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キャリア・能力評価・働く環境の「モヤモヤ」 その正体を知り、解決のヒントを探る(全3記事)

生き方を間違えたくない「自分らしさの呪縛」に悩む人々 働く人が抱える「モヤモヤ」の正体

社外メンター活用や社内メンター導入支援を通じて、企業向けにキャリア1on1の導入支援をしている株式会社Mentor Forの代表・池原真佐子氏の書籍『女性部下や後輩を持つ人のための1on1の教科書』が出版されました。今回はその出版記念対談の模様をお届けします。『「能力」の生きづらさをほぐす』著者の勅使川原真衣氏とともに、キャリア・能力評価や働く環境におけるモヤモヤについて語りました。

キャリアのモヤモヤを腹落ちさせていく「対話」

司会者:さっそくですが、自己紹介をお願いできますでしょうか。まず、池原さんからお願いします。

池原真佐子氏(以下、池原):みなさんこんにちは。みなさんのお名前を見ていると「岡山」「広島」などがついていて、全国から大変多くの方が聞いてくださっているんだなと、とってもうれしく思っています。

あらためて、私はMentor Forという会社で、さまざまな経験をしてきたプロの社外メンターの方を、企業で働く方々や主に女性社員にマッチングするBtoBビジネスをしています。

もう1つの肩書は、一般社団法人ビジネス・キャリアメンター協会の代表で、3ヶ月でプロレベルのメンタリングスキルを学ぶ、スクールを運営しております。

私は大学・大学院で成人教育「大人がどう学んで、どう職場で成長していくか」を専門に学んでいました。その後、新卒でPR会社、次にNPO、そしてコンサルティング会社で働きました。今日の勅使川原さんの本にもあるんですが、働く環境や関係性によって自分の評価もすごく変わるし、能力の発揮の仕方も変わるなとすごく感じました。

「じゃあそれって何だろう?」をすごく突き詰めたくなって、コンサル会社にいる時に、コーチングや組織心理学を学ぶためINSEADという大学院のEMCという修士に入りました。大学院卒業と同時に起業して、今のMentor Forという事業をやっています。

また、起業後も自分のライフイベント(子どもを持つ・持たない、結婚する・しない)や結婚後も配偶者の転勤、自分のキャリアをどうするかなど、自分の思った通りにはいかないキャリアの壁やモヤモヤを常に感じていて。

そのモヤモヤをどうやって自分なりにクリアに腹落ちさせて進んでいくのかを考えた時に、1つの方法として思いついたのが、メンター的な存在を見つけて、キャリアについて対話をすることでした。それによって自分の選択肢が広がって、一歩踏み出せる経験をしました。そこから、今のメンター事業につながる仕事を開始いたしました。ちょっと長くなってしまうので、私の自己紹介は以上とさせていただきます。

「能力=生まれ持ってのもの、変えられない」と思い込んでいる

司会者:ありがとうございます。では勅使川原さん、お願いします。

勅使川原真衣氏(以下、勅使川原):みなさまこんにちは。お昼休み中にありがとうございます。勅使川原真衣と申します。すでにもうご紹介いただきましたが、2022年の年末に『「能力」の生きづらさをほぐす』という本を出版させていただきました。今、社会で「能力主義や自己責任と言われているものは本当は何なのか」を少し問いただすような内容となっています。

『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)

今日はご縁があって、池原さんとお話しできるのでとても楽しみです。「能力主義や自己責任社会を問いただす」と言ってしまったんですけれども、本を読んでいただければわかりますが、それは入り口で出口の部分では、結局人と人が関係性を作って、人と仕事、人と人同士をどう組み合わせて対話的にやっていくかを書いています。

池原さんの本は入り口から出口までつながっていくお話だなと思っていて、対談をすごく楽しみにしています。自己紹介はそんなところですかね(笑)。どんどん内容に入っていけたらと思っています。よろしくお願いします。

司会者:ありがとうございます。では、今も少しお話しをいただいたんですが、今回は著者対談ということで、お互いの本を読んでの感想や気づきがありましたら、教えていただけたらなと思います。池原さんから、『「能力」の生きづらさをほぐす』を読まれて、いかがでしたでしょうか? 

池原:いや、なんていうか、最初はけっこう「どんな本なのかな?」と思いながら読んだんですが、電撃が走るような気づきというか示唆をいただいたなというのが、本当にお世辞抜きの率直な感想です。

みなさん「能力」と聞くと、生まれ持ってのもので変えられないと思っていますよね。私も入社した時に、「あ、仕事ができないちゃんだったな」「自分には能力がないんだ」という劣等感がすごくあって。「それって私が悪いんじゃないか」「能力を開発するには何か資格がいるのか」「勉強なのか、学歴なのか」とすごく悩んで、私も生き辛かったなとまず気づかされました。

勅使川原さんの本は、本当に丁寧に能力や実力主義がどうやってできてきたのかという時代背景をもとに解説してくださるので、何が悪い、誰が悪いではなくて、「あ、こういう時代背景や流れがあったから、こういうことなんだな」とまず腹落ちしたんですね。

能力は「関係性」の中で発揮できたり育まれたり引き出されたりする

池原:後半のほうに「関係性」という言葉があって、能力は固定じゃなくて、関係性の中で発揮できたり育まれたり引き出されたりするというのも、経験から「あ、こういうことだったのか」と思ったんです。

1社目の会社で仕事ができなかったり、NPOに移ってからも仕事がぜんぜん通用しなかったりで、すごく苦しい思いをしていて。でも、次の会社に移ったら急にすごく評価されて。「あれは何だったんだろう?」とずっと思っていたんですけど、関係性だったのかなとすっと腹に落ちました。

私も3回ぐらい本を読んでページの角を折りまくっているんですが、特に印象的だったのが「自己受容」。私たちは、自分を見つめる時にはどうしても「みんなに認められたい」「受け止められたい」という自分の情熱や価値観ばかりにフォーカスしがちなんですけれども。

そういうところだけじゃなくて、私たちは他者の中、関わりの中で生きているので、「他者からどう見えているか」「関係性はどうなのか」を俯瞰して見る。205ページの「進む内面の深掘り」というところが、私にとってはすごく腹に落ちましたね。

今ね、オンラインのカウンセリングなどがブームになって、「私、私、私」って入っていっちゃう。それは大事なんだけれども、一方でちょっと危険なこともある。「関係性ってどうなんだろう?」「網目の中で人ってどう有機的につながっていくのか?」を考えさせられました。

ちょっと語り出すと思いが詰まって長くなるので(笑)。でも本当にすばらしい本で、モヤモヤしている人もそうですし、周りにモヤモヤしている人がいたらぜひぜひ薦めていただきたいです。職場の中でみんなで読むと、職場のチームの関係性も変わるんじゃないかなと思いました。本当に心からすばらしい本でした。

2人に共通する「自己受容」のフィロソフィー

司会者:ありがとうございます。逆に勅使川原さんは、『女性部下や後輩をもつ人のための1on1の教科書』をお読みになっていかがでしたでしょうか?

『女性部下や後輩をもつ人のための1on1の教科書』

勅使川原:今、私の本をすごく褒めていただいちゃって恐縮なんですが。時代背景を含めて問いを立てて、社会の構造的なところの解きほぐしに注力してやらせてもらったつもりです。でも、どうしても「え? じゃあどうやって実際に関係性を育んでいくの?」というところには、正直答え切れていない。自分の研究の限界があるんですね。

そこに対して、池原さんの本はこれが1つの答えというか、教科書になるくらい、場面ごとに「じゃあ関係性をどうするの?」「どの一言から始めるの?」「こういう切り返しがあった時に、こういう視点の提供の仕方があるんじゃないの?」ということを本当に細かく書かれている。

たぶん池原さんのお人柄なんだと思うんですが、懇切丁寧にやさしく書いてくださっているので、私は私のお客さんに「はい、じゃあ実践はこちらでお願いします」とお渡ししたい気持ちでいっぱいです。

勝手に私たちの共通点を探りますと、超基本的なフィロソフィー(哲学)の部分が共有できていると思っていまして。それは池原さんも先ほどおっしゃっていましたが「自己受容」。ある個人のすばらしさをどう受け止め合って、どう立ち上がらせていくか。

本の中には「エンパワーメント」という言葉が使われていましたが、その実践書なんだなと、池原さんの本を拝読して思ったことです。私たちは、たぶんそれを訴えていきたいんだな。その実践を助けさせていただけたらうれしいなと思っています。すばらしい本をありがとうございます。

司会者:ありがとうございます。共通しているフィロソフィーを共有しながら、対談を進めさせていただければと思います。

なぜ「モヤモヤ」を感じる人が増えているのか

司会者:今回のイベントのタイトルにも入っていますが、「モヤモヤ」という言葉をよく聞くようになりました。働く環境や仕事、能力評価の関係で、モヤモヤを感じている人が増えているんだなと、私は個人的にもよく感じます。

勅使川原さんの本の帯にも、「職場や学校、家庭で抱えているモヤモヤをなかったことにしたくないすべての人へ」というメッセージがあったかと思います。この「モヤモヤ」という言葉ですが、なぜこれが増えているのでしょうか? またその正体は何なんだろうか? ということを、ちょっとお話しできればなと思うんですが、いかがでしょうか。池原さん、いかがでしょうか。

池原:そうですね。まず、そもそも「モヤモヤ」ってすごくよく聞く言葉なんですけど。どうでしょう、みなさん「モヤモヤ」って何でしょうね? その「モヤモヤ」が何だろうというところからなんですが。

私は1つ、先が見えないことの不安な要素や不確定要素がいっぱい固まっちゃって、塊になっちゃっている状況なんじゃないかなと思うんですよね。だって未来のことは、わからないじゃないですか。

あるいは現在のことであっても、他人のことはわからないじゃないですか。その「わからなさ」がくっついて、くっついて、くっついて、何がくっついているかよくわからない状態が「モヤモヤ」なんじゃないかなと私は思っています。

それをどうほぐすかは、たぶんこの後だと思うんです。じゃあなんでモヤモヤを感じる人が増えているのかと言うと、1つは選択肢が多すぎる。私たちは「この生き方しかない」と生まれた時から決まっていたら、ある意味、良くも悪くもそこしか選択肢がなかったりする。

でも今は副業もできちゃったり、転職でもわりと軽くエージェントとつながったりと、いろいろな生き方の選択肢がありすぎる。選択肢の先に、また選択肢が先分かれするじゃないですか。だからもっとそれがくっついて塊になっていく。さらにそれを解きほぐすため、内省して一個一個つぶつぶにしていく時間も取れないんだろうなと思っています。

「うそくさいな」という違和感を解きほぐすには

池原:勅使川原さんはいかがですか?

勅使川原:おもしろいですね。確かに納得なんですけど。あえて私は、違う解釈をするとしたら、社会の二枚舌的な「うそくさいな。なんかそう言っているのに本当じゃなくない?」と思うこと。私の場合はそれがモヤモヤになることが多いです。

例えば、先ほど池原さんがおっしゃっていましたけど、確かに未来がわからないモヤモヤはありますよね。ただ一方で、未来がわからないはずなのに、ものすごく予測をしている人がいたり、予測すべきだと言われたり。

あとは「あなたらしく」「あなたってすてき」という言説が今は多いと思うんですけど、そのくせ「成功するには○○力」「あなたはこれが足りない」「あれが足りない」「愛嬌がない」「機嫌が悪い」など最近言われていますけど(笑)。なんか「どこまでやるんだよ」という違和感、「うそくさいな」という違和感がモヤモヤのような気がしています。

それを解きほぐすには、第一に違和感を感じたことを吐き出す場が必要。でも私の周りでは少ないなと思っています。たぶんそれが池原さんの業界のお話になっていくんだと思うんですが。

違和感があることはたぶん良いし、違和感は一生消されないものだと思うんです。でも「違和感があるんだよね」と言うことすら許されてない環境が、ものすごくモヤモヤします。もう聞いていただきたいぐらい。だからきっとメンターが必要なんですよね。

池原:社会の二枚舌感はめちゃめちゃあって、今聞きながら、もしかしたら「このモヤモヤは作り出されているんじゃないかな?」と思ったりしますよね。

勅使川原:なるほど。

池原:だってモヤモヤはビジネスになるじゃないですか。

勅使川原:そうそう。

池原:例えば電車に乗っていても、「あなたの英語力をもっと伸ばそう 英会話スクール」とか「もっと美しくなりましょう 脱毛」とかね。

勅使川原:そうそう。

池原:常に不足感、モヤモヤ感を喚起され続けて解消するために、お金をチャリーンとする。その違和感なのかなと今思いましたね。

勅使川原:本当ですよね。不安ビジネスというか。誰も「あなたのままでいい」と言ってくれていない気がしちゃいますよね。

働く中で「モヤモヤ」に出会うパターン

司会者:選択肢が多すぎたり、吐き出す場がなかったりで違和感を感じていらっしゃる方が多いんじゃないかというお話でした。実際にもしかしたら、まだ吐き出せてない方もいらっしゃるかもしれないんですが、「モヤモヤ」に出会うパターンなど具体的な事例といいますか、よく聞くのはどんな声なんでしょうか?

勅使川原:どうだろう。女性キャリア系で言うと、「私は、尖ってないのに部長に抜擢されてできません」という。世間が求めるものと、自分が思っている自分とのギャップ、そのへんのモヤモヤは私もよく聞いたりします。池原さんの本の中でも何度も出てくるので、きっと池原さんはたくさんご存じなんじゃないですかね。

池原:そうですね。女性の例だと多いのが、例えばまだ出産も結婚の予定もなく、パートナーもいない状態で、出産後のいろいろなモヤモヤを引っ張ってきてすごく不安がっている方。私はよく「見えない赤子を抱いている」という表現をするんですけど、まだ起きてないのに未来をすごく心配している。「介護が起きたらどうしよう」とか。

勅使川原:なるほど。

池原:シミュレーションは大事なんですが、とにかく不安がっているだけという人も多いです。あとは男性も含めて、年齢がミドルシニアになると「会社を辞めた後の自分の生き方」でモヤモヤしている方もめちゃくちゃ多い気がしますね。中高年の生き方。

勅使川原:ええ!? そうなんだ。なんかおもしろいですね。私、今の話でちょっと思い出したんですが。よく出くわすのが、「本当は部下にこう言ってあげたいんだけど、それだと悪い上司になっちゃいそうで言えない」という。

あとは逆に「もう少し承認してあげてください」と言っても、「いや、あいつに褒める点なんてないから褒められない」という話もよく出くわしますね。「本当の自分を曲げたくない」というか「『自分にうそをついてはいけない』と習ってきました」という。

司会者:(笑)。

勅使川原:モヤっとしますよね。

池原:モヤっとしますよね。でも、それもやはり関係性、その人との関係性や組織との関係性の中での自分の役割が見えていないモヤモヤなんですかね。

勅使川原:そんな気がしますよね。

「自分らしさ」の呪縛

勅使川原:あと自分の中に、1つ固定された普遍的なものがあると思っていらっしゃる。

池原:「本当の自分」みたいな。

勅使川原:そうそう、それです、それそれ。少しわかるような気もするんですが、「変わってしまったら自分が負けるような気がする」というお話をされる方もいらっしゃるし、ちょっと自分らしさの呪縛を抱えてモヤモヤされているのかなと思う時がよくあります。

池原:確かに。自分らしさの呪縛はありますよね。「本当の私って何だろう?」と探し続けるモヤモヤと、「本当の私を変えたくない」という関係性をアジャストできないモヤモヤ、ありますよね。

勅使川原:そうそう、あります。

司会者:出会ってきた方のモヤモヤが伝わってくるといいますか(笑)、形容しがたいモヤモヤをひしひしと感じていらっしゃるのかなと思います。「わからないものに対してどうしていいかわからない」という方が多いと思うんですが、専門家として具体的にどんな質問を受けることが多いですか? 

勅使川原:いろいろですよね。今の話の流れだと、「『良いリーダーは待ったほうがいい』と聞くんですけど、本当に待ったほうがいいんですか?」という質問。巷のリーダーシップ論に重ね合わせて、「自分は本当はこうしたい」「こうしたくない」と主張される方に、私はよく出会いますね。

池原:私もそうですね。比較的女性に多いんですが、その人の生き方の選択肢に関する解を求められることが多い。「私はこっちのほうがいいですか?」「いやいや、知らん」みたいなことはあります。

勅使川原:おもしろい! そうか。そういう話をされているんですものね。なるほどな。

池原:そういうケースもあると思いますね。私の場合はね。

勅使川原:それは、おもしろい。それに答え始めたら占い師になってきますね。確かに「どっちがいいと思いますか?」か。あるよなぁ。

池原:人は「Aがいいですか? Bがいいですか?」と聞いても実はAと決めていて、人の口からAと聞きたい。だからAと言ってあげるのも1個の支援だと思うんですよね。必ずしもそれがダメなわけではないと思っています。でも、やはり常に正解が欲しい、間違えたくないというのは感じます。

勅使川原:うーん、それはあるな。あと逆に、池原さんの本の中にもありましたけど、「すべてあなたの中に答えがあります」と言われるのもしんどいですよね。

池原:そうそう、ないこともあるみたいな(笑)。そうなんです。

勅使川原:ないわ。そうですよね。難しいなぁ。

池原:難しい。

勅使川原:うん、難しい。

自分も関係性も時代も変わる中で「葛藤」はなくせない

勅使川原:すみません、自己紹介で漏れたんですけど、今進行がんの治療中というか闘病中なんです。でもがんになってからのほうが、「いやいや、葛藤はなくせないですよね」と言いやすくなって、ご納得いただきやすくなった気が今ふといたしました。

がんになるまでは「いや、そんなモヤモヤを取り除くのは無理ですよ」と言っても、なかなか伝わらなかったんですけど、実際に葛藤を取り切れないで生きている私を前にすると、「まあそうですよね」となるのかなと思いますね。

池原:確かにモヤモヤをなくさなきゃいけないことも、ないですよね。

勅使川原:そうなんですよ。だって無理じゃないですか? 

池原:そうなんですよ。

勅使川原:しんどいですよね。

池原:常に自分も変わるし、関係性も変わるし、時代も変わっていく。

勅使川原:そう思うんですよね。

司会者:「モヤモヤは取り除かなければいけない」という呪縛なのか、モヤモヤしていることはあまり良くない状況のような気がしていたんですが、今「あって当たり前だよね」とおっしゃっていただいて、それだけでもちょっと気持ちが軽くなる気がいたしました。ありがとうございます。

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