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「主体的なキャリア形成」を考える~人生100年時代をどう過ごすのか~(全3記事)

ある日、突然部下が辞める…ダメな職場に存在する“3つの壁” 個人と組織の視点から見る「居場所づくり」の必要性

『社員がやる気をなくす瞬間』著者の中村英泰氏がセミナーに登壇し、「主体的なキャリア形成」と「人生100年時代の過ごし方」をテーマに講演を行いました。キャリア形成において重要なポイントや、これまでの職場づくりの問題点を明かしました。

前回の記事はこちら

キャリアを考えるうえで重要な2つのポイント

中村英泰氏(以下、中村):自分もポジションに当てはめられているだけだとした時に、これから本当の居場所を作っていくとともに、自分のもともと持っているもの・潜在的可能性をどう探り当てて向上させていくのか。これがとても重要なことなんです。

では、そのためにどうしたらいいのか、いよいよ本日のゴールをお伝えさせていただく前に、セミナーのテーマになぞらえて、1つ私の物語をお伝えさせていただきます。

私は13年前に人材サービス会社を離職して、自分が思った世界を実現させるため、いわゆる主体的キャリア形成のためにコンフォートゾーンを飛び出したんです。

当時から考えると年収も4倍になっています。そして働き方も、単に職場と家庭を往復するのではなく、名刺を7枚持つポートフォリオワーカーです。オフィスが私を囲うのではなく、私の行った場所がオフィスになっています。

このように働き方が変わっていて、自分に対する評価も変わっているので、正直「この13年間で自身のキャリアはずいぶん成長したんだ」と思っていました。こういうところで話すような立場ではなかったし、あまり人前で話すのは得意ではなかったのが、能力や人自体もまったく変わったんじゃないかなと思っていたんです。

ただ、つい先日、14年前に行ったものと同じ適性検査をしてみました。結果はおもしろいですよ。「私はまったく変わった」という見立ては大きく裏切られて、14年前の私も今の私も、基本的なアイデンティティは変わってないことが示されたのです。言い換えると、私は私のままなんですよ。

何が変わったかと言ったら、「適応する環境」が変わったんですよね。だから、自分の内的な資質がまったく別物に変わったわけじゃないんです。

「絶対的コンフォートゾーン」を持つことが必要な理由

中村:考えてみれば、よく「トランスフォーム」という言葉が出てきますが、トランスフォームはDNAが変わるという話じゃなくて、環境に合わせて表出させるものを適応させる・発揮させるということです。私たちも、その人が持っている本質的なものは変わらないんです。

それを理解した上で、適応を必要とされる環境(潜在的可能性の向上・本当の居場所)へ身を置き、トレーニングを進めていかないと、何年勤めても、どんな資格を取っても、おそらく主体的キャリア形成にはほとんど影響しないんじゃないかなと思います。もし自分が学んだことを発揮できるようにしようと思ったら、そういう環境を持たなきゃいけないんです。

例えばわかりやすいのが、13年前の同時期にキャリアコンサルタントの資格を取った人が100名近くいましたが、そのうち8割はもう更新もしていません。資格を取ることで何が変わるわけではなく、資格を取ったら、それを発揮できるような環境を作っていかなければいけないわけですね。

世の中の変化、そして考創すべき2つのことをお伝えしました。そして最後に必要になるものを見ていきましょう。(スライドを指しながら)この2つをしっかりと重ねられる、「絶対的コンフォートゾーン」を持つことが必要です。

絶対的コンフォートゾーンとは何なのかというと、わかりやすいんですが「本当の居場所」です。「自己を主体とした空間」であり、「自己を主体とした役割」、そして「価値を高める活動」の3つをしっかりと補えるようなものです。

絶対的コンフォートゾーンでは、「転機の経験」や、今までやったことがないものを試すことができる。「垂直的な交換関係」で言うと、違う世代に生を受けた人だけれども、上下の中での関係性を持てる。自分の持ってるものを渡して、相手から何かをもらって、交換ができる。

そして「水平的交換関係」は、同世代や同じ性別、同じ業界にいた人たちが、場所は違うけれどもそこにいるような絶対的コンフォートゾーンを作り出し、その中で潜在的可能性をしっかり向上していく。

あれだけ名刺交換したのに、転職したらもはや他人……ということも

中村:個人は次の3つを求められます。まず「フレキシビリティ」は、自分の中での柔軟性ですよね。そして「アダプタビリティ」とは、適応性。環境が変わっても適応できることです。そして「ネガティブケイパビリティ」は、不確実性が高いことに対しても向かっていくことができること。そんなことができるような、絶対的コンフォートゾーンを作らなければいけない。

コンフォートゾーンと聞くと、このセミナーの前半でもコンフォートゾーンをネガティブなものとしてお伝えしたように、最近はよく「コンフォートゾーンは早く抜けるべき」という言葉が聞こえるんですが、これは馴れ合いのコンフォートゾーンのことを示しているんです。

それは、変化が少なくてそこからあまり何も生み出されないような場のことで、できるだけそこへ投じる時間を最少にしていく。

そして職場もそうですよね。先ほど、専心的ビジネスパーソンが定年したらどうなるのか、なんてこともお伝えしました。私も転職する時には「中村さん、残念」「中村さん、こんなにがんばったよね」と言われたんですが、何年かするとまったくの他人です。

名刺交換も山ほどして、私は営業だったのでいろんなプロジェクトに関わってきましたが、もはや他人です。僕の付き合い方が悪いのか、ちょっと考えてみる必要がありますが、みなさんはいかがですか? 本当に主体的に関われるような場所を持っていかないと、そこに投じている時間はほとんど意味がないのかもしれない。

家庭でも職場でもない「第3の居場所」

中村:そういうことを前提とした時に、来るべきこれからの将来に向けて、あらためて主体的キャリア形成には何が必要なのかといったら「絶対的コンフォートゾーン」。言い換えるとサードプレイスを持つということです。

レイ・オルデンバーグが1980年代に出した『The Great Good Place』は日本版でも訳されていますが、サードプレイスのことを「最高に心地が良い場所」と言っています。

家庭というファーストでも、職場というセカンドでもない、第3の居場所ですね。第3の居場所というのは、役割を外して自分らしくいられる場所だから居心地が良いんです。そういう場所をしっかり自分の中に持っているかどうかが重要です。

ここから具体的なことをお伝えさせていただきます。職場の中でいうと、「OB・OGの人との関係性を持つ」。辞めた人は外の人ですから、従来は「そんなやつと連絡を取るんじゃない」という感じでした。だけどそうじゃなくて、「外から見た時に私たちの職場はどうだったんだろうか?」ということが話せるんです。

遠慮なく……は良くないですが、社長の悪口を言えるとか、遠慮なく自社の課題点を一緒に話し合えることも必要ですよね。

また、同じ業界の中で、社長たちが一緒に異業種交流会をやっていることもあります。そういうところに積極的に出ていって、座っているだけではなく、隣の人や隣のグループの人に声をかけることも必要だったりもします。

じゃあ、これはファーストプレイス・セカンドプレイスではできないのでしょうか。今日はどちらかというとワークキャリアを軸にしているので、もっと言うと今の職場ではできないのか? ということをお伝えします。

今の職場で起こりがちなミステイク

中村:「これまでの職場ではダメなのか?」という視点から、今の職場でよく起きているミステイクをお伝えします。これはどちらかというと、伝統的なオーガニゼーションキャリアを軸とした、現状で多く見られる職場のことを指しています。

1on1をしていて、上司は気持ちよく話しています。だけど次の日に「メンタル不調です」と言って面談した部下が診断書を持ってきたり、ある日突然「辞めます」と言い出したりとか。「あれ? あんなに気持ちよく話してくれたのに」「あの1on1は何だったんだろうか?」となります。

見ていただきたいのは真ん中にある壁です。これを取り除かないままでは、今の職場が互いにとって「絶対的コンフォートゾーン=Great Good Place」にはなり得ません。Placeではなくて、おそらく単なるSpaceである可能性があります。

気持ちよく話していると思ってるのは、話してる相手ではなく自分だけだったりするわけです。そうした時に、この壁をどう取り除くのか。

取り除くべき壁は何かといったら、「サイロ」「スラブ」「バウンダリー」の3つです。ちなみにこの3つについては、私の書籍の『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』に詳しく書いてあります。

左のように無意識下に発生する壁を認識していない職場は間違いです。1on1はあくまで手段ですが、それを目的として部下と共有しようとしている。そこをクリアにしていくためには、右にあるようなサイロ・スラブ・バウンダリーの壁を越えていかなければいけません。

私たちが行くのは、会社でも組織でもなく「職場」

中村:では、サイロ・スラブ・バウンダリーは何かに答えていきます。サイロとは、役職や階層の距離が生じさせる溝。ちなみにサイロとスラブは組織には必ず発生します。そしてバウンダリーはバイアスとして人の無意識下に自然発生します。

それゆえにGoogleは何度も実験をしてますよね。「ヒエラルキーが問題なので、ホラクラシー型という上司・部下がないフラットな組織を作ったらどうだろうか?」といっても、それでは機能しなかった。では、どうしたら心理的安全性が作れるんだろうかということで、徹底的に取り組んでるのがサイロ・スラブ・バウンダリーです。

スラブとは部門間の距離です。専門家を集めて営業と製造に分けると、「製造が悪い」「営業が悪い」となる。そうではなく「私たち」の問題でしょう、ということですよね。

そして最後にバウンダリー。同じ駅から会社に向かっていて、おそらく同じ会社の人なのに声をかけず、事務所に着いてからメールで連絡する。これ、何ですか? 個人の心理的な溝を越えないことには、基本的には何も変わらないということは、みなさんにもご理解いただきたいなと思ってます。

重要なのは、これを言葉で覚えることではなく、みなさん自身がもともと持っている主体的なものをどう確認して、それを元に次を作り出そうとするのか。そして、それを自分だけではなく隣の人も実現するにはどうしたらいいのか。間違いなく、会社という単位では何も変わりません。社長ががんばることで変わる部分もありますが、社長が悪いわけではない。

私たちはどこに行くのかというと、会社じゃなくて、組織じゃなくて、職場に行くんです。関係性が悪い、雰囲気が悪い、仕事がおもしろくない、上司や同僚との関係性が築けない……。

これは会社の問題でも、組織の問題でもなく、もう少し小さい単位の半径5メートルの「職場」の問題です。なので、そこで起きていることをしっかり解消していく必要があります。

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