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セブン・イレブンの生みの親が、「わざわざ」経営の原点(全2記事)

ベストセラーの経営本を読んでも、自分にはできないし無理… 「わざわざ」平田はる香氏が、初めて共感した“1冊の本”とは

経営者、事業責任者、マーケターからPRパーソン、デザイナーまで、業界業種を問わず、企画職の誰もが頭を悩ます「ブランディング」をテーマに、じっくり向き合う音声番組「本音茶会じっくりブランディング学」。今回のゲストは、長野県にあるパンと日用品の店「わざわざ」代表取締役社長の平田はる香氏。第一部の前半となる本記事では、平田氏がさまざまな書籍を読む中で、最も共感したという“ある経営者の本”についてピックアップします。

年商は3億円、山の上のパン屋「わざわざ」

工藤拓真氏(以下、工藤):この番組は、業界や業種を越えて、生活者を魅了するブランド作りに本気で挑まれるプロフェッショナルの方々と、ブランディングについて、Voicyさんが構える和室でじっくりじっくり深掘るトーク番組です。

こんばんは。ブランディングディレクターの工藤拓真です。今日のゲストは、株式会社わざわざ代表の平田はる香さんです。平田さん、よろしくお願いいたします。

平田はる香氏(以下、平田):よろしくお願いいたします。

工藤:平田さんは、noteもだしTwitterもだし、いろんなところに露出されてらっしゃるので、ご存知の方も多いんじゃないかなと思うんですが、あらためて簡単に自己紹介いただいてもよろしいでしょうか?

平田:はい。株式会社わざわざの代表の平田はる香と申します。2009年に、長野県東御市という人口3万人の小さな町の山の上で、趣味であった日用品の収集とパンの製造をかけ合わせた、パンと日用品のお店「わざわざ」を開業しました。

そのあと、だんだんとスタッフの人が増えていって、お客さまも増えていって、2017年に法人化しました。2019年に東御市の公共施設の中に業務委託で、2店舗目となる喫茶とギャラリーと本屋を併設した「問 tou」というお店を作りました。

数字の話になっちゃいますが、2020年度に、コロナを経て従業員が20数名になっていたんですけれども、その時に年商3億円を突破して。

2023年に3店舗目となる、コンビニプラス直売所型店舗の「わざマート」という店を出店して、またその横に「よき生活研究所」という体験型施設をオープンしたというのが、わざわざのやっていることになります。

各業界人からも注目を集める平田氏の手腕

工藤:本当にすごいですよね。今日はその経緯みたいなところも、いろんな文脈でお話をうかがえればなと思っております。

平田:はい。

工藤:この番組は、いわゆるマーケッターや企業のブランディングに関わってますとか、PRをやってますといった方々が聞く番組になっています。先ほど楽屋裏的にお話をうかがったら、広告業界の人との交流・対話がすごく集中的に起こってらっしゃるとお聞きしました。

平田:そうですね。最近は多くなってます。

工藤:たぶんみんな、そういう平田さんから学びたいことがあると思います。

平田:いやいや、私が学びにいっていると(笑)。

工藤:いやいや。いろんな文脈があるんじゃないかなと思っていまして。僕もいろんなメディアに出られているのを拝見してるんですが、ふだんは「どういうお店作りをされているか」とか、今日もそういうお話に及ぶかと思うんですが、切り口として「ブランディング」というタイトルを一応打たせてもらってます。

「この素敵な世界観や商品を、いったいどうやって作ってるの?」みたいなことにフォーカスを当てながら、お話をうかがっていければなと思っております。

平田:わかりました。

工藤:この番組で、「わざわざってどうなってるんですか?」「平田さんってどんなことを考えてるんですか?」とオープンに聞いていくと、ふだんメディアで答えられているようなこともけっこう出てくるかなと思ってます。

ちょっと角度を変えたいなという思いもあり、ご著書を拝見する中でも、「もしかして読書がけっこう好きなのかもしれない」みたいなことも感じました。

平田:そうですね。わりと好きなほうだと思います。

工藤:そうですよね。

「わざわざ」を作ったブランディングの教科書3選

工藤:今日は「私のブランド作りの教科書3選」というかたちで、わざわざ、あるいは平田さんを形作った3冊をご紹介いただきたいなと思ってます。

平田:わかりました。

工藤:すみません、それこそわざわざ本をお持ちいただいちゃって(笑)。ご紹介いただいてもよろしいですか?

平田:はい。「ブランディングの教科書3選」と言われて、どうしてこの3冊が頭に思い浮かんだのか、私も今日は謎解きに来たんですけど。

工藤:なるほど、そうなんですか(笑)。

平田:話しているうちに理由が説明できそうな気がしたので持って来たんですが、まずは谷崎潤一郎さんの『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』という本。あとはセブン-イレブンの鈴木(敏文)さんの『変わる力(セブン‐イレブン的思考法)』という本の2冊を持ってきました。

工藤:めちゃくちゃおもしろいですね。もしかしたら、平田さんのことを知ってるよという人は「なるほどね」って思うでしょうし、人によっては「なんでそれ?」みたいなところがあるような2冊かなと。

平田:そうですね(笑)。

工藤:そして最後に。

平田『山の上のパン屋に人が集まるわけ』ということで、(2023年)4月28日にサイボウズ式ブックスから発売された自分の本を紹介したいと思っています。

工藤:すてきです、ありがとうございます。僕もドッグイヤーの嵐ですので、いろいろとうかがえればなと思っております。

起業の原点は「人の役に立ちたい」という思いだけ

工藤:この2冊(『陰翳礼讃』と『変わる力』)、なかなか距離がある2冊だなと。

平田:距離がありますね(笑)。

工藤:まず、どちらからうかがうのがよろしいですか?

平田:そうですね。めんどくさそうなおじさんという点では、2人とも近しい。

工藤:なるほど、そういう点か。

(一同笑)

平田:かもしれないです。

工藤:いずれの2人も、ただごとではない感じのことを語ってきますね。

平田:そうですね。

工藤:そうしたら、鈴木さんの(『変わる力』から)。

平田:そうですね。私は、経営をしたいとか、お店を作りたいとか、起業家になりたいという観点で開業したわけでは別にないので、「まずは自分のできることを集めて何かをやろう、人の役に立ちたい」っていう気持ちだけでお店を作ったんですね。

なので、何か大きな目標があったり、「社会を変えたい」とか最初から言っていたわけではなかったんですが、だんだんと経営していく中で「これはまずいかも」って思ったんですよ。

工藤:まずいかも?

平田:はい。何かが自分に欠け過ぎていると思って。

工藤:いわゆる「経営」というものが。

平田:そうです。経理とかもそうですし、昔は経理って思ってたんですが、今は違うと思うんです。予算とか、管理・会計的な基本的な知識から、自分が雇用主になって人と一緒に働くとか。それまでずっと人と働いたことすらもないのに、社会に所属してもいないのに、自分が人を雇う立場になってしまって。

有名な経営者の本を読んだものの……「あ、できない」

平田:そういう諸々が欠け過ぎているっていうのを、2012年か2013年ぐらいに思ったんですよね。その時に「本を3冊買って読めばだいたいわかるんじゃないか」と思って。

工藤:すごいですね。

平田:まずはAppleのスティーブ・ジョブズですよ。あとは本田宗一郎さん。経営者の方の3冊と思って、あとは稲盛(和夫)さんの『生き方』。とりあえず、この3人の本は本屋さんの経営コーナーへ行ったら、ずらずらってめちゃめちゃ並んでたんですよ。有名そうなやつをみんな読んで、「あ、できない」って(笑)。

(一同笑)

工藤:3人、読んで(笑)。

平田:「これ、ぜんぜんできない。無理」って思ったんですよ。しかも三者三様すぎて、学ぶべきところがまったくわからない。

工藤:なるほど(笑)。

平田:それで、必要なことごとがあるたびに本屋さんに行き、とりあえず買って読もうって思ったんですよ。

工藤:1人の(本を読んで)丸っと、「この人になるわ」とかじゃなくて。

平田:そうじゃなくて。とりあえず、人事問題が起こったら人事的な何冊か、会計的な問題が起こったら会計の本とか。「漫画でもできる経営」みたいな漫画の本も読んでたんですが、そういうので概要を理解したら次にステップアップするという感じで。「自分にはこれはわかる・わからない」って、どんどん分けていったんですよ。

わからないことは、自分がちょっとわかればいいな、人に言えるぐらいわかればいいから、あとは専門家に任せようと思って。顧問税理士さんと、顧問の社会保険労務士さんと、弁護士さんを外部で雇うことにしたんです。(当時は)まだスタッフが4人ぐらいで、アルバイトしかいなかったんですが。

工藤:その時代からってことですね。

平田:はい。

そんな平田氏が、初めて共感できた経営者とは?

平田:そうやって(専門的なことは外部に)投げていく中で、セブンの鈴木さんの『変わる力』を読んだ時に、「これは考え方が似ている」って初めて思って。

工藤:なるほど。稲盛さんでもなく、スティーブ・ジョブズでもなく。

平田:じゃなく、鈴木さんだ! と。私は(鈴木さんの本に)けっこう共感しかなかったんですよ。

工藤:共感しかなかったんですか。

工藤:この本ですごく一番感じたのは、鈴木さんは考え方も変わっていくんですよね。私もわりと変わりがちで、1つのことをやろうとするんですけど、それをやるために突き通すというよりも、自分が変わりながら変えていくっていう感じが(鈴木氏と)すごく近いと思って。

でも鈴木さんは、信念を持ってやるって決めたことは絶対にやり遂げるんですよ。今はセブン-イレブンでコーヒーが100円で売られてますけど、大変な努力をされて導入されていて。何年代かはちょっと忘れちゃいましたけど、確か本では(コーヒーが導入されたのは)初期の1990年代。

工藤:書かれてましたよね。

平田:(何回か)失敗してるんですよね。それが近年、コーヒーが100円で買えるようになったのも、ここ15年かそれぐらいだと思うんですが、10数年かかってトライして失敗したことをもう1回トライしてやり遂げた。

業界で圧倒的な売上を誇るセブン-イレブンの戦略

平田:あとは銀行のATMをコンビニに置く。当時は銀行の軒先にしかなかったもので、銀行に行かないとお金が下ろせなかったのに、至る所にあるコンビニエンスストアにATMが設置された。

それを設置するまでに、誰も理解されないのにやりきるとか、「これが社会にとって必要である」ということをやり遂げるっていう信念を持っていて、そこにすごく共感して。

もしかしたら私は同じことはできないかもしれないけど、1個決めてやり続けて、「絶対にこれだ」というものを獲得できることがあるんだなって、すごく共感して。揺るぎない(信念があって)、セブン-イレブンはそうやってブランドになったんだなと。

コンビニって競合がいっぱいあって、ローソンとかファミリーマートとかいろんなものありますけど、(セブン-イレブンは)売上高も圧倒的で、1店舗当たり1億5,000万円ぐらいあるんですよね。普通のコンビニの平均は1億円。

それで、みんなレベル違いにクオリティが高い。それは店舗数とか、その世界でのシェアも含めてだとは思うんですが、やり切る力というか、それに伴って付随してきたブランド力。「セブンだったらだいたいある」「セブンだったらおいしいよね」とか、「セブンだったら」みたいなものを作ったのが、この力なのかなって。

ドミナント出店(チェーン店が地域を絞って集中的に出店する経営戦略)とか、壊して建てるスクラップビルドとかは、読んでいて嫌いだなって思ったんですよ(笑)。

工藤:はいはい(笑)。

平田:競合させて戦わせたり、潰して建てるとか。環境負荷も高いし、心理的負荷も高いし、あまり好きではないけれども、戦略として理解はできると思って。そうやると人が集まるのは証明されてるし、すごく経済的合理性はあると思うんですよ。自分はその選択はしないけれども、それを考えるのは理解できる。

他の誰の経営者の本も、「自分とはちょっと違うタイプだな」と思って、参考というところまではいかなかったかもしれないですが、鈴木さんの考え方はすごく共感したんですよね。「こんなふうにしてやってみたい」というか。

工藤:すごくすてきですね。僕もおすすめしていただいてから拝読しました。

共通しているのは「やってみなはれ」精神

工藤:鈴木さんも、今は出来上がった人として世の中に認知されてるけど、セブン-イレブンでやることになる入り口のくだりとかも、平田さんと同じくと言ったらあれかもしれないですが、波乱万丈な感じで。

平田:そうですよね。

工藤:「やってみなはれ」って感じで始まってますよね。

平田:そうですね。基本的にトライしていくっていうところが、すごく共感したんですよね。

工藤:先ほどATMの話とかも、周りのみんなに馬鹿にされても「やるんだ」って言ってやり切るとか。めっちゃ売れてたチャーハンを急にやめるとか(笑)。

平田:そうそう。

工藤:みなさんにお伝えするためにちょっとだけお話しすると、コンビニでチャーハンおにぎりがめちゃくちゃ売れてたんだけど、それが自分の目を通さずに売れていて。パクッて食べたら「ぜんぜんパラパラやねえな。やめだ!」と言って、全部撤去するっていう(笑)。「パラパラになってからまた持って来い」って。すごいですよね。

平田:(笑)。そうですね。やはりクオリティを求める方なんですよね。だからああいうふうにセブンの品質が保たれてるとは思うんですけど。できないことをできるようにして、社会を変えていくことに関しては、今の現代の経営者の中だとセブン-イレブンの鈴木さんが圧倒的なのかなって。すごく尊敬する経営者の1人ですね。

工藤:めちゃくちゃおもしろいですよね。

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