2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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中須賀真一(以下、中須賀):この本(『ワンルームから宇宙をのぞく』)を見ていたら、常に戦って、精いっぱいやっている感じがするね。
久保勇貴氏(以下、久保):でも、やはり悩むというか、人生設計みたいなことに僕も疎いというか。修士課程に入って研究をやって、わりと他の学生はすぐ就職しちゃうんですよね。修士1年で入って、すぐぐらいから就活。
中須賀:就活、最近早すぎるよね。
久保:その愚痴もたくさんあります。周りは虎視眈々とちゃんと人生設計して、「ここまでに就職するんだったら、逆算してここぐらいには準備しなきゃ」とやっているんですけど、僕は目の前のいろんなことに集中してやっていて。
僕は東大の航空宇宙工学科にいたんですが、JAXAの中に研究室があったので、JAXAのプロジェクトをいろいろお手伝いをしていて。やっているのが楽しくてのめり込んでいるうちに、どうやら周りは就活をして人生設計をちゃんとしていたらしいということに、後から気がついて。
それで仕方なくじゃないですけど、そのまま博士課程に行って、今までずっとポスドク(博士研究員)という立場にいます。僕はけっこう悩んでというか、先が見えず、よくわからず来ていますね。
中須賀:でも、それぞれの段階でできることを精いっぱいやってきたというのは、これを見てもよくわかるよね。それが大事なんだと思う。
久保:さっきの言葉を聞いて、勇気づけられましたね。
中須賀:高校の時には「大学に向けての受験勉強だけ」とか、大学に入ったら「研究そっちのけで就職のための活動」とか、これってすごくおかしいよね。じゃあ、いつになったら本当に「今やらなきゃいけないこと」に集中して、今を楽しめるのかって。
高校の時には高校の時にやるべきことをやるべきだし、小学校の時には徹底的に遊ぶべきだと思うし、それぞれの時にやることをやっていくと、総体として最後は「ネコひねり」して、あるところに落ち着くんだよね。
だからやはり、それぞれの時代時代にやらなきゃいけないことをやることが、本質的に大事。みんな、いろんなところで不安になりすぎるよね。
「先のことを考えてやらなきゃいけません」って、じゃあ、いつになったら今のことをやるんですか? 就職してもずっとそうだったりするから、今の風潮としてそれはあんまり良くないなと僕は思うな。
杉山大樹氏(以下、杉山):みんな、ちょっとホロノミックすぎるということですか?
久保:ホロノミックなのかな。
杉山:ホロノミック。
久保:上手に動こうとしすぎているというか。
杉山:わかることだけをやっている感じ。もっと先を見たら、ネコひねりしかなくなってくるという。
中須賀:そうだよね。
久保:ホロノミックというのは、物理的に言うとレールの上を走っているような状態なんですね。車は、一瞬一瞬はタイヤのほうにしか行けないけど、うまく舵を切るとどこにでも行けるというのがノンホロノミックな系です。
ホロノミックという系はある種、レールの上でただ1つの軸の座標を動いているだけ。だから、みんなそのレールを用意しようとしているみたいな。
杉山:まさに「敷かれたレールをうんぬん」というのは、常に言われている言い方ですが。
久保:確かに、今の話はそういう話に対応する気がしますね、それでも1本また本が書けそうですね(笑)。
(一同笑)
中須賀:(笑)。「ノンホロノミック人生論」みたいなね。
久保:人生論ですね。確かに、逆もあるな。
中須賀:それぞれのフェーズでとにかく戦いながら、努力しながら、苦労しながら一生懸命生きてきたのは(本を読んだら)よくわかった。それが、最後になってあるところに落ち着いていくんだなという、このへんの話がおもしろかったね。
久保:ありがとうございます。
中須賀:そういうのもあるから、ぜひ彼のこれまでの苦闘を感じていただければと思います。
中須賀:それから、もう1個おもしろかったのは「重量リソース」。
久保:これですね。「重量リソース/有限の愛」。
中須賀:みなさん、重量リソースってわかる? 衛星を作る時とか大変なんですよ。ロケットで打ち上げられる重さは限られるので、普通は何十キロとか何百キロ以下にしないといけない。僕らが作った衛星は1キロしかないので余計だよね。
ある機能を高めようとしたら、どうしても機器を大きくしたり立派にしなきゃいけない。そうすると、何かを犠牲にしなきゃいけないんだよね。
こういう状況の中で、トータルとして一番やりたいものを実現するには、どういうふうにリソースを配分するか。「ここにどれくらいの重さをかけていかなきゃいけない」というのが、重量リソース。
そういったことを日頃考えて、ある種のシステム設計というんだけど、衛星全体の設計をして打ち上げていかなきゃいけない。
久保:中須賀先生の研究室は、大学の学生だけで人工衛星を丸ごと作るという、まさにシステム設計を全部やっている研究室なので、そのあたりは日々考えられているわけですね
中須賀:そうそう、いつも学生と議論しながらね。だから、大事なことは何かは捨てなきゃいけないんだよ。
つまり、全部を取ろうとすると、たぶん全部は手に入らないんですよ。でも、何かを捨てるから実現できるということは多いんだよね。システム設計をやると、そういったことがよく身につくんだね。
中須賀:学生の中にはね、働きすぎて彼女にフラれたのが何人かいるんだよ(笑)。
久保:(笑)。
中須賀:これは申し訳ないなと思うんだけど。
久保:捨てられちゃったと。
中須賀:(恋人を)捨てたわけじゃないと思うんだけど、「トータルの時間を何にかけるんですか?」というのもシステム設計だよね。
杉山:確かに。
中須賀:(恋人に割く時間の)比重が軽くなると、「なぜ私のために時間を使ってくれないの?」と言ってくるわけ。学生には、「それは早う別れておいたほうがいいんじゃない」と言うんだけど。
杉山:確かにね。
中須賀:あかん、今のはカットしなきゃ。大丈夫?
久保:ここに流されちゃってます。
杉山:大丈夫。考え方の1つですから。
中須賀:だから、「何に比重を置くか」というバランスを考えなきゃいけないというのが重量リソースという話です。それを、どういう人生訓とつながっているんだっけ?
久保:この時は愛のことを考えていて、ちょうど僕もフラれて悶々としている時期だったんですよね。
中須賀:(フラれたのは)研究しすぎ?
久保:研究しすぎもあったかな。
杉山:あったでしょうね。
中須賀:(笑)。
久保:それが原因だったのかな。
久保:「人には優しく」とか「愛情、思いやりを持って」みたいなことを言うじゃないですか。でも、それって無限じゃないと思うんですね。自分の持てる愛情のリソースの中でやりくりしているし、人からも与えてもらったりして、また補充されたりとか。
世の中は、「あらゆる人に、にこやかに優しく」「みんなに愛を与えましょう」みたいな感じになっているけど、そんなことできる? というか。先ほど言った通り、何かを切り捨てることも愛情の1つなんじゃないかと、そういうことで悩んでいた時期に書いたものですね。
中須賀:フラれた後、そういうことを少し考えたわけね。
久保:そう。自分が愛に飢えていたので、そういう時って愛を与える余裕がないなと思って。
中須賀:自分が飢えていると、与えられない。
久保:この本でも書いているんですが、スーパーの前で人が倒れていたので、「AEDを持っていかなきゃ」と、手を差し伸べて思わず助けちゃったんですね。
でも(本当は)僕にはそんな余裕はないし、自分が愛してほしいのに、これ以上人に愛なんか与えられないのに。その葛藤みたいなところを書いた章ですね。
中須賀:AEDを持っていったというのは、すごくいいことをしたと思う。ある種の愛を与えるというか、自分を犠牲にしてでも相手を助けて守るということは、その後に自分に対していい思いが返ってきて、より人に優しくなれたり、人に愛を与えられるようにはならない?
久保:うーん。たぶん、元気な時には「ああ、いいことをしたな」といって(愛が)返ってくると思うんですが、自分が飢えていたんですね。
中須賀:ああ、しんどかったんだ。研究室の先生が厳しかったんじゃない?
杉山:(笑)。
中須賀:「研究、できてねえじゃねえか!」とか言って。
久保:先生は……誰とは言わないけど(笑)。でも、先生にいじめられたことはそんなにないです。
杉山:そんなにない。ちょっとある、という。
中須賀:ちょっとはあると思う。
久保:自分を追い込みすぎるようなところも、あったかもしれないですね。
中須賀:彼女とはなんで別れることになったの?
久保:そこまで聞きますか(笑)。
杉山:めちゃくちゃ聞くじゃないですか(笑)。
久保:彼女は女性だから早い時期から結婚を考えていたんですが、その時僕は博士課程の学生で、まだ収入も国からの補助金でなんとかぎりぎり生活していたので、卒業した後の進路もどうなるかわからないという、本当に不安定な時期でした。
次の新しい生活とか、「自分が家庭を持って」とか、そんなことはぜんぜん考えられないし、それがどういうことなのかがわからなくて。「結婚しよう」みたいなことを聞かれても、はぐらかしていたんですね。で、フラれました。
中須賀:なるほどね。
中須賀:まあ、あるな。僕も似たようなことがあったからね。
久保:ありました?
中須賀:僕はね……これ、本邦初公開。
杉山:本邦。いいですか?
久保:今聞いたから、そのお返しで。
中須賀:ちょっと言わんといかんなと思って。ドクター論文を出す時、本当に研究ばっかりしていたので、ほったらかしだったんです。「ドクター論文を出せたよ」と言って彼女に電話をした時に「別れよう」と言われた。それ、つらない?
杉山:つらいですよ。
中須賀:ようやくドクター論文ができて、「しばらく会ってないから会おうよ」みたいな感じで電話を掛けた時に、「もうやっていけないから別れましょう」と言われて別れました。
杉山:「今からやっていこう」という話なのにね。
中須賀:そうそう。
久保:でもやはり、その空白の期間でいろいろ考えちゃったんですかね。
中須賀:だから、ドクターというのはそういう世界なんですよ。これ、あんまり言うと……。
杉山:誰も学校に行かなくなっちゃう。
中須賀:いやいや。余裕のある人は余裕があるけども。
久保:幸せな人もいますね。
中須賀:僕らは一生懸命やりすぎたな。
久保:(笑)。そうですね。
中須賀:でも、結局その彼女と結婚したんです。
杉山:結局!?
久保:え?
中須賀:戻ったの。
杉山:ちょっと何……今のいい話。どういうこと?
久保:でも、実は僕も戻ったんですよ(笑)。
杉山:ええ!?
(一同笑)
中須賀:結婚したの?
久保:結婚します。
中須賀:ああ、する!? なんだよ。
杉山:おいおい、こっちの同情返せよ〜(笑)! こっちは今、すげえしんみりしていたのに、なに2人ともそんないい話にしやがって! 話がちげえぜ。
久保:なんだかんだ、ちゃっかり幸せにはなったなって。
中須賀:なんだよ。読む気なくなったわ(笑)。
久保:いや、ちょっとやめてください。
杉山:2人とも同罪ですからね。
中須賀:でも、今の話を聞いた上で読むと、またおもしろいかもしれないね。これを書いている時は大変だったんだね。
久保:その時はフラれて、「どうしよう」という感じでしたね。
中須賀:そうだよな。
中須賀:ある種、愛というのがゼロサム(合計するとゼロになること)で、トータルが一定かどうかというのは、ちょっと議論の余地があると思う。もしかしたら増えるのかもしれないね。
「ここに(愛を)あげるからこちらにはあげられない」というわけじゃなくて、いろんなものを入れていけば、もっとトータルの総量を増やせる。そうすると、もう少し余裕を持ってできるかもしれないんだよね。これは、これからの人生の中でちょっと考えてみてよ。
久保:ある種、リソースを増やしてと。
中須賀:自分の愛のリソースを増やすということだよね。
例えば、子どもができましたと。子どもにも愛を注ぎたいけど、子どもに愛を注ぐから奥さんに対しての愛が減るとか、こんなのになったらさみしいじゃない。(「愛」とは、本質的には)たぶんそうじゃないんじゃないかな? という気はするんだよね。
重量リソースという衛星の重量は、さすがに物理法則で縛られているから、「100キロの衛星を200キロで打ち上げてもいいよ」とはならないわけ。
でも、愛情は違うんじゃないかな。これは、ぜひこれからの人生の中で考えていったらいいと思いますよ。少なくとも僕はそうだったな。
久保:(愛のリソースが)広がっていきましたか?
中須賀:広がっていったね。いろんな人を愛せるようになって、いろんな人が好きになった。それはやはり、子どもができて成長を見たり、いろんなことをやる中でだんだん変わってきたなと思いますよ。
久保:続編では、そういうことを書くかもしれない。
杉山:めちゃくちゃいい話をしてませんか?
杉山:僕の感想になっちゃうんですけど、お二人と話すとなった時に、「めちゃくちゃ理系の話になったら戦わなきゃいけないんじゃないか。僕、ちょっとどうしよう」と思っていて。
「いや、それは難しいのでちょっと待ってください」みたいなことになるかなと思ったら、めちゃくちゃわかりやすかった。文系かどうかという話じゃないですけど、愛の話をしていますからね。
中須賀:まあまあまあ。俺たち、まだちょっと浅いな。もうちょっと深めなきゃいけないから。
杉山:本当ですか?
中須賀:次までには、もうちょっと鍛えておくから(笑)。
杉山:いやいや。
中須賀:僕は、愛は増幅するんだと思っている。みなさんはどう思いますか?
久保:リソースって、どうやったら広がりますかね。
中須賀:どうだろうね。やはり1つ大事なことは、自分の生き方や考え方に余裕が出てくる時があるのね。
キチキチで生きていると、なかなか広げる余地はないんだけど、少し余裕が出てくるようになると、いろいろ広げる余地が出てくる。あるいは自然にいろんな愛が入ってきて、風船みたいに膨らんでいく。
若かったり、僕らもこのぐらいの時にはまだあまり余裕はなかったと思うけど、もうちょっとしてからいろいろと感じるだろうね。そうしたほうが、人生は豊かになると思うな。
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