2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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武石美有紀氏(以下、武石):では続いて、全体の考察に移ります。今回の調査結果を総合的に見ていくと、「働きたい職場」「上司に求めること」「身に着けたい力」の項目を筆頭に、一人ひとりの個性など、お互いの「個」を意識させる選択率が上昇しています。
一方で、価値観を一体化していくことを連想するような項目の選択率は下降する傾向が見えてきました。新入社員の中で、「個」への意識がますます高まっていると考えています。
あえて色をつけず「個」という単語にしたのは、「自分らしさを尊重してほしい」という「個」への意識もあれば、「自己を埋没させないでほしい」「同調はしたくない」などの意識もあったり、「個」への意識自体も多様化していると捉えているので、あえて特定しない記載の仕方にしました。
まず、「個」への意識が高まった背景にはどのようなことがあるのか、新入社員の育った社会の出来事をピックアップしました。新入社員の学生時代の生活は、iPhoneのリリースや、Twitter、TikTok、Instagramに代表される、SNSの多様化によるコミュニケーションツールの発展が起きています。
あとは、Netflixに代表されるようなサブスクリプションモデルのサービスもヒットして、スマートフォンを持っているだけで自分に合ったものを楽しめるようになりました。コミュニティも趣味などに関しても、自分の興味がある分野を広げられるツールが急速に発展したと考えています。
武石:過去とどのように違っているのか、わかりやすく見るために図にしました。大きな丸がコミュニティになりうるもの、小さな丸はコミュニティというよりは、個人で楽しむものを示しています。
(スライド)右側が近年の状況ですが、大きな丸のコミュニティが多様化しています。それから個人で楽しむような小さな丸も、パーソナライズやカスタマイズ機能が進化して、矢印で示したように「まるで向こうからコンテンツが飛んでくる」という感覚に近いかと思います。
私自身、右側の図を作っていて「いろんなものが迫りくる」という感覚を覚えました。事実として選べるものが増えているので、間違いなく自分に合ったものを選べる環境とも言えると思います。
でも一方で、大量なものを処理しきれないために、選ばざるを得ない環境とも言えるのではないかと考えています。
そのような環境の中で、新入社員世代、Z世代と言われている方々ですが、今回は(「個」への意識が)強まる2つの特徴を紹介しながら深めていければと思います。
武石:1つ目は「意味・価値を大事にする」という特徴です。Z世代は「それは何のためにするのか」「自分がやる必要があるのか」という、物事の意味や価値を重要視する傾向があります。
2つ目は「合うものを選ぶ」という特徴です。自分に合うか・合わないかを早めの段階でジャッジして、自分に合うと思ったものを選び、逆に合わないと思ったものに見切りをつけがちです。上司世代からすると、これらの特徴に頭を悩ませることは多いかもしれません。
例えば、意味や価値を大事にしているZ世代から「この仕事、やる意味ありますか?」と逐一問われるケースは企業さまからよく聞きます。上司世代に近い桑原さん、どうでしょうか?
桑原正義氏(以下、桑原):そうですね。私はちょうど上司世代に近いんですが、仕事をやる前から「意味があるのか?」と言うことは、たぶん上司世代にはすごく違和感がありますよね。
「やってみなければわかんないんじゃないの?」とか、むしろやりながら意味を見出していくことが(上司世代は)当たり前だったので、「なんでこういうことを言うのかな?」という戸惑いがけっこうあると思います。
マネージャー研修なんかをやると、まさにこういうふうにメンバーが言ってくるようになったんだけど、どうしたらいいんですかね? という相談を受けます。マネジャー研修で非常に話題になるということは、弊社のトレーナーからもよく話題に出ています。
武石:率直な意見、ありがとうございます。事実、企業さまからも「今までに発生していなかったコミュニケーションコストが掛かってきて困惑する」などの声をいただくこともあります。
武石:桑原の話にもありましたが、上司世代の全体傾向としては、まずは目の前のものを深めたり、やってみながら意味や価値を見出していけた成功体験があります。
Z世代の「やる意味ありますか?」を正直面倒だなと思う背景には、このような価値観があることが多いです。
「せっかく仕事を任せていただいているのだから、それを大切にしよう。やり切ることで意味がわかる」「まずはやってみる。経験が浅い中で頭で考えていても解は見えない」「お客さまに価値を感じてもらうために、努力しよう。最初は迷惑をかけるかもしれないけど、すべての経験に意味があるし、必ず信頼獲得できる」。
一方で、「この仕事はやる意味ありますか?」と質問したZ世代からすると、まずは選択肢を集めて、その中からより自分に合うものを選ぶ傾向が強いです。
武石:新入社員研修などでトレーナーからよく話が出ることとしては、研修のワークをやる意味や価値を頻繁に、そして丁寧に伝えていかなければいけないということです。そこに納得感がないと、ワークをゲーム感覚でこなしてしまう方も多いということが話題に上がっています。
私自身がOJTをやっていた時も、「お客さまのためになっているか」とか「この仕事の意味はなんですか?」という話はよく話題に出ていました。Z世代の「やる意味ありますか?」の背景には、このような価値観があることが多いです。
「もっとやりがいのある仕事もあるはず。自分がより納得できる仕事がしたい」「社会にはすでに似たようなサービスが沢山あるし、自社でやる必要ある? 社会貢献にもっともつながっているのは何だろう」「お客さまからすると、経験が浅い自分が担当して迷惑をかけるなら、経験豊富な先輩が担当したほうが全員にとってタイパが良いんじゃないかな」と、あれこれ思考が繰り返される。
まとめると、全体傾向として上司世代は「やりながら納得していく」傾向が強く、Z世代は「納得してからやる」傾向が強いです。
大切なのは、Z世代も上司世代も相手を困らせたいとはまったく思っておらず、その背景にある当たり前が異なるだけということです。
武石:続いて「合うものを選ぶ」のあるあるシーンです。「上司・配属ガチャが外れた。やる気が出ない」というZ世代に対して、「いやいや。まずは置かれた場所で咲きなさいよ」と感じる上司世代のお悩みをよく聞きます。
またまた上司世代に近い桑原さん、どうでしょうか?
桑原:そうですね。私もずっと新人育成をやっていますが、5年くらい前から、配属の前の日の新入社員たちの緊張感たるやと言いますか。「明日なんかあるの?」と言うと、「配属発表です」みたいな一大イベントになっているんだなと感じています。
今では配属がどこかによって「終わった」「詰んだ」ということがあって、本人たちにとってめちゃくちゃ(影響が)デカいんだなと。正直、上司サイドからすると、まずは与えられたところでいかにがんばるか、みたいな。
さっきもありましたが、今まで選んでいないところからむしろ得られるものがたくさんあったりするので、まずはそこで一生懸命やってみたら必ずプラスになるよ、といういう気持ちになったりするんじゃないかなと思います。
武石:ありがとうございます。またまた桑原の話にもありましたが、上司世代の全体傾向としては、「自分次第で、目の前のことを(自分に)合うものにしていくこともできる」「嫌なことも向き合う中で可能性を見出していける」という意識を持つ人も多いです。
武石:(上司世代が)「置かれた場所で咲きなさい」と思う背景には、このような価値観があることが多いです。
「仕事も対人関係も嫌なことはある。それに向き合い乗り越えてこそ、自分の新しい可能性が見えてくる」「仕事を深めていないままで合うか・合わないかは判断できない。自分次第で合う仕事にもできる」「理想とは異なるけど、その良さに自分が気づいていないだけかもしれない。視野を広げよう」。
一方で「ガチャが外れた」と考えるZ世代からすると、「よりマッチした環境を早期に見つけたい。早期に見つけるためには、合わないものに時間をかけていることはリスクである」「周囲の環境に働きかけをするよりは、自分がその場所は諦めたほうがスムーズにことは進む」という意識を持つ人が多いです。
私自身もOJTでZ世代の方と話をしていると、「不確実な不安から一刻も早く解放されたい」という意識も感じられます。Z世代が「ガチャが外れた」という発言の背景には、このような価値観があることが多いです。
「環境や他人は変えられない。周囲に働きかけて困らせるより、自分にマッチした輝ける場所に移ろう」「合わないものに時間をかけていてもしょうがない。早期にリセットして自分に合うものを見つけよう」「自分が設定する条件に満たない。譲れない条件だから、条件がそろう場所を探そう」。
武石:まとめると、全体傾向として上司世代は「目の前のことを合うものにしていく」傾向が強く、Z世代の傾向は「数多くから合うものをマッチング」する傾向が強いです。
大切なのは、Z世代も上司世代も相手を困らせたいとはまったく思っておらず、その背景にある当たり前が異なるだけというところです。
育ってきた環境や経験が異なっているので、当たり前が違うことは当然ですし、それぞれの当たり前そのものには正解も不正解もありません。
ですが人間の特性として、異なるものを排除しようとする傾向もあります。そのため、異なる当たり前は関係性を分断する要素になる可能性があります。
さらには、社会変化のスピードが増して、過去よりも短期間でそのギャップが広がりやすくなっていく近年、当たり前の差異は拡大していくことが予想できます。
これに手を打たずにいると分断はさらに広がって、組織の持続的成長の観点でマイナス影響が大きくなる恐れがあると考えています。
武石:では、どのようにしていけばよいでしょうか。キーを2つ紹介します。まず1つ目は「共通目的」からです。当たり前の差異が拡大している中で、伝え方を優しく丁寧にしただけでは、差異は埋められなくなってきました。
企業さまからよくうかがうケースをご紹介します。例えば「今の仕事が自分の希望に合わず異動したい」と相談に来たZ世代が左側です。
その相談に右側の上司世代は、「そうか、つらいな」と共感の言葉を添えた上で、「でもまだ配属間もないし、もう少しがんばってみない?」と優しくアドバイスしました。
でも、Z世代は浮かない顔です。上司世代は強く指導したい気持ちを押さえて、これでもかというくらい優しくしたのに、なんでダメなんだと困り果てます。表面で接し方を変えても、相手を説得することはもう難しい状況です。
武石:そのような難しい状況の中で、当たり前の差異にどのような打ち手を打てば良いでしょうか。当たり前の差異をプラスに転換するキーは「共通目的」だと考えています。
違いが広がる中で、表面の言葉や行動そのものを捉えると、どうしても「違うな」「嫌だな」「やりにくいな」という感情も湧き上がってしまいます。
相手の違いを理解しよう、受け止めようと頭ではわかっていても、なかなかできることではありません。そこでお互いの間に「共通目的」を置くことによって、マイナスに捉えられがちな差異は、物ごとをより良くするプラスの素材になります。
何かを進めるうえで、いろんな観点があったほうがより良くなりますし、VUCAの変わりゆく環境の中では、さまざまな意見を取り入れることが特に強みになると考えていますので、差異そのものが確実なメリットになっていきます。
「共通目的」と聞くと、「Z世代って同じ目的に対する抵抗感があるんじゃないですか?」という疑問も出てくるかと思いますので、目的についての補足をさせていただきます。
Z世代が抵抗を感じるのは(スライド)左側です。左側は、目的や目標も上位者が決めて、それをトップダウンで下ろします。1人のメンバーとしては、目的や目標の意味や価値などに立ち返る機会はほとんどなく、達成のための行動をとりあえずやるような図式です。
今回紹介している「共通目的」は右側になります。もちろん、組織の中で目的や目標が決まっていることもあるかと思いますが、それを進めていく中でお互いに対話をしながら、共にその意味を見出していきます。
何のために取り組むのかを合意して、一人ひとりがその目的や目標を叶えるためにどう動けばいいのかを考えながら進めます。時には、目的や目標自体も見直すべきという動きになることもあり得ます。
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