IT以外の企業がトップエンジニアを獲得するコツ　元META社員が明かす、技術者の心をつかむポイント

AI領域で競争力を高めるために必要なこと

質問者：AIという新しい領域で、大学などで専門的に学んでいない人が技術的な経験を積むためには何がお勧めですか？　私はコーセラ（オンラインで世界の一流大学や企業が提供するコースを無料で受けられるサービス）でポートフォリオを作ることに多くの時間を費やしました。自分をより競争力のある存在にするための具体的な戦術的なアドバイスをお聞きしたいです。

ジョー・レイザー氏（以下、ジョー）：AIのすべてのコースを取る必要があるとか、プロンプト・エンジニアリングを学ばなければならないとか、そういったことに圧倒されないようにすることが大切ですね。プロンプト・エンジニアという言葉があることが、逆効果なのかもしれません。システムを使うために特別なスキルが必要なように感じるからです。

そんなことはありません。チームの誰かに何をやってほしいかを、ステップバイステップで明確に伝えられる人ならChatGPTは使えます。

アレックス・ウェドン氏（以下、アレックス）：私の親しい友人の1人に、100万人以上のフォロワーを持つAIのインフルエンサーがいます。彼女はよくSNSでフォーチュン500 企業の話をしていますが、システムが技術的にどのように機能するかについてはほとんど何も知りません。1日おきに私にメールを送ってきて、この論文は一体どういう意味なのかとか、ChatGPTがどう訓練されたのかといったことを聞いてきます。

多くの企業が彼女と時間を共有したがっています。なぜなら彼女はビジネスに影響を与えるからです。根本的な技術をあまり理解していなくても、それは重要ではありません。

カルメン・キウ氏（以下、カルメン）：私はAIのバックグラウンドがなく、AIについて私が知っていることは頻繁に変わります。付加価値をつける最良の方法は、業界誌を読んだり、ポッドキャストを聞くことです。AIに精通するにはどうしたらいいかということではなく、業界のトレンドや変化についていくにはどうしたらいいかということです。

ビッグテックへの就職を希望する学生へのアドバイス

質問者：私はジョンズ・ホプキンス大学で働いています。卒業後の進路として、大手ハイテク企業への就職を強く希望する学生に対して、どのようなアドバイスができるのかに興味があります。

カルメン：私はTwitterでの経験に後悔はしていませんが、今ではさまざまな場所で働いている立場として、大手テック企業で働くことが常に最善の選択肢とは限らないことを理解しています。すべての人に適しているわけではなく、適切な選択をするには個々の動機をよく考える必要があります。

アレックス：私はビジネス上で必要になるまで、ビッグテックに入るつもりはありませんでした。私がFANG（Facebook・Amazon・Netflix・Googleの頭文字）に入社したのは収入が良かったからです。ただ当時MetaではAI領域でインパクトのある成果を出すのはかなり難しいと聞いたので、そこではAIにこだわらないことにしました。

もしあなたが最初にFANGで働くことになったら、おそらく仕事はかなり退屈なものになるでしょう。1ページのレイアウトを最適化するとか、そんなの楽しくないですよ。このページのレイアウトを最適化したおかげでクリック数が30パーセント増えたといった話ができるかもしれません。でも、その結果は自分の手柄とは言えません。一般的にはPMがページのレイアウトを考え、デザイナーがレイアウトを作成するからです。

なので、すぐにビッグテックに行きたいと思うのは間違いです。あなたがもっと影響力を持てる場所は他にあります。ビッグテックは後から入ることもできます。

IT以外の企業がトップエンジニアを獲得するコツ

質問者：私の質問はブーメラン社員になることについてです。ビッグテックがアルムナイ（元社員）を呼び戻そうとしていると聞きました。カルメンやアレックスは、明日TwitterやInstagramに戻る気持ちはありますか？

アレックス：私の個人的なケースでは、絶対にありません。先ほども言いましたが、もともとビッグテックに行きたいという野心はありませんでした。収入を上げる必要性から行ったわけですが、今はビッグテックを離れてもかなりの収入を得ることができています。仕事の内容もはるかに楽しいですし、今はプライベートの時間や旅行などを優先しようと考えています。

カルメン：状況が変わる可能性があるし、進化のスピードも速いので、再びビッグテックで働く可能性は常に開かれています。また、ビッグテックに隣接した仕事も常に前向きに受けています。実際、私のクライアントの1つはGoogleですしね。

質問者：2つ目の質問は、技術者を求める非テックの大企業での仕事についてです。あなたは明日、シャネルやエスティローダーといったあなたの技術を必要とする大企業で働くことができますか？

アレックス：非テック企業が直面する課題の1つは、採用候補者に自社が刺激的な影響力を持つ場所であることをアピールすることです。「100年の歴史を持つファッションの老舗企業だから、テックに関連したおもしろいことなんかない」と思われがちですが、実際には自動化の機会はたくさんあります。その責任を直接担当することができると伝えれば、多くの技術者が興味を持つと思います。

ジョー：人々は履歴書に有名企業のロゴを書きたいだけでなく、自分が世界にどれくらいインパクトを与えられるかを知りたいのです。大企業であればスタートアップよりもずっと大きなインパクトを与えられると思います。

フリーランスが抱える健康保険やコミュニティへの不安

質問者：私も最近ビッグテックを解雇されました。レイオフをきっかけに、フリーランスになることを考えましたが、健康保険や、大手ハイテク企業で普通に見られるようなコミュニティがないことなどが気になってやめました。フリーランスになったみなさんは、健康保険やコミュニティについてはどうでしたか？

アレックス：私はフリーランスとしていろいろと試してみました。自分でたくさんのプロジェクトをやってみたり、いくつかのネットワークと組んでみたり。A.Team（フリーランス向けのプラットフォーム）に入ったのもその1つです。最初は、「ああ、彼らは私から利益を取ろうとしているだけだ」と思いました。でも実際には、ネットワークと一緒に働く方がはるかに良い結果を生んでいます。彼らはあなたがより良いプロジェクトを見つける手助けをしてくれます。

販売活動に時間を費やす必要がないし、うまくいかない時のサポートも豊富です。今では、パートナーネットワークがないと何もやりません。あなたが言ったようなコミュニティ感も得られますよ。

ジョン：時間になりました。以上でこのセッションを終了します。ありがとうございました。