2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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田中靖浩氏(以下、田中):市川さん、ちょっといいですか。せっかくスライド作ったんで、私、出していいでしょうか。
市川祐子氏(以下、市川):出されるかなと思って、実は待っておりました。
田中:先週3人で予習というか、珍しく事前打ち合わせというのをやったんですけど。そこで10年後生き残る、生き残らないという話をしたのですが、その時の話です。
私の後輩がけっこうおもしろい分解式を作ってくれました。キャリアセミナーをやった時に、「『仕事力』は、この3つの掛け算だと思います」という説を発表しました。
「仕事力=商品力×看板力×自分力」。
商品力とは売っているモノやサービスの魅力。看板力は会社名のブランド力。大きい会社に勤めている人って、それだけで看板力が上がるんですよね。新入社員であっても、会社の名刺を出すだけで向こうはハハーっとなって話を聞いてくれる。私の経験でいうと、公認会計士という資格がそうでしたよね。これが看板力です。
大企業を辞めた人は何が起こるかっていうと、前の2つがいっぺんに消える可能性があるんですね。
銀行や証券会社、保険会社に勤めてた人は、前二つが退職と共に消えてしまって、再就職できなくて苦しむ人が多いんです。
田中:この式に刺激を受けまして、私も次の原稿に向けて考えてみました。それがこれです。
みなさんご存じ「マズローの欲求五段階説」ってありますよね? まず一番下に生理的欲求があって、次に安全欲求、認められたい所属欲求、誰かの役に立ちたいという承認欲求、最後は自己実現欲求。この図、下から上に欲求は上がっていくと説明されています。
ここでさっき私が言った「定年の壁」を乗り切れないサラリーマンや公務員たちにはこの図の欲求とは反対に、段階的不安のようなものがあることを発見しました。それを図にしたのが欲求五段階説ならぬ「不安五段階説」です。
定年になったおやじたちは何が不安か? まず一番下の健康不安。50代後半の人間が同窓会で会うと、1次会はだいたい不健康自慢で終わります。肩が痛いの、なんの数値が悪いのと。ちなみに健康不安というのは狭義の概念で、広義で捉えると「親の介護」も、ここに入ります。
自分の健康が心配で親の面倒が大変だ、これで同窓会の1次会は終わり。次が金の不安ですね。退職金や年金で暮らしていけるかという不安。
田中:次とその次がめっちゃ重要なんです。三つ目と四つ目の「所属と承認」。日本人の場合、大きい会社に入っていると「所属と承認」が自動的に満たされるんですね。どこどこ株式会社に勤めているという所属と、出世して課長から部長になりましたという承認。
日本人の多くは所属と出世で欲求が満たされて、一番上にあるはずの個人の自己実現が溶けてなくなってるんです。顆粒状になって。お母さんが人参嫌いな子どもに人参を食べさせようと、カレーにすり下ろして入れるみたいなもんですね。ぜんぜん訳わかんないですね(笑)。会社勤めの人は、所属と承認の中に自己実現が溶けてなくなってるんです。
市川:そうですね。
田中:どこどこ株式会社に勤めていて、役員になりました。それが自己実現なんですね。この所属・承認が、会社を辞めた瞬間に消えてなくなる。無所属、孤立。行く場所がないし、誰も自分のことを認めてくれない。
最後に行きつく先は「自己否定」。俺は何のために生きてきたんだろうか。何者なんだろか。それがわからなくてすごく寂しい状態に陥る。めちゃ暗い話をしておりますが、こうなると人間というのは心と身体がだんだん傷んでくるんですよ。これをそのうちネイチャー紙に発表しようと思っています(笑)。
田中:今回、市川さんが投げかけてくれた「10年後、生き抜ける人」というテーマ、それはもっと長期的に「会社員のその後」まで考えるべきと思います。
お金持ちにならなくてもいい。ただ、無所属とか孤立にならないようにしておく。周りに人がいて楽しくやって、定年になってもやっぱり友達がいて、うまいもの食えて、酒飲んで楽しく過ごせることが大切です。
それがあれば自己実現とまでいかないでも、「いじけモード」には入らなくて済むかなと思ってます。長い時間を使ってしまいましたが、以上です。
市川:田中先生、「天才です」っていうコメントが来ております。でもほんとわかりやすいです。
そういえば私、この本を親戚に送ったんです。その親戚は昭和97年みたいな会社に勤めているんですけれども、そんな会社でも大企業なので、パーパスとかやってるんですって。そうすると昭和型の組織で、会社にいることのみで自己実現し切っている人にとっては、なんでこんなことをやるのかわからないっていう社員がいるそうなんですね。
私の親戚は40代ですが、パーパスを探す研修をやる意味はあると、思っているそうです。会社に所属していて自己実現できてるかどうかちゃんと考える機会があるのはよいと思います。定年になっても寂しくないでしょう。でも「会社にいる=商品力と看板力」だけで、承認欲求と所属欲求を満たされていると、定年したら何にも残んなくなっちゃう。
ということで自己実現が何かとか、自分のパーパスが何かって考えてないと、定年が来たら何もなくなって不安五段階の五段階目まで全部行っちゃいますよっていうことですね。
田中:出版記念講演会のめでたい席で暗い話をしてすみません(笑)。ちょっと今、反省しています。
市川:いえいえ。無所属になって楽しく暮らしている人もいらっしゃるんです。その人はきっと、もともと会社に所属している以外のパーパスがある人なんだと思うんですよね。andスキルじゃないかなと思います。どうですか?
田中:そうでしょうね。市川さんの本の内容でいうパーパスを、会社に全面的に委ねてはいけない。やっぱり自分自身のパーパスを持ってないとまずいのかな。
市川:そうですね、なかなか見つけられないものかもしれないんですけれども、自分に向き合わないといけないので、わりとハードなことではあります。
田中:考えてみると子どものころ、テストで100点取って親に褒められるとうれしかったですよね。やっぱり他者評価ってすごい重要だと思うんですよ。小学校の時は学校の先生や親に褒められて喜んで、会社に入ったら上司に認められて出世すればうれしいってなるんですけど、それ全部ひっくるめて「他者評価」じゃないですか。
でもそれは自分がやりたいこととは限らない。自分はいったい何がやりたいんだってことを考える前に、優等生って人の望むものを読み取るんですよね。
市川:ああ、確かに。
田中:私の世代でいうと、学級委員になる優等生ほど、親とか偉い人が何を望んでいるかにすごく敏感なんですよね。
市川:「正解」をすぐ探しちゃう人ですよね。
田中:そう。だから学級委員をやってた過去の友人って、みんな、めちゃいい大企業に入っているわけですよ。そして今、大きな声で言えないけど、あまりうだつが上がらない(笑)。
市川:そうなんですか。
田中:自分自身が何をやりたのか、それを押し殺して生きているうちに「新しい発想」が出せないんですよ。こういうの、何て言うんだっけ、がくちょ?
仲山進也氏(以下、仲山):「優秀なイヌ」じゃないですかね。
田中:そう、すごい優秀なんですよ。めっちゃ人当たり良くて、会社でいうと出世するタイプ。でもそんな人間が意外にもすごく寂しいとか言っていますね。
市川:へー、それおもしろいですね。
仲山:さっきの「学級委員になる優等生ほど、自分のやりたいことがわからなくなりがち」という話について、チャットに「1学期の学級委員だと思います」ってコメントが。学期によって違うんですね(笑)。
田中:そうそう。最初に学級委員になるタイプね。権力者のニーズをすぐ読み取る(笑)。
市川:では「会社と自分のパーパスが一致している人、していない人」の話をするんですけど、さっきちょっとお見せしたんですが、会社と個人のパーパスが一致すると生産性が増して強力な帆になる。そうすると利益が出る会社にもなるので、投資家はそこを見てます。
今、大きい会社でもパーパスの研究をしているんですが、一致している人と一致していない人でどんなことが起きるのか。完全一致しているというか、先ほどの例だと自分のパーパスがなくて、会社のパーパスに合いすぎちゃってる人っていうのも、よろしくないんじゃないのっていう感じですね。
だから自分のパーパスを探してみたら、会社と違ったみたいなこと、実はあるんじゃないかなっていうのも1つの例だと思っております。そうすると断絶が起こるんです。つまり会社を辞めると(笑)。
そして、商品力と看板力がなくなってしまって、「あれ、自分力ってなんだったっけ」みたいになっちゃうんだと思います。どうですかね、学長は「がくちょ」として働くことは楽天にとってもメリットがあるので、学長は好きなことをやっているのに、会社のパーパスと合っている。
仲山:そういう意味でいうと、楽天のパーパスって「エンパワーメント」がキーワードですよね。
だいぶ前に、今でいう「自分のパーパス」を言語化してみたんですけど、それが「子どもが憧れる、夢中で仕事をする大人を増やす」でした。
それまでの時点で、楽天市場に店を出して商売しているうちに、「仕事が楽しくなった」という人がぼくの周りにどんどん増えてきていました。
お客さんから「商品よかったです、ありがとう」とか、「おたくのお店のおかげで人生楽しくなってます」みたいなフィードバックが返ってくることを、僕は「魂のごちそう」略して「たまごち」と呼んでいるのですけど、そういう「たまごち」をもらって、仕事が楽しくなっていく出店者さんが増えていったんです。
子どもが卒業文集の「将来の夢」のところに、スポーツ選手とかテレビに出ている芸能人の名前を書くじゃないですか。最近だとYouTuberとかかもしれないけど。
あれってたぶん、そういうメディアでしか「楽しそうに仕事をしている大人」を見たことがないからじゃないかと思っていて。もし、近所の魚屋さんとか自転車屋さんがめっちゃ楽しそうに仕事してたら、「あの仕事やってみたい」と思う子どもが増えるかなって。そういう社会は明るいなと思うんです。
市川:確かに。キーワードは「夢中」ですよね。がくちょにサインを頼むと「夢中」って書いてくれるんです(笑)。夢中になれる仕事は、きっと会社と自分のパーパスが一致しているんですかね。
仲山:僕は自分のパーパスで活動していると「エンパワーメント」の中に必ず含まれるので、好き放題やってるように見えるかもしれないけど、会社のパーパスからはみ出たことはたぶん一度もないと思います。
市川:私もエンパワーメントが染み付いているんで、自分で会社を立ち上げる時にも、やっぱりエンパワーメントって言葉をミッションに入れました。「市場との対話を通じ、日本の挑戦する企業をエンパワーメントします」っていうのを作って、名刺に入れています。そして、楽しくやっています。
仲山:最近、若い人が出世したくないとか、決まったことだけやったらすぐ家に帰って自分の時間を過ごしたいとか、話題になっているじゃないですか。
市川:なっていますね。クワイエット・クイッティングとかですね。
仲山:そう。それこそ「ESGとかSDGsに興味を持つ若い人が増えています」というのも話題になりますよね。
昭和97年の会社のパーパスって、その時代の社会課題として「物が足りない」ので、「良い物を安く作って世に行き渡らせる」というアクティビティに価値があって、みんなでその活動をワーっとやって、利益が上がったんだと思っていて。
今もそのまんまの賞味期限切れのパーパスを、たぶん無意識的に使っているんですよね。
市川:たぶんそうなんですよ。
仲山:若い人の生まれ育った環境を考えてみると、「物を行き渡らせる活動」に興味を持てるわけないじゃないですか。物があふれているので、活動に価値がないから。その中で毎日のように、「気候変動で何十年に一度レベルの災害です」みたいなニュースが流れている。そんな日々を過ごすと、「これってなんとかしたほうがよいんじゃない?」と思うのは普通のことですよね。
ESGなりSDGsに自然と興味を持つ、「こっちのほうが大事だよね」と思う人が増えていきつつ、あまり仕事に熱が入らない若い人も増えているのは、会社側のパーパスが賞味期限切れだから生まれているのかなと。
市川:たぶんそうなんだと思います。逆に、ただ仕事をこなしてるだけの会社が耐えられないから、やりがいを求めてスタートアップに転職する人とか、楽天のようなメガベンチャーと言われるところに転職する人がすごく増えている。やっぱり若い人にも、人間が本来持っている「なにかに貢献したい」という欲があると思うんですよ。
さっきマズローの五段階の1番上(自己実現)がないのに、所属だけしてるのってつまんないという話をしましたね。今は、もっと働きたいって言ってスタートアップに転職しちゃう人が、けっこういますね。そういうのも新しい変化なんじゃないかなって思います。パーパスを追求して起業する人も増えています。
逆にパーパスが見つからないと、給料で会社を選ぶ若い人もいて。パーパスとか考えずに「どうせ労働は苦役なんだから給料高いほうが良いよね」っていう人もいるはいるんです。けれども、そうじゃない若い人もだいぶかなりいるというのが私の感覚です。
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