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【トークセッション】VUCAの時代を生き抜く! 優秀な人材の定義と育成(全2記事)

自社で大谷翔平級のスーパーエースを育成するのは難しいが… 組織全体の競争力が増す、“2割8分打てる社員”の増やし方

「VUCA時代の人材をいかにして定義・育成し、組織で生かすか」をテーマに、NTTビジネスソリューションズが開催したイベントに、『「組織のネコ」という働き方』の著者・仲山進也氏と、『ハイパフォーマー思考』の著者・増子裕介氏が登壇。今回は、「優秀な人材の定義と育成」をテーマに語り合ったトックセッションの前半の模様をお届けします。

『「組織のネコ」という働き方』への共感

成田佳郎氏(以下、成田):NTTビジネスソリューションズの成田です。先ほどご紹介いただきましたとおり、人事の経験、そして営業の経験、開発の経験を踏まえて、今、増子さんと一緒に「totoma」というHR系の事業、サービスを展開しています。

第3部のトークセッションでは、あらためて「優秀な人材の定義と育成」について、お二方と深掘りをしていければと思います。どうぞよろしくお願いします。

増子裕介氏(以下、増子):よろしくお願いします。

仲山進也氏(以下、仲山):よろしくお願いします。

成田:トークセッションの論点は2つ設定しています。「OS(思考・行動)」あってこその「アプリ(スキル)」というところが1つ目。2つ目は、人は「育つ」のか、「育てる」のか。この2点について、議論をしていければと思います。

まず1つ目の、「OS(思考・行動)」あってこその「アプリ(スキル)」ということについて。増子さんのご講演の中にもあった「リスキリング」についてです。

昨今、ITやDXなど「テクニカルスキル」がフォーカスされて、技術の人材育成をやっていくことが今の社会や企業の風潮ではないかと思います。そして、先ほどの増子さんのご講演の中にあった、ミドルシニア層が「不活性化」しがちな要因は、「テクニカルスキル」に重きを置いているからではないかということについてです。

(スライド下の)普遍的な「OS」がしっかりしていないと、いくら「アプリ」が良くても動かないという文脈について、少し目線合わせができればと思います。

増子:あらためましてよろしくお願いします。もともと、今日は何でこういう座組になったかと申し上げますと、私の『ハイパフォーマー思考』を読んでくれた友人から、「お前と非常に近い思想で書かれている本があるよ」と紹介があって、信頼している友人が言うんだったらと思って読んでみたのが、『「組織のネコ」という働き方』でした。

読んでみたところ、本当に「なるほどな」ということがたくさんある。大きく2つあって、1つは自分自身がトラかネコかはわからないですけど、明らかにそちら側の人材であったということですね。

電通の人事局で誰から何も頼まれていないのに、オリジナルの人事ソリューションを開発し、クライアントからフィーをいただいていたんですが、評価にはまったくつながっていなかったんですね。

仲山:人事部で、必要ないのに事業で売上を立ててしまった。

増子:そうなんです。そうなんです。元々評価されるためにやっていたわけではないんですね。それで、(『「組織のネコ」という働き方』の内容に)「なるほどな」と。つまり「自分がネコだったのか」という話が1つ。

「組織のトラ」と「ハイパフォーマー」の共通項

増子:もう1つは、もうちょっと大きな話で、「OS」「アプリ」の例えで言うと、知識、スキルのほうに目が行きがちだけど、「OS」の話をずっとされている方だなと思ったわけです。

まったく面識もなかったんですけどあまりに感動したので、本のあと書きのところにメールアドレスがあったのでメールを送ったら、ありがたいことにお返事をいただいて。「一度Zoomでおしゃべりしませんか」と盛り上がり、今回につながっているので、自分の本にも書きましたが、人との縁を大切にするということの実践版かなという気がしています。

もうちょっと細かい話で言うと、「“組織のトラ”の共通特性」という10個を上げてらっしゃいました。私も「“ハイパフォーマー思考”プラスアルファ」を先ほど12個あげましたが、すごく合致しているなとあらためて痛感しまして。

例えば、「社名より使命で働く(社内で浮いている)」は、自分もそうだったなと思うんですけど。

仲山:(笑)。

増子:「ハイパフォーマー思考」の真逆を先ほど書きました。これに該当するのが、おそらく(右⑥の)「『仕事は仕事』とWorkに徹する」という人。これはイヌですよね。

もう1つ、(左③の)「突出した成果と個性がある(お客さんの一部に熱狂的ファンがいる)」は、(右④の)「自分の軸がない」の逆じゃないですかという話。自分なんかは軸があったから、それなりに増えていったんだろうなという話だけれども。

仲山:(右の)2番(「失敗するかも…」と考えて動かない)ともつながっていそうですよね。

増子:そうですね。そう思います。なので、けっこう一対一対応プラスアルファですごく似てるなと。(左⑤の)「1人で全部やる『一気通貫型』の仕事をした経験がある」もそうですね。

悪い意味ではないけれども、私の古巣を含めて大きな組織で歯車的な仕事ををやっていれば、何となくパフォーマンスが上がる部分があるじゃないですか。で、そういう人が独立すると「あれ、こんなはずだっけ」となるケースが残念ながら散見されるわけですよ。(右⑦の)「自分の仕事はここまで」と線を引いちゃっている人ってこうなりがちです。

大組織においても、例えばコピーライターだけど営業的なこともやっているとか。クリエイティブディレクターだけど、メディアのことにも興味を持っているみたいな人が、ハイパフォーマーなんですよ。なので、組織にいたとしても、線を引かないほうがハイパフォーマーだというところも一致しているなと思いました。

それから、(左⑧や⑨の)「社外の人とチームをつくっている」「人をつないだり自走支援の活動をしている」は、一見するとトラやネコは一匹狼ってイメージなので、いい意味で意外ですよね。人とのつながりを持って何かができるところも、私のハイパフォーマー分析と一致しているんです。(右⑩の)「人との縁を大切にしない」人って真逆なので、これもすごく呼応しているなと思ったわけですね。

さらに言えば、一番大事なことって(右⑨の)「新たに学ばず、自分をアップデートしない」かもしれないなと思っているんですけどね。基本思想は同じでも、OSもアップデートしないといけない。Windows95のままだと今は通用しないわけですから。

例えば今なら生成AIについて勉強しないって、ちょっといかがなものかと思ったりもするので、世の中の流れをちゃんとキャッチアップしているかどうか。これって知識やスキルじゃなくて、明らかに思考・行動様式の話じゃないですか。

なので、自分がネコ・トラ系であるということもさることながら、仲山さんは「OS=思考・行動様式」の大切さを強調されているので、この人と話をするとさらに広がるんじゃないかなと思って、人との縁を大切にしてみたというのがベースでございます。

トラが活躍できるようにならないと、新しいものは生まれない

増子:とはいえ、ここまでは私の一方的な感想でもあるので、仲山さんの資料を映しながら、仲山さんのご意見も「OS」にフォーカスしながら承れればと思います。

仲山:そうですね。その前提として、増子さんの言われているハイパフォーマーって、僕のさっきの動物4種類だと、上がハイパフォーマーになるんですけど。

成田:ライオンとトラもということですよね。

仲山:ライオンとトラがハイパフォーマーなんですけど、増子さんのハイパフォーマーはトラっぽい位置づけということで合っていますかね。

増子:合っています。それはおそらくVUCAの時代だからだと思っています。私が社会人になった1989年みたいに、従来型の延長のイヌ・ライオン系も価値を生み出せていた時代なら、それはそれで良かったと思うんですけど。

仲山:まずはトラが活躍できるようにならないと、新しいものは生まれていかないということですよね。

増子:なぜなら現状は、さっき仲山さんがお見せいただいたようにライオン・イヌがマジョリティであるだけに、意識的にトラ・ネコを増やしたり、あるいは居心地を良くしていくことをしないと、さらに絶滅危惧種化していく可能性があるかなということですね。

野球とサッカーのOSの違い

仲山:ありがとうございます。さっき僕が話したところで言うと、昭和OSと令和OSは違いますよねってことだと思うんですけど。もうちょっとわかりやすくするために、野球とサッカーのOSで考えてみるといいかなと思って用意したのがこのスライドです。

野球って基本安定した世界観で進んでいくゲームで、ポジションとか固定だし、攻守もターン制で入れ替わっていくし、プレイヤーの働き方も分業制ですよね。仕事のしかたも監督の指示に従わないと怒られる。チームワークは、他の人の邪魔をしないのがいいチームですと。あとはエラーが個人に記録されるかたちでつくのが野球ですよね。

野球とサッカーを比べる時、僕の知っている人で野球チームとサッカーチーム、両方持ってる人がいまして。三木谷浩史さんという人なのですが。

三木谷さんが2004年にヴィッセル神戸、2005年に楽天イーグルスを始めた時に、両方始めてからほどないところで、全社ミーティングで「両方をやってみて、自分たちがやっているビジネスは、野球よりもサッカーに近いという印象を持っている」と話していて。

それを僕が言語化するとこういう感じかなというのが、この対比なんですけど。サッカーは流動的で、ポジションは一応決まっているけど他の部署でうまくいっていなかったら、そこのフォローに行かないと全体がガタガタになってしまう。だからお互いに「どう動こうか」というのを擦り合わせながらやっていかないと、うまくプレイというかパフォーマンスが上がっていかない。

あとは監督がいるけど、基本、展開が流動的すぎるし、攻守もどんどん入れ替わっていくので、全部を指示しようと思っても指示しきれない。結局プレイヤーが自分で考えて動けるような状況を作れないとどうにもなりません、というのがサッカーというスポーツの特徴だと。

あと、人間の一番器用な手を使ってはいけないという謎ルールがあって、ほぼみんなミスをするわけですよね。ボールを奪われることはミスをしたと考えると、90分間延々とミスが続いて、そのミスをどうやってフォローし合うかみたいなゲームなわけです。それと、今のVUCAな時代って近いと思っています。

増子:なるほどね。

弥生OSから縄文2.0へ

仲山:もう1個ありまして、急に縄文と弥生文化が出てくるのですけど。

僕はチームビルディングみたいな活動をやる時、基本的なOSとしては、サッカー型のチームみたいにみんなで意見を擦り合わせながら、自分たちでパフォーマンスが出るやり方を編み出していくような仕事のしかたができる組織って重要ですよねと、ずっとやり続けているんですけど。

それを考えた時に、逆OSのいわゆるヒエラルキーで指示命令によって動かしていく組織のかたちって、いつできたんだっけと考えてみたら、遡ると稲作が始まった時だと思い至りまして。

稲作はだいたい時期によってやることが決まっていて、1人ではやりきれないボリュームなので、みんなで手分けをしてやることで収穫高が最大化する仕事です。それを上手に指示できる人が、ボス的な位置づけになったんだろうなと。

逆に、弥生の稲作が始まる前は縄文時代ですけど、縄文時代ってどういう感じだったかと言うと、基本フラットで、長老はいるけど別にボスではなくて、知恵的強みを持つ人という位置づけです。あとは狩猟採集してきたものを、みんなで食べるシェアの文化でした。

あと、例えば山の中に住んでいる人は塩が取れないので、海から「塩を持ってきたよ」っていう塩的強みを持つ人と物々交換しながら、協力して生活していたわけです。土器も、火焔土器みたいにアートな感じに装飾されていて、シンプルで実用的な弥生土器とは全然違うわけです。

こうやって対比してみると、3,000年前に始まった弥生OSの賞味期限がそろそろ切れてきて。ネットが生まれたことによって技術革新が起こって、縄文2.0的な価値観がネットを通じたらできるようになりました。

物理的に一緒にいるコミュニティじゃなくても、ネットでつながっているコミュニティとしてシェアードサービスがいろいろと出てきています。というわけで、令和OSとは、「弥生の流れから縄文2.0へのらせん的発展」だと捉えています。

成田:「OS」あってこその「アプリ」という文脈からすると、お二人ともテクニカルスキルではなく、「OS」が大事であるというお話をされていて、VUCAな時代がゆえに、これまでの成功している「OS」をアップデート、もしくはインストールし直さないといけないといったところが共通点かなと思います。

仲山:そうですね。

増子:はい。まさにそのとおりだと思います。

自社で大谷翔平級のスーパーエースの育成はたぶん無理

成田:今のお話を踏まえて、「OS」をどう組織にインストールしていくのかという文脈で、「人は『育つ』のか『育てる』のか」という2つ目のテーマに進めさせていただければと思います。

増子さんから、議論を活性化させる論点を提供いただけるということで、よろしくお願いします。

増子:思考・行動は「OS」なので、そう簡単に変わらないという前提があるとするならば、どうすれば成功率高く、自分で育てたり、外部から育てるサポートができるかが次の論点ですね。いくつか私から論点を提示した上で議論できればと思います。

まず私がやったことの1つとして、先ほどご説明した電通インドネシアでの成功体験があります。ハイパフォーマーがしていることを言語化して、評価制度に入れて「とにかくやれ」と。「やったら評価します」ということをやりました。

ただ、これはこれで難しいところがありまして、思考・行動は学説的にも外圧では変わらないと言われているんですね。知識・スキルは「いいからやれ」で詰め込み的にもできるんだけど、思考・行動は自分自身が「なるほど」と腹落ちしないと変わらないというところがある。

インドネシアのケースで言うと、非常に素直な国民性というところと、日本の電通に対してリスペクトを持ってくれていたのでうまくいったんじゃないかなと。これを日本の電通でやろうとすると、「評価制度は管理のためのツールである」というネガティブな認識がある。

なので、『ハイパフォーマー思考』にも書いたんですが、ベースにある考えは、(スライドの)大谷翔平やイチローを計画的に育成するのは不可能だと。組織や企業を見た時に目立つのはこの超ハイパフォーマーで、電通でも、トップクリエイターやスター営業が目立つんだけど、大谷翔平を人為的に育てるのって、たぶん無理じゃないですか。自然発生ですよね。生物学的に言うとむしろ突然変異に近い。

なので、大谷翔平を9人揃えることは無理だと割り切る。でも、大谷翔平やイチローがやっていることを因数分解すれば、凡人も真似ができる要素があるので、それを見える化して、2・6・2の真ん中の中間層が底上げされれば、組織全体の競争力が増すはずだというのがベースにある思想なんですよ。

野球が好きなので野球の例えが続くんですけど、大谷翔平やイチローに学ぶことで2割5分しか打てなかったバッターが、2割8分打てるようになるということです。3割5分打つバッターは突然変異であるという前提に立っています。ただ、一見地味ですけど、中間層は数ではマジョリティなわけで、8番バッターや9番バッターが2割8分打つ打線って相当手強いですからね。

ハイパフォーマーが育つ2つの条件

増子:今まで1,000人のハイパフォーマー分析をやってきて、「こうすればハイパフォーマーが育つ」という条件が2つあります。

1つが、「ハイパフォーマーとのコンタクト」です。

でもこれだけではダメで、そのハイパフォーマーのどこを真似ればいいかを言語化できたら完璧なわけですよ。なんだけどもおわかりのとおり、ハイパフォーマーって数が少ないからハイパフォーマーなわけです。

仲山:トラと出会うことが大事ですね。

増子:そうなんです。

成田:コンタクトできるかですよね。

増子:ハイパフォーマーは必要な要素を自分で見つけているから素晴らしいわけですが、6割の中間層は自分では見つけられないという前提です。電通の時は百数十名のハイパフォーマーインタビューをやりました。そこから抽出された十数個の思考・行動様式を言語化したんですけど、トップクリエイターやスター営業の発言そのものに非常に教育的価値があることがよくわかったんですよ。

「何であの時ああいうCMのアイデアが浮かんだんですか?」「けっこう揉めたと聞きましたけど、どう揉めていたんですか?」みたいなところを深掘りしたやり取りを読むと、バーチャルOJT的に、その人と一緒に仕事したような効果が生まれると考えまして。抽出箇所だけではなく、インタビュー全文を読んでもらうかたちにしたところ、実際にOJT的な効果が現れました。

電通インドネシアほど明確ではないですが、一定の教育的効果があった。かなり手取り足取りではあるけれども、そこまでやった甲斐があって、「ハイパフォーマーの思考や行動を実際に真似てみた」「アウトプットのクオリティが上がった」など、具体的な効果が出たということです。

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