2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
any株式会社 代表取締役CKO 吉田和史氏(全1記事)
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アマテラス:初めに、吉田さんの生い立ちや育った環境などについてお聞かせください。
吉田和史氏(以下、吉田):生まれは神戸ですが、父の転勤で生後間もなく福岡に引っ越し、大学まで過ごしました。
両親と3歳上の姉と私の、ごく一般的な4人家族です。何事にも厳しい父と、何でも自由にやらせてくれる母という、教育方針が大きく違う2人のもとで育ちました。性格的には、私は母に似ているような気がします。
自分の子ども時代を一言で言えば「サッカー生まれ、サッカー育ち」。4歳でサッカーを始め、高校までは本当にサッカー漬けの毎日でした。
小・中・大学ではキャプテン、高校では副キャプテンを務めました。監督と選手の間でコミュニケーションを取ったり練習のメニューを考えたりと、わりとチームの先頭に立つことが多かったですね。
勉強も得意なほうだったと思います。知らないことを知っていくおもしろさや、やればやるほど成果が上がる感じが好きでした。
ただ、サッカーほど打ち込みきれず、その時、その時で求められているものに短期間で集中して取り組んで、成果を出すという詰め込み方をしていたように思います。
吉田:大学に進学後も、途中まで本気でプロのサッカー選手を目指しており、実際にJ3のチームからお声をかけていただいたこともありました。
しかし卒業後のキャリアを考える中で、「もしかしたらサッカー以上に打ち込める仕事が世の中にあるかもしれない。サッカーしか知らない人生は悔いが残るのではないか」という気持ちが芽生えて来たのです。
そこで、まったくの手探り状態でしたが就職活動を始めてみることにしました。IT業界に入社を決めた理由は、高校サッカー時代のコーチからのアドバイスがきっかけです。
平日はIT企業の社長をしていらっしゃる方で、この業界の高い将来性や個人として大きく成長できる環境があること、社会的にも今はITスキルが必要とされていることなど、さまざまな話を聞かせていただきました。それがきっかけとなり、まずはこの業界でスキルを身につけようと決意しました。
最初の就職先は、アイモバイルという国内最大級のアドネットワークを持つIT企業です。内定をいただいた中では、当時のアイモバイルは最も歴史が浅く、従業員も少ない会社でした。
アドネットワークについての知識は皆無でしたが、先輩方の楽しそうに働く姿やチャレンジングな環境に魅力を感じ、ここでがんばってみようと入社を決断しました。
アイモバイルでは法人営業部門に配属されました。BtoBマーケティング部署の立ち上げ、インバウンドでのリード獲得や自社セミナーの開催、公式ブログの開設など、多くの新たな取り組みに携わることができました。
吉田:その後、ゲームアプリ開発会社のグッディアに転職。アイモバイルでメディアやアプリなどのサービス制作会社とお仕事したことがきっかけで、営業やマーケティングだけでなく、ものづくりにもチャレンジしてみたいと考えるようになりました。
グッディアはもともと担当していたお客様で、上場を目指して東京支社を設立するタイミングでジョインしました。
グッディアでは、アプリの企画、開発、マーケティング、マネタイズなど幅広い業務を担当しました。2年目には、Webメディア事業部長として会社全体の戦略部分に関わるようにもなりました。
毎日のように行われる新作アプリの企画会議は大変でしたが、アイデアを形にしていくノウハウや、デザイナーやエンジニアと手を携えながらプロジェクトを進める運営スキルなど、現在の経営にも生かされるさまざまなスキルを身に付けることができたと感謝しています。
アマテラス:any社を起業した経緯についてお聞かせ下さい。
吉田:実は、any起業の前に元同僚と休日起業をしています。グッディアで働きながら、休日を利用して一緒にゲームアプリの開発や運営を行おうとトライしていました。でも実際は時間が足りなかったことや、2人のコミット量のバランスなどの問題で、なかなかうまく展開しませんでした。
こちらの仕事に本腰を入れるためには、転職や社内ベンチャーなどいくつかの選択肢があったと思います。しかし、最終的には最も難しいけれど成長できるであろう起業の道を選び、2016年10月にanyを設立しました。
anyとしての最初のサービスは、サッカーのWebメディアです。グッディアでWebメディア事業部長をしていた頃に、自分も試しにウェブサイトを作ってみることにしたのが始まりでした。
サイトを開設し、記事を書いてユーザーに届け、反応を見るまでの一連の作業を模索しながら挑戦しました。サッカーをテーマにしたのは、自分が想いを込めて届けられるのはやはりサッカーだと思ったからです。
翌年には、前職でのノウハウを活かしマンガアプリの運営も始めました。エンタメ系のメディアという業界のトレンドを意識した2つのコンテンツは一定数のユーザーが獲得でき、安定した収益を得られるようになりました。
吉田:2つのコンテンツの収益が安定化してきた一方で、トップ企業に対抗しながら会社を継続的に成長させることの難しさも痛感していました。
その後、第一子が誕生したことが1つのきっかけとなり、考え方に少し変化が訪れます。「もっと長期的な視点で、そして子どもに誇れるようなものを作りたい」と思うようになったのです。
サッカーとマンガアプリも想いを持って続けてきた事業ではありましたが、「会社が存続さえしていれば、またバッターボックスに立つチャンスは巡ってくるはず」と考え、やむを得ず手放す決断に至りました。
振り返ると、この2つの事業が大きくスケールしなかった要因は、ユーザーの深い課題解決に繋げることができなかったからだと感じました。
そこで、次の事業では「自分や自分の身の回りの人たちが感じた深い課題を根本的に解決する領域」にチャレンジしようと決意します。経営者として原点に戻り、文字通りゼロイチでのサービス構築を目指そうと新規事業の検討に入りました。
吉田:まずは過去の会社員時代の自分に想いを馳せたりしながら、100個ほどのアイデアを絞り出し、1つずつ実現可能性を探っていきました。その中で最後まで残ったのが「社内におけるナレッジの共有」でした。
「質問に対してなかなか返事が来ないことで、お客さま対応が遅れて困ったこと」、逆に「同じような質問があちこちから来て煩わしく思ったこと」。誰しもがそんなナレッジの偏りによる業務の非効率を経験していると思います。こういったことが組織のあちこちで発生することは、多くの会社で課題となっているはずだと考えました。
社内でナレッジが共有されることは、個人の課題解決の迅速化、そして組織全体の業務の効率化に繋がり、ナレッジの蓄積は企業の財産になります。ナレッジ共有ツールは間違いなく大きな可能性を秘めたプロダクトになると感じました。そんな想いを持って開発したものが「Qast」です。
アマテラス:「Qast」が軌道に乗るまでには、さまざまな壁に直面されたのではないでしょうか。
吉田:最初の開発までは順調で、私はマーケティング、カスタマーサクセスなど開発以外の業務をすべて担当し、ユーザーからの声をどんどんプロダクトに反映させていきました。2018年のβ版リリース時には、事前登録の時点で約40社の登録があり、手応えを感じました。
しかしリリース後は一転、とにかく売上が伸びず、暗黒の1年を送ることになります。大手企業は導入事例を重要視されることが多く、良いプロダクトだと理解していただくお客さまもいてくださったものの、最終的に導入が見送られることが続きました。
焦る気持ちはありましたが、採算度外視でカスタマーサクセスに集中しようと気持ちを切り替えました。
アマテラス:売上が伸びない理由はどこにあったのでしょうか。
吉田:今、振り返ればはっきりわかりますが、1つはターゲットとする市場が広すぎたことです。スタートアップのグロース戦略などでは「本当に愛してくれる10人のファンを作れ」という話が繰り返し出てきます。
ですが、ナレッジマネジメントはどんな業種や職種のみなさんも必要であるからこそ、なかなかターゲットを絞り込めませんでした。
もう1つは、売上のほとんどがインバウンドだったことです。我々が想定するQastの使い方とお客さまのニーズをフィットさせるために、お客さまの希望に寄せて機能追加をする。そうするとQastのコアバリューが薄まってしまい、結果的にプロダクトの魅力があやふやになってしまっていたと感じています。
現在はターゲットの選定を行うことや、アウトバウンドのセールスにも取り組むことで改善を図っています。
アマテラス:なかなか売れない時に、「このままうまくいかないかもしれない」と思うことはありませんでしたか?
吉田:不思議とそういうネガティブな考えはなかったですね。当時、世の中に情報共有ツールと呼ばれるものはそれなりにありましたが、ナレッジを経営資源とする大企業向けのプロダクトは存在しませんでした。
また、数多くの商談やユーザーインタビューを通じて課題は明確化しており、「絶対にニーズはある」という確信があったのです。だからあとは、解決手段さえ整えば必ずいけるという自信はあったのだと思います。
アマテラス:起業されて7年、ここまでさまざまな壁を乗り越えていらしたと思います。スタートアップ経営者は資金の壁、仲間集めの壁を最初に経験されることが多いですが、吉田さんはいかがでしたか?
吉田:資金面の壁を感じたのは、先ほどお話しした創業からのサッカーとマンガアプリを行っていた期間と、Qast開発後の1年間ですね。自分の給与も払えるか払えないかという非常に苦しい状況が1年ほど続きました。
そこから資金調達に動きだし、VC、エンジェルなど10人ほどの投資家に会いましたが、すべて惨敗。
今振り返れば、あの頃に受けたダメ出しはその後のサービス改善にも繋がっており、「無料のコンサルを受けたと考えれば良い」と捉えられるようになっています。でも当時は、全身全霊を傾けて作ったプロダクトを全否定されるのはやはりつらく、自信を失いかけました。
アマテラス:その壁を打ち破るきっかけは何だったのでしょうか。
吉田氏:転換期といえるのは、この会社を最悪の状態から救い出してくれたany初の投資家であるGazelle Capitalの石橋(孝太郎)さんとの出会いでした。
設立後1社目の投資先としてanyを選んでくれた上に、何度も力強く背中を押してくださいました。石橋さんの存在のおかげで「この人のためにも絶対に諦めない」と、自分を鼓舞できましたね。
アマテラス:資金問題が解決したことで、事業が回り始めたのでしょうか。仲間集めについてはいかがでしたか?
吉田:資金以上に、頼りになる仲間が集まってくれたことで事業が大きく回り始めた気がします。
起業からずっと1人でなんとかやっていましたが、資金調達の実施を機に本格的な採用を開始し、現在のコアメンバーがジョインしてくれました。各ポジションそれぞれ10人以上面談を行って採用した精鋭たちです。
採用の過程で意識していたことは、大変でもできる限り多くの候補者に会い、徹底的に話をした上で意思決定することです。時間はかかりますが、それが結局は一番の近道だと実感しています。だから、採用後は一緒にお仕事していても選考中にビビビッときた印象のままでしたね。
吉田:また、その頃のことで印象に残っているのは「MVV合宿」です。コアメンバーが揃った頃、みんなから「MVV(Mission、Vision、Value)を決めませんか?」と提案を受けました。MVVのない状態で1人で何年も過ごしていたので、メンバーから提案を受けた時にはその必要性がまだしっかりと見えていなかったかもしれません。
でもみんなの声を聴いて、会社を大きくするためにはチームの方向性を統一する「言葉」が必要だろうと感じ、合宿を行ったのです。
結果的に、この合宿はanyにとって大きなターニングポイントとなります。メンバー全員で意思決定をしたことで、この時に決めたMVVは組織にしっかり浸透していきました。
特に「チームシップが根付いた世の中に」というビジョンは現在も社内外で大きな共感を呼んでいます。1人でやってきた起業家が初めて仲間に支えられる喜びを実感した、貴重な2日となりました。
アマテラス:さらに本格的な採用を開始され、組織拡大の難しさを感じることはありますか?
吉田:組織拡大の壁は、まさに今感じているところです。事業を推進していく上で、もちろん人数を集めることは大切だと感じています。しかしその一方で、ただ人数を揃えることが目的となるのは避けなければいけません。
「ビジョンにどこまで共感してくれているか、本人のやりたいこととマッチしているか、大切にしているバリューが合っているか」などへのこだわりは、今後も妥協するつもりはありません。
アマテラス:ここ数年のコロナ禍は、御社にとってどのような影響がありましたか?
吉田:コロナ禍をきっかけにリモートワークを導入する企業が増えたことは、Qastにとってはポジティブに作用していると感じています。
誰もが出社してオフィスにいた頃は、時を選ばず質問や相談ができていました。しかし、リモートではわざわざWebミーティングをセッティングする必要があり、このひと手間は質問や相談へのハードルを上げているはずです。
また、「Webミーティングで聞くほどでもない」と思われる会話にも、実は多くのナレッジが潜んでいます。こうしたリモートワークの広がりにより、ナレッジ共有の機会は確実に失われているという現状があります。
多くの企業でこの課題への認識が高まることで、Qastのようなツールへのニーズにつながるはずです。この機会を捉え、組織のナレッジマネジメントに貢献することで、より良い未来を創造していきたいと考えています。
一方で社内の話をすると、採用の本格化とコロナの流行が重なったことで、anyの新メンバーも入社早々リモートワークがメインとなってしまいました。
そのため当時はオンボーディングには少々時間がかかりましたが、オンライン飲み会などを通じて積極的にコミュニケーションを取ることで、チームの一体感を保つことを意識していました。
アマテラス:今後のお話もお聞かせください。吉田さんの考えるany社の未来像を教えていただけますか?
吉田:少し自分の話に戻りますが、先ほど大学時代にJ3のクラブからお声をかけていただいたという話をしました。そのオファーは「社会人として働きながらサッカー選手をして、引退後はその企業で引き続き働ける」というものでした。
生活の安定を考えればありがたいお話ですし、もちろんそこからのし上がって日本代表を目指す選手もいらっしゃるはずです。しかし私自身はそこまでのイメージが描けず、サッカーをやめて就職するという決断をしました。
人生の節目でそういう選択をしたこともあり、私はこの会社を「それなりの会社」では絶対に終わらせたくない、「偉大なSaaS企業」に発展させて行きたいと強く想っています。目指すのは、「個人の幸福と企業の実利が両立している世界」です。
企業が事業を行う中で利益を求めるのは当然です。しかし、利益を求め過ぎれば社員は疲弊してしまう。それではと個人の幸せを重視すると、利益は小さくなるというのが一般的な通念です。
でも、本当にそれは今の時代に合っているのでしょうか。働いている人はそれで満足なのでしょうか。個人の幸せも企業の利益もどちらも実現できれば、私たちanyはもちろん、私たちのサービスを使ってくれているお客さまにもその輪が広がって行くはずだと信じています。
それが、私たちが目指す「個人の幸福と企業の実利が両立している世界」であり、私の描く偉大なSaaS企業がもたらす未来です。
アマテラス:ロールモデルとなっている会社はあるのでしょうか?
吉田:「この会社」というロールモデルはなく、いろいろな会社の良いところを取り入れたいと考えています。
例えばものづくりの思想はソニー、経営者としては松下幸之助さんや稲盛和夫さんと、この国には素晴らしい先駆者がたくさんいらっしゃいます。それら先人たちのナレッジを上手く取り入れつつ、anyらしく表現して行こうと思います。
アマテラス:吉田さんの考える理想の組織とはどんな組織でしょうか?
吉田:どんな些細なことであっても、困った時に率直に「困っています」と助けを求められる組織でありたいなと思っています。規模が大きくなっても組織図が複雑になっても、当たり前に周囲を頼ることができ、それに対して必ず誰かが手を差し伸べる。そんな心理的安全性の高い組織を作っていきたいです。
アマテラス:最後に、any社の求める人物像について教えて下さい。
吉田氏:社内では、「Teamshipをベースに組織の成長に貢献し、顧客体験の最大化を通じて、anyの未来に向かって事業を推進できる人」と言語化して伝えています。
まず、Visionにも掲げて大切にしている「チームシップ」を土台として、自分自身も会社も成長することを意識してほしいと思っています。
一方で組織としては、組織の目指す方向と個人の「will」の重なりを大切にしたい。そうして互いに補完し合うことで、チームの成果は最大化していく、つまりチームシップが発揮されると思っています。先ほどお話しした、私たちが目指す「個人の幸福と企業の実利が両立している世界」につながります。
吉田:求める人物像について、もう少し具体的にお話しすると、謙虚さや素直さを持って、成長していける人でしょうか。例えば、「相手のことを思いながら言葉を選べる人」「常に先の視座を持ち、相手を一緒に引き上げていける人」「anyの未来をチームごとで捉え、圧倒的なやり切る力で仲間と推進していける人」。
自分自身、チームや仲間、お客さまとしっかり向き合い、組織の成長へともに向かっていける人たちと働きたいと思っています。
アマテラス:このタイミングでany社に参画する魅力について教えて下さい。
吉田氏:これから先を目指す会社としてさまざまな取り組みを行いつつ、まだまだ新しくチャレンジできることもたくさんあるという、とてもおもしろいフェーズにいると思います。
現在働いているメンバーもみんな素晴らしい人ばかりです。職場は風通し良く、メリハリのある働き方はanyの社風となっています。「1×1」が3にも4にもなるチームシップの根づいた仲間と一緒に働くことで、今まで知らなかった新しい気付きを得ながら存分に力を発揮できる、そんな環境が整っています。
現状に満足せず、もっともっとチャレンジをして成長したい。でも1人ではなくチームとして向かっていきたい、そんな人にはきっと魅力ある環境を提供できるはずです。
アマテラス:any社のこれからがますます楽しみです。本日は素敵なお話をありがとうございました。
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