2024.12.24
「経営陣が見たい数字」が見えない状況からの脱却法 経営課題を解決に導く、オファリングサービスの特長
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松原嘉哉氏(以下、松原):では、お二人に登場していただきたいと思います。柳川先生、為末先生、いらっしゃいますでしょうか。
為末大氏(以下、為末):よろしくお願いします。
柳川範之氏(以下、柳川):よろしくお願いします。
松原:よろしくお願いします。柳川さんには、今回の本(『Unlearn(アンラーン)人生100年時代の新しい「学び」』)を出されたきっかけというか、なぜ今の時期(に出版)なのかをお聞かせいただきたいなと思います。為末さんには、本の中にいろんな事例を書いていただいて、非常に参考になるんですが、ここに書いてないこともうかがえたらいいなと思っております。よろしくお願いします。
為末:はい、わかりました。時間が時間なので(イベント開催時刻が19時半)パジャマで出ちゃっていますが、よろしくお願いします(笑)。じゃあ、柳川先生から(お願いいたします)。
柳川:じゃあ、僕から。柳川です、みなさんお集まりいただきありがとうございます。すでに本を読んでくださった方にたくさん集まっていただくのはなかなかない経験で、本当にうれしく思っています。
本を書くきっかけや問題意識なんですが、いろんなことでこれからチャンスがやってくる時代だと思っていて。コロナがあったり、本を書いた時にはわからなかったんですが、ウクライナの問題があったりとか、だいぶ大変なことがいっぱい起こっているんですね。そういう意味で、変わらなきゃいけないという側面もあるんですが、それだけじゃなくて。
なにかを変えていくことで、チャンスがいっぱいやってくる時代でもあるんだろうと思っていて。なにかに踏み出したり、変わっていくきっかけをみなさんが少しでも得られたらいいなというのが、一番大きな問題意識だったんです。
ただ、「変わろう」とか「変わってみよう」と言っても、じゃあ具体的に何ができるか、何をしたらいいかはなかなか難しくって。いいことなんですが、通常はいろんな勉強をしてしまって、どうしても新しい知識をしっかり得ることに重点を置いてしまいがちだと思ったんですね。
柳川:『Unlearn』のコンセプトなんですが、自分の頭や思考の癖が特定の方向に行ってしまってると、一生懸命インプットしてるはずなのに、本当に大事なことは素通りしてしまう。もともと自分が大事に思ってたところにだけ目がいってしまったり、あるいは記憶に残ってしまうということが起きているだろうと。勉強じゃなくても、なんでもみなさんが経験のあることだと思うんですよ。見てるようで、見てないことが。
例えば初めての商店街を歩いて、お酒が好きな人は「あそこにいい飲み屋さんがあったよね」と気がつくんですが、一緒に歩いた人はお菓子が好きだと「飲み屋さんなんかあったっけ? あそこにお菓子屋さんがあったのは覚えてるけど」という感じで、実は人間は見てるようで見てないし、学んでるようで学べてない。
そういう意味で、ここに書いている「思考の癖」だとか「パターン」が決まっちゃってると、せっかく勉強したはずなのに自分の身についてなかったり、場合によると素通りさせてしまうことがあるんじゃないかなと思っています。
なので、新しく変えていくためにはインプットは大事だし、学ぶことも大事なんですが、その前に自分の状態をフラットにするというか。変な思考の癖や、発想のパターンをできるだけフラットにしたほうが、よりしっかり学べるんじゃないかというのが大きな問題意識だったんですね。
為末さんとは長年仲良くさせていただいてるんですが、為末さんの経験は非常に重要だし、学ぶべきことが多いなと思うので、このテーマで対談していろいろ議論を深めていきたいと思います。あとは為末さんにバトンタッチで、お願いします。
為末:ほとんど柳川先生に言っていただいたと思うんですが、(アンラーニングが)本当に2人の興味(の対象)だったんですね。たぶん、僕と柳川先生の共通点が「ちょっとはみ出し者」というか(笑)。柳川先生は高校に行ったんでしたっけ、行ってないんでしたっけ?
柳川:高校は行ってないんですよ。
松原:シンガポールで勉強されたっていうエピソードがありましたよね。
柳川:大学も通信教育なので、まったくはみ出し者なんですが。
為末:僕はコーチをつけないで競技をやっていて、ある意味「独学の2人」というのが一番の共通点なんですね。独学の2人の弱点は、きっと組織の中でうまくやれないとかあるんでしょうけど(笑)。
逆に強みがこの「アンラーン」のところで、常に自分で「成長が止まってないかな?」ってチェックしないと、誰もチェックしてくれない。(アンラーニングを)知らず知らずに身につけていたようなことがあって、それをどうやって言葉にしてみんなに伝えたらいいかなっていうのが、一番出発点だったなと思うんです。
僕の体験として、一番カルチャーが変わったのは(陸上を)引退した時なんですね。それはすごく大きな違いです。引退後、最も僕が「アンラーンしなきゃな」と思ったのは、要するに陸上競技って「超KPI世界」なんですよ。KPIしかないというか、100メートルでいうと「10秒0」「9秒9か」とか、それ(数字)しかない世界だったんです。
為末:社会の価値観は多様で、簡単に測れるものじゃないということがわかるまで、無意識にずっと「次のレースは何だ?」って探してたんですよ。でも考えてみると、世の中にはそんなにわかりやすいレースがなかったりする中で、なんとなく「数字を追いかけるレースを走らなきゃいけない」と思い込んでたのが大きかったですね。
それでアンラーンするというか、周りの人の手助けもありながら、ちょっとずつ社会に適応した感じでしたね。
松原:アンラーンのプロの為末さんが、「アンラーンしなきゃ」と気づいた一番のきっかけはあったんですか?
為末:「(仕事が)なんかやりにくい」って言われました(笑)。
松原:(笑)。なるほど。
為末:でも、それは社外の人だったんですが、そうやって素直に言ってくれてありがたいですね。(「仕事がやりにくい」と言われて)帰り道の電車で考えてたら、「俺、気がついたらなんでもレースにしようとしちゃってるのかもしれない」と思ったところ(が、アンラーンを始めた一番のきっかけ)ですかね。
あと、陸上は個人競技だから、全部を自分でやろうとしちゃうんです。でも、癖ってなかなか抜けないですよね(笑)。気がついたらそうしようとしちゃうので、柳川先生も言ってたけど、大変な苦労でしたね。
松原:なるほど。今のお話はすごく勉強になったのと、「独学」でお二人がつながってたんだなというのはピンときたというか、非常に興味深いお話でした。ありがとうございます。
松原:いろんな質問が来ているので、さっそく質疑応答に入っていきたいなと思ってます。「アンラーンに関心がある人とない人で、二極化しているように感じます。関心がない人に関心を持っていただくために、なにかアドバイスはありますでしょうか?」ということです。これを書かれた方、名乗り出られますかね? 難しいですかね。
質問者1:私です。
松原:なにか補足があれば(お願いします)。感じる瞬間とか、そういうのがあれば言っていただけるといいかなと思います。
質問者1:ありがとうございます。企業勤めをしているんですが、長年勤めていればいるほど、あとは役職が高ければ高いほど、無意識のバイアスや思考の癖はけっこう凝り固まるなと。なかなかボトムアップで変えようとすると難しいところがあって、(ベテラン社員に)どうやって気づいていただけるか、かなり苦労しているので、ぜひアドバイスをいただけますとうれしいです。
為末:この本に関連したイベントは3回目ぐらいですが、毎回必ず出る問いかけなんですよね(笑)。
松原:そうなんですか(笑)。
為末:そうですよね、先生。前もありましたよね?
柳川:うん、そうですね。
為末:まず最初に結論から言うと、これって人に気づきを提供することなので、本当に大変だと思うんですよね(笑)。だけどもし可能性が1つあるとするなら、さっきの私の話と逆のことも言えると思うんです。
社会へ出た時に「仕事って、こんなにもお互いが助け合ってやっているんだ」と思ったんですが、逆に「助けない」ことで気づきを促せないかな、と思うんですよね。
為末:要するに、私のアンラーンの一番の気づきは、自分のやり方が通用しなくなった時に「このままじゃまずい」と思ったのが大きかったんです。でも、例えばチームで連携しながら働いていると、本人のやり方はすでにずれていたりするんだけれど、「しょうがないから」って周りがそれに合わせたりすると、それなりに仕事が着地しちゃうんですね。
仕事の責任はみんなの責任にはなるので、リスクがあるのはよくわかります。でもやっぱり、どこか相手に応じないと言うんですかね(笑)。新しいやり方以外に応じない方法(が挙げられます)。例えば電話が来ても出ずに、絶対にSlackでしか対応しないとか。そういうふうに周辺が新しい手法に追いやっていくような、多少プッシュがあるのは大事な気がします。
質問者1:ありがとうございます。
為末:先生はありますか?
柳川:そうですね。追いやることができるのであれば、変化を促すかなり大きなポイントだと思うんですが、そこまでできない場合は、追いやらなくてもいいのでもう少し違う環境を経験させてあげる。日頃のルーティンの仕事ではない、例えば外の人(との交流を増やす)とかですね。
通常はどこの会社でも、部や課の中の人たちと話して仕事をしてる部分が圧倒的に多いと思うんですよ。そうであれば、ほかの人と話をさせる機会を持ってくるとか。
柳川:あるいは、あえて自分の会社以外の人が書いているものや、ぜんぜん違う産業の人が書いているものを参考にしてもらって、レポートにまとめてみるとか。「アンラーンしろ」「アンラーンさせる」って言うと、本人も「なにか自分の大事なものを失わされるんじゃないか?」というふうに思うので、むしろ違うものに触れさせる。
『Unlearn』に書いている大事なポイントは、なんでもいいから日頃会ったことのない人に会ったり、行ったことのない所に行ってみること。仕事であれば、兼業とか副業をやってみる。そこまででなくても、とにかく違うものに触れることで新しい気づきがあって、自分の中で「あれ? なんでこんなことにこだわってたんだろう」と思える瞬間が出てくることが多いので。
そうすると、本人が無意識にやることも多いと思うんです。気づいて「アンラーンしよう」と思うところまでいかなくてもいいと思うんですね。それを部下にさせるのはなかなか難しいんだけど、「今までと同じパターンでやってるのがいいとは限らないんだな」という経験を、できるだけ積ませてあげるのが大事なことかなと思うんですね。
質問者1:ありがとうございます。試してみたいと思います(笑)。
松原:これ、そんなにたくさんある質問なんですね。それに驚きました(笑)。
為末:やっぱり「アンラーンできないおじさん問題」……って、おじさんだと決めつけちゃいけないけど(笑)。社会の中にいっぱい(存在しています)。これは僕も「アンラーンしないとな」って自戒しましたね。
松原:ありがとうございます。じゃあ、次にいきたいなと思います。
松原:「著書の中で『アンラーンを繰り返すことで、自分のコアが見えてくる』という話がありましたが、ここでおっしゃってることは『自分が興味がありそうだ』という仮説に基づいて行動していくと自分のコア(=価値観?)が磨かれていくということでしょうか? また、自分のコアとそうでないものを見極める上で意識しておくことはありますか?」とのことです。(質問者は)名乗り出られますか?
質問者2:僕です。補足しますと、僕は27歳なんですが、まだ自分のコアが言語化できていない状態です。アンラーンを繰り返していく中で、「これは確かに自分のコアっぽいけれど、本当にコアなのか?」と感じるんです。
経験がないと、アンラーンしなくていいものと積極的にアンラーンしていくものの見極めが、なかなか難しいなと思っていて。これに対してなにかアドバイスがあれば、お願いしたいです。
為末:ありがとうございます。先生、どうしましょうか。
柳川:じゃあ、僕が先に答えましょうか。確かに、いろいろと考えたりアンラーンしたりを繰り返していく中で、自分が本当に大事にしているものや、自分がポイントだなと思う、ここで言ってる「コア」がわかってきたり、気づいたりします。コアと呼ばれるものが頭の中にしっかりあって、突然それを発見するということではないんだと思うんですね。
「こういうことが自分にとって大事なことなのかな」とか、だんだんと少しずつ気づいていくだけのことなので。おっしゃっていたように、まだ27歳であればだんだんと磨かれていくというか、クリアになっていけばいいと思うので、そんなに焦る必要もないんだろうなと思うんですね。
柳川:アンラーンの時に我々が大事にしていて、日本の社会において問題だなと思っていたのは、(僕たちがこの本の中で)「カルチャー対応」と呼んでいたことなんです。特に、会社のカルチャーや会社の風土みたいなものに、みんな染まっていくんですよね。染まっていかなきゃ生きていけない部分もあるし、染まることで仕事ができる部分っていっぱいあるんだけれども。
だんだんと、会社の風土に馴染んでいくこと自体が、ある種の自分のスキルだと勘違いするパターンがけっこう多いんじゃないかと思います。だから、転職すると何をやっていいかわからなくなったり、逆に会社にしがみついちゃったりということが、どうしても起きちゃう。
だから、周りのカルチャーに引きずられているのか、本当に自分が大事だと思ってたり、自分ができるようになってたものなのかをうまく峻別できるようになっていくと、本当に大事なものが見つかっていくんじゃないか.。……ということが、けっこう大きなポイントだったんですね。
特に長期雇用が前提の日本社会だから、周りのカルチャーに引きずられちゃってるんですが、どうやってうまく本当の自分のスキルと切り離していけるかが、議論の中でもポイントでしたよね、為末さん。
為末:そうですね。私もほとんど柳川先生と同じ意見なんですが、僕の経験でいくと……(陸上を)引退したあとに仕事の経験がないもので、呼ばれる場所にはどこでも行って、いろいろやってみました。
僕の場合はちゃんとした組織に長くいないので、みなさんとはちょっと違う気はするんですが。ただ、いろんな場所で仕事していく中で、短期間の在籍をくるくる回して、アンラーンっぽい学びがあったんです。
為末:「しゃべるのが上手ですね」「文章がお上手ですね」「質問がナントカで」……とかいろいろ言われてたんですが、ある日、「要するに、自分のできることって『言語化』じゃないか?」と思ったことがあって。3つか4つの違う場所で言語化(のスキル)がすごいって言われたら、急に自分で確信を持ち始めるんですよ。「これは僕のスキルじゃないか?」って。
1つの会社で通じているスキルが2~3社で通じると、本人の中で腑に落ちて自信になる。逆にそれで、「何を磨けばいいのか」のターゲットもはっきりしたので。結局僕の役割は、本をたくさん読むとか、とにかく抽象的なことを言葉にするんだとか、それで割り切れたんです。
そんなふうに自分が確信するためにも、いくつかの場所を回りながら、わざと全部アンラーンする。それでも残るなにかがあったとしたら、それってけっこうコアなスキルなのかなと思います。柳川先生がおっしゃったのとほぼ一緒のことなんですが。
松原:先ほどのお話も今のお話も、やっぱり人から気づきを得ることが多いんですね。「自分のコアってここなのかな」と気づくのも、他者の評価や言われたことが大きいのかなと聞いてて思いました。
為末:たぶん、気づき方には2つあるんだと思います。「自分の好きなことを知っている」のと、「自分が何ができるのかを知っている」があると思うんです。
自分の好きなことを知るのは自分でも気づきやすいんでしょうけど、社会に出せるバリューやスキルのところは、人に発見してもらうほうが圧倒的に楽ちんかなと思ってますね。自分が労力をかけた以上に人が褒めてくれたら、だいたいそれは武器になる何かなんじゃないかと思ってます。
柳川:「人が褒めてくれる」って大事です。なかなかやれないんですが、そういう機会をできるだけたくさん作っていくのは大事なことです。あと、必ずしも(他人が)評価をクリアに言ってくれるとは限らない局面が多いですよね。
為末さんの(事例の)ように、新しい職場に行った時に「今日は良かったよ」「こんなふうにしゃべるのはダメだな」と、評価を明確に言ってくれる人はすごくありがたい人です。それで自分が軌道修正していけるので。
でも、なかなかそうやって評価をクリアに言ってくれる人は少ないと思うんですよね。なので人の評価を待つんじゃなくて、違う人と話をしていく中で、「こうだとうまく伝わるんだな」「相手が比較的話に乗ってくれたな」「仕事が少しうまく回ったな」ということに、自分で気づく。その態勢を作っていくことが大事な気がしますね。
いずれにしても、日頃会ってる人とばかり話をしていると、新しい気づきの場もないので、新しい気づきの場を作ること(が大切です)。別にあらためて機会を作って人と話をしなくても、こういうイベントとかでも十分それ(新しい気づきの場)になると思うんですよね。
こうやってブレイクアウトルームで議論されると、「こういうことが大事だと思ってる人もいるんだな」「こんなことを一生懸命やってる人はすてきだな」とか、きっとみなさんも気づいていく部分があったと思うんです。それがある種、とても大事なアンラーンの1つだと思いますけどね。
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