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木村祥一郎さんとザッソウ第2回 木村石鹸の自己申告型給与制度(全2記事)

“評価すること”をやめ、給与額は社員が自分で交渉する 老舗メーカー・木村石鹸がユニークな制度を導入した背景

ソニックガーデンの代表・倉貫義人氏と仲山考材の仲山進也氏が、毎月さまざまなゲストを迎えて「雑な相談」をするポッドキャスト『ザッソウラジオ』。今回は創業100年を迎える木村石鹸の社長・木村祥一郎がゲスト出演。木村石鹸が、社員が自ら給与額を交渉する「自己申告型給与制度」を導入した背景を明かしました。 ■音声コンテンツはこちら

大正13年創業・老舗メーカーの代表がゲストに登場

倉貫義人氏(以下、倉貫):倉貫です。

仲山進也氏(以下、仲山):仲山です。

倉貫:ザッソウラジオは、倉貫と「がくちょ」こと仲山さんで、僕たちの知り合いをゲストにお呼びして、雑な相談の「ザッソウ」をしながら、広くおしゃべりをしていくポットキャストです。ゲストは大正13年創業、木村石鹸工業株式会社、代表取締役社長の木村祥一郎さんです。2回目の登場となります。よろしくお願いします。

木村祥一郎氏(以下、木村):よろしくお願いします。

倉貫:ということで、第1回からほぼ3人がはじめましてという、緊張感のあるスタートでした。

仲山:(笑)。

倉貫:「組織図を作らない」という話でいったん盛り上がりました。前回の話を聞いていて、不確実なものを不確実なまま受け入れていくと逆に未来があったり、可能性が広がると思って。

ちょうど前回の話で思い出したのが、僕らの会社も新卒を採用するようになっていて。会社には、エンジニアのコースとコーポレートのコースと2つあるんですが、エンジニアの会社なのでほとんどがエンジニアなんです。

キャリアと言うほどではないんですが、エンジニアのほうはわりと先輩がいるので、何の技術を磨いて、何を身につけて、どういうスキルが必要だとか、「こういうことできたら、これぐらいの仕事ができるようになる」という道筋が見えている。

一方でコーポレートのほうは、会社がそんなに大きくなくて、人も少ない中で、ほぼ経営者だけで回しているような状態だったんです。だから、何をやれば次は何ができて、何ができるようになったらどういうことができるのかがわからない。

個人の成長は会社の成長とともにある

倉貫:大きな会社だと人事部に配属されて、人事の仕事をして、そのあとどこかで採用の仕事に関わったり、広報だとかいろいろなキャリア展開があると思うんです。

(ソニックガーデンには)部署はないし、ごちゃごちゃっとやる。「(コーポレートは)会社のためのいろいろなことをやるんです」となっているから、新卒の学生さんに「ソニックガーデンさんのコーポレートで働くと、どういうキャリアなんですか?」と言われて。

「キャリアが決まっているんでしょうか? 御社で私のキャリアプラン、あるんでしょうか?」って言われて……ない!

仲山:(笑)。

倉貫:最初はいろいろ考えたんだけれども、今はもう「ないです」と。会社がどうかなっていく時に、いろいろなことをやっていかなきゃいけないので、その時その時でいろんなことを身につけてもらう。

会社の成長とともにしか個人の成長はないし、3年後、5年後、10年後に会社がどうなっているかもわからないので、「あなたのキャリアパスは約束はできないです」と。

「変化を楽しんでくれるとしたら一緒にやっていけるし、(キャリアパスが)決まっていないと不安ですというなら、他の会社に行ったほうがいいですよ」という話を正直に言うようになって。残る人しか残らなくなったという感じですが(笑)、それと同じ話を感じましたね。

会社側がキャリアプランを提示するのはあまりよくない?

木村:キャリアプランって、「会社が提示しないといけない」みたいなのがあるじゃないですか。僕も前職で新卒を採る時に、「キャリアプランが見えないと不安だろう」「若い人たちもキャリアプランが見えたほうがいい」という思い込みがあったんですが、それってすごい大きなお世話なんじゃないかという気がしていて。

会社が「こんな見本がありますよ」って、一例として出すのはいいかもしれないですが、別に会社には義務もないし。当然、社員もそれに乗っかったらいいわけでもないじゃないですか。

自分の興味や関心もどこで変わるかわからないし、自分の能力が何に向いていて、何に発揮されるかも、やってみないとわからないことがいっぱいある。

キャリアプランを会社が出すことって、あまりよくないんじゃないかなと個人的には思っているんですよね。うちも6年前から新卒を採り始めて、新卒の子たちに「キャリアプランとかはない。自分で考えて」と言っています。

ただ、自分で自分の人生をデザインしたり、考えるきっかけとして、一年に一回、社内でワークショップを用意していて、そこで自分の人生を考えてもらうようにしてます。会社が提供するのはそこまでで、あとは自分でやってねと。

倉貫:そうですね。

不安ゆえに、みんなロールモデルを欲しがる

倉貫:何かで読んだんですが、「キャリア」の言葉の由来としては、もともとは別にプランの話ではなくて、過去のことらしいですね。馬車が通ったあとにできる轍のことを「キャリア」と言うらしい。

木村:なるほど。

倉貫:なので、「どんなキャリアを歩んできましたか?」って聞かれたら言えるけど、「キャリアプランはどうですか?」というのはこれから先の話だから、轍を先には言えないな、という感じはしてはいて。

木村:なるほど(笑)。

倉貫:過去と未来のスタンスの違いに通じている感じはありますね。

木村:それはすごくいい話ですね。なるほど、軌跡なんだ。

仲山:キャリアをレールにしてください、ということですもんね。

倉貫:「この先のレールをください」って言われても、そのレールに乗りたいの? って思う(笑)。「うちは(自分で)車を運転する感じなんですけど」みたいな。

木村:(自分で運転して)どこかに行きたいのに。

倉貫:「人生のレールに乗りたいですか?」って、嫌だなってなるけどね(笑)。

木村:ねぇ。たぶん、普通はそうですよね。

仲山:僕も「楽天で唯一変な働き方です」みたいな話をするじゃないですか。そこで出てくる質問が、「社内にどういうロールモデルがいたんですか?」。いるわけないじゃん、1人しかいないのに(笑)。

(一同笑)

仲山:みんなロールモデルを欲しがりますよね。

倉貫:ロールモデルを欲しがるよね。

木村:欲しがりますよね。

仲山:しかも、僕が「こんな感じでした」というのを聞いたあとに、「うちの会社の中にロールモデルが欲しい」って、みんな言いがちな気がするんですよね。

倉貫:不安になるのはわかりますけどね。

木村:不安。そうですよね。

倉貫:若いうちにどうなるといいんだろうか? みたいな。「目の前のことを一生懸命やるしかないよな」っていうことになるんですけどね。

木村:そうね。

計画はガチガチに固めず、柔軟性を残しておく

倉貫:組織図もキャリアプランも作らないとして、ここまではほぼ僕らも一緒なんですが、計画みたいなものは作るんですか?

木村:一応、計画はありますね。どうしても製造業は大きい投資があって。

倉貫:そうですね。

木村:工場とかを建てるのはけっこうな大きい投資で、しかも何十年と縛られてしまう。そもそも投資をやるか・やらないかもあるんですが、うちは自前で工場もちゃんと持って製造をやる。それがうちのキャラクターなので、ある程度長期の見通しは作るようにしている。

でも(その計画は)どっちかというと金融機関さん向けです。社内にも一応ありますが、「絶対に死守しなきゃどうしようもない」というかたちで使っているわけではなくて。

社内向けには、「大きい方向としてはこうしていきたい」「比率としては、自社の商品の比率をこれくらいにしたほうが利益率も高い」というふうには使っているんですが、厳密にガチガチに計画を作ってマネジメントするかたちではやっていないです。

倉貫:なるほど。決めて、そのとおりにやるための計画ではないよということですかね。

木村:はい。でも、どっちにしろ(計画しても)できないじゃないですか(笑)。ほとんどの場合、そのとおりにはならない。いきなりコロナになったりして。

倉貫:そうなんですよね。

木村:あまり意味がないなと思っていて。ガチガチに考え過ぎたら動きづらくなるし、目の前にちょっとおもしろいなと思うチャンスがあった時に、柔軟に首を突っ込んだり、手を出せるほうがいいだろうし、あまり決めないようにします。

賃金は「過去の結果」ではなく「未来」に支払う

木村:でも、やはり社員にはいろいろ言われますけどね。「もっと明確なビジョンや方向、戦略はないのか」と言う人も当然いますが、ないと(笑)。

倉貫:「ない」と(笑)。潔いです。

木村:「こういう可能性がある」とか、逆に教えてほしいんですよね。

倉貫:そうですよね。僕も、未来のことをあまり決めないようにしている感じはあって。未来のことを決めてしまうと、あとはがんばるだけなんだけど、「がんばるだけっておもしろくないじゃない?」というのもあるし。

チャンスも逃す可能性もあるので、未来を見通して決められるほどの未来予測力と胆力があるわけがないので。

未来は決められないけど、「今この瞬間、どっちがいいのか」とか、決めなきゃいけないことは意思決定の仕事として決める。だけど、今この瞬間を決めるのか、未来のことを決めるのかというと、わりと「今この瞬間」にフォーカスしている感じがあるんですよね。

木村:だから会社としては、未来の大きなことを決定して動くことはあまりせず、(その中で)どこまでリスクを取れるかということですね。最悪のケースにならないようにはしないといけないので、その計画や予測はやっていますが。

ただ会社としては、社員に対して「未来に対して自分はどういう価値を提供するか」「自分が何をしたいか」を提案してもらう。報酬や賃金を「過去の結果」ではなく、「未来」に対して支払っていくものにして、行動を促したいなとは考えています。

倉貫:それが「自己申告型給与制度」になっていると。

社員自ら給与額を交渉する「自己申告型給与制度」

倉貫:これ(自己申告型給与制度)、いつからされているんですか?

木村:たぶん、導入したのが2019年だと思います。

倉貫:じゃあ、3~4年くらい運用されている。

木村:そうですね。4年目に入ったんですよね。

倉貫:どんなやつなのか、簡単にリスナーの方に教えてもらえると。

木村:簡単に言うと、社員自身がやろうとしていることや、「こんな価値を提供します。これくらいの給料がふさわしいと思います」というのを会社側に提案をする。提案したやつが全部通るんじゃなくて、提案した内容で交渉するわけです。最終的に合意を取ったところで、給与とやることが決まるという制度です。

倉貫:じゃあ、給与は本人が言い値で「おいくらで」と言ってくる感じになると。

木村:まずは、基本的にはそうですね。

倉貫:ミソとしては、「自分の給与はこれです」と言うだけじゃなくて、提案を合わせて言うことなんですかね。

木村:そうですね。もともとはそういう制度がなかったんですが、適当……と言うと怒られそうですが(笑)。僕が全部決めていました。

倉貫:まあまあ(笑)。適切にね。

木村:「あとは文句があったら言ってきてね」という感じでやってたんです。

そもそも人を評価すること自体に無理がある

木村:何かしら制度を入れたいなと思っていた時に、前職でもいろいろな給与制度や評価制度をやったんですよ。でも、どれもしっくりこないというか。

倉貫:そうね。

木村:そもそも「評価するの無理やな」っていうのがあって。今の大半の評価制度って、過去の結果をなるべく正確に評価しようということで、いろんなツールや制度が出来上がっていると思うんです。

なるべく公平に客観的にやった上で、適切に賃金に反映させることで、不平等感をなくしていこうというのが評価制度だと思うんですが、そもそもやっていることを客観的に・平等に・公平に評価するのは無理だろうと(笑)。

倉貫:そんなものは無理ですよ。

木村:無理じゃないですか。極端に言えば、成果で全部測るとか。でも、メーカーで成果だけで測るって、何をもって成果になるのか。

商品を作る人もいるし、売る人もいるし、中身を開発する人もいるし、全員がいないと成り立たない。じゃあ何を成果とするのかというと、それも決められない。だから、そもそも評価をやめようということになりました。

倉貫:おもしろくなってきた(笑)。

仲山:(笑)。

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