2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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グロービス経営大学院の教育理念である「能力開発」「志」「人的ネットワーク」を育てる場を継続的に提供するために開催されるカンファレンス「あすか会議」。今回は「あすか会議2023」から、ワーク・ライフバランスの代表・小室淑恵氏、フォースタートアップスの代表・志水雄一郎氏、衆議院議員・平将明 氏、そしてNPO法人ETIC.創業者の宮城治男氏が登壇したセッションの模様をお届けします。3回目は、残業を減らすことの価値や、「志」の重要性などが語られました。
各務茂夫氏(以下、各務):小室さんにうかがいますが、さっき上長としてどうするかというお話がありました。AIや生成AI、ややもすると技術的なものがとって代わるようなものばかりですけど、人を巻き込む力は相対的によりみなさんにとって重要になるんじゃないかなと。
したがって、ある種の経営のノウハウや「いろは」を知っていなきゃいけないし、不都合な真実も知らなきゃいけないってことは当然ありますよね。それに対して目を向ける。対峙する。場合によっては本当に困りごとがある現場に行ってその解像度を上げる。
同時にことを成すための人を巻き込む力みたいな話で言うと、小室さん、どういったことを今やっていらっしゃるんでしょうか。
小室淑恵氏(以下、小室):最初に私の個人的なお話をします。宮城さんの話を聞いてすごく懐かしくなったんですけど、宮城さん、30年前に(NPO法人)ETIC.を作ったと言いましたよね。
ETIC.ができて2年後に、それこそ一軒ずつ学生に電話して、「セミナーに来て」と誘われた1人が私でしたよ(笑)。私は28年前の20歳頃、ETIC.が主催する、当時渋谷の真ん中でちっちゃな四畳半でベンチャーをやっていたネットエイジという会社の西川潔社長の話を聞きに行くというのが、ポヤッとした大学3年の私を変えた出来事だったと思います。
ETIC.のインターン生の第1期くらいの感じなんですね。ずっと宮城さんには見ていただいています。ETIC.が私の人生を変えたので、ETIC.から頼まれたことはいつも断らないようにしている。
ETIC.が毎年学生をたくさん育てている中で、当時はもう資生堂に入社していた私がインターンの学生を相手にベンチャーをしていた時の話をしました。当時の私は営業が得意で、ものすごい数で営業を回っていたので、「どうしてそんなにがんばれたのかという話を学生にしてくれ」ということで、毎回毎回学生に話をしていたんです。
そのうち、その学生も継続して面倒を見たくなって、今考えると恥ずかしい名前なんですけど、そのまま「小室ファミリー」というのを作って。
(会場笑)
その卒業生が今や1,000人に上るという。16年以上続けたんです。プレゼンのスキルを資生堂で習ったり、もしくは起業した時に自分で習得する。それを誰かに教えないともったいないと思って、それを学生に教え続けたんです。1,000人のうちのかなりの数が今社長になっています。ジーンクエストの高橋祥子さんとかも卒業生です。
小室:教え続けているうちに、大塚万紀子さんが私の結婚式を手伝ってくれるとか、すごくマメに動いてくれて、彼女とものすごく話をする中で、ぜんぜん年下ですけれど「すごい人だな」と私は思っていた。
私は資生堂、彼女は楽天という仲でしたが、ある日、自分の会社ではできないようないろんな企業の業務をもっとやってみたいと思ったんです。当時でいうと副業です。
資生堂の中で私は経営企画室のいち社員でしたが、他社で大企業の社長秘書をやっていて「でも私は秘書なんかしたくないんだ」と思っている子とか、「もっといろんな商品の企画をやってみたい」「うちの会社ではさせてもらえないから」と思っている子を集めて、いろんな企業の「女性向け商品の企画を勝手にやります」と売り込むメンバーを作り、一緒に活動していた。
私が電車で寝ながら帰っていたら、横で「私は小室さんがいつか起業すると思うんで、そしたらついていくんです」と言っている。寝ていたんだけど、万紀子さんの声が聞こえたんですね。「そうなんだ。万紀子」と思って、起業の時についてきてくれないかなとお願いをしたっていうのが出会いでした。
当時で言うと、資生堂で自分の仕事以外のことをやりたいと思ったらそれをやり、そしてそこに人を巻き込み、いろんな会社の「あなた、モヤモヤしているでしょ」という人を「一緒にやろうよ。お金はぜんぜん儲からないんですけれど、やりたいことをやっていこうよ」と集めていった。
そこに全力で投資していたら、気づいたら右腕ができていたんですよね。なので自分が今どこに勤めているからとか、どこの部署だからということにぜんぜん関係なく、自分の時間の中で「これをやりたい」と思うことに対してアクションをしていく。
その時に一番信頼できると思う人をどんどん巻き込んでいくということをしていたら、いつのまにかメンバーが揃っていたということなのかな。
小室:私は、いつも社会に対して「残業するな」と言っていますが、もし「時間がいくらでもあるんです」「子どももまだいないんです」「結婚もしないんです」という人がいた場合でも、「残業するな」と私は思うんです。
1個だけの世界ではぜんぜんもったいなくて。8時間以内でとっとと自分の仕事を終えると、いろんなものが見える。つまり自分の視野をもっともっと広げるようなものをインプットしにいく意味でも、1個のところにいたら本当にもったいないんですよね。
しかも、これは無意識にですが、「時間がいくらでもあるんです」という人がオフィスにいつまでもいることが、自分の同僚の肩身を狭くしていて。その人のやる気を落としたり、自分に対してすごく複雑な感情を持たれたりして、いつのまにか足を引っ張られるということも起きます。
なので、必ず8時間の中で終えて、もし時間や体力が余っているなら、他のところを助けに行ったり、興味を持つものをどんどん突き詰めてみる。そういうことをすれば、気づいたら起業の準備が揃っているということになるのかな、なんて思います。
小室:私たち、ふだんは企業のコンサルをする仕事ですが、2,000社以上の企業をコンサルしてきて、残業がものすごく減るんです。75パーセントとか減るんですね。でも、その企業の業績はびっくりするくらい上がっています。
「小室さんのところに残業を減らしてもらって業績が下がったよ」なんて言われたことは1回もないんです。むしろ「うちの男性の若手がえらい元気になった」と言って喜ばれるんです。
それはなぜかと言うと、その会社の中では若手の男性が一生懸命がんばっていたんですが、何か自信が持てなかった。仕事を一生懸命やっていないからではなくて、自分を相対的に評価したことがなかったからなんですよね。
それが残業が減って、暇なもんですから社外の勉強会に出てみたり、それこそ志水さんがホリエモンに刺激を受けたように、活躍する同世代を自分の目で見に行く。
これ、最初はちょっと怖いんです。自分の会社にブランドがある人は、そのブランドの中にいればいつもは守られていますから、本当はそんなものは見たくはないんです。だけどぜんぜんブランドもないような会社に勤めている同世代が、自分よりもぜんぜん発言力もあって、発動力もあって、会議をファシリテーションしているなんていう姿を見たら衝撃です。
会社に戻ってきた時に「もっとやらなきゃ」という気持ちになります。結果、離職する人も少しはいるんですが、全体的には離職率は下がっているんですよね。抱え込むから逃げるんです。ですが、「外にどんどん行けよ」「切磋琢磨してこい」とやると、実際離職率は下がるし業績は上がる。
どう業績につながるのかってなかなかイメージしづらいと思うんですが、実際に2,000社の企業にコンサルをやってきた結果、そんな感じですよとお伝えしてみました。
各務:私がおります大学も、いろいろお世話になっています。
小室:東大のコンサルもしているんです(笑)。東大さんは、優秀な方の集まりですが、働き方改革に関しての進度は極めて劣等生な状況です(笑)。すみません!
(会場笑)
各務:すみませんね。鍛えてくださいとお願いしたいと思います。
小室:いえいえ。がんばります。
各務:今のお話で私もいくつか思いましたのは、ネットエイジの西川さんの勉強会ってmixiの笠原健治さんも行っているんですね。やはり最初の起点に飛び込むのはすごく重要なことだと思います。この前の内閣の会議でお子さんを連れて首相官邸に行ったという、ジーンクエストの高橋祥子さんのお話もありました。
各務:平先生、2022年11月に内閣官房から「スタートアップ育成5か年計画」が出ました。私も全部を何回も読んでいまして、網羅性ももちろんあるんですが、かなり現場に近いところで書いているなという感じがするんです。
「スタートアップ育成5か年計画」の政府としてのお考えと、そういった観点からキャリアを目指す人材についてのリンクの部分を、平先生からお願いをしてよろしいですか?
平将明氏(以下、平):まず宮城さんの話はまったくそのとおりだと思っていて、やはり「志」だよなと思っているんですよ。私もいろんな経営者やいろんな政治家を見てきましたが、自分が金儲けしたいとか、なんちゃらヒルズに住みたいからみたいな、志の低い人もいるじゃないですか。
(会場笑)
平:たまたまうまくいって時流に乗って注目されるんだけど、やはり自分の志以上に注目されちゃうと、2年から3年で崩れるんですよね。志を高くすればするほど、良質な人材と良質な資金が集まってくるんです。低いとタチの悪いやつとタチの悪い金が集まってくるんですよ。
志を高くするのって、別にここで学ばなくても、本を読まなくても、今この瞬間に自分の心の中でするだけの話なので、誰も教えてくれないと思うんですね。それはそうしたほうがいいですねと。
その上で今日のテーマのAIは使い倒したらいいと思いますよ。それはなぜかと言うと、まず小室さんの世界で言うと、部下としてこき使ってもAIは心を病まない。心が病まないのなら、どんどん使ったらいいです。
あと我々が一生かかっても読めないだけの文章を読み込んでいる。プロンプト次第でいろんなのが出てくるので、AIは使いこなす。AIは人格もないですから、志もないです。あいつらは所詮その程度ですから。あいつらという言い方もおかしいけど。
(会場笑)
平:ただ一方で、めっちゃいろんなものを読み込んでいるので、プロンプト次第では我々人間が思いもつかない答えがパラメーターから導き出されるわけです。だから使い倒したらいいですよと。
平:あとはスキルや資格じゃないなと思っています。私が前回ここに呼ばれた時は、國光さん(國光宏尚。gumi創業者)とかとWeb3の話をしたんですよね。そうしたら世の中ではWeb3はもう終わった、これからAIだねとなっていると指摘する人がいたんです。でも、これ、バカだと思われますから言わないほうがいいですよとアドバイスしました。
なぜならブロックチェーンの世界は、AIが発展するとものすごくセキュアになって、さらにいろんなことができるようになるので、相互作用しながらパラレルで進んでいくんですよ。そうすると、メタバース空間ですごいAIアバターが出てくるんです。
すごく楽しい世界が生まれるんだけど、そこにたぶん恋人商法とか、いろんなものが出てきたり、いろんなことをする。大事なのは、こういうテクノロジーが出てくるとどう波及して、テクノロジーがどう転ぶかというイマジネーションなんですよね。
今までの政治家は法律に詳しくて、立法事実があると、それをどう解決するかが我々に必要とされるスキルだったんだけど、それはもう当たり前として、それ以上に、一番求められるのは「こういうテクノロジーが出てきたら、どっちに跳ねるかわかんないけど、こんな世界が起こりうるよね」というイマジネーションです。
あと構想力が求められているので、ちょっとした資格のスキルはみんなAIにとって代わられるので、そういうことはやめましょうということだと思います。
スタートアップは真剣にやっています。今回は中小企業政策じゃなくガチのスタートアップ政策です。今度、スタートアップ・キャンパス構想で恵比寿に拠点ができますけど、ここにMITが来ることが決まっています。
スタンフォードが「俺たちは行かなくていいの?」と言っている状態です。日本としてフルスペックでやる方向に定まったら、ぜひ政府の文章をよく読んで参加いただければと思います。
各務:「志」はグロービスさんの中でもけっこうキーワードだと思うんですが、たまたま志水さんのご友人である孫泰蔵さんに大学で講義してもらった時、彼がこう言ったんですね。
「実は人間のエゴはけっこう重要である。これが人間のエネルギーの本質である。だからもっと我をどんどん出していい。我の矛先が社会性、公共性を帯びる時があって、その時そのエゴのことは志と言っていい」と。孫泰蔵さんから教えてもらった言葉の1つです。
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