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【HYOUGE NIGHT】『児童養護施設という私のおうち』著者 田中れいかさんに訊く、私がモデルから社会起業家を目指す理由(全3記事)

児童養護施設で暮らす子どもの高卒後の就職率が高いわけ 施設出身のモデルが語る、入所者が高2で直面する「岐路」

スタートアップカフェ大阪が主催したイベントに、『児童養護施設という私のおうち』の著者・田中れいか氏が登壇。7歳から18歳までを過ごした児童養護施設を退所後にモデル活動を始め、現在は社会起業家との二足の草鞋を使いこなす田中氏が、児童養護施設の実態や課題を語りました。

退所後にモデルになった田中れいか氏が登壇

田中れいか氏(以下、田中):今日はお集まりいただき、ありがとうございます。田中れいかといいます。私は、東京都世田谷区にある児童養護施設で、7歳から18歳まで11年間生活していました。

18歳で施設を出なければいけない法律の制限があったので、18歳になって施設を出て、奨学金を借りて短大に進学しました。そして、短大進学中に「施設を出て、自分がやりたかったことを全部やってやろう」ということで、フリーのモデルとして活動を始めました。

22歳の時にミスユニバースという、勝ち進むと世界大会まであるミスコンで準グランプリを受賞しました。

「これからもっとモデルの仕事をやりたい」と思っていたら、周りの人が「児童養護施設のことを教えてください」と、モデルの仕事よりも講演依頼のほうが増えてしまって。ゆるゆるとズルズルと、施設の暮らしを伝える今の活動が続いています。

せっかくこの人数なので、もしよかったらみなさんのお名前とか、「こんな事業をやりたいと思っている」というのをまず最初にお聞きしたいんですが、マイクを回してもいいでしょうか?

山下舞氏(以下、山下):大丈夫です。どうぞ!

参加者1:シングルマザーの方に向けた無料学習支援を提供するために、NPO団体にボランティアとして入ろうとしています。そのNPO団体は基本的に、学生さんが教えているんですが、学習支援プラスアルファでお母さんのケアをしたり、お子さんの相談を聞いたりする時間も別に取っています。

シングルマザーの抱える悩みを、学生さんに訊いてもらったり、地域と連携してイベントをしたりしています。正直、私も「起業しようか」「NPO団体を立ち上げようか」といろいろ考えていまして、まずはボランティアから始めたいと思っています。

私は無料学習支援というよりは運営に関わろうと思って、その勉強をしようと思っているんですが、言ってみれば一番問題なのは資金調達じゃないですか。

田中:はい。

参加者1:NPO団体には助成金とかは入るけれども、寄付を集めないといけないですし、お金の集め方で工夫しているところがあれば聞きたいなと思っています。大学のボランティア団体だから、大学から助成金をもらっていたらしいんですけど、それも今は、難しくなってきているみたいです。そこも悩んでいると言っていたので、そういうことも聞きたいです。

田中:ありがとうございます。

(会場拍手)

退所後に家を借りるための保証人がいない問題

参加者2:私は今、デザインの仕事をしています。

田中:おお、すごい。

参加者2:猫が好きで、外の猫ちゃんたちを助けられるようなことをやりたいなと思っているんですが、まだぼんやり考えている段階という(笑)。今、起業家さんの話をいろいろ聞いているところです。

田中:ぼんやり(笑)。いいですね、ありがとうございます。

(会場拍手)

参加者3:僕もデザインなんですが、もともと動物を飼っていたので動物愛護関係と、自立した若い世代が活躍できる場を作りたいなと思っていて、今日は勉強に来ています。

田中:ありがとうございます。

(会場拍手)

参加者4:私は自分で子ども食堂をしています。高齢者や障がい者、身体障がい者の方に関してはNPOの外部評価機関というものがありまして、そういう団体さんの外部評価をやっています。児童養護施設は岸和田のほうにありまして、これはたぶん戦前から始まっています。

田中:3つありますよね。

参加者4:そうです。毎年8月の2週、3週と、子どもたちが演目をやっていまして。去年はコロナの規制緩和が解禁されて、初めて行ってきました。

田中:コンサートですかね。「にじいろ“夢”コンサート」をやっていますよね。

参加者4:そうです。

田中:存じ上げています。

参加者4:そこでいつも感じるのですが、児童養護施設は18歳で支援の一切を打ち切られて、そのあともサポートがまったくないので、家を借りるにしても保証人がいない。

そこで理事長の先生が保護者になってくれているんですが、それはちょっとおかしいなと思っています。何か活動していきたいなと思っていまして、今日はいろんなお話をお聞きしたいなと思います。よろしくお願いします。

田中:ありがとうございます。

(会場拍手)

参加者たちのそれぞれの思い

参加者5:関西大学で研究員をしているんですが、もともと児童養護施設で7年間職員をしていました。今日も施設から来たんです。

田中:おお、そうなんですね。お疲れさまです。

参加者5:両立しているんですが、今日は子どもたちにも本を見せて、田中先生にお会いすることを言ってきました。私の施設では、まだみんなが知っている感じじゃなかったので、今日はそういう意味でも楽しみに来させていただきました。

自分で何か新しいことを始めるという点では、ピアノがすごく得意で、そういう団体を立ち上げました。ピアノで儲けるという話ではぜんぜんなくて、音楽を届けたり、自主的な講演を行っているんですが、世の中のためになればいいなと思って始めたばかりなので、今日は勉強させていただきたく思います。よろしくお願いします。

田中:お願いします。

(会場拍手)

参加者6:はじめまして。私は訪問看護をやっています。今は会社勤めですが、医療系の知識やノウハウを使って、独立してフリーランスで医療をやっていきたいと思って勉強しているところです。実は、田中さんと同い年でして......。

田中:おお、本当ですか。

参加者6:そうなんですよ(笑)。同い年の方が活躍されているお話を聞きに参りました。よろしくお願いいたします。

田中:ありがとうございます。

(会場拍手)

参加者7:3年前にWeb制作会社を起業しまして、今も順調にやらせていただいております。実は関西大学社会学部さまのホームページは、私のほうで作らせていただいています。

それとはまったく関係なく、こちらの活動のメルマガを受信しており、今回こういうお話をお聞きしました。もともと社会貢献、特に児童養護施設の退所後のサポートに非常に興味がありました。

今は起業して4期目で、無事になんとかなっておりますので、差し出がましいですが「何かサポートができることがあれば」と思って。具体的にどういったサポートを必要とされているのか、お聞きできればと思ってお邪魔しました。よろしくお願いします。

田中:ありがとうございます。

(会場拍手)

善意で送られるものと施設で求められるもののミスマッチ

田中:よかったらこの流れで、「ゆめさぽ」メンバーの紹介もいいですか(笑)?

橘川亜紀(以下、橘川):田中れいかさんと一緒に「ゆめさぽ」をやらせていただいています、理事の橘川と申します。主に企画・広報に携わっております。みなさまの中には、社会的養護や退所後の支援に関わりたいとか、いろいろなお話があったと思います。

児童養護施設にタイガーマスクさんの名前でランドセルが余ってしまうほど届いたり、クリスマスになると食べ切れないほどのケーキが届いたりと、「何かやれることがないかな?」と思う人たちはたくさんいるんですが、実際にそればっかり届いても「もう足りている」「十分すぎる」という場面がいろいろあります。

そうではなくて、例えば子どもたちが友だちと遊びに行くときの自分用の自転車とか、やりたい習い事とか、本当に求められているパーソナルなサービスをマッチングできればという思いが、当時立ち上げた人たちの中にはありました。この団体は、そういうことをきっかけに始まりました。

今は学校の受験料のサポートに重点を置いて活動していますが、いずれは私たちも力をつけて、もっとパーソナルなサービスを届けていきたいなと思って活動しております。ちょっと長くなってしまいましたが、よろしくお願いいたします。

田中:ありがとうございます。

(会場拍手)

永野紗代(以下、永野):事務局の永野と申します。私は関西大学の卒業生なので、今日は梅田キャンパスに来ることができ、大変嬉しく思っております。

「ゆめさぽ」は進学応援プロジェクトをメイン事業としております。2月4日にその報告を兼ねまして、昨年度(2021年度)、「進学応援プロジェクト」で当団体が支援した45名のうち2人の現役大学生に来ていただいて、実際に児童養護施設で生活しながら乗り越えた受験生活など、いろいろなことを代表の田中れいかとお話ししてもらいます。ぜひお越しください。よろしくお願いします。

田中:ありがとうございます。

(会場拍手)

名前は知っていても、実際に行く機会がない場所

田中:「ゆめさぽ」に関しては、私以外はみんな大阪在住の理事でがんばっていただいております。みなさんの背景もなんとなくわかったところで、次に行きたいと思います。今日は山下さんにトピックをいただきました。

山下:ありがとうございます! では、そろそろ本日のイベント内容に入ろうと思います。

今日お話いただく内容は大きく2つです。まずは、田中れいかさんが今やっていらっしゃる活動内容について。児童養護施設出身のモデル兼起業家ということから、活動をされる上で、他の人がされていないような体験やご経験をお持ちではないかと思います。

そのあたりを踏まえて、今やっていらっしゃること、モデルをやりながら、社会起業家として発信されているところなどをお話ししていただきます。発信力もそうですが、やっぱり行動力がすごい方なので、みなさんも田中さんのパワーを貰いながら、お話を聞いていただければと思います。

PART2では、サポートを必要としているお子さんたちについてお聞きします。「ゆめさぽ」の活動もそうですが、田中流「持続可能なビジネスアクション」ということで、そのあたりのお話を聞いていければと思っています。では、まずはPART1からスタートしていきましょう。

田中:ありがとうございます。では、お付き合いいただければと思います。今日は「ゆるい感じでいい」と言われていますので、私もゆるい気持ちでやらせていただけたらと思います。

まずは、施設職員さんがいらっしゃるということで、今日は勤務時間がお忙しい中本当にありがとうございます。みなさんの中で、児童養護施設に行ったことがあるよという人はいますか?

(会場挙手)

田中:やっぱり、名前は知っているけれども実際に行く機会はない場所なんですね。

全国の施設で暮らす子どもの数

田中:ちょっと俯瞰してみるために、あえて数字を出しますが、日本全国に児童養護施設って何ヶ所くらいあると思いますか? というクイズです。

1番、300だと思う人。

(会場挙手)

2番、600だと思う人。

(会場挙手)

ちょっと多いですね。3番、700だと思う人。

(会場挙手)

ということで、正解は2番の「約600ヶ所」です。細かく言うと615ヶ所とか、600台を行き来している感じになっています。

では、その600ヶ所の施設で暮らす子どもの数は何人くらいなのか。

1番、約2万人だと思う人。

(会場挙手)

いないですね。次、約2万5,000人だと思う人。

(会場挙手)

ちらっといますね。最後、3万人だと思う人。

(会場挙手)

こっちのほうが多いですね。こちらの正解は、2番の「2万5,000人」となっています。児童養護施設以外にも、親元を離れて暮らす子どもたちがいる施設っていっぱいあるんですね。

乳児院、自立援助ホーム、母子生活支援施設、児童心理治療施設、児童自立支援施設とか6種類くらいあるんですが、それらを全部ひっくるめると、約4万5,000人の子どもたちが家を離れて、親に代わって育ててくれる施設等で生活を送っています。

今暮らしている約2万5,000人の子どもたちのうち、必ず毎年巣立っていく子がいるわけです。では、その子たちの人数はどれくらいだと思いますか? 2万5,000人のうち、毎年何人くらいが施設を出ていくのかという統計です。

1番、1,000人かなと思う人。

(会場挙手)

2番、1,500人だと思う人。

(会場挙手)

3番、2,000人だと思う人。

(会場挙手)

こちらも、答えは2番の「1,500人」です(笑)。クイズの出し方がへたっぴなのがバレるんですが、毎年1,500人の子たちがいろんな施設を巣立っていくという、厚生労働省の統計になります。

ということで、一気にローカルクイズです。全国に600ヶ所の児童養護施設があるという話をしましたが、大阪府内だけでは何ヶ所くらいあると思いますか? ヒントとして、大阪市は8ヶ所です。ヒントになっているのかわからないんですけれども。

1番、25ヶ所かなと思う人。

(会場挙手)

ゼロですね。2番、33ヶ所だと思う人。

(会場挙手)

ちょっと多いかな。3番、41ヶ所だと思う人。

(会場挙手)

答えは41ヶ所です。これは「全国児童養護施設協議会」というものから引用しています。大阪は、東京に次いで2番目に多くなっています。今、職員さんが「うん、うん」と言ったので、間違いないと思います(笑)。

高卒後の就職率が高いわけ

田中:児童養護施設というと、ルーツは孤児院から来ているので、「親のいない子どもたちを代わりに育てる施設」として戦後からでき上がっているわけです。

でも、平成に入ってからは親のいない子の施設ではなく、保護者はいるんだけれども家で育つことができないという理由があって、施設にやってきています。なので9割以上の子に、両親またはひとり親がいる状況になっています。

続いては「ゆめさぽ」に通ずる統計です。春くらいの時期、よくニュースで取り上げられるのが「施設出身者の高校卒業後の進路と、一般家庭で育った子たちの高校卒業後の進路がぜんぜん違うよね」というところです。

施設出身の子の大学進学率は17.9パーセントです。これは最新のデータですが、その他の子たちは52.7パーセントとだいぶ差があります。

施設から出る子の進路は就職が多いのが現状です。「これはちょっと変じゃない?」というところで、メディアさんはネガティブ要素強めで出してきます。

これを見た時に、「そもそも進学したい子がいないんじゃないか」と私も思ったんですが、厚生労働省の統計を見てみると、中3とか高1の時点では「短大・大学の進学を希望する」という子が多いんです。けれども、高2・高3になった時点で「希望しない」が多くなってきております。

私も統計を見て初めてハッとしたんですが、みなさんも高2くらいの時に進路希望調査を先生に出しますよね。その時に施設で暮らしている子は、やっぱり両親に経済的な問題を頼れない子たちが多いんですね。

私自身も過去を振り返ってみると、「両親に学費は頼れない、生活費も頼れない」ということが明らかになっていたので、高2の時点では「借金をしないで生きるなら就職、借金してでも学校に行くなら進学」みたいな感じでした。やっぱりここが分岐としてあったなというのを、思い出させてくれる統計です。

きっと他の子も、高2で「これから先どうする?」ってなった時に、「借金を背負ってまで進学は」という気持ちがあると思います。

自分の子どものように育ててくださる施設職員さんもいて、「自分の子に借金をさせてまで進学させていいのか」「あなたは早く就職しな」と声を掛けたりするので、ここはずっとモヤモヤな状況なのかなと思っています。

「ゆめさぽ」では、もともと進学したいと思っていた子たちの背中を押すかたちで、進学する時の受験費用として、1人2校くらい受けられる7万円を一律助成しています。「失敗してもいいからとりあえず受けてみなよ」というサポートを、進学応援プロジェクトとして取り組んでいます。

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