2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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倉貫義人氏(以下、倉貫):僕もそうだったし、うちの会社の社員は儒家的な教育から外れた人が多いですね。「子どもの頃からプログラミングが好き」みたいな。
僕も、子どもの時から寝ても覚めてもプログラミング、大学の時もずっとプログラミングをしていて。なんだったら、「プログラミングを続けたいから、就職しないで大学院に行く」「卒業論文を論文じゃなくてプログラムで提出する」みたいなことをやってきた。
仲山進也氏(以下、仲山):(笑)。
倉貫:そういう人ばかりが集まってきた人からすると、「努力する」とか「成長する」というのはぜんぜん目的ではなくて。プログラミングをしていることが好きで、それがうまく仕事としてハマった時に価値になるという状態になっているので、無為自然でもある。
でも、自分たちなりにプログラムを極めたい気持ちは誰よりもあるので、放っておいてもそこに時間を費やすけど、もはやそれは自分にとっては努力になっていないということになっている。
仲山:「遊んでいる」という感じですよね。
倉貫:一方で、最近僕らの会社に入ってくる若い人たちは、子どもの頃からプログラミングに目覚めてやっているのではなく、「プログラマーになりたくてプログラミングをがんばる」みたいな人たちです。それに対して育成する機会を提供する時に、無為自然とはやっぱり言えないですよね。
青木耕平氏(以下、青木):言えないよね。
倉貫:自転車と一緒で、「まずは乗ってみよう」みたいな。何回も転ばせることをやっていくフェーズがあるので、儒家的なアンラーンなのか、放っておいても自己中心的利他にたどり着くための下駄としては必要なのか、その育成自体もあまりやらないほうが自然なのかと言うと、悩ましいところですね。
青木:おもしろいな。
仲山:老荘で言うと、国を治める時は王様の存在を国民の誰もが意識しないやり方が一番いい、みたいな。僕は「何もしていない風」と呼んでいます。環境を整えていって、人には直接ああだこうだ言わない。
そういう話で言うと、サッカーの育成も、正しくキックができるように教え込むのが儒家っぽい感じだとすると、まずは「サッカー楽しいな」と思えるように、遊びとして楽しめるような環境・場を作っていくのが老荘っぽいなと思いますけどね。
だから僕は、エコロジカルアプローチが好きだったりするんです。お題を与えるけどやり方は自由とか。
青木:子どもの頃にプログラミングを好きになった人って、やっぱり限定的には道が見えていて。道が見えると、努力する・しないという世界より、「必要な努力はしてしまう」という世界に入ってしまうということじゃないですか。
だけど、「まだプログラミングはできないけど、プログラマーになりたいんです」と言って入社してくる人は道が見えていない。
倉貫:道が見えていない状態ですね。
青木:そもそも道が見えていないのに、「何々になりたい」と思うこと自体けっこう難しい課題なんだなと、最近すごく思うんですよね。
仲山:儒家思想、儒家OSですよね。
青木:そうです。「エンジニアになったら給料が多くなりそう」「尊敬されそう」「やりがいありそう」という、想像の世界の中で自分のことを決めているわけじゃないですか。
倉貫:そうですね。
青木:僕が荘子の中の言葉で一番好きで、自分の経営にすごく合っていると思ったのが、「感じてしかる後に応じ、迫られてしかる後に動き、やむを得ずしてしかる後に起ち(知と故とを去りて、天の理にしたがう)」です。要は、徹底的に受動的なんです。
仲山:受け身ですよね。
青木:インプットがあったら応じるし、迫られれば何かしら応じるし、リアクションするし、やむを得なければ起(た)ち上がりますよと。でも逆に言うと、そういうことが起きなかったら何もしませんよ、ということだと思っています。
仲山:何もしないというのは、「自分の好きなことに没頭していますよ」ということですよね。
青木:「没頭していますよ」ということだと思うんですが、「こうなったら儲かりそうだから、こういうものになろうと思う」というかたちとはぜんぜん真逆なわけじゃないですか。
お金のある方は別として、「エンジニアになったほうが得だから入社しよう」という人にも、そればっかりやっていたら楽しい、みたいなことは別にあると思うんですよ。
例えば「絵を書くのが好き」でもいいし、「山に登るのが好き」でも何でもいいんですが、「それを我慢してエンジニアの勉強しよう」みたいになるわけじゃないですか。それってやっぱり、頭で考えていることだから難しくなる。
仲山:そうですね。
仲山:老荘は、基本的に「Here and Now=今ここ」が大事だという考え方があって。「食いっぱくれなさそうだからエンジニアになろう」みたいな人って、「今ここ」を生きていないですよね。
青木:そうです。未来のために今を犠牲にするということ。
仲山:「勉強しないといい大学に入れないし、いい会社に入れないよ」みたいなアプローチですよね。
青木:僕も自分で経営をしていますが、先を見越して打った手はあまりうまくいっていないんですよ。例えば、「このまま行くとこうなりそうだから、こうしておこう」みたいなのって、あまり打率がよくないなと思っていて。
ポンっと来た球に、「おお」みたいな感じで打ち返したものが、たまたま後ですごく大きな柱になることのほうが、圧倒的に多いなと思っています。
なので、(ボールが)来た時に機微に打ち返せるリアクションの速さとか、ちょっとした球でも一応取ってみようとする好奇心がすごく大事だと思うんです。「次は絶対にこの球が来るでしょ」みたいな感じで立っていても、結局はぜんぜん違うところに球が行く(笑)。
なんなら、その予想のために「先行投資」という考え方があるじゃないですか。例えば、「将来こうなるから、こうしておこう」と、それにお金をかけておくのって本当に成功しないですよね。
仲山:(笑)。
青木:先ほどの職業の話でもそうですが、例えば今だったら、エンジニアになるのは手に職をつけることかもしれないけど、20年後はどうなっているかわからないじゃないですか。
倉貫:そうですね。
青木:エンジニアに限らずすべての職業がそうだと思うんだけど、「プログラミングが好き」という人は、それ(プログラミング)的なことは何かしら一生あるから、それをただただずっとやり続けていく。「今楽しいことをずっとやっている」みたいなことの先にある。
「今楽しいことを全部やめなさい」「克服しなさい」と言われていたら、どんどんその感覚が鈍くなって、「僕にはそういうのがないです」という人がすごく多いじゃないですか。でも本当は、もともとはみんなあったんじゃないのかなと。ないわけではなくて、わからなくなっちゃっているというか。
倉貫:第2回と言ってから20分経ちましたが、おもしろいからちょっと続けます。
仲山:(笑)。
倉貫:本当に「好きこそものの上手なれ」みたいな話で、好きなものになり、好きなことをやっていく。でも、好きになるまでに時間がかかることはないですか?
仲山:「上手くならないと楽しくない」みたいなことですよね。
倉貫:そうです。うまくならないと楽しくならないので。でも、そうじゃないのかな……。
青木:そうじゃないんだよ。自分の息子を見ていてすごく思うんだけど、ギターを買ってやったら、下手な間もずっと弾くんですよ。
仲山:それって誰かと比べていないからなんですよね。
青木:そうなの。バンドとかも組んでいなくて、1人で弾いているの。ずっとやっていて上手くなるんですね。ゲームもボコボコに負けている時から続けるんですよ。自分の方角に向いていないものはそうはならないと思うんだけど、やっぱりこの状態ってあると思うんですよね。
別にプログラマーの人も、最初から上手くできたからプログラミングが好きになったというよりも、触れた瞬間に「これは自分の道に合っているヤツだ」と、身体感覚として通じるものがあって、没頭して気がついたら上手くなった。
青木:僕はそういうのがあまりないので倉貫さんに聞きたいんですが、プログラミングは、自分のやっていることが相対的にどうかとか、いろんなことが理性的にわかるから、ある程度経験が出てからのほうが楽しくないんじゃないかと思うんです。
倉貫:うーん。
仲山:相対的ということは、「もっとすごい人がいるのに、俺はなんでこんなのしかできないんだろう」とかね。
青木:「もっと正しい方法はあるのに」とか。
倉貫:それこそ段階がある感じですよね。
青木:なるほど。
倉貫:やっぱりできないとおもしろくないけど、ある時できるようになって、できるようになったらおもしろくなって、「自分は天才だ」と思うんですよ。
仲山:(笑)。
倉貫:「天才期」みたいなのがあるんですよ。「絶対に自分は天才だな」と思って、天才としてやればやるほど深みにハマる。深みにハマればハマるほど、世の中のさらにすごい人に気づき、今度は波が下がっていって「いやいや、もう自分は……」みたいな「謙虚期」が来る。
そこまで行って初めて、「ちょっとできる」って言うんですよね。これは技術の世界ではよく言うことです。
仲山:(笑)。
青木:おもしろい。
倉貫:「Ruby」というプログラミング言語を作ったまつもと(ゆきひろ)さんは、「僕、C言語ちょっとできる」とか言っているんですが、いやいや、ちょっとできるどころじゃないだろと。
波が始まる天才期に行く前の人、要は「ヨチヨチ期」の人からすると、謙虚期の人を見て心が折れるんですね。
仲山:「神」みたいな感じですね。
倉貫:神のヤツが「ちょっとできる」としか言わない、みたいな。「Linux」を作ったヤツが、「『Linux』ちょっとできる」とか言ったりするので。
仲山・青木:(笑)。
倉貫:(謙虚期があってから)「いやいや、それはそれぞれの人だね」となって、「自分期」が来る。ヨチヨチ期があり、天才期があり、謙虚期があって、自分のところに落ち着く感じがあります。
謙虚期はやればやるほど難しいというか、しんどくなる時期もあるけど、それを乗り越えたらまたさらにおもしろくなる。
青木:なるほど。
仲山:おもしろい。
倉貫:(謙虚期を乗り越えると)「なんぼやってもおもしろいな」みたいな感じだけど、先ほどの話で「出会った瞬間に(これ、自分の道に合っているヤツだ)」みたいになると……。
青木:倉貫さんはどうだったんですか?
倉貫:わからない。言われてみたら、僕は確かに出会った瞬間だったのかな? 小学校4年生の頃で、40年くらい前のことなのでちょっと覚えていないですが。
仲山・青木:(笑)。
倉貫:でも今の話を肯定すると、うちでやっている育成の仕組みが崩壊するので。
仲山・青木:(笑)。
倉貫:「しんどい」と言っていた人たちが、半年くらいしたら「おもしろい」と言い出して、「休みの日もやっちゃいました」という感じになっているんですよ。
青木:確かに。
倉貫:だから、それもあるのかなという気はしてはいます。
青木:あるでしょうね。最初に言った話で「上善水の如し」じゃないですが、行きがかり上始めてしまって、自分の意思で簡単にやめたりできない。
そういう時に、やっているうちにその領域に期せずして足を踏み入れてハマっちゃうことって、ぜんぜんあるじゃないですか。だから、「最初はこういう気で始めたんだけど」みたいなことはいくらでもあるでしょうね。
仲山:(謙虚期の)「ちょっとできる」というのも老荘っぽいなと思って。要は、今までやってきたことがあるじゃないですか。でも、今まで自分がやれていない可能性みたいなものは、自分が今までやってきたことよりも無限大にデカい。
まだやれていないことが見えているから、「ちょっとできる」という表現になるのは老荘っぽい考え方だなと思います。「ある」と「ない」は一体になっていて、「ある」のところって本当にちょっとだよなと。
倉貫:確かに(笑)。
仲山:可能性がすごくいっぱいあって、そこからいろんなものが出てくる。
青木:自分が進化すると、自分のコンフォートゾーンや今のゾーンと同時に、ポテンシャルも広がっちゃうじゃないですか。
仲山:そうですね。ポテンシャルがたくさん見えてくる。
青木:見えてきちゃうから、相対的に「ちょっと」になっちゃう。
仲山:パーセントで言うと、(自分のできることが)どんどん小っちゃくなっていく。
青木:そうなんですよね。
倉貫:分母がデカくなるからそうなる。
青木:感じているポテンシャルに対して、自分が今できる割合って実はどんどん小っちゃくなっちゃうので、「ちょっと」って言うよなと思います。
確かに僕も、初めて会社を始めた時に感じていた経営のポテンシャルと、20年近くやってきて感じるポテンシャルがぜんぜん違うから、始めた頃に今の自分を見たら「すごいな」と思ったかもしれない。だけど今の自分としては、感じている広大なポテンシャルの中のマジでちょっとしかできていない。
倉貫:そうね。
仲山:謙虚期だ。
青木:謙虚期というか、最近は「自己嫌悪期」ですよ。
(一同笑)
倉貫:いやいや、他人と比較しないほうがいい世界ですね。
仲山:そうですね。
倉貫:ということで、いつもの2倍(時間が)かかりました。あともう1回おしゃべりさせていただけたらなと思います。ではまた、よろしくお願いします。
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