2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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福田典子氏(以下、福田):人生において、みなさんもきっと悩まれたり、紆余曲折あったり、遠回りした時があると思うんですが、そういったものが人生において持つ意味はどういったところになるんでしょうか?
松重豊氏(以下、松重):福田さんは、人生の転機はどうでしたか? 転職されましたよね。
福田:そうなんです。テレビ東京には転職で入っているので、福岡の放送局から離れて東京に出てくる時にはかなり勇気が要りましたし、悩みました。
松重:本当に悩むし、「自分の選択が正しいのか」とか、どこかでずっと「良かったのか、悪かったのか」って、まだ迷う時期があるかもしれません。
でも、全部自分が選んだ道だから、縁だと思って、それをすごくいいように変えていくのも人生の大事な工夫の1つだと思うので、そういう紆余曲折は人生において非常に大切な修行の1つだと思います。
枡野俊明氏(以下、枡野):そうですね。やはり、人間を成長させますよね。仏教で言うと、「因縁を結ぶ」という言い方をするんです。
因縁って、最近ですと「因縁の戦い」とか、あんまりいい方向で語られないんですが、因縁の「因」は「原因」なんです。それから「縁」は、英語で言うと「チャンス」なんですね。
例えば、福田さんは「別の環境で仕事をもっと花咲かせたい」と思って、日々努力している。それが「原因」なんですよ。その時に東京へ出ていって、たまたまテレビ東京さんでチャンスがあった。それが「縁」なんですよね。
縁というのは、実は全員に平等に来るんです。来るんですけれども、風のようなものですから、自分を通り過ぎてしまったらもう二度とつかめないんですよ。
福田:なるほど。
枡野:禅ではこういう話があります。梅の話なんですけど、2本の梅がありました。1本の梅は冬の間、「春風が吹いたらすぐに花を咲かせよう」と思って一生懸命準備をしていた梅。もう1本の梅は、「春風が吹いたら準備を始めよう」と考えていた梅。
ある日、突然ぱーっと春風が吹くんです。それも1日だけ。準備をしていた梅は、その風を受けてぽんと花を咲かせるんですよ。もう1本の梅は「さあ、これから準備だ」と、準備にかかった時に風はもう行っちゃって、次からは寒い日なので咲かせることができないんですよ。
その準備が「原因」で、風が「縁」。原因と縁が結ばれるから、因縁が結ばれる。だから福田さんは、やはり準備があったんですよ。
松重:今の因縁の話は、今日来ている方たちにも言える部分があるんじゃないですかね、なんかね。
福田:そうですね。そこまでがんばってきた自分が救われるような、「これからもがんばらなきゃいけない」という気持ちになるようなお話でした。
枡野:縁って不思議なもので、1ついい縁を結ぶと、雪だるまを転がすごとく、次のいい縁がどんどん次の縁を運んでくるんですよ。怖いのは、一度悪い縁を結んでしまうこと。
松重:(笑)。
枡野:「悪因悪果」と言うんですが、悪いほうへどんどん膨らんじゃうんです。ですから、初めに良い縁を結ぶことが人生の中でも大事なんですよ。
福田:お二人はいい先生にも巡り合って、いい転機を迎えられますね。
松重:でもね、お寺での修行もありますけども、基本は「ピッカピカに磨かれた廊下」。もう、それに尽きると思うんです。生活しているもの、空間、自分の周りを隙がないぐらいにきれいに磨いておくことで、縁も自然と自分の周りに集まってくる気がするんですよね。
福田:自分の家をちょっと掃除するとか、そういうことでもいいんですか?
松重:そういうので、十分。
枡野:禅では「一掃除二信心」という言葉があるんですよ。普通だったら「信心のほうが先で、掃除のほうが後でしょ?」と言いたくなるんですけど、先に掃除なんです。
さっきちょっと触れましたけれども、私たちは一点の曇りもないような美しい心を持っているんですが、世の中のいろんなもので塵や埃が付いちゃうんです。だから、それを常に拭いて、美しい鏡のようにちゃんと映るようにしていかなきゃいけないんですよ。ですから、「自分の心を磨く」という意味で掃除をするんです。
福田:なるほど。
松重:それが具体的なんですよ。禅のお寺に行って廊下を見ていると、「毎日こうやって拭いているお坊さんたちがいらっしゃるんだな」ということで、こちらもそういう気持ちで行かなきゃいけないし。おトイレ1つ取ってもピカピカですよ。
枡野:(笑)。松重さん、言っていましたね(笑)。
松重:ピカピカですよ。
福田:そうなんですね。
松重:ピカピカに磨かれていて、「粗相ができない」という気持ち。
福田:なるほど。こちらも「ちゃんとしなきゃいけない」という気持ちになるんですね。
松重:そうそう。やはりそこにいい縁が生まれてくる。「ここではよこしまな気持ちではいられないぞ」という覚悟ができるじゃないですか。そういう場所も、精神性も含めて問われている気がしますね。
福田:風が吹いて、成功できたとしますよね。枡野先生は庭園デザイナーでたくさんの賞を受賞されていますし、松重さんは大河ドラマから飛躍されて、また活躍の場面を増やされていったと思います。
そういった成功体験をした後に、名声を得たり、ちょっと気が大きくなったりする自分とどのように付き合っていったらいいと思いますか?
松重:僕らの仕事は、何をもって「成功」と言うかはよくわからないんですが、先ほどおっしゃっていただいたように、いい縁がどんどん重なるといろんな仕事ができるようになって、こういう場にも呼ばれてお話ができる。それが幸せだな、ということなんですね。
雪だるま式に、縁が本来の自分をもっともっと広げて、おもしろくいろんな表現に変える場を与えてくれるチャンスがどんどん増えた。自分にとっては、単純にそれだけだと思うんですよね。だから、成功したうんぬんというのは他人が評価すればいいことです。
「あの人は成功したね」と他人から言われることよりも、とにかく自分としては、「このご縁によっていろんな人と会えて、枡野先生ともこんな話ができた。本を作っただけじゃなくて、こういう場所でまた枡野先生のお話が聞けて、いろんなヒントがもらえたな」という思い。そういうことだと思うんですよね。
枡野:評価というのは、勝手に周りの人がしてくださるんですよ。ですから、本人はなすべきことをなしていればいいんです。
今、私たちが、松重さんは俳優として何をなすか、私は禅僧として・デザイナーとして何をなすか。そのやるべきことは、足元をきちんとコツコツやることしかないんです。評価は、みなさん勝手にしてくださればいい。
福田:「周りの声がどうしても気になってしまう」というところがあるんですが、やはりそこは、自分の心と向き合うということですかね。
松重:十牛図もそうなんですが、結局は本来の自分。社会の中での自分の立ち位置を考えたり、自分の役割ばかりを追っていると、自分がよくわからなくなってくるじゃないですか。
本来の自分が何なのかというのは、理屈で考えてもしょうがない部分なので、「こうだからこうですよ」ということじゃないと思うんですね。そういうものに自分が気づけるかどうかだと思うんです。
枡野:座禅の「座」という字、今は「广」を書く場合が多いんですが、本当は「人」を2つ書いて「土」なんですよね。要は土の上で座っているんですが、なぜ「人」が2つあるかというと、1つは今の自分、もう1つは本来の自己。先ほど言った美しい汚れのない心と自分で、どっしり座って対話をするんですよ。
福田:なるほど。
枡野:「今の生き方ってこれでいいのか?」「周りのことを気にして、こんな状態で本当にいいのか?」ということを、自問自答する姿が座禅の「座」です。
福田:日々の生活で座禅を取り入れるのはおすすめですか?
枡野:おすすめだと思いますね。
福田:おお、深くうなずかれました(笑)。
松重:仏教というか、禅の教えは哲学だと思うので、生きていく上で本当にためになる知恵だと思います。お寺の門を叩いたり、こうやって積極的に先生にお話を聞きにいくことも含めて、やはり座禅はその入り口にもなっていますし。せっかく、日本という至るところにお寺がある場所に生きているので。
枡野:(お寺の数は)コンビニより多いんですよ。
松重:コンビニより多い!
福田:そうなんですか。
枡野:確かコンビニは5万6,000件だと思うんですが、お寺は全宗派で7万4,000件ぐらい。だから、そのくらい身近にあるんですよ。
福田:そうなんですね。
松重:(お寺に)行かれるべきだと思うし、仏像を見るのもおもしろいし、座禅もおもしろいですし、写経とかもあるでしょうし。日本人として、せっかくコンビニより(お寺が)多いところに生きているわけですから、お寺に触れたり、積極的に利用して、自分の哲学をどんどん高めていってほしいなと思いますね。
福田:時間も少なくなってきたんですが、この後は質疑応答がありますので、みなさんもぜひコメント、メッセージ、感想、質問を送っていただければと思います。(参加者に)ビジネスパーソンが多いものですから、最後に仕事への取り組み方を聞いて、質疑応答に行きたいと思います。
松重:行きましょう。
福田:枡野先生は、造園の際に図面を書いて用意するけれども、現場には持っていかないとうかがいました。そのあたりの、仕事への向き合い方を教えていただいてもいいですか。
枡野:デザインをする時に、本当に現場を読み解くんですよ。その現場の特徴や短所を頭に入れて、「こういう空間にすれば、こういう人たちがこういう使い方をされる。あるいはこういうふうに向き合ってもらえる」ということをイメージしながらデザインをするんです。それは、頭の中にすべて入っています。
ところが現場に行った時には、見落としていたことや気が付かなかったことが絶対にあるんですよ。そうしたら、頭の中の組み立てをもう一度見ながら、「これをこう活かすと、もっと考えていることが相手に伝わるな」というかたちで、どんどんそこで(デザインを)変えていくんですね。やはり、現場は生き物ですから。
福田:(今のお話を踏まえて)松重さんは、演じられる時や俳優業に通ずるところはありますか?
松重:まったく同じです。設計図というのは僕らにとって台本だと思うんですが、台本がうろ覚えだったり、相手役のことが気になったりとかそんなことじゃなくて、現場に行って「自分が思っていた取調室とぜんぜん空間が違う」とか、そこで起きていることがすべてなんですよ。それを、いちいち自分の中に新鮮に取り入れる。
だから、家の中で想像して「こうやってやろう」「ああやってやろう」というのは、ただのプランとしてはあるんですが、そういうのを捨てます。
現場の空間で何ができるか、カメラマンがどういう角度で撮っていて、監督が何を指示してくるか。それを常に、新鮮に、ピュアに感じることが大事だと思うので、枡野先生がおっしゃったのと本当に同じような気持ちです。
枡野:その空気になり切っちゃう、ということですよね。
松重:そうですね。
福田:現場での臨機応変さは、しっかりと準備しているからできることですね。
枡野:そうなんです、何も準備してなかったらできないんですよ。周到に準備して、ただそれに固執するのではなくて、もう一回さらの気持ちで周りを見てみる。「どういう表現がいいのかな?」といった時に、100パーセント違っているわけではないですから、それを活かしながら前へ前へといい方向に変えていくんです。
福田:ビジネスパーソンの方にも、とても思い当たるところがあるお話だと思います。
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