2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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小林舞氏(以下、小林):兎洞さんにおうかがいしたいと思います。兎洞さんは今まで組織開発や、インナーブランディングに関わられてきた立場から、今、「生きる」と「働く」というのは、どのような関係になっているとお考えですか?
兎洞武揚氏(以下、兎洞):これも答えがあるのかみたいな問いなんですけど、ちょっと弥太郎さんにご紹介したいなと思う話がありまして。我々は組織の仕事をやっているので、それに関わる調査も博報堂独自でやったりするんですけど。
その中に「会社と私の本音調査」と名付けた調査がありまして、実際調査結果を見るとおもしろいなと思ったんです。
コロナ以降、かなり世の中が変わってきている中で、経営に携わるマネジメントの方とかミドル層の方、それから若い社員の方たちが、どう会社のことを考えているのか、ある種本音をあぶり出そうという調査をやったんです。
私が着目したのは、今世の中大変になっていて、会社をどういう方向でどうマネジメントしていくかって(考えて決めていくのが)、困難な時期じゃないですか。その中で経営に携わる方々は、どうやって「組織の文化を大事にしていくか」という、どちらかというと「求心力」のほうに目が向いていらっしゃるんですね。
当たり前だとは思うんですけれども、社員のみなさんをどうグリップしていくか、どう求心力を作っていくかということに大変関心がある。
一方、若手社員の方々は「遠心力」のほうに目がいっているんですよ。どういうことかというと、例えば副業に興味があったり、会社だけの仕事じゃないところに興味があったりする。そういう結果が如実に出ているんです。
これをどう読み解くかというのは解釈の問題なんですけど、そういう結果が出ていますということを弥太郎さんと共有したいなと思いました。
兎洞:逆にもう一方で、これもいろんなCEO、経営・社長のみなさんとお話しすることがあったんですけど、「兎洞さん、これから会社におんぶに抱っこで頼る人がたくさんいちゃ困るんだよね。自分で自律していくことをぜひ大事にしてほしいし、プログラムをそういうかたちで一緒にやっていけないですかね」というお話もいただくんですよね。
特にこれから事業の構造が変わっていくような領域に携わっている経営の方々から、そういうお話を聞くことがあるんです。求心力を大事にしている一方で、自律してもらわないと困るという言葉もある。これがファクトとしてあるので、私も会社もいろんな解釈をしているんです。
今のお話を聞いて、弥太郎さんはどんなことを思われますか。
松浦弥太郎氏(以下、松浦):そうですね。それぞれ人によって特性があるじゃないですか。さっき僕が言ったように、いろんな新しいことをさらに“馬鹿っぽく”一生懸命やれる人と、そうじゃない人。そうじゃない人はダメなのかというとそうじゃなくて、多様性という言葉があるように、いろんな特性があって。
いろんな自分の「きほん」を持っている人たちが、自分の「きほん」を明らかにすれば、それぞれの人ごとの適した選択肢を、会社が与えていける。会社が「選択肢を見せていく」ということは、すごい大事だなと思うんですよね。
ただ働いている我々としては、来年自分はどうなるのか、自分の将来がどうなるのかはわからない。だから副業とか、外の何かに「遠心力」を求める気持ちはあるんです。
でも同時に、やっぱり「この会社での未来」を常にイメージしているじゃないですか。その時の選択肢が古臭いと、やっぱり残念ですよね。すごい悲しくなるんですけど、いくつか斬新な選択肢があったらいいですよね。「あなたにはいろんな道があるよ」と、会社も考えていくのが必要じゃないかなと思いますよね。
兎洞:ちょっと関連するかもしれないんですけど、さっきの話をどう読み解くかは、100人いれば100通りあるかもしれません。でも自分が大事にしなきゃいけないなと思っているのが、「社員個人と会社との関係の在り方」みたいなことで。
個人と会社の関係を再構築していくことは、すごく重要なんだろうなと思うんですよね。
今までの個人と会社の関係じゃなくて、コロナがあったりとか地政学的にも変化があったりとか、産業構造的にもいろんなことが変化する中で、自分と会社の関係性の紡ぎ直しみたいなことは、いずれにしても必要だなと。
どんな紡ぎ直しをするかは、それはいろんなかたちがあるんだと思うんですけど、「紡ぎ直しが必要だな」という時に、先ほど弥太郎さんもおっしゃっていただいたように、(受け身の姿勢ではなく)自分が起点になって紡ぎ直すことが、とても大事だなという気がしているんですよね。
今回のプログラムは、そういったことを大事にしています。自分を起点にして紡ぎ直す。会社から言われているとか、世の中がこうだから、自分と会社の関係がこうだからじゃなくて、自分を起点に紡ぎ直していく。より能動的になるのが大事だなと自分はすごく思って、お仕事をしています。
松浦:どんな立場とか職種とかであっても、何かしらの組織や企業にいるのであれば、ふだんコミュニケーションを取って、未来のことは自分には関係なくて、例えば今日明日のスケジュール帳に書いてあることが「自分のリアル」であると。現実的にそういう時代だったと思うんです。
でもこれからは、いかに自分が企業との関係性を持って、企業の未来を語れるかがすごい大事な気がしています。そこに僕はすごく価値があると思うし、そういう人たちがこれからはどんどんどんどん活躍すると思うし、そういう「未来を語る人」に対してマネジメントだったり経営がちゃんと応じていくことが必要だと思いますね。
「未来を語ること」って、してはいけないんじゃないか。「お前は経営者ではないのに何を言っているんだ」と言われそうじゃないですか。だけどやっぱり、いかにこれから先、個人としても未来を語れるか。会社としてもそういう人しかいらないんじゃないかと思います。
逆にそうじゃないと楽しくないだろうというか、自分の人生を仕事という名の下で消費しちゃって、どんどんどんどん自分の時間が損減するんです。そうじゃなくて、自分の今日一日、明日がどんどん積み重なって、福利となって自分へのリターンとなるような、成長していくような1つの仕組みを作っていかなきゃいけない。
作っていくためには、やっぱり常に未来思考でなきゃいけない。個人レベルでいいと思うんですけど、そこが大事だと思います。
兎洞:よく「不確実な未来」と言われたりするし、企業のお手伝いをしていても、未来は一寸先は闇ということから、その中でどうしようか、リスクをどう回避するかということをみなさん悩んでいます。
さっきのお話と結びつけてお聞きしたいのは、愚直に「きほん」と「未来」はどうつながりますか。やらなきゃいけないことをきちんとやることではなくて、ルールを作り変えるようなことまでしようとすること自体を、「きほん」に結びつけておっしゃっていただいた気がしています。
「きほん」と未来との関係について、僕の解釈を話してるより、弥太郎さんのお話を聞きたいなと。
松浦:「きほん」という概念がすごく大きいから、いろいろな「何とかのきほん」と組み合わせることができるのですが、まずは自分の「きほん」だと思います。自分の「きほん」って何なんだろうというところを、いろんな角度でアプローチして見つけていくのが今回の取り組みですよね。
「自分の『きほん』を見つける」ことが、「自分を知る」ということです。自分というものが、例えば何が好きなのかとか。要するに僕は仕事をしていく上にしても、暮らしをしていく上でも、何が一番大事かというと「きほん」でもある。「きほん」とは何かというと、1つは「好き」なんですよね。
自分の「好き」をさらにもっと「好き」にしていく。「好き」を増やしていくことが、自分をこれからドライブさせていくエネルギーになるんじゃないかなと思っているんですよね。
だから自分の「好き」を、自分でも明らかにしていく。「好き」を増やしていく。「好き」を語っていく。「好き」を実現していくことができるかできないかというのが、これからの働き方に関係してくるというか、僕は必須な気がするんですね。
兎洞:「きほん」ということと、「好き」ということと、「未来」を語ることが、なんとなくボヤーッと自分の中でつながって、それらを紡ぐと何か見えてくるなと思いますね。
松浦:だから「きほん」を考える。「きほん」を再定義していくことは、ある種必要なプロセスを明らかにしていくことじゃなくて、ここにある素敵なものとか、自分が好きだったものとか、感動したことのような(今までの)ことを明らかにしていって、本当に自分ごととして捉えていくことです。
自分のことだったら、勝手に自分ごとじゃないですか。でも、ある種自分のことすら自分ごとと思わない時があったと思うんです。働き方とか人との関係性の持ち方で、すべて自分ごととしてみようと、もう一度立ち返るのがすごい大事ですよね。
本当に他人ごととしない。暮らし方についても働き方についても、意思決定を委ねることは絶対しちゃいけないことですよね。でもしちゃいますよね。打ち合わせしていても上の空で話を聞いていたりとか、なんか自分がコミットしている仕事があっても、自分ごとにできなかったりしますよね。
兎洞:いつの間にやらされて、みたいな。
松浦:そうそう。でもルールとかカルチャーとか、何かそういう流れに沿っていけばなんとなくできちゃうから、安心は安心なんですけど、それは時間の無駄遣いな気がします。自分の人生を、勝手に無駄遣いしてしまう。それはしないほうがいいなと思います。
小林:ありがとうございます。今、まさに「じぶんのきほん」のお話がでたので、次のテーマについておうかがいしていきたいのですが、松浦さんと兎洞さんが数年前に「じぶんのきほん」というインナーコミュニケーションのプログラムを開発されています。のちほどご紹介するプログラムの中でも使われているのですが、これは「じぶん」を真ん中に置いて、仕事や社会との関係を考えていく、そういったプログラムになります。
「じぶんのきほん」を構想するにあたって、今、すでにお話いただいていたと思うのですが、お二人が大事にされてきたことはどのようなことなのでしょうか。まずは松浦さんからおねがいします。
松浦:そうですね。いろいろと考えはありますけれども、大事にしたことは自分たちの生き方ですよね。自分を見極めたような生き方とした時に、僕らは照れたりとか恥ずかしがったりとかを、ある種の日本人としての素敵なところと捉えてしまいます。それも1つの逃げ場になるんだけれども、やっぱり照れないことがすごく大事な気がするんですよ。
やっぱり個人が今、やろうと思えばいくらでも発信できるし、いろんなものとコネクトできる時代において、「照れない自分」を作って身に付けていくことは(重要です)。相手が誰であろうと恥ずかしがらないこと。それが「じぶんのきほん」を見つけていくプロセスの中で、少しずつ自分に身に付いていく。
「あ、照れないことはこんなにプラスになるんだ」「恥ずかしがらないことは、こんなに自分にとって素敵なことなんだ」ということを知ってもらいたいし、これから先、これをスタート地点として、長い人生、長い仕事の中で自分の1つの必殺技にしてもらいたいなと思っています。
小林:兎洞さんはいかがですか。
兎洞:なんか「照れない」って、肌触りのある言葉で弥太郎さんに語っていただいたなと思っていて。そういう意味ですごく「なるほど」という共感があります。
あと僕は2つぐらいの観点で見ていて、「人」という観点と、もうちょっと俯瞰で見た観点があって。まず「人」1人の観点で見ていくと、言葉でなかなか言いにくいんですけど、ちゃんと「引き受ける」こと。自分として引き受けるとか個人として引き受けることが大事な気がしています。
ともすると、いつの間にか「やらされている」って思いながらやっている自分がいたり、それを自分で許しちゃっていることがあって。それって所属している組織にとっても自分にとっても、不幸なんじゃないかなっていう気がすごくしているんですよね。
自分でちゃんと引き受ける。「これは私がちゃんとやるって決めてやっているんだ」とか、自分で背負う感覚を……。もしそうでないなら、ちゃんとそれを口に出す。大変かもしれないけど、自分で決めて、決めたことはちゃんと引き受けることが大切だと思っています。
そうしたほうが、自分としても組織としても幸せじゃないかって、弥太郎さんと話していく中で、より確信していったのが1つ。
兎洞:もう1つは、さっき「好き」の話をしてくださいましたけど、自分の中で本当に好きなことが見つかると、会社は自分の所属する場所の1つ、ワンオブゼムであるという捉え方ができるんじゃないかなと思うんですね。
何が言いたいかと言うと、今「パーパス」という言葉がしきりに言われていて、世の中いろんなパーパスを持っている組織やコミュニティがあふれているわけじゃないですか。
そうすると、自分が好きな、自分が照れずにいられるパーパスを持ったいろんなコミュニティに所属して、そこで過ごすという生き方とか働き方が、きっと世の中で今よりももっと起きてくるんじゃないかなという気がしているんです。
「引き受ける」ことと、複数の「自分が共鳴するパーパス」に所属していく世界と、そんなことを思いながらこの「じぶんのきほん」プログラムを開発して、届けていっている部分があります。このことをあらためて弥太郎さんに、今、照れずに言えた感じがちょっとあります。
松浦:大事ですよね、「自分で決める」のは。というか、自分で決めなくても誰かが決めてくれる世の中でもあるからね。例えばAIが決めてくれるかもしれないし、相応の何かが決めてくれるかもしれないし。でもやっぱり自分で決めること、そこに価値を置くのはすごく大事ですよね。
松浦:話変わりますが、賛否あると思いますけれども、基本的に僕は「じぶんのきほん」を突き詰めていくことは「全肯定」(と同じ意味)だと思っています。
兎洞:全肯定。
松浦:「受け入れる」っておっしゃいましたけど、でも基本は「全肯定」なんです。どんなことも、嫌なことも、つらいことも、傷つくことも、ムカつくことも基本全肯定。なぜかって言うと、それは自分にとって必要な学びだし、自分にとって必要なことだと思うので。
一度全肯定で受け入れて、じゃあ自分はそれに対してどうするか。考えるのか。意見をするのか、それとも何か活動するのか、反対をするのかっていうのはいいんです。でも基本、最初のタッチは全肯定というのが、僕はものすごくいいことだと思っているんです。
兎洞:自分自身を全肯定するという。
松浦:全肯定です。ただ、これには矛盾もあるんです。全肯定しながら、常に疑問も持つという発想ですね。でも僕はできると思っているんです。自分がしてきているし。
すごく矛盾しているんだけども、その矛盾をも自分で理解するということを、この「じぶんのきほん」のプログラムの中で身につけて欲しいと思っている。
なかなかうまく言えないんですけど、「マル」とか「バツ」とか「成功」とか「失敗」っていう言葉って、もうめちゃくちゃ古い気がするんですよね。もうマルバツの評価じゃないし、成功失敗という価値観も、時代的には古すぎて嫌になるんです。
そうじゃない、自分なりの落としどころを、自分の言葉で語っていかないとダメなんだと。だから基本的には全肯定なんです。何が起きても全肯定で受け入れる、受け止める。コミットメントする。その後の行動は自分で決める。そういう働き方やコミュニケーションの取り方なんです。
結局それは何かって言うと、さっき言ったように、「人や社会や世界から自分がいかに信用されるか」っていうことだと僕は思っています。「そこしか誰も信用してくれないよね」「言うことを聞いていても誰も信用しないよ」って思います。
小林:ありがとうございます。ここまでお話をうかがって、あらためてお2人にうかがいたいのですが、「『生きる』と『働く』がつながるという未来の働き方」を一言で言うとどういったことになりますでしょうか? それぞれお話しいただければと思います。兎洞さんから、お願いします。
兎洞:そうですね、なんだろう。今日お話しさせていただいて、いろいろ思われる方もいるかなと。「自分はそんな簡単に引き受けられない」と思われる方もいらっしゃるかもしれないし。でも自分が話していて、「そこが一番熱いんだな」って気づいたんです。
「『生きる』と『働く』がつながる未来の働き方」って言われた時に、やっぱり僕的には「自分で決めて、自分で引き受けて、自分自身を幸せにできる」と。
もっと言うと、自分が「引き受ける」ことで、自分と周りを自分で幸せにできるような働き方が、「『生きる』と『働く』がつながる未来の働き方」ではないかと、今時点で私は思いました。
松浦:そもそもこの質問なんですが、「働く」は「生き方」なんですね。生き方が働き方に表れるでしょうし、働き方が自分の生き方に表れるのであれば、生き方と働き方はなかなか分けられない。僕はいつも一緒に考えています。
その意味で言いますけれども、物事とか人とかすべてに対しての「愛し方」。(「生き方」とは、)自分が何をどうやって愛していくのかということかなと思います。愛し方のレッスンというか、愛し方を学んでいく一歩一歩っていう気がしますね。
松浦:それを前提として、未来の働き方っていうと、またこれも「こいつ何言っているんだ」っていうことになると思いますけど、いかに物事に「蹴り」を入れていくかという感じがします。
兎洞:(笑)。
松浦:別に暴力や攻撃する蹴りじゃないんですよ。「お前何言っているんだよ」とか「何しているんだよ」っていうツッコミ、そのコミットの仕方が大事です。
でも、わざわざそこまで自分を深くコミットさせるというか、愛しているから蹴りを入れられるというか。仕事に対しても暮らしに対しても、そこまで自分の気持ちを注ぐことが大事かなって思いますよね。
今まではコミットは浅くてもよかったんですよね、長く真面目に働ければ(笑)。でもそうじゃない気がしていますよね。だから誰であろうと、どこであろうと、どんなことであろうと、自分がそこを愛することによって、いかに蹴りを入れていくか。自分も蹴りを入れられていくか。そういうのが働き方のヒントになるんじゃないかなと思うし、僕はこれからそうしていきたいと思っています。
兎洞:ありがとうございます。蹴りを入れるっていう話は、まさに今回のプログラムの話とも非常につながってくると思うんですよね。愛を持って、自分自身と仲間にも蹴りを入れる。そういうふうにもちょっと聞こえたんですけど。
(自分で決めて)引き受けた個人が(集まって)チームになった時に、本当のチームになるのかなと、弥太郎さんのお話からそういう印象を持ちました。ありがとうございました。弥太郎さん、とても楽しかったです。
小林:まだまだお聞きしたいのですが、あっという間に時間が来てしまいました。素敵なキーワードがたくさん出ていたと思いますが、これにてダイアログセッションは終了したいと思います。あらためて松浦さん、兎洞さん、本日はありがとうございました。
松浦:(今日の話は)「楽しく好きに生きる」ための話かなと思いました。ありがとうございました。
小林:盛大な拍手をお願いいたします。ありがとうございました。
(会場拍手)
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