2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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三浦宗一郎氏(以下、三浦):だいぶいろんな話を展開してきましたが、あっという間に60分が経過しました。こんなに早く過ぎる60分はあるのかと、話をしながら思っていました。
「『選べなさ』とはいったい何なのか?」みたいなところから、「呪い」の話、依存は必要なものだけどどう付き合っていくのかとか。あとはシステムからの逸脱的な話で、「教科書には本当はこうやって書いてあるけど、ちなみに」みたいな話から、「合理の非合理」まで話を展開してきました。
いったんここで、会場のみなさんからの質問をお受けする時間にしたいなと思います。時間もあれなので、クイックにぶわーっといけたらなと思うんですが、みなさまいかがでしょうか。では、誰か一番前にマイクランできますか?
糸井重里氏(以下、糸井):「マイクラン」って言うんだ。専門用語だね。
三浦:イベントをやった業界人なので(笑)。
糸井:僕もこれから使おう。「あ、マイクランお願いします」って。
質問者1:すごく個人的な質問になっちゃうんですが、いいですか?
三浦:もちろんです。
質問者1:山口さんのVoicyがすごく好きで。
山口周氏(以下、山口):最近サボっていて、ぜんぜんやってないですけどね(笑)。
質問者1:「わかる」とはどういうことかということで、上原専禄が「変わること」と……。
山口:「自分が変わること」ですね。
質問者1:(バールーフ・デ・)スピノザも「真理を追求するには主体の変容が必要だ」と言ってたと思うんですが、言ってることはわかるけど、実感としてないがために、ちょっとよくわからないから気づけてないってことだと思います。
Voicyの中で仕事でのOSが変わるという話はされていたので、プライベートや日常でそういうエピソードがあれば、ぜひお聞きしたいなと。
山口:いろいろあります。今パッて話せと言われるとわからないんですが、周りの人がわからないと思うので、ちょっと補足説明します。僕は阿部謹也という歴史家が好きで、一橋大学の学長までやられた方ですが、大変有名な『ハーメルンの笛吹き男』というちくま文庫の本があります。
「ハーメルンの笛吹き男」というグリム童話の話、みなさんも知ってますよね。ある日ネズミ退治の男が来て、「ネズミを退治してくれたらお金払うよ」と言ってネズミを退治したのに、お金を払ってくれなかったので、すごく怒っていなくなった。
そうしたら次の年の同じ日にやってきて、ネズミ退治をする時に笛を吹いて、ネズミが出てきたら川に引き入れて全部殺しちゃうっていう退治の仕方をしたんです。1年後にやってきた時は、今度はネズミじゃなくて子どもたちが家から出てきて、そのネズミとりの男にずっと子どもたちがついていって、街から子どもがいなくなってしまったっていう悲劇の話なんです。これ、13世紀に実際に起こったことなので実話なんです。
山口:「ハーメルンの笛吹き男」はぜんぜん関係ないんですが、それを本にした阿部謹也という歴史学者がいて。その指導教官だったのが、上原専禄という歴史学者です。
学生はいろいろなレポートを発表しますよね。阿部謹也が学生だった時に、上原専禄はいろいろと聞いた上で、最後に「それで結局、何がわかったんですか?」と質問するんです。おもしろいでしょう。「この時代の人はこういうものを食べてたってことがわかりました」「そうですか。それで結局、何がわかったんですか?」。
「この戦争ではこういうことがあって、実は圧勝ではなくて僅差の戦いだったということが証明できました」「そうですか。それで何がわかったんですか?」って、全部そういうふうに聞くんですね。そうすると、阿部謹也はだんだん「わかる」ってことがわからなくなってくるんですよ。
ある日、上原専禄に「先生、わかるってどういうことですか?」と聞いたら、上原専禄が「それによって自分が変わるってことでしょうね」と言うんですね。昨日までの自分じゃなくなっちゃうということです。
山口:これは僕の個人的なエピソードではないんですが、日常的なエピソードをベースにして「山口さん。これが本当に『わかる』ってことだ」というのを近内悠太さんが話してくれたことがあって。近内悠太さんは重里さんも帯で推薦されてるけれども、認知症を患っているお母さんがいます。
(近内氏の)弟が面倒を見てるんだけど、お昼の2時になると必ず徘徊しちゃう。徘徊するとすごく困るわけですし、家族も大変だから家から出したくない。でも、お母さんは認知症を患っていて、本当に何もわからなくなってるんだけども、お昼の2時になると「外に出してくれ」って騒いじゃう。
だから奥さんもすごく困って、弟さんがどうしたもんかと思ってる時に、カウンセラーに相談したら「ちょっといろいろ調べてみましょう」と言われて。今度はお兄さん(近内氏)にも「『お昼の2時』で何か思い出すものありませんか?」と聞いたら、弟の保育園のバスが来るのが2時だったことをお兄さんが覚えていて、「あ、それかもしれない」と。
出ないとパニックになっちゃうから、2時になると外に必ず出してあげていたんですが、2時になった時に認知症のお母さんに「今日は保育園のお迎えはありませんよ」って言うと、すごく安心して徘徊しなくなったんですよ。それって本当に「わかる」ってことだと思うんですね。
僕はそのエピソードを聞いた時に「あぁ、わかるってそういうことだ」と思いました。お母さんは徘徊するので、本当に困った面倒くさい人だと感じていて、場合によっては弟さんは「早くこの時期を終わりにしたい」と思ってたかもわからないですね。
でも、自分が赤ちゃんだった時に「保育園に行かなくちゃいけない」という記憶だけがまだ残っていて、2時になったら外に行きたがる。それが「わかる」ということなんですが、わかっちゃったあとって、お母さんとの関係性も昨日とはまったく違うものになりますよね。
だから、僕が言っている「本当の意味で『わかる』」というのは、わかることで自分が変わる。そういう話が典型かなっていうところですかね。すみません、これは僕自身のエピソードじゃないんですが。
質問者1:ありがとうございます。
三浦:この前、糸井さんもそんな話をされてましてね。「わかる」とか「学ぶ」とか。
糸井:すぐそういうことを言うから(笑)。
三浦:(笑)。
山口:ちなみに、わかるということでもう1つ。僕は糸井重里さんのファンでずっといろいろな本を読んでいて、感動したことがあって。重里さんがどこで書かれていたかもう覚えてないんだけど、トイレの便座に横向きに座ったことあります? あのね、1回座ってみてください。感動するほど不安定ですから(笑)。
重里さんがそれをやって「感動するほど不安定だ」と言っていたので、僕もやってみたんですね。そうしたら、本当に感動するほど不安定なんですよ。これも、便座がいかに良くできているかを「わかる」ということです。
「あなた(便座の便利さを)わかってますか?」「いや、わかってますよ。だってすごく使いやすくて……」「いや、わかってない。横向きに座ったことないでしょ」みたいな。横向きに座ったことのない人には、便座がいかに良くできてるかってわからないですよ。
その日を境に私は、それまでの「便座に横向きに座ったことのない山口周」から「横向きに座って感動した山口周」にちょっと変わってるんですね。だから、そういうことかなと思いますね。
質問者1:わかりやすくありがとうございます。
山口:それも、やはり元どおりになれないです。
三浦:みんな今日はその一線を越えられそうですね。ここに来た成果として、ぜひ新しい自分になりましょう。
山口:「つり革を上に押してみる」とかね。重里さんの本は「わかる」っていうことのオンパレードなので。
質問者1:「元に戻れない」というのはキーポイントだと。
山口:そうです。「便座に横向きに座ったことのない私にはもう戻れない」っていう、ポイントオブノーリターンを越えちゃうということですね。
糸井:そういうネタならいくつでもありますよ。
三浦:そうですよね(笑)。糸井さんはそういう遊びが非常に(得意)。
山口:これもやはり「逸脱」とか「脱線」なんです。人間は、便座に真っ正面に座ることをずっと繰り返して死んでいくんですよ。生まれてトイレを習った時から、前向きに座るということをやって死ぬんですね。
横向きに座るというのはむちゃくちゃな逸脱なんですが、日常生活の中でいかに逸脱を作るかというと、やはり「わかる」こと。逸脱される前のノーマルに対する手触りというか、身体感覚でわかる。キーは「逸脱」。つり下がるんじゃなくてつり上げるとか、いつも勉強させていただいてます。
糸井:絶えず精進しております。
三浦:すばらしい質問をありがとうございます。
質問者1:ありがとうございました。
(会場拍手)
三浦:まだいけるかな。もうちょっといってもいいですか? では、前の2列目の女性の方。
糸井:マイクラン。
三浦:マイクラン、走ってます(笑)。
糸井:実際には人間がランしてるんだよな。
三浦:そうですね。マイクじゃなく。
質問者2:本日はありがとうございました、東京都から来ました。山口周さんのお話になってしまうんですが、私自身は10年ぐらいマーケティングの仕事をやっています。32歳になって、これからライフシフトということで、もう一度「自分がこれから何をやっていきたいのか」を考える、とてもいい時期だなと思っています。
山口周さんはきっと本を書くお仕事とかをされたいということで、執筆活動を続けてらっしゃると思ったんですが、その行動に至るまでにどういう葛藤があって、どう進めてきたのかをおうかがいしたいなと思いました。
山口:キャリア的に言うと、僕は自分がやってきたことの主しか書いてないんですが、実際にはいろんなことに手を出して、「これはちょっと違うな」というのを何度もやってるんですよ。
例えば広告の会社に入って、それこそ最初はCMプランナー、コピーライターになりたかったんだけど、どうも自分の書くコピーが採用されない。さすがにこれだけ採用されないと、これはちょっと違うんじゃないかと思い始める。
電通という会社の中でもいろいろやっていたんですね。イベントの企画をやったり、トータルで言うと10個ぐらいの種目をやったと思うんですが、「これは向いてない」「これは向いてそうだ」って、向いてそうなことをもっと純度高くやろうと思ったら、会社の経営に関わる仕事とかのほうがいいのかなと思って。
山口:僕、外資のコンサルティング会社へ行く前に、2年ほどインターネットのスタートアップで働いてるんです。それこそサイバーエージェントの藤田(晋)さんのお手伝いをやったりとか。
当時、まだサイバーエージェントは20人ぐらいしかいない会社だったので、「広告って出したあとに掲載確認を出さないといけないんですよ」「え、本当? じゃあその仕組みどうやって作ろうか」「掲載確認は嘘をついちゃいけないんですよ」「え、本当?」みたいな、本当にそういう時代だったんです。
それで、経営者にアドバイスをしたり、自分で事業の企画をやってみたり。でも、それもなんかちょっと違うなということで、外資系コンサルティング会社に行って。でも、それもモラトリアムです。なんとなくやりたいことが決まらないけど、人生のメーターは動いていっちゃうので。
森に入って滝に打たれるみたいなことも若干やってみたんだけど、これもちょっと違う。「これ、たぶんなんにもならない。これを1年続けると取り返しのつかないことになるぞ」と思って(笑)。
とにかく、なにかしら動かざるを得ない状況になったほうがいいということで、外資の戦略ファームに入って。やっぱり物書きの仕事をやりたいなと思ったのは、それから3、4年経って36、37歳ぐらいになってからの時期でした。やはりそう簡単には見つからないので、ジタバタするしかない。あとは、なんとなくの「おもしろそうだな」とか嗅覚に従うとか。
山口:「なんか次のステージが見えてこないから、ちょっと掛け子でもやるか」とかは、どうしたって損しかない、もうマイナスの不確実性しかないわけですよ(笑)。
「どう考えてもなにかしら得るものあるだろうな」というところに自分を投げ出すと、「やっぱこういうのは向いてないな」「こういうのは好きじゃないんだな」「お金持ちになりたいわけじゃないんだな」とかいうのがだんだん見えてくる。
あとね、仲間が変わるとけっこういろいろ見えてきます。周りにいる人が変わってくると「こうはなれないな」と「この人たちみたいに『こうなりたい』っていうエネルギーが自分にはないな」というのも相対感でわかってくるので、付き合う人を変えるってけっこう大事かなと思います。糸井さん、そこらへんはどうですか?
糸井:いや、なるほどと思いますね。
山口:コピーライターをずっとやっていて、なんとなく「コピーはいいや」って思い始めたのが、30……40歳ぐらいですか?
糸井:そうですね。40歳過ぎぐらいの時に「もう、なんかいいか」と思いました(笑)。その時は付き合う人を変えたつもりはなかったんですが、ゲームを作ったりしていたので、ゲームのスタッフがパソコン通信をやってるのを後ろから覗いて「何それ?」と言って。やがてインターネットになっていく時に、「あ、これは世の中が変わっちゃうな」と思いました。
「そんなにおもしろくないな」と思い始めたところにいるのもしょうがないなと思ったので、不確実性とおっしゃいましたけど、失敗するか成功するかはあんまり考えずに、やりたいと思ってインターネットの仕事を始めたんですよね。だから、50歳のちょっと手前で「ほぼ日」を始めました。
山口:そうですよね。
山口:今おっしゃったのも、センスオブトランジションっていうのかな。今、自分が人生の移行期に来ているというか。学習ってカーブがS字を描くので、なんでも最初はなかなかうまくいかないんだけど、そのうち脂が乗ってばーっと伸びる。
それで、だんだん飽きるっていうのかな。若い人から抜かれたりとか。でも、「ちょっと次へいかないとな」という感覚はすごく大事です。僕が見ていると、そこにすごくこだわって「下から来るのにはまだ負けねえぞ」「自分だってまだまだ」とか言ってると、あんまり良い結果になってない気がする。
だから「もう次にいけっていう感覚だな」って思うと、自然と付き合う人も変わってくるし、発揮してる強みもちょっと違う部分になってくるので。ただ、それがすごく予定調和的にわかるかといったら、なかなかね。パッと移る人もいるんだけど、僕の場合は「もう広告の仕事はいいかな」と思って、わりとジタバタしたのが3、4年続いたかな。
アン・モロー・リンドバーグという飛行家には奥さんがいるんだけど、彼女がすごくいい言葉を残していて。「人生を浪費しなければ、人生を見つけることはできない」と言ってるんです。
今は「タイパ」みたいな言葉もありますから、みんな予定調和的にパッと次のターゲットを見つけて、その仕事に役立つ勉強をやって、みたいな。人生って、合理的に・計画的に選んでいけるような感覚を持っちゃいがちなんだけど、そうやるとかえってあとで「本当にそれでよかったのかな?」って思っちゃう気がする。
ある一時期浪費して、七転八倒する中で、おのずと「やっぱり自分にはこれしかないな」というものが立ち上がってくるのをつかめるとすごく粘れるし、あとで「あれでよかった」ってなると思うので。
今、そういうトランジションの時期にきてるのであれば、ジタバタと、しばらくちょっと浪費してみる感覚でぜんぜんいいと思います。戦略的に浪費するという感覚で、合理的に浪費する感じでいいんじゃないかなと思いますけどね。
三浦:なるほど。大丈夫そうですか?
質問者2:今まで文章で読んでるだけだと知らなかった、山口周さんの部分がたくさん出てきて、実体験とともにお伝えいただいたのでとても勉強になりました。ありがとうございました。
三浦:ありがとうございます。拍手でお願いします。
(会場拍手)
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