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ワーケーション推進のハードルをどう乗り越えるか?(全3記事)

3週間分のタスクが「1泊2日」で完了するほど、生産性が向上 ハードルが高いと思いがちな「ワーケーション」導入の第一歩

仕事をレジャーや休暇に織り込む「ワーケーション」。その成果について関心はあっても、「どこまで会社が費用を負担すべき?」「労災のリスクは?」など、主に労務管理にかかわる課題をクリアできずに実施を見送っている企業や団体は少なくないようです。そこで今回は、長野県立科町で多くの企業のワーケーションのコーディネーターを務める渡邉岳志氏と、労務管理のプロであるの岩田佑介氏が、ワーケーショントライアルを成功に導くヒントを解説します。

有給も活用した、個人旅行型ワーケーション

上前知洋氏(以下、上前):今、質問を1ついただきました。「(ワーケーションを)個人旅行型で有給を割り当てて対応するケースはありますか?」。有休1日で仕事を3日間やりますよ、というようなことですが、これはいかがでしょうか? 渡邉さんから事例をいただいてもいいですか。

渡邉岳志氏(以下、渡邉):そういう行程はありましたね。木・金・土の3日間で、木・金は仕事、土曜日は有給休暇にして自由に過ごすんですが、帰る行程はまたみんな一緒だったりする感じですね。

上前:そういった場合はどこまでが勤務範囲というか、出張旅費をどのように整理すればいいのかなと思うんですが、岩田さんいかがでしょうか?

岩田佑介氏(以下、岩田):例えば、有休中に時間単位年休を入れて、「何時から何時は年休だけど、何時から何時は働きます」というパターンまで細分化しているケースは多いです。

今、質問者の方がおっしゃっている、1日は丸々有休で3日間はワーケーションというのは、「ブレジャー」とか「ブリージャー」と言われているものに近いです。

「出張で3日間ワーケーションに行って、残り1日は有給をつけてその日は遊びます」というふうにやっているケースもあるかなと思います。

旅費のどこまでを経費にするか

岩田:観光庁の「ワーケーション&ブレジャー」というWebサイトにこういう図が載っています。例えば大阪に出張に行って、1日は有休を使って遊びました。そもそも出張先には業務で行かなきゃいけないから行ったので、この間の旅費は経費ですよね。

宿泊費についても、「これは完全に泊まる必要があったの?」ということです。例えば出張先の仕事で夜8時まで会食があって、帰れないからそのまま泊まって、次の日に大阪旅行だったら泊まっている旅費も経費です。

でも、「業務が午後3時とかで終わっていて帰れる。ただ、次の日に旅行したいので泊まります」というのは完全に私的旅行のほうに入ってくるので、これは経費にはならない。そのような考え方で見ていただければと思います。

ただ、「大阪に行ったんだけど、名古屋に行きます」という話だと、完全に大阪の業務とは関係ないので個人負担ですよね。という感じでこの図を見ていただくのが、経費の負担がわかりやすいかなと思います。

観光庁の「ワーケーション労災税務処理」と検索していただくと、このQ&Aの図が出てきますので、ご覧いただけたらと思います。

有給を分割で利用して、仕事とレジャーを両立

上前:追加でご質問をいただいています。「イメージとしては、有休1日分をワーケーション3日間分として、時間割で使用は可能か?」というご質問です。

岩田:時間単位年休ですね。

上前:割る、ということですね。

岩田:はい。時間単位年休の制度があれば、例えば3日間ワーケーションに行くんですが、間で休むことも可能です。けれども、時間単位年休の制度がない場合は半日単位になってしまうので、半日を分割して進めていくかたちになるかなと思います。

岩田:時間単位年休がある会社さんは、かなりこのへんは融通が利くんですが、ない場合も半休は入れている会社さんが多いです。

なので半休を組み合わせて、「午前中は仕事します。午後は遊びます」「次の日も午前中は仕事して、午後は遊びます」とか。これだと3日間にはならないんですが、1日分の有休で2日のワーケーションが可能になってきます。

フレックスタイム制とワーケーションは親和性が高い

上前:本当に素人の質問をしちゃうんですが、そうなるとフレックスタイムを導入している企業さんはワーケーションとすごく親和性が高いのかなと思ったのですが、その点はいかがでしょうかね?

岩田:おっしゃるとおりですね。特に「コアタイム」という、働かなきゃいけない時間がない企業さんは月で時間数を満たせばいいので、「別の日に残業した分、この日は半日休みます」というふうにできます。フレックスタイムがあると、より一層個人型のワーケーションがやりやすいかなと思います。

上前:なるほど。個人においても、フレックスタイム制であればできるということですね。

岩田:フレックスで「どこでも働いていい」というルールがあるのであれば、月で時間数を満たせばいいので、「今月は残業が多かったから、後半は立科でゆっくり半日遊ぶ」ということもできる。

上前:なるほど、わかりました。ありがとうございます。いろいろこれでリスクを管理していただきたいですね。

経営層も巻き込んで、トライアルで始めるのがおすすめ

上前:もう1個、ご質問を頂戴しました。「先ほどの『まずはトライアルでやるべきだ』という話について、動いてみたいと思います。トライアル中にウォッチしておくべきワーケーションの効用や指標について教えてください」。

これは、ぜひ過去2回の動画をご覧になっていただきたいなと思うんですが、端的に申し上げていただくかたちで、岩田さんからワーケーションの効用や指標、経営層にぜひ知ってもらいたいところをお願いします。

岩田:経営層が何に詰まっているかによるんですが、まずは経営層を連れていくのが一番いいです。「経営層も一度来てください」と言って、トライアルで連れていっちゃうのが一番早いです。

来ない場合は、満足度やエンゲージメントの指標をみなさんは気にされているので、エンゲージメント指標やストレスレベルを見ていただく。

ワーケーションに行くとストレスレベルが下がったり、エンゲージメントが上がったりすると思うので、そういったものをエビデンスにして(経営層に)説明していただくといいかなと思います。

エビデンスで経営層を納得させる

岩田:あとは今日のテーマで「リスクってどうなの?」というところですが、リスクについても、「実はこういうことは大丈夫でした」「こういう論点は大丈夫でした」とかエビデンスを出せばいいと思います。

例えば労務でいえば、「労働時間は大丈夫でした。規程制定も特に必要ありません。経費も大丈夫です」というかたちでご連携いただけるといいかなと思います。

攻めの部分で「エンゲージメントや離職率が下がります」という指標と、「リスクがありません」という指標を経営層に出すといいかなと思います。

上前:ありがとうございます。渡邉さんからも資料でご説明いただいてもいいですか? 「こんな効果がありますよ」みたいなところですね。

渡邉:資料で出しますね。単純に、ワーケーションに行って次の日出社したら、みんなが明るい顔をしているんじゃないかなと思いつつ、データとして集めたものがあります。

上前:上の人に理解してもらわないと、やりたい思いだけではなかなか社内のコンセンサスを得られないですものね。

渡邉:資料と一緒に説明させていただきます。だいたいネットで検索すると、いろいろな研究機関が調べた「ワーケーションした効果」が出てきます。

対面で仕事をすることで、3週間分のタスクが1泊2日で完了

渡邉:ワークマシマシの「立科WORKTRIP」では、利用していただいたあとにアンケートをとっているんですが、その中からいくつか紹介させていただきます。

これは、在宅ワークが半年以上続いて作業効率が落ちてきたチームが「実際にリアルで会って仕事をしたら、3週間分のタスクが1泊2日で完了しちゃいました」と。これはすごい効果かなと思います。

岩田:すごいですね(笑)。

渡邉:すごいですよね。

岩田:「生産性何倍だ?」みたいな感じですよね(笑)。

渡邉:本当ですよね。問い合わせがあって旅程書を提案する時に、いつもこの紙を1枚挟んで送らせていただいているんですが、これがけっこう最終的なパンチラインになっていたりします。

これは直接業務とは関係ないのかもしれないですが、例えばオフサイトミーティングで一緒の空間で一緒の時間を過ごしたり、ふだん会わない人たちと心情を吐露し合ったり、同じような悩みを抱えていることを共有するだけでも、以後社内で会った時に声を掛けやすくなります。

「こんなことをメールしてもいいのかな?」ということもメールできるようになったり、心理的な壁が取り払われるのも、生産性向上に寄与できるんじゃないかなと思っています。

リモートワークで乱れた生活リズムを正す効果も

渡邉:健康増進の面では、在宅ワークの人やフレックスタイムの人は特にそうなんですが、自分が働きやすい時間帯で働いちゃうのでどうしても体内時計がズレていっちゃうんですよね。

だけど、みんなで一緒の場所に行って同じ時間軸で過ごすことによって、「朝ちゃんと起きて、昼にちゃんとご飯を食べて、夜暗くなったら寝る」という人間らしいタイムスケジュールに1回戻る効果もありますね。

上前:ありがとうございます。定性的な効果とか、定量的なものもあります。こういったものも「立科WORKTRIP」で渡邉さんの方にお問い合わせいただくと、資料としてお渡しします。それを稟議書で上の方に話していただければ、というところでしょうかね。

渡邉:そうですね。「上司がなかなかワーケーションを認めてくれない」という問い合わせが一番燃えるので、そういうのをお願いします(笑)。

上前:ありがとうございます(笑)。

まずは「ワーケーション好き」な社労士に相談を

上前:こうやって話をしていくと、本当にあっという間に1時間が経っちゃうわけなんですが、最後に質問をもう1つ。「制度設計は、社労士さんにおうかがいするかたちでいいですか?」とコメントが来ております。ここは岩田さんにご相談でしょうか?(笑)。

岩田:ワーケーションは、税理士と社労士の両方が必要なテーマだと思っています。一般的に、税理士さんや社労士さんであれば基本的な知識は対応できるんですが、気をつけなきゃいけないのは「ワーケーションに対してどういうスタンスを持っている人なのか」を見ることです。

基本的に士業は、「リスクを漏れなく伝える」ところにミッションを感じている方が多いので、リスクだけ伝えられてしまうとハードルになっちゃう可能性があります。

なので、社労士さんや税理士さんに「ワーケーションをしたことがありますか?」と聞いていただく。ワーケーションをしたことがあって、ワーケーションに対してポジティブな先生にご相談をされないと、リスクだけが回答書で来ることになるとハードルになっちゃうので、そこだけご注意いただけるといいかなと思います。

社労士側はワーケーションを好きな人が多いです。税理士の先生はまだあまり聞いたことがないので、探していただくかたちになるかなと思います。

上前:ありがとうございます。

「ワークマシマシ」なワーケーションで成果をアップ

上前:あともう1つ。最後の時間で宣伝というか、みなさまにご周知させていただきたいのですが、立科町は今までホテルやペンションの部屋、会議室等をワークスペースとして提供しておりましたが、セキュリティ的なところの問題がありました。

今、岩田先生のバーチャル背景の奥にある女神湖センターにはテラスがあるんですよね。あらためてこの夏、女神湖センターにコワーキングオフィスを設置する準備をしております。

そこでは、セキュリティ対策もちゃんと施した上でお使いいただける。あるいは、貸切利用していただけるような対応をしたいと思います。

おそらく、みなさまの会社それぞれのテレワーク規定に準拠するものになるかと思いますので、「ワークマシマシ」「成果がっつり」のワーケーション、オフサイトミーティング、開発合宿をぜひご検討いただきたいなと思っています。

そんなところで、最後に岩田さんと渡邉さんから今日お聞きのみなさまにメッセージをいただきたいと思います。岩田先生、お願いいたします。

岩田:みなさま、全3回にわたってこのような機会をいただきまして、本当にありがとうございました。私もこのプロジェクトを通じて、立科町で渡邉さんのコンシェルジュ・コーディネートを体験したんですが、本当にすばらしかったです。相談したら、すぐに企画書が送られてくるので、まずは早い。

個人を受け入れるワーケーションと、企業を受け入れるワーケーションはまったくノウハウが違うのですが、数々の企業を受け入れてきた「立科WORKTRIP」のノウハウ、企業型をずっとやってこられたナレッジは本当にすごいなと思っていますので、ぜひご体験いただきたいです。

日本のイノベーション不足の“処方箋”になれるか

岩田:今日私がお伝えしたように、始めるんだったら企業型、業務型のワーケーションからスタートしたほうがハードルが低いです。そこから推進していただく上でも、立科は首都圏からも行きやすいので、最初の場所としてすごくいいのかなと思っています。

立科だけじゃなく、ワーケーション自体が本当にすばらしいものです。体験すると、本当にわかると思うんですが、チームの関係性がすごくよくなったり、ふだん会わない人の話を聞いて自分のインスピレーションが高まったりします。

私も新規事業とかいろいろな企画があるので、そういう時は必ずワーケーションに行って、ワーケーション先でいろいろな人と話しながら考えたりしています。

単発でやるんじゃなくて、ワーケーションを自分の働き方の習慣にしていただけると非常にいいのかなと思いますので、「ワーケーションに行っていないから調子が悪いな」みたいな感じになるのがベストだと思います(笑)。

習慣化すると、いろんな日本企業が「イノベーションが起きない」「新しい企画が出ない」と悩んでいるものに対して、かなりの処方箋になるんじゃないかなと思いますので、ぜひぜひご体験いただけたらと思っています。

第一歩目は、ぜひ立科にお越しいただければと思っております。ありがとうございました。

上前:ありがとうございます。大変力強いメッセージをちょうだいしました。

迷う前に、まずはワーケーションにトライ

上前:それでは、渡邉さんからもみなさまへメッセージをお願いいたします。

渡邉:ありがとうございます。今日、岩田先生のお話をお聞きして、まずはトライアルで始めてみるのが非常に重要だし効果的だなと思いました。

思い返すと、去年の夏に来ていたお客さんは「これが初めてで、ワーケーションにチャレンジしてみたいんです」という企業さんがけっこういらっしゃいました。みなさん始めているので、もう迷っている暇はないかなと思いますし、初めての方も大歓迎です。

昔の岩田先生みたいに「頭の固い上司になんとかワーケーションを認めさせたいんですが、通る企画書をお願いします」と言われたら喜んでお作りしますので、ぜひお問い合わせいただければと思います。

上前:ありがとうございます。お問い合わせは「立科WORKTRIP」のWebサイトのお問い合わせページから入力いただきますと、渡邉さんからすぐにリアクションがいただけますので、ぜひアクセスしてみてください。

それでは、本日の3人でのディスカッションはこれで終了させていただきたいと思います。ありがとうございます。では、筒木さんの方にお返しいたします。

筒木愛美氏(以下、筒木):みなさん、ありがとうございました。岩田さん、渡邉さんもわかりやすい解説や事例をご提示いただき、ありがとうございました。

まずはトライアルで業務型で、ということですね。コロナ禍も始まってもう3年近く経ちますが、会社で「何か変革したい」という方の背中を押すことができましたら幸いです。

では短い時間ではありましたが、以上で「経営視点で検討するワーケーションPROS&CONS Vol.3」の閉会のお時間となりました。最後までご参加くださったみなさん、ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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