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はたらく幸せフォーラム 2023 ー中原淳先生 x 前野隆司先生の対談ー(全4記事)

約30%いる、活躍度と幸福度が高いビジネスパーソンの学び方 立教大・中原教授が語る、ウェルビーイングの高い社会人の学習の特徴

幸せな働き方を研究し実践するコミュニティとして、2021年4月に発足した「はたらく幸せ研究会」。同会と慶應SDMヒューマンラボの共催で行われた「はたらく幸せフォーラム」に、立教大学で人材開発と組織開発を研究する中原淳教授と、ウェルビーイングを研究する慶應義塾大学の前野隆司教授が登壇。人事領域でも高まるウェルビーイングの重要性や、両者のウェルビーイングを向上させる取り組みなどが語られました。

日本人にとっての「仕事」

前野隆司氏(以下、前野):さっそく対談を始めたいと思います。まず自己紹介からいきましょうか。

中原淳氏(以下、中原):みなさんこんにちは。中原と申します。立教大学で人材開発と組織開発の研究をしています。今日はウェルビーイングにも関わるかもしれませんが、自分の行った研究をご紹介しつつ、みなさんと1時間楽しんでいければと思います。よろしくお願いします。

前野:よろしくお願いします。最初は対談、後半はみなさんからの質問をどんどん聞いて、インタラクティブな場にしていきましょう。

最初に私からお聞きしたいのは、「はたらく幸せ」と聞いてどうお感じになりますか?

中原:この場に専門家の方がいらっしゃったら、申し訳ないなと思うんですけど、僕の感覚で言うと、グラデーションをまず思い起こしてしまいます。例えばストレスとか、バーンアウトとか、ちょっとネガティブ系の要因がこっち(左側)にあるとします。

だんだん(真ん中の)ニュートラルに近づくと、例えば成長を実感したり、日々の仕事の中で何か良いことが起こったりする。そして、(右側に)ワークエンゲージメントがあり、ウェルビーイングの世界があるのかなと。これらの諸要因は「地続きの世界」なんじゃないでしょうか。僕はそう思いますね。

で、幸せ・ウェルビーイングですが、日本人の場合、幸せ・ウェルビーイングに対して、働くことはたぶんめちゃくちゃ大きいと思うんです。僕は前職で、十何年ぐらい前に東大にいたんですけど、その時に玄田有史先生が『希望学』を立ち上げられたんです。

その本の中にすごく印象的な一説があって。「あなたは何から幸せや希望を感じますか?」という問いに対して、日本人の55パーセントが「仕事」と答えたんですよ。家庭ではなく、仕事です。

これは、日本人が仕事熱心だとも言えるし、仕事を中心に生活が組み入れられているとも言えます。ネガっぽく言うと、仕事しかないとか、仕事に囚われているところもあるのかなと。家庭よりも仕事が先に来るのがすごく印象的でした。専門家としてはどうですか? 

前野:先生はどっちが大事ですか?

中原:どっちもですね。ただ、仕事は僕です。僕は人材開発・組織開発がなくなると、中原淳じゃなくなっちゃう気がする。

前野:確かに。じゃあ仕事が好き?

中原:でも、家庭も大事。そういう難しいこと聞かないで(笑)。

前野:いやいや、変化球が出ますから(笑)。

中原:そっか(笑)。

人事領域でも高まるウェルビーイングの重要性

前野:ちょっと思い出したのが、上司との人間関係とパートナーとの人間関係のどちらが幸せに影響するかという研究があって、上司のほうが幸せに影響するんですよ。

だから、家庭でもちゃんとパートナーを大事にしないといけないけど、上司との人間関係も大事にしておかないと、幸せに生きていけないんだよと。まあ日本の研究ですけどね。

中原:たかが職場ですけど、されど職場で。1回試算したことがあるですけど、みなさんは職場で6万5,000〜10万時間ぐらい過ごすんですよね。めっちゃ長くないですか?

小学校、中学校を足しても、授業時間って1万4,400時間ぐらいしかないんですよ。だから、それよりも圧倒的な時間を、実は職場で過ごす。その中の人間関係で、上司との人間関係がド最悪だったら最悪ですよ。

前野:最悪ですね。

中原:ちなみに、みなさん老後は何万時間ぐらい過ごすと思いますか? これもいろんな試算がありますけど、15〜20万時間です。だから、パートナーとの人間関係が最悪だったら、最悪だよね(笑)。どっちも大事なんだけど。

前野:そんな中、中原先生の研究は昔から人事ですけど、ウェルビーイングとも関係していたんですか?

中原:僕の印象で言うと、ワークエンゲージメントはなんとなく範囲にはあったけど、ウェルビーイングまでは射程に入っていなかった。ただ、昨今は「ウェルビーイング、大事だよね」とかなり言われるようになってきていますね。組織の外の世界でも人生いきいきしていたほうがいい。

要するに、組織の研究は、難問にぶちあたっているのだと思います。組織と外部の境界、組織が失われる、組織が必要とされなくなった時に、どうするんだってことですよね。

前野:ウェルビーイングってバズワードみたいに言われていますもんね。Googleトレンドで見ると、この5年ぐらいでものすごい勢いで増えているんですよ。だから、もしかしたらエンゲージメントという言葉より、最近はウェルビーイングのほうが使われているかもしれない。それくらいよく使われますね。

時代とともに変わるライフとワークの距離

中原:そうですね。人生って働くことだけが目的ではなくて。みなさん、自分で働くこととライフの2つの円を描いてみてください。2つの円をどういう重なりで描くか。

例えば、ライフの中に働くがある人もいるかもしれないし、でかいワークの円の中にライフがあるかもしれない。ライフとワークが重なり合っていない人もいるかもしれないし、隣り合っている人もいるかもしれないですよね。そういう意味で言うと、昔はたぶん、ワーク=ライフだった。

前野:あー、日本人は。

中原:そこが重ならなくなってきている。仕事の現場以外にもいろんな要因が出てきているのかなと思いますね。

前野:今日、仕事と家庭の距離が近すぎず、遠すぎず、適度な時が一番幸せだ、みたいな発表があって。それを見てショックでした。僕はすごく近いんですよ。ライフとワークがごちゃごちゃになっている。

妻も幸せの研究をしているから、妻との会話はほとんど仕事の会話です。でも、幸せについての会話だから、幸せなのかもしれないですね(笑)。

中原:入れ子で、なかなか、ややこしいですね(笑)。

前野:そう、ややこしい(笑)。どっちの話をしているかもうわからないんですけど。先生はどうですか? ライフとワークは分けていますか?

中原:妻も教育業界に勤めているので、教育の話とか人事の話はたまにするんですけど、どちらかというと分かれている感じがしますね。

前野:ああ、分かれていますか。うちとは違うタイプです。

中原:家では単なる親父ですね(笑)。本当にシンプルな親父ですよ。

前野:どんな親父ですか(笑)。趣味とかあるんですか?

中原:趣味ですか? すごいところに質問が来ますね。

前野:変化球ばっか(笑)。

中原:美術館巡りが趣味です。あとはトレーニングかな?

前野:お、美術とか体育が好きですか。

ウェルビーイングを向上させる取り組み

中原:僕は図工が「2」で、めちゃ苦手です。体育も「2」ですけど。年をとってわかったのが、僕は体を動かすことや絵を見ることが嫌いだったわけではないのです。見たものを正しく写真のように描くことが苦手だった。体育も100メートルをはやく走るのが苦手だった。だから図工も体育も「2」。

大人になって、アートでも見に行くか、運動するかみたいになって、「俺、意外にめっちゃ好きかも」と思って。最近はそういうのが、僕にとってのウェルビーイングを上げていますね。

前野:絵なんて、ちょっと描いてみたらいいんじゃないですか? けっこうピカソみたいだったりして。

中原:これがなかなか、描くとうまいんです。

前野:うまいんですね(笑)。

中原:うまいと言うか、小学校、中学校の時に写生会とかあるじゃないですか。中原くんが描くわけですよ。描いて、絶望的なのが色を塗り始めた瞬間(笑)。写真じゃなくなってくるというか、どんどん、意図していないのに、絵が「キュビズム化」していくんですね。色を塗り終わったあとには、しらないうちに「現代アート」になっちゃってる。

前野:やっぱりピカソと近い。すごいのかもしれないですね。見る人が見ると「天才だ!」みたいな。

中原:いやいや。学校の時はダメでした。でも今、大人になってから、そういう昔苦手だったものに取り組むのがわりと好きですね。

前野:子どもの頃は一番好きなことをやりたいけど、歳を重ねるとだんだん違うことをやりたくなりますよね。

中原:先生はどうですか?

前野:僕は、ダンサーになろうと思ったことは一度もないんですけど、大人になってからダンスをやっていて、全国公演まで行ったんですよ。体育もダメだったし、ダンサーになれると思っていなかったんですけど、亡くなった黒沢美香先生が「前野さんのダンスは、タンスみたいですごい」って言うんですよ。

ダンサーは、体が柔らかすぎて、ぐにゃぐにゃしている。「あなたは硬い体で、ギリギリのところまでがんばっている姿が美しい」と黒沢先生が言っていた。プロから見たらすごい体らしいんですよ(笑)。だから、ピカソと一緒ですよ。一緒にしちゃいけない(笑)?

中原:意外にまだまた、私たちも掘りがいがあるかもしれないですね。

前野:そうですね。

会社で活躍し、幸福度も高いビジネスパーソンは約30%

前野:ぜんぜん働く幸せではない話で盛り上がりそうなので、働く幸せに戻します。

中原:戻るんですか(笑)?

前野:戻しませんか(笑)? この資料を早く見たい気持ちが芽生えてきたんです。これはどんな資料ですか?

中原:これは専門家の前で言うのは嫌ですけど。ベネッセ教育総合研究所のみなさん、パーソル総合研究所のみなさん、そして中原で共同研究でご一緒させていただいて、幸せと学びの関係を調査させていただいたんですね。

「ハタチからの『学びと幸せ』探究ラボ」といいますので、ぜひwebサイトをご覧ください。調査結果の詳細は省いて、大事なところだけお話しします。今(スライドに)出ていると思うんですが、会社の中で活躍して、幸せな層が30.6パーセントぐらいいる。組織の中ですごくがんばっていて、ウェルビーイングも高いビジネスパーソンですね。

その人がどういう学びをしているかが、僕の興味関心です。僕は、学ぶことや学び直すことが、長い目で見るとすごくウェルビーイングに関係するのではないかと思っていました。

人生100年時代に完走できるビジネスパーソンってどんな人なのか? その時にすごく幸せを感じる人はどんな人なのか? みたいなのを、明らかにしていこうとしたんです。

まず先ほどの、会社の中でがんばっていてウェルビーイングの高い人は、前向きに取り組んでいることはわかる。まあ当たり前といえば当たり前ですけどね。

平日のこの時間に、ここに来られるみなさんは、たぶんかなり特異な層だと思うんですけど、一般の人々は、学びというとすぐに学校に行くとか、資格を取ることとかになってしまうんです。

(スライドの)「学ぶって、私はもう社会人だし、ちゃんと一人前に仕事もできるし。何、『今さらジロー』みたいなことを言っちゃってんの? 学ぶって、今から資格取れってこと? 学校行けってこと? もう暗記は無理よ」が、たぶん一般的な社会人の学びのイメージ。学び=資格、学び=学校になってしまうのではないかと思うんです。

日本の多くの人々の学びのイメージは、この(スライドの)絵だと思います。……だから、図工「2」だって言ったじゃないですか(笑)。

(会場笑)

中原:私が描いた絵です。

前野:良い絵ですね。

中原:知識やスキルを上からバンバンぶん投げられて、脳の中に注入されていくみたいなのが、一般的な働く大人の学びなのかなと思います。

ウェルビーイングの高い社会人の学習の特徴

中原:それも大事ですけど、学びには、もっと多様な要素があって。その学びを語る言葉をたくさん作りたくて、ベネッセさんやパーソルさんと協力させていただいて、いろんな名前をつけたんですね。

全部紹介するとややこしいけど、人と関わりながら学ぶとか、いろんなものをつなげて学ぶとか、逆境で踏ん張って学ぶとか、コツコツ学ぶとか。いろんな学びがあると思うんです。

大人なんだから、学び方は自由です。自由に自分で組み立てればいい。デジタルで学ぶ方法もあるし、新領域に思いきりピボットしていく学びもあるし、疑いつつ学ぶみたいなものや、本当に学ぶことが目的の学びもあるのではないか。

いろんな学び方がある時に、一番社会人のウェルビーイングに関係するのは何か。端的に言うと「ソーシャルラーニング」です。社会的に学ぶ。孤独に学ぶのではなくて、多くの人と学ぶことですよ。

(スライドのグラフの)青と黒のところですが、人とともに学んでいる人のウェルビーイングが、めっちゃ高いことがだんだんわかってきた。

私は別にビジネスパーソンだけのことを考えているわけではなく、この日本を、学習立国にすることがすごく大事だと思うんです。この国はそんなに資源がないので、人に投資して、人の価値を上げていくことがめっちゃ大事だと思うんですね。

高校時代にどういう学びが大事なのか? 大学時代にどういう学びが大事なのか? そして、社会人の学びの特性は何が大事なのか? 

これらを分析すると、高校時代に、例えば学ぶ意義を理解したり、探求的に学ぶ。そして、大学に入ると能動的に学んだり、暗記のイメージからは遠いような、ともに学んでいくようなものや探求していく学びが、社会人の学びにつながっていくことがわかった。

ひとことで言えば、やっぱり教育は大事。それかい! みたいな感じですけれども(笑)。こんな研究をしました。調査の概要も、何十ページかの報告書があるので、あとで見ていただければと思います。

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