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部下を育て活かす「上司力」セミナー(全4記事)

真面目な管理職ほど陥る「5つの問題行動」 悪気なく部下のやる気を下げる、マネジメントの落とし穴

働く人を取り巻く環境が急激に変化する中で、現場の上司の多くは、さまざまな世代の部下のマネジメントと業績向上の両立という、難易度の高い問題に悩んでいます。そこで今回は、「上司力®」提唱の第一人者である前川孝雄氏が登壇したセミナーの模様をお届けします。これからの時代のリーダーに必要な上司としての心得や、部下育成のポイントについて解説されました。本記事では、現代の上司の抱える「悩み」について語られました。

400社以上の大手企業で行われる「上司力®」研修プログラム

前川孝雄氏:(今回のセミナーの案内に)仰々しく「『上司力』提唱の第一人者・前川孝雄が登壇!」と書いていますけど、この「上司力®」という言葉にはすごくこだわっています。

僕が「上司力®」という言葉を世の中に打ち出し始めたのが2006年ダイヤモンド社から『上司力トレーニング』という本を書きました。今から17年近く前に書いた本なんですが、その時から人材育成がすごく大事だなと思っていました。

それから起業してFeelWorksという会社を作るんですけども、その時から現場の上司が部下を育てるということ、もしくは活躍を支援するということが、めちゃくちゃ大事だなと思って、コンセプトを「上司力®」という言葉にまとめて研修プログラムを作りました。早いものであっという間に15年目に入りました。

これまで400社以上、大手企業でこの研修をやらせていただいていまして、あとは実際に本を書いたり、連載なんかもしておりまして、この「上司力®」という言葉は今年FeelWorksの登録商標にも認めていただきました。ぜひご体感をいただければと思っております。

全国の大学生と膝を突き合わせて感じた、働くことへの悩み

あらためまして自己紹介をさせていただきますと、僕はもともと兵庫県明石市の生まれ育ちでして、今は東京で事務所を構えています。東京暮らしが長いんですけど、関西弁のニュアンスがなかなか消えません。ご容赦ください。

1989年にリクルートという会社に就職して、2007年末まで、19年くらい働いていました。その間ずっとやっていたのは、一貫して現場で働いている人たちのキャリア支援とか、就職・転職とか、学びの支援の媒体の編集長ですね。

今はもうなくなってしまってすごく残念なんですけど、「ケイコとマナブ」はすごく思い入れのある雑誌で、それも10年くらい作っていました。あとはエンジニアの方々向けの「Tech総研」という媒体の編集長もやりました。

「リクナビNEXT」のサイトの責任者もやりましたし、リクルート最後のキャリアは「リクナビ」の統括編集長で、若い人たちが社会人として羽ばたく場面を支援する媒体の編集長もやりました。一貫して働いている人のキャリア支援をやってきました。

そんな中で問題意識が出てきました。「リクナビ」編集長として、全国の大学生と膝を突き合わせて話をしている中で感じたんですが、働くことに対する希望をなかなか持ちにくい社会になってきていました。

僕が「リクナビ」の編集長やっていたのはわずか5年間くらいの足掛けの時間でしたけど、その間の思いがあって、「就職はゴールじゃなくて社会人としてのスタートだから、それ以降に活躍していってほしいな」と思い、就職したあとの若者たちに向けて、リクナビCAFEというメールマガジンを送っていました。

悩みを受け止めたりとか、「こういう時どういうふうに考えたらいいんだろう」ということを、ずっとメールマガジンを通してやっていまして、最後には登録者が150万人くらいになったんです。

「働き始めたあと」と「活躍すること」がつながりにくい

それをずっと見ている中で、働き始めたあとと、育っていく・活躍するということが、なかなかつながりにくいのではないかと感じていました。

なぜなのかなと思うと、みなさんも感じているように環境変化があって、現場の上司やOJTリーダーのみなさんが、後輩や部下を育てるのが難しくなってきている。日本企業の現場のOJTや人材育成が、非常に難しくなってきていると感じたんです。

なんとか今の時代に応じた育成の手法や考え方というものを学んでいただいて、人が育つ現場を絶やしたくない。そんな思いで起業したんです。最初はたった1人で、パソコン1台で始めましたけど、あっという間に15年目に入りました。

本もたくさん書かせてもらいましたが、ありがたいことにこれまで400社以上、比較的大企業で、現場の上司の方々がどうやって部下を育てるかという研修を、開講させていただいております。

最近書いている新しい本は『人を活かす経営の新常識』とか『本物の「上司力」』とか、あと今日のテーマじゃないのであまりしゃべりませんが、上司の方々は役職定年とか定年再雇用が視野に入ってくると、自分自身がキャリアを考える必要があると思って、『50歳からの○○戦略』という本を3冊書いたんです。

一番最初は、2019年に『50歳からの逆転キャリア戦略』という本を書きまして、これがベストセラーになって、(そこから)毎年1冊ずつ(出しました)。最近は学びの本ですね。『50歳からの人生が変わる痛快!「学び」戦略』という本も書きましたけど、好評をいただいております。

ミドル向けキャリア研修もたくさんやっているんですけど、今日は「上司力®」をテーマでお話をします。

業績向上とマネジメントの狭間で奮闘する上司たち

今日はこんな流れでやります。前半、上司力®研修にはいくつかプログラムがあるんですが、「現場の上司力®」というプログラムがありまして、現場で直接部下と対峙する上司の方々、課長層の方々向けの研修のエッセンスをお話したいなと思っています。

途中僕が一方的にしゃべるのはお疲れになるでしょうから、みなさんの企業とか現場での課題感とか、管理職層の人たちにどういう支援が必要なのかということも、ちょっと聞きたいなと思っています。

後半は「上司力®研修シリーズのご紹介」。これはPRですけど、させてもらいたいなと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

最初は「業績向上とマネジメントの狭間で奮闘する上司たち」という話をしたいと思います。実際の研修でもそうなんですけど、最近のダイバーシティマネジメントであったりとか、「ハラスメントはダメよ」だったりとか、いろんな上司の方々に対するNG集とか規制とかいっぱいあって、けっこう大変なんです。

でもやっぱり「共感」から入らないといけないなと思っています。上司層の方々には、職責意識高く、一生懸命やっておられる方が多い。その方々がどんなご苦労をされているのかという話から入ります。

これも実際に僕たちが全国の企業の研修の中で、上司の方々から聞いた声を、エッセンスとしてご紹介しています。例えば、ITの会社でシステム開発会社の課長さんの悩みは、特にコロナ禍以降、リモートワークが導入されてからご苦労が多いんですよね。

「生産性の向上とワークライフバランスの質の確保」ということで、リモートワーク、テレワークが導入されているんだけど、従前である部下と直接対面する機会が減少しているので、なかなか仕事ぶりがわからないし、コミュニケーションの取り方もわからない。非常に悩みが深まってきているなと思います。

昔ながらのマネジメントの考え方がうまくいかない、多様な問題

僕も50代半ばですけど、やっぱりこれくらいの世代の上司の方々は、リゲインのCMとか流れた時代に働き始めたわけなので、「24時間戦えますか」と一生懸命やってきたんですね。今はブラック企業になってしまいますけど。

自分自身も一生懸命勉強も仕事も必死にやってきた。それで最近の若手から、任せた仕事に「わからない」「できない」と言われるとイラッとするわけですね。「自分で考えろ」と突き放してやりたいんだけど、そんな対応したもんなら、たちまち「パワハラだ」と騒がれる。今の若手は甘えているようにしか見えないんだけど、どうしたらいいんだろうか。このような悩みが出たりします。

あとは女性活躍の仕事も本当にたくさんやらせていただきましたけど、その中での悩みもありますね。昔ほどではなくなっているものの、男性社会のこの業界の営業慣習としては、やっぱり接待などがまだまだ残っていたりする。

ところが最近は、総合職採用枠で入社してきた若手女性にも営業をやってもらう。となると、昔ながらの営業のやり方とか接待とかは難しい。その中で変わらなければならないのはわかっているんだけど、お客さんが変わらない中で、どんな仕事を任せればいいのだろうか。こんな悩みが出てきたり。

またこの5~6年で一気に増えてきたのが、「年上の部下問題」。昇進と併せて部署を異動して、畑違いの領域を任されることになった。これはいいんだけど、次に現場経験の豊富な部下が4人ついて、自分だけ仕事がわかってないし、その部下のうち2人が年上なんですね。

年上の部下問題に僕は2011年にいち早く気付いて、『年上の部下とうまく付き合う9つのルール』という本を書きました。そこからどんどん問題意識が強くなってきていますね。

やっぱり年功序列はもう瓦解してきて、若手でも抜擢して管理職登用しようとしています。一方で、雇用延長で60代でも働く方が増えていく。当然上司と部下の年齢が逆転していくわけですね。昔ながらのマネジメントの考え方がうまくいかないというわけです。

職責意識の高い管理職ほど陥る「5つの問題行動」

一方で僕が思うのが、管理職の方々というのは、すごく真面目で職責意識の高い方が多いんです。ハーバード大学のリーダーシップの研究されているリンダ・ヒルさんらの研究結果から、「昇進者の心得」というハーバード・ビジネス・レビューの論文からまとめた内容を引っ張ってきたんですけど、職責意識が高い故に起こる5つの問題行動があると。

「隘路(あいろ)に入り込む」。これは自ら仕事を抱え込んでしまって、かんじがらめで動けないような状況。「批判を否定的に受け止める」。部下たちが自分の方針に対して批判すると、否定的に受け止めてしまう。「威圧的である」。「管理職なんだから言うこと聞けよ」ということなんですかね。

あとは「拙速に結論を出す」。とにかく「ああしろ、こうしろ」とすぐ細かい指示を出してしまう。行き過ぎると5番目の「マイクロマネジメント」に走る。重箱の隅を突くように部下の一挙手一投足まで、補足したいし矯正したいというふうになっていくわけですね。

これを「クイック・ウィン・パラドックス」とリンダ・ヒルさんたちは定義しました。早い成果を求めると、実は悪気がないのにこの5つの問題行動を起こしてしまうんです。5つの問題行動を起こしてしまうと、当然部下たちはモチベーション下がったりとか、ついて行けないなという気持ちになって、パラドックスが起き、早い成果が遠のいていくと逆説的に言ったんですね。

こういう傾向に陥る方が非常に多くなってきている。これは別に管理職の方々だけの責任ではなくて、社会とか環境の変化があって、経営から求められる「管理職に対する要望」の中で、どうしてもこうなってしまうんです。

管理職の主な仕事は「部下を動かすこと」

それに、古い理論ですけど、三隅二不二先生がおっしゃったPM理論です。管理者としてやらなければならない仕事には2つベクトルがあって、「目標達成」と「集団維持」。

人や組織のケアということだと思うんですけど、両方のベクトルがあって、両方やらないといけないということは、今も昔も変わらないんです。でも、このメンテナンスの難度が上がってきていると思うんですね。

あとはコロナ禍でリモートワークなんかが増えている。これは日本生産性本部が、コロナ禍直後に働いていらっしゃる方々にアンケート調査をして、それ以降も定点でずっと調査を続けていますけど、やっぱりこれを見て思ったのが、コロナ禍で働き方が最も変わったのは「管理的な仕事」ということです。

プレイングマネージャーの方々も多いですけど、上司の方々、管理職の方々の主たるお仕事は何かというと、「部下を動かすこと」だと思うんですね。

部下の方々が直接顧客と対峙する現場実務を担っていくわけなので、そういう意味では現場プレイヤーの部下の方々は、在宅勤務がしづらい環境、業種の方も多い。でも上司の方々は実はテレワークや在宅勤務でも、本来はマネジメントできるはずだと。

ただ、それは従来型の島型のデスクがあって、上司がお誕生席にいて、仕事ぶりをちゃんとふだん観察できる状況のやり方ではうまくいかなくなってきている。ここに変革が求められているんですね。

まず必要なのは、上司自身がイキイキ働くこと

さて、イントロとしてそのあたり話しましたので、ここからはみなさんの状況を聞きたいなと思います。みなさんの会社とか、現場の管理職層のみなさんが抱えている課題感って何なんだろうか。ちょっとみなさんに聞いてみたいなと思います。

上司力®研修シリーズを2008年から400社以上で開講してきて思うんですけど、やっぱり年々、上司の方々を取り巻く環境がハードになってきていると思うんですよね。働き方改革ももちろん必要なんですけど、それを実際に現場で運用するのは上司の方々で、でも求められる成果は変わらないので、どうするんだという話だったりとか。

ハラスメントもパワハラ防止法ができて、それを実際に現場で一番対峙しなければいけないのは上司だし、なかなか難しいですが若手の意識も変わってきているので、離職なんて当然起きやすくなってきている。

当然上司がキャリア支援をしないといけない。1on1面談しないといけない。上司は上司で360度サーベイを受けて、それのフィードバックを受けながら自分自身で対峙しないといけない。挙げ出すとキリがないくらい難しくなっているんですね。

部下の方々もそういう上司を見て「大変そう」と見ている。非常に難しい時代です。僕たちは、本当にベタベタですけど「日本の上司を元気にしたい!」というビジョンを掲げて、上司力®研修を提供させてもらっているんですけど、やっぱり僕、思うんです。

現場の上司の方々が1on1面談して、キャリア支援をして、コーチングの技術を磨いて、アンガーマネジメントを学んでとか、いろいろやらないかんのですけど、その前に上司の人がイキイキ働くのが大事だと思うんです。

働きがいを持って仕事に打ち込んで、ワクワクしながら働いている人たちが増えないといけないなと思っています。そんなことをテーマに掲げながら一生懸命やっていますね。

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