2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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曽和利光氏:この話の続きで言うと、「承認欲求タイプ」もいいんですけれども、「意味づけ力タイプ」がいます。これはイソップ童話の有名な話で……この間Twitterで「研修講師はこの話をしょっちゅう話す」って誰かが書いていて、だいぶ話しにくくなったんですけど(笑)。
聞いたことありますよね。3人のレンガ職人がレンガを積んでいる。つまんなそうにやってる人と、粛々とやってる人と、楽しそうにやってる人がいる。何が違うかっていったら「意味づけ力」だと。
何をしているのか聞いてみると、つまんなそうにやっている人は「レンガを積んでいるんだよ」「わかるだろ」と言う。粛々とやってる人は「建物を建てている」という意味づけレベル。最後の人は、「人々の心を癒すための、歴史に残る大聖堂を建ててるんですよ」と言っている。そりゃ最後の人のほうが他の2人に比べてやる気もあるし、クオリティも高いしスピードも速いですよね。
阪急東宝グループの創設者である小林一三さんはご存知だと思います。日本の私鉄のビジネスモデルを全部作った方です。この方の有名な言葉に「下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみよ」。そうすれば誰もあなたを下足番のままにはさせておかない、という言葉があります。
自分のやっている仕事を、つまらないものだと思うのではなく、いかに楽しんでいけるかっていうことが、出世だったり、いい仕事を得ていくためのポイントだ……みたいなことを彼は言ってたわけです。これも「意味づけ力」の後ろ支えですよね。
イチローさんにしても、自分の人生でいろんなルーチンの練習とかがあったと思うんです。イチローさんの小学校の時の卒論とか見ていただくと、ものすごく自分の人生で目標を立てています。それを逆算するかたちで、今の練習も意味づけがされている。日々のルーチンの練習がどうなるかって(自分で意味づけできているから)、ずっと続けられる人になるわけですね。
今度はこういう「意味づけ力タイプ」が求められるようになってきているんじゃないかなと思います。
ほかにももうちょっとだけ、また別のものなんですけど。「好きなことを大事にする」のは大前提だと思ってます。好きなことは別に好きだから、普通にがんばると思うんですよね。
ところが今いろんな学生さんとか若い人たちを見ていて思うのは、どんどん環境が変わるので、ずっと1つのことを追いかけ続けることがなかなか難しくなってきていると。
情報もいっぱいありますし、なんかおもしろそうなこともいっぱい世の中にあるわけです。そんな時に「好きなこと」になるかというと、いっぱい軸がありすぎてなかなかできない。それで悩んでる方が多いと思います。
実際に好きなことを追いかけ続けて、その1つのスペシャリストになれたら、それはそれですばらしいことだと思うんです。でも追いかけてるうちに、その目標が陳腐化してしまって、たどり着いたんだけれどももう社会では必要とならなくなった、みたいなことも最近は多いわけですね。
そういう世の中において大事になってきてるのが、「能力開発能力」。ここでは学習能力という言い方をさせていただいてます。
今どんなスキルを身につけているかという、静止画としての彼・彼女ではなくて、何かものごとを勉強しようとか学ぼうと思った時に、どれぐらいそれを素早く確実に身につけていくことができるか。「学び方を学んでいる」人が、実は一番強いんじゃないかと思っています。
GE(ゼネラル・エレクトリック社)の一番有名だったCEOのジャック・ウェルチとかも言ってますが、「アンラーニング」も大事なスキル、学習能力の1つですよね。昔の人たちは「出羽守」とよく言いますが、過去の経験ばかりから今のことを考える人よりも、「新しい局面なんだから昔のルールは通用しないかもしれない、そういうのは一切忘れてゼロベースで考えていこう」みたいな人だったりとか。
自己変革力とか環境適応能力とか柔軟性とか、言い方はいろいろあるわけですけども、新しい環境に対峙した時に、学んでいける(能力が求められています)。
例えばiUで長期の企業インターンシップをやるというと、今まで学生だけでやってた時とはもうまったく違う経験に放り出されるわけです。その時にどんどん適応していくような力も含めて、学習能力だと思うんです。これが実は最も重要な能力なんじゃないかなと思います。
では学習能力はどう身につくのか。各種研究を見てると、1つは「自己認知の高さ」だと言われています。これは考えてみれば当たり前のことで、自分ができてないくせに「できてる」って思っている人って、タチ悪いですよね(笑)。
できてないくせにできてると思っている人は、改善しようとか努力しようとか勉強しようって思わないわけですね。そうすると学習能力はもちろん低いし、成長性も低い。
あるいは「自分はこういう性質なので、もう変わらないんだ」と固定的に考えるのか、「いや、どんどん変わり得るんだ」と考えるのか。自分の能力に対しての考え方も関係してくると思います。
あと熟達化の理論でよく「守破離」という言葉が出てきます。これは伝統芸能だったり武道とかで使われる言葉です。最初は師匠の型を守って、繰り返して型を身につけていく。それをちょっとずつ自分なりに破っていって、最終的にはオリジナルスタイルを確立して離れていく。こういう順番を、彼らが学ぶためにできるのか。
特に学習能力で一番重要だと思うのは、この「守」のところですよね。マルコム・グラッドウェルさんという、『天才』という本で書いて一時期有名になった評論家がいます。アカデミックな理論ではありませんけれども、超一流の人は1万時間ぐらい基礎的な訓練を積んでると(言っています)。モーツァルトだとかビートルズとかビル・ゲイツだとか、いろんな人を例に挙げてましたけれども。
1つの能力を身につけるためには、最初はルーチンワークのような基礎的訓練を、「守」の段階でガンガンやっていかなきゃいけない。こういう力も大事だと思うんですよね。
それには先ほど言った「意味づけ力」がすごく大事です。普通はルーチンワークのように思われるようなことをずっと長く続けるためには、その一つひとつのルーチンワークに対して、日々意味づけをしていく。
普通だったら「つまんないな」とか「まだこんなことやらなきゃいけないのか」って思うところを、自分なりに意味づけして、セルフモチベートして続けていく。こういうようなこともすごく大事なんじゃないかと思うわけです。やっぱりここでも「意味づけ力」が出てくるわけですね。
もう1つ、最近の能力特性ではあるなと思ってるのは……先ほども言いましたけども、これだけ環境が変化したりいろんな選択肢がある中で、「やりたいこと」がわからないと悩む学生さんや若い人が多いわけですね。
ところが、これは人事の方だったら知らない人はいない理論ですけども、このあいだ残念ながらお亡くなりになった、スタンフォードのクランボルツ先生の「計画された偶然理論」、Planned Happenstance Theoryによれば、いろんなイケてるキャリアの人を研究したところ、結局若いうちに自分のキャリアデザインをしっかりやって、それを一歩一歩上り詰めた人がイケてるキャリアに到達しているのかというと、そうではなかったんですね。これは理論って書いてますけど、事実ですよね。1つの事実が明らかになっている。
これは社会に出て何年も経ってるみなさんでしたら、頷いていただけるんじゃないかなと思うんです。私ももう50歳を超えてますけれども、いろんなイケてる方々を見てきて、「なんでこの立場になったんですか?」と聞くと、ほとんどの人が「たまたま」とか「偶然」と言いますよね。
それは自分の決めた狭いキャリアデザインにとらわれることなく、チャンスがあったらパッと飛びつける。そういう人たちが結局、本当は世の中にあふれているチャンスを逃さず捉えられる人になってきてるんじゃないか。クランボルツの「計画された偶然性理論」では、このことを言ってるんじゃないかなと思うんですね。
取ってつけたように聞こえるかもしれませんけども、iUの第一期生が今年ようやく就活に入っていくわけです。今までもいろいろ、慶応のSFCだったりとか、いろんな新設校の学生さんをいっぱい見てきたんですけど、「第一期生」はおもしろいですよね(笑)。
なにかわからないけれども飛び込んでみようって、キャリアに対してオープンマインドであることは、これからの世の中で活躍する人の1つの要素なんじゃないかなとは思います。
もちろん伝統校にもいいところはいっぱいあると思います。でも、普通だったら新しい機会に対してリスクを感じて、飛び込むのを躊躇する人が多いと思うんですね。それをなんのためらいもなく飛び込んでくる人は、一体どんな人なのかと。あとで「なんで入ったの?」みたいな話も聞きたいと思います。
いろいろ変化も激しいけれども、チャンスもいっぱいある。変化はチャンスですからね。そういうことを拾っていけるような人が、これからの人なんじゃないかなと思うわけでございます。
今日は話題提供ということで、拡散した話にもなりましたけれども。これからの求められる人材、活躍できる人材は一体どんな人なんだろうということで、私なりに思っていることをいろいろ申し上げてみました。ここにまとめてあるように、時と場合によって優秀さが変わるとか、最近はすくすく育ってきた人も「買い」だとかですね(笑)。
誰にどう思われるかとかは二の次で、自分の好きなこととか役に立つからやっている人がいいんじゃないか。好きなことがあるのも大事なんですけれども、能力開発の能力もすごく大事なんじゃないか。能力を身につけるためには型にはまってみることが必要だし、その裏にはたぶん「意味づけ力」が大事だと。
最後はノリの良さですね。なにかチャンスがあったらガンと飛び込んでみるみたいな人が、おそらくこれからのいろんな社会の局面で、いい優秀さを発揮していく人物なんではないかというお話でございました。
本当に短い時間だったので、駆け足で話してしまって恐縮なんですけれども、以上で私の前座のお話は終わりでございます。ご清聴ありがとうございました。
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