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部下を育て活かす「上司力」セミナー(全4記事)

部下に任せるべきは「作業」ではなく、目的意識のある「仕事」 チームの「働きがい」を作る6つのステップ

働く人を取り巻く環境が急激に変化する中で、現場の上司の多くは、さまざまな世代の部下のマネジメントと業績向上の両立という、難易度の高い問題に悩んでいます。そこで今回は、「上司力®」提唱の第一人者である前川孝雄氏が登壇したセミナーの模様をお届けします。これからの時代のリーダーに必要な上司としての心得や、部下育成のポイントについて解説されました。本記事では、組織の「働きがい」を作るための6つのステップが解説されました。

「働きがい」の二要因理論

前川孝雄氏:上司力研修、特に課長層向けの上司力研修のメインの講義を駆け足でお話しします。

結局ダイバーシティなので一人ひとりが違うんです。それをいかに活かすかを考えないといけないということをお話ししていきます。

大前提として、さっき「働きがい」の話もしましたよね。これは必ずお伝えし続けているスライドでお見せします。政府で働き方改革の法律の議論がなされ始めた7~8年前ぐらいから、僕は「これ、おかしな方向にいくな」と思っていました。

このことを『「働きがいあふれる」チームのつくり方』という本で一生懸命言ったんですけど、ハーズバーグが言ってる人のやる気に関する研究で、二要因理論というものがあります。

左側はリモートワークができるとか「働く環境」、「条件」は、産休・育休・労働時間が短くとか、介護休暇が取れるとか。それから職場の人間関係とか、賃上げ。これらは「衛生要因」っていうんですね。

この衛生要因は、改善して不満は減るんだけど満足につながりにくいと、その昔ハーズバーグは言ったわけです。

仕事の満足を増やすのは右側です。一人ひとりが担う仕事内容とか、責任とか承認。認めてもらえるとか、達成感とかですね。これが仕事の満足を増やす「動機づけ要因」って言ったんですね。

左側の衛生要因は、会社の人事制度の設計でなされるものがほとんどです。右側の動機づけ要因は、まさにマネジメントでカバーできる問題がいっぱいあるんですよね。

だからどうしても部下を動機づけしようと思うと、できるだけ負荷を下げてあげようとか、労働時間を短く休みを取りやすくって話になるんだけど。これを「働きやすさ」ろくくりましたが、そうではなくて、これはあくまでも補足的にやるものなんです。

「働きがい」を作る6つのステップ

(重要なのは左側の)「働きがい」ですね。一人ひとりが、自分がやってる仕事に意味・意義を感じられて、前のめりになっていく状況をどう作っていくか。これが大事だと思います。

それを上司力研修では6つのステップで考えましょうというお話をしています。

まずは上司と部下。特にダイバーシティなので、まず最初は信頼関係をしっかり作っていく。「絶対的な信頼関係」と言ってますが、言葉の受け止め方とかがどうしても一人ひとり違うので、ちょっとした言葉のあやで関係性が毀損しないようにします。信頼関係を最初に築くというのがスタート地点だと思います。

「愛他主義の実践で、部下の心を開く」と書いています。利己・利他ってよく言いますけれども、利己・利他は損得勘定の世界です。がんばって、損得抜きで部下や組織を思って愛情を持って行動する姿勢を、努力してつかんでいくことが、信頼関係を作る土台になるんじゃないかなと思うんですね。

仕事の話の前に、まず人間と人間としての信頼関係を作っていくことがとても大事です。マザー・テレサなんかもよく言ってますよね。「この世の最大の不幸は貧しさでも病気でもありません。自分が誰からも必要とされないと感じることです。愛の反対は憎しみでなく無関心です」と。

だから上司自身が、多様な部下にしっかり関心を持つことからがスタートだと思うんですね。

部下の育成では「問題解決」は二の次

あとは冒頭に「クイック・ウィン・パラドックス」と言いましたが、部下のマネジメントをしてると、どうしても「ああしたほうがいい」「こうしたほうがいい」とか(アドバイスしたくなってしまうんです)。特に上からのプレッシャーもあるので余計そうなるわけですけど、そこをぐっと我慢して、まずアドバイスする前に一人ひとりの気持ちとか思いを傾聴していくことが大切だと思いますね。

コーチングとか傾聴の研修とか、みなさんもやっておられると思うんですけど。そのスキルの前に、なぜこれが大切なのかしっかり理解していただくことが大事だと思います。

なぜならば、相手のことを傾聴して理解しないと、いくらこっちがアドバイスしても馬耳東風で入っていかないんだと思うんですね。

これも釈迦に説法ですが、問題解決は二の次でいいということです。どうしても問題解決思考とかPDCAとかで鍛えられていると、すぐ問題解決したくなるんです。でも上司としてのコミュニケーション、部下の育成とか活躍支援となると、問題解決は二の次ですね。知っていくことがとても大事だと思います。

ヘンリー・フォードも言ってますよね。アメリカは多様性-人種のるつぼですけれども、「成功に秘訣というものがあるとすれば、それは他人の立場を理解して、自分の立場と同時に、他人の立場からも物事を見ることができる能力である」と。うまいこと言うなと思います。まさに相手の立場に立てるかどうかが求められるんだろうと思ってるんですね。

部下には「作業」ではなく「仕事」を任せる

あと、3つ目の「仕事の意義や目的を理解させる」ということですね。どうしても日々やらなければいけない、マストとかタスクの話ばかりしがちなんですけど、その前に、上位概念の「この仕事の意義や目的はなんだっけ」ということを、上司自身も腹落ちしないといけません。それを自分の言葉で伝えていくことが大事だと思います。

昨日もある大手企業で、上司力研修の講演会をやりました。その会社も一生懸命人材育成計画のシートを作って、上司の方々に部下を育てましょうってやってるんですけど、そのシートを見て僕が思ったのは、やっぱり業務スキルをどうつけるかというフォーマットしかないわけですよ。

その前に、部下のことをしっかり理解して、どういうキャリアを考えているのか、そのキャリアに今任せている仕事がつながるのか。あとは組織として目指しているビジョンは何なのかとか。

その中で「あなただから何の仕事をやるべきなのか」っていう議論をすべきなのに、そこが抜けてしまって、日々日々のタスクを回すための業務スキルをどう鍛えるかというだけの話になってしまっているケースが多い。それだと、なかなか動機づけは難しいだろうなと思うわけです。

僕は仕事を任せる時に、「作業ではなく、仕事を任せましょう」と言っています。一見、表面的に部下がプレイヤーとしてやっている作業は同じだったとしても、それが単純に上司からマニュアルを渡されて、「このとおりやれ」って作業でやってるのか。

そうじゃなくて、目的をしっかり対話の中で腹落ちさせて、じゃあ作業に落ちる工夫は君なりに考えてみて、と任せる。ここをやると、一見やっている作業が同じでも、ぜんぜんモチベーションが変わると思うんですよね。このことを理解して、日々の役割や仕事を提示するのが大事です。

育成に必要なのは「小さなキャリアの階段作り」

ドラッカーも言ってますよね。「知的労働、生産性の向上を図る場合にまず問うべきは、何が目的か。何を実現しようとしているか。なぜそれを行うかである」と。これがどうしてもすっぽ抜けてしまうんですよね。

どうしても、日々忙しいこととか、あれやれこれやれとばっかりやってるから疲弊してしまう。そういうことが起こってるんじゃないかなぁと思うんです。

あとは人材育成の観点でいくと、「小さなキャリアの階段作り」ということもよく言っています。中長期の目標だけでは足らず、0.1段でも自力で上ったという手応えを持ってもらうような育成をやらないといけません。

特に経験の浅い若手。異動したてだとか、未経験の仕事で受け入れたベテランの方も同じだと思うんですけど。

「あなたの役割はこれね。あとはよろしく」「わからないことがあったら聞いてね」というBADパターンではなくて、「1年後のゴールはこれができるようになってほしい」「目標イメージはここなんだけど、まず、この最初の1ヶ月は何をやろうか」「そのための工夫は任せるので一緒にやっていきましょう」。こういう伴走型のマネジメントが必要なんだと思いますね。

リモート環境で必要なのは、誰かの役に立っている「実感」

5つめ。特に今コロナ禍でリモート環境になっていくので、これがめちゃくちゃ大事だと思うんですね。最近「メンバーシップ型からジョブ型雇用へ」と言って、一人ひとりのジョブを明確にしてやっていってもらいましょうと。そうすればリモート環境でも別に自己完結でできるよねって話になるんです。

でもやっぱり人間って、一人ぼっちで仕事やってると孤立しかねないし、コロナで孤立やメンタルの問題も出てきている。自分が働いてることが、誰かの役に立ってる実感が必要なんです。(「誰かの」というのは)お客さんであったりとかチームであったりとか、会社とかいろいろあると思うんですよ。

あとは自分が誰かに必要とされてる実感を持つことが大事です。上司は名演出家になることが大事だと思うんですよね。ほっといて感じてくれよじゃなくて、やっぱり日々の声かけやミーティングの場面で実感を持つように演出をしていく、名演出家になる必要があると思います。

これができていくと、役に立つとか感謝しあうとか助け合う風土ができていくんだと思うので、これをしっかり作っていくことが大事だと思いますね。

マネジメントの中で実感してもらうべき、2つの欲求

これはみなさんご存じのマズローの5段階欲求説です。この中で会社や組織で働いてる人たちは、真ん中の社会帰属欲求と承認欲求をどうやって日々のマネジメントで満たしていくかとが大事だと思うんですね。

社会帰属欲求は、本当に意味・意義のある目的に向かっているチームの一員であることが誇らしいということです。承認欲求はその中で、私だから・僕だからやるべき重要な仕事があるよねと思えている。この2つをしっかり満たしていくことが、欠かせなくなってきております。

エーリッヒ・フロムという昔の学者が、「人間の最も強い欲求は、孤立を克服し、孤独の牢獄から抜け出したい欲求なんだ」と言っています。「自分以外の人間と融合したい、これは人間の最も強い欲望なんだ」と。つまりつながりたいってことですね。

これはたぶん若手とかベテランとか関係ないですね。ベテランのほうが、実は大事かもしれないです。これをいかに日々のマネジメントの中で実感してもらうか。

「あなただから感」でメンバーを活かす組織作り

最後にまとめていくと、もちろん業務とかタスクはやらないといけないんですけど、どうしてもそれが先に立ちがちなので、その前に、人として向きあう。一人ひとりを活かすチーム組織をしっかり作っていくことが大事だと思います。僕は「あなただから感」と言っています。

これは仮想の組織図例ですが、一人ひとりの持ち味をしっかり上司が理解をして、「だからあなたにこの役割をお願いしたいんだよね」ということを明示する。

一人ひとりの強みを活かして、持ち味を活かした役割がある。“かわいげ力営業”とか“信頼関係作りのプロ”とか、“ミスター商売人”とかいろいろありますけど、こういう一人ひとりの持ち味を活かして、「あなただから、これだよね」と明示すると、かけがえのない、「自分はこのチームの一員なんだ」という承認要求が満たされます。

その上で「上半期の方針」とありますが、「お客さまに貢献することで、自社も潤いましょう」というようなビジョンとか目標で掲げて、そこにつながる役割が自分の中できちんとあるとしていくことが大事だなと思うんです。

この中で大事なのが、上司がとにかく部下一人ひとりと向きあって、よい期待をする、肯定的な見方をする、ありのままに向きあうことです。悪い期待とか、否定決めづけでは絶対だめだと思うんですね。

ロバート・ローゼンタールという教育心理学者が言った、ピグマリオン効果です。ゴーレム効果にならないようにすることが大事です。

組織で一番大切なのは、存在意義にある「目的」

全部パーフェクトにできるスーパーマンはなかなかいないと思うんです。でも、できることからやりましょうって、3つのお話をしています。

僕が15年前から言ってるのは、多様なメンバーが働いてるので、みんなが「このチームが安心して働けるホームである」と思えるような環境作りを、上司はやる必要があるということです。

これも最近流行りの言葉で言うと「心理的安全性」でしょう。僕は「ずっと安心して働けるホーム」と言い続けています。最近、心理的安全性とやっぱりつながってきたかなと思うんです。

普遍的に変わらない。特にダイバーシティとか、コロナ禍とか、環境変化が強くなればなるほど、より重要になってきたと思うわけです。

先ほど若手の時の話で、ホストや報酬だけで動機づけしづらくなってきているとお話私しました。これからの組織作りは、組織の目的と個々の尊重で同機づけするサークル組織に変わっていくべきですよね。これも15年来ずっと言い続けてるんですけど、よりこの絵に対する確信が僕の中で強くなってきています。

組織の中で一番偉いのは別に上司じゃなくて、組織の存在意義にある「目的」ですよ。何のためにこの組織あるんだっけ? っていうことですよね。

これは世の中に対する貢献であったり、お客さまに対する貢献であったりとかいろいろあると思うんですけど、目的に対して一人ひとり必ず持ち味があっていいはずなので、それを持ち寄って役割を果たしていくだけなんです。

それに対して上司だろうが部下であろうが、それは1つの役割であって、それが横で対等につながりあっていくような、サークル型の組織を作っていくことが大事だなぁと。もうこの思いは10年前ぐらいから言い続けていて、より確信が強くなってきています。

上司も管理職もただの「役割」に過ぎない

一方で最近はポストオフとか、管理職だった方がプレイヤーに戻るとけっこうモチベーションが下がるんです。確かにそのお気持ちは僕もわかります、僕も組織人で長く働いてきたのでわかるんですけれど。

でも別に、人生の先輩という立場が変わるわけではない。上司とか管理職とか、もっと言えば経営者もそうですけど、僕は単なる「役割」だと思うんですよね。

地域とか町内会の役をやる時も、別に上下関係はあんまりないですね。持ち回りでやるわけだし。PTAの役もマンションの理事会もそうですけど、それと同じなんだと思うんですよね。

その中で、たまたま管理者としてチームをまとめる1つの役割がある。部下は部下で持ち味があって、ある一定の領域で、プレイヤーとしての役割がある。これを役割分担しているだけだって思うと、別にポストオフでプレイヤーになってそこまで元気がなくなる必要もないんじゃないかなと思うわけですね。

1個1個説明すると長くなるので省きますが、やはり思うのは「脱・上意下達」。自律の連鎖を最大化するって書きましたけど、ライン・現場の一般社員の方、ミドル・中間管理職、トップ・幹部管理職、経営層と、それぞれ役割があるんだと思うんですよね。

その役割を理解をして、自分なりにそしゃくして、自分なりのスタイルでできるようになっていくことが求められているんです。

本来求められる「上司の役割」

では上司に求められるものはなにか、すなわち上司の役割はなんだっけ? と考えると、部下一人ひとりの持ち味を理解しなきゃいけないんですね。それを踏まえて、仕事を任せる。育てて活かす。

組織には必ず共通の目的があって、この目的に向かう組織の力を高める必要がある。上司1人では達成できない。(上司がやるべきは)結果を導き出すことだと思うんですね。

それにはやはりコミュニケーションが鍵となります。同じことを言っていても、やっぱりダイバーシティでいくと、捉まえ方が違ってしまう。誤解を生まないように、先ほどの「傾聴」の大切さも同じですけど、コミュニケーションしていく部分がどんどん重要になってきてるなぁと思います。

ということで、実際の上司力®研修では、もうちょっと実際の事例とか講師の体験談を交えたり、双方向でやり取りをしながら、6つの話をしていきます。

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