっと赤裸々な話をすると、「石井の話は言いたいことはわかるんだけど、宮さんはせっかちだから、お前がしゃべり終わる前に飽きちゃう。宮崎駿という人は映像的な人だから、最初に宮さんの頭の中に映像を浮かべたら勝ちなんだ」って言われたんですよ。
工藤:それは、あらゆることに対してということですよね。
石井:そう。つまり宮崎駿という人は、やはり人とちょっと違う脳を持っている。もちろん言葉も巧みですが、映像ですべてを理解というか、把握できちゃう人なわけですよ。だから、「宮さんとしゃべる前には、必ず宮さんの頭の中に絵が浮かぶようにしゃべれ」と。
工藤:なるほど。
石井:おもしろいのが、落語とかに連れていってもらうわけですよ。「落語家というのは、究極の映画監督である」と。
工藤:なるほど。
石井:つまり、1人でその場にいる人たちの頭の中に映像を浮かばせ、しかも熊さん、八っつぁんとカットが切り替わるわけですよ。熊さんと八っつぁんが急に袖を振り上げて走り出すだけで、そこはもう町を走っているカットになるわけですよね。「落語ほど、話がおもしろくなるためにいい教材はない」と言っていて。
(古今亭)志ん朝さんとか(柳家)小三治さんなんかも、亡くなる直前まで親交がありましたが、かなり名高座を拝見して、とにかくしゃべる前に映像が浮かぶように訓練をさせていただいたのは大きかったですかね。
工藤:それって具体的にエピソードで言うと、例えばどんなものになるんですか? 言えるものは少ないかもしれないですが。
石井:これはどこにも言っていないけど、今思い出した。『君たちはどう生きるか』の制作中に、別にお恥ずかしいって言っちゃいけないけど、コロナにかかったんですよ。しかもかなり初期の、まだ世の中がコロナがよくわからなかった時。
工藤:その時ですね。
石井:そう。宮崎さんにうつしてしまって、万が一のことがあったら、僕はもう歴史的……。
工藤:大罪を。
石井:大罪(笑)。
工藤:(笑)。
石井:だから、まずは宮崎さんにうつさない。当時って、濃厚接触した人全員にPCR検査を受けてもらって結果を待つじゃないですか。
工藤:はい、そうでしたね。
石井:僕は1人にもうつしていなかったんですが、もう二度とあの感覚は味わいたくないぐらい。人って、自分がなることよりも「人に感染させたかも」っていうのが怖いじゃないですか。
工藤:怖いですね。
石井:当時……新宿だったかな。アパホテルに隔離されるわけですよね。「10日間、これで安心だ。もうこれでうつさなくて済む」と。そうしたら携帯が鳴ったんですが、宮崎さんからなんですよ(笑)。「あっ、宮崎さんだ!」と思って。
工藤:(電話がかかってくることは)そんなにないわけですよね。
石井:たまにありましたけど、ないですね。それに出たら、うれしそうに「どう?」って言うんですよ。
工藤:「どう?」(笑)。
石井:(笑)。好奇心いっぱいなんですよ。つまり、社内で2人目か3人目のコロナで、しかも石井が今はホテルに隔離されているらしいと。「今、僕はたぶん6畳ぐらいのビジネスホテルの部屋にいます」と。
工藤:(笑)。なるほど。まず、そうやってお話しするんですね。
石井:そう。つまり、「いや、つらいです」とか……。
工藤:そうじゃないんだ。おもしろい。
石井:「大変です」とか、そんなことを宮崎さんは聞きたいわけじゃないんです。
工藤:聞きたいわけじゃないんですか(笑)?
石井:そうそう。いかに僕がいる場所がどうなっているかを知りたいわけです。だけど、なかなか表に出られないんですよ。「窓はちょっとしか開かないですね」とか。
工藤:(笑)。
石井:廊下も放送が鳴る時しか出られないし。でも、ちょっとおもしろい話があるんですよ。時間になると館内放送が鳴って、お弁当を1階のアパホテルのフロアに取りにいくんですが、ペッパーくんがいるんですよ。
工藤:接触しちゃいけないから。
石井:そう。それで、ペッパーくんが応援してくれるんです(笑)。
工藤:応援してくれるんだ。シュールすぎる(笑)。
石井:今はもう笑い話ですが、当時はペッパーくんの前で何度涙ぐんだことか。
工藤:そうか。当時はそうですよね。何が起こるかわからない。
石井:そうそう、本当に初期だったので。
石井:ちょっと忘れましたけど、お弁当を取るとペッパーくんが「国民の安全のために協力してくれて、みなさん本当にありがとうございます」と。
工藤:ペッパーくん、そんなことを言うんだ(笑)。
石井:そう。「体に気をつけて、一生懸命治しましょう」と。ほかにも入所者はいっぱいいるので、誰とも口を利いちゃいけないんです。
工藤:そうか。
石井:まだコロナになったばっかりだから、みなさんすごく沈痛な面持ちでした。
その話を(宮崎氏に)しようと思って「部屋数からすると、おそらくこのホテルには250人ぐらいの人がいると思います。誰ともしゃべれない、誰とも接触できないんですが、1階にお弁当を取りにいく時にロボットがいまして」と言ったら、突然宮崎さんが電話の向こうで「ロボットがいるのか!」と。
工藤:(笑)。
石井:「ロボットがいるんですよ」と。
工藤:「ロボットがいるんですよ」(笑)。
石井:「ロボットがちょっと慰めてくれて、お弁当を取って食べているんです」と。「お弁当の味はどうだ?」って言うから、「いや、悪くないです」とか言って。「で、どんなお弁当なんだ?」って、もう超具体的なんですよ。
「今日はハンバーグとエビフライ定食で、なんか『ホテルの食事が』とか言っていますが、おいしいですよ」みたいな。実は味覚はなかったんですが(笑)。
工藤:(笑)。
石井:そうしたら、その翌日もかかってきたんですよ。
工藤:またかけてくれた(笑)。
石井:「元気か?」「元気です、元気です」みたいな。「で、今日のお弁当は、どんなお弁当なんだ?」って(笑)。
工藤:(笑)。
石井:だから、6畳一間のアパホテルの中で、いかに宮崎さんに楽しんでもらうためにしゃべるには、とにかく具体しかないんですよ。
工藤:具体しかないですね。気持ちの問題とか……。
石井:じゃないですね。「窓の向こうから何が見えます」とか、「たまたま今日エレベーターに乗った親子はおそらくお母さんと娘で、たぶん2人は狭い部屋で一緒にいるんだと思います」「そうか、それはかわいそうだな」みたいな。もう10日間、毎日。
工藤:毎日電話?
石井:毎日電話(笑)。
工藤:毎日、具体的に報告。
石井:(隔離されて)だんだん時間の感覚もおかしくなってくるので寝ちゃうんですよ。でも、電話がいつかかってくるかわからないから、しょうがないので宮崎さんからの電話だけ『ラピュタ』の「パッパー パラッパー パッパー パラッパー(※ラピュタのBGM『ハトと少年』)」という音にしておいて、そのラッパが鳴った時だけ起きて。
工藤:(笑)。
石井:それで「もしもし」と言ったら、「宮崎です」と。おかしかったのが、その後宮崎さんはイマジネーションが膨らんじゃって、「石井は今、ロボットに飯を食わせてもらっているらしい」という話をしていて(笑)。
工藤:(笑)。
石井:スタジオでは「隔離場所にはすごいロボットがいて、ロボットがお弁当を持って飯まで食わせてくれるらしい」って。
工藤:すごいな。
石井:「宮崎さんの次回作、SFになるかも」って(笑)。
工藤:(笑)。本当に笑いごとですが、きっとそういうところから始まっていくことがあったりするんですよね。
石井:そうですね。
工藤:すごいな。おもしろい。
石井:だから、人に何か物を伝える時は、なるべく映像で伝えることが大事。
石井:この間も制作中に、近所に住んでいるおじいさんがたまたま僕の目の前で転倒してしまって、頭から血が出ちゃったんですよ。
工藤:けっこうですね。
石井:アパートまで運んで、ちゃんとお医者さんにも連絡したことがあったんですが、「何事もなくてよかったね」みたいな話をしていたんですね。
最近僕はぜんぜん宮崎さんとお会いしていないんだけど、宮崎さんと話したスタッフが「石井さん、近所のおじいさんの家に行きました?」という話になって、「えっ、何の話?」と言ったら、「いや、急に宮崎さんが近所のおじいちゃんの家の話をし始めて」と言って。
よくよく聞くと、その時に僕がしゃべった「そのおじいちゃんの部屋の中に入って、郵便受けのところにどういうものがあったか」というのを、宮崎さんは記憶しているんですよ。
工藤:えっ!?
石井:「あっ、そうだ。あれは石井が言っていたんだ」ということになったらしいんですが、その時に僕はおそらく「どういう玄関で、こうでこうで」と、具体的に話したんですね。それを記憶しているんですよ。だから宮崎さんという人は、人から聞いた膨大な記憶の断片を思い出しながら組み合わせて、誰も見たことがない世界を作り出しているんですよね。
工藤:おもしろい。言い方はおかしいかもしれないですが、見えているものだから、ある意味フィクションじゃないというか。
石井:そうです。
工藤:あるものを描いているという感覚に近いんですね。
石井:そうです。
石井:だから『君たちはどう生きるか』という作品は、絶対に信じられないと思いますが、我々からすると頭からお尻までほぼフィクションじゃないんです。でも、1個1個のシーン、1個1個のエピソードを全部積み上げていくと、フィクションなんですよね。
工藤:なるほど。
石井:だけど、いろんなところで宮崎さんが仕入れたノンフィクションを言語ではなく映像として記憶しているから、新たな物語や映像を作るアウトプットの時に、あれとこれとを持ってくることによって、見た人にとってはオリジナリティがあるように見えるんですよね。
工藤:めちゃくちゃおもしろい。
石井:そこが、僕が参考にしたいけど凡人にはできないこと。でも、自分が小説を書く時にも、自分の中で最も大切なことの記憶をミックスしています。あと、これもおもしろいのが、宮崎さんってお昼寝をしている間というか。
工藤:間?
石井:よく、寝ている時に、自分が起きているんだか寝ているんだかわからない瞬間があるじゃないですか。あの時にアイデアを生み出しているんですって。
工藤:へぇ〜。
石井:ある時、チェックがあって宮崎さんを呼びにいったら昼寝していたんですよ。「宮崎さん」と一瞬言っても起きなかったので、どうしようかなって思ったら、「うーん……」って起きたんですよ。「起こしちゃってすみません」と言ったら、「あぁ。今、5歳の時に戻ってた」と言うんですよ。
工藤:えっ?
石井:「どういうことですか?」って聞いたら、「5歳の時に戻ることはない?」って言うから、「いや、ないですね」って(笑)。
工藤:(笑)。おもしろい、そうなんだ。
石井:宮崎さんって、昼寝している時に子どもの時に戻っているらしいんです。その時に思いついたこととかを描いているらしくて。
工藤:そうなんだ。おもしろい。
石井:例えば『風立ちぬ』の冒頭って、カプローニがいて、主人公が目を覚ますところで始まるじゃないですか。
工藤:そうだ、そうだ。
石井:あれ、実はリアル体験っぽいんですよね。
工藤:そうなんだ(笑)。宮崎さんは、あれをリアルでやっている。
石井:やっている。だから僕、ビジネス書は夜中に書いていましたが、フィクションは起き抜けに書いていたんです。
工藤:(笑)。それこそ、宮崎さんを真似して学ぶで。
石井:そうそう。そうすると起き抜けってぼうっとしているから、なんかよくわからないことを思いつくんですよ。
工藤:おもしろい。
石井:キャラクターの名前とか変な魔法とか。だから必ずパソコンを置いておいて、起きたら絶対に10ページ書く、みたいな。後で読み直すとよくわからないことが書いてあるんですが、それを夜の頭で書き直す。
工藤:おもしろい。ふわっとしたものとか、自分でも処理できない、何かわからないものを、間合いの時間みたいなところで閉じ込めちゃって1回文章にする。
石井:そうです。
工藤:大人脳というか、もう1回夜に仕事脳でリライトしていく。
石井:よく海外のクリエイターが、ドラッグとかマリファナ(を使用している)とか。
工藤:ありますね。
石井:あと、これはよく知られた話ですが、元来「物を作る」という行為は自分の中から出てくるものではなく、クリエイティブってどこからかやってくるものらしいんですね。ところがヨーロッパの近代的自我というものが生まれ、作家は「自分の中から何かを生み出さなきゃならない」と思ったところから、作家の苦しみが始まるという話があるんです。
それを外から持ってくるために、太古の人たちは煙を焚いたり、踊ったり、マリファナを吸ったりドラッグ的なものによって(物を作る)。要は「儀式」ですよ。
工藤:(アイデアが)舞い降りてくるように。
石井:そうそう。だから宮崎さんは、平和国家日本でシャーマン的トランス状態を自ら作り出しているんです。
工藤:すごい。お昼寝で。
石井:お昼寝で。
工藤:めちゃくちゃおもしろいですね。
石井:でも、これは有効ですよ。ぜひ工藤さんもネタに詰まったら、起き抜けに書くとけっこうおもしろいアイデアが出てきたりしますね。
工藤:おもしろい。実践できちゃいますね。
石井:誰でもできると思います。
工藤:おもしろい。ありがとうございます。
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