2024.12.24
「経営陣が見たい数字」が見えない状況からの脱却法 経営課題を解決に導く、オファリングサービスの特長
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デジタル化や自動化の進展にともなう社会環境の激しい変化によって、自身のキャリアに不安を抱えるビジネスパーソンが増えています。予測困難な時代において、納得のいくキャリアを選択するためには、どのように意思決定をしていけばよいのでしょうか。本記事では、キャリアや組織論を専門とし、キャリアに関連した著書を多数出版されている慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授の高橋俊介氏に、納得のいく意思決定をする人の共通点や、満足できる決断を下せる人になるためのポイントをお聞きしました。
ーー先生がご覧になって、納得のいく意思決定をしている人の共通点はありますか。
高橋俊介氏(以下、高橋):以前、ある女性誌のお手伝いで、数百人の女性のキャリアや人生のターニングポイントを尋ねるWebアンケートを行い、「柔軟か固定的か」と「主体的か受け身か」の2軸で、今までの人生や職業キャリアの満足度を聞きました。
「主体的だけど固定的な人」とは、「私は10年後にこうなりたいんです」とか、「私はこの仕事に就きたいんです。それ以外は嫌です」と言って、状況が変わったり新しい情報が入っても、物事を固定的に捉える人。
逆に「柔軟で主体的な人」は、勉強したり、チャンスをつかみに行ったり、自分からいろいろ動くんですよ。「私はここでこう思ったんですよ。だからこうしました」「こんなことをしてみたら、意外にこんな反応がありまして」みたいな話が多い人。その時々の状況に応じて考えを変えていく柔軟性のある人は、「柔軟で主体的な人」です。
「柔軟で受け身の人」もいます。この人たちは収入面では比較的低いんですけど、それぞれの置かれた場所での幸せを、柔軟に自分で考えることができる人です。仕事はおもしろくないかもしれないけど、「職場に行くのが楽しいです」と、ポジティブに考える人。自分から勉強して、こういうキャリアを作りたいとか、そこまで考えない。
「固定的で受け身の人」は、自分からは動かないくせに、嫌なものは嫌と拒む人。「じゃあどうしたいんですか」と言われて、自分から何かを起こすのかと言うと、そういうわけでもない。
高橋:ざっくり言うと、一番不幸なのは最後の「固定的で受け身」のパターンです。例えば実際のインタビューの中でありましたけど、学生時代から海外豪華クルーズ船のクルーになることを夢見る女性がいました。就職活動で夢を叶えられそうな会社を受けたら内定したと。でも、親に言ったら猛反対されて。
クルーになったら何ヶ月もいなくなるわけで、女の子でそんなのはだめだと言われて、泣く泣く諦めたと。親は地元でちゃんと就職の世話をすると言って、地方公共団体の外郭団体みたいなところに入ったんですって。
これは地方ではかなりおいしい仕事だと思いますが、彼女は「私はそこで今も仕事をしてますが、やりたかったことはこういうことじゃないんです。私の人生はぜんぜん思うとおりにならないし、おもしろくもありません」と。不幸ですよね。
だって、そこはそこですごく条件がいいわけだし、やりたいことをいろいろ探せばいいと思うんですが、「私はあれをやりたかったのに、あなたたちのせいで断念させられた。私は不幸なんだ」というのにとらわれちゃっている。
一番幸福なのは当然ですけど、「柔軟で主体的な人」ですよ。仕事にも学びにも主体的であると同時に、状況に対しても柔軟である。「そうなったらそうなったで、考え直そうよ」みたいなかたちで、目標を設定していても柔軟に変えるような人たちが、結果的には一番幸せになっている感じですね。
ーー「柔軟で主体的な人」が都度いい意思決定をしていると言うより、自分の意思決定が正解になるように行動するから、幸福に感じるのもありそうですね。
高橋:それはあります。結局人生に無駄なことなんてないんですよ。「これは向いてなかったな」と思っても、そこで学んだことや体験は絶対に次のフェーズで役立ちます。すべてのフェーズに人生にとっての学びや意味はある。「あれがあったから、今の自分があるんだ」と思えるように、転んでもただでは起きず、必ず何かの糧をそこから得る。
「入った会社を辞めた。本当に失敗だった」と思うんじゃなく、会社に入ったのも失敗じゃないし、辞めたのも失敗じゃない。「入ったのが失敗じゃないんだったらなんで辞めるの」って言うけど、その発想がよくわかりません。
私はマッキンゼーに3年いました。マッキンゼーに入ってすごくよかったですよ。ものすごく勉強になったし、人間関係もできた。でも辞めたのもすごい正解でした。超忙しかったから。あの忙しさが続いたら家庭が破綻したり体を壊したかもしれない。なおかつ、自分が本当にやりたいことも見えたから、辞めてよかったんです。本当にマッキンゼーには感謝しているけど、結果的に3年で辞めたこともとてもよかったなと思っています。
そしたら「マッキンゼーみたいな会社は最初から3年だけ経験するという計画を立てればいいんですか」と言うのも違うんだと。それは出たとこ勝負で、もっと長くいてハッピーになった人もたくさんいます。どうなるかはやってみないとわからないけど、「やってみればいいじゃん」と。
ーー「柔軟で主体的な人」が満足のいく意思決定をしているということですが、「柔軟で主体的な人」になるためには、どうすればいいのでしょうか。
高橋:「柔軟」とは思考の柔軟性です。「物事にはいろんな側面があるので、固定的に捉えるな」ということです。例えば食べ物に好き嫌いが多い人は柔軟じゃない人なんですね。好き嫌いを「個性」と思う人がいますが、それは違います。例えばピーマンが嫌いだと言う子どもに、ピーマン嫌いを克服させる必要があるのかという議論がありますが、できれば克服したほうがいい。それによってその後の人生の豊かさが変わるからです。
「ちょっとでも嫌なものは一切食べなくていい」と育てちゃうと、例えば海外で生活ができないですよ。せっかく人生やキャリア上のチャンスがあっても、「そこの国の料理は口に合いません」は不幸ですよね。そうして知的好奇心そのものを失くしていく。なので、できるだけ嫌いなものリストを減らすことが大事だと思います。
そして、世の中にはいろんな可能性があるので、必ずしも自分の凝り固まったものが真実だと思わないことです。メタ認知と言いますが、今はこっちからしか見ていないけど、向こうから見たら違う景色が見えるということを、常に認識することです。自分が見て感じたことは、こっちから見た結果のものであって。「ちょっと待て。こっちから見てみ。違う景色が見えるよ」と、もう1人の自分が言う状況がメタ認知です。
もうちょっとわかりやすく言えば、「自分を客観的に見つめられていますか」と。私はよく幽体離脱の習慣化と言っていますが。幽体離脱したもう1人の自分が上から「お前なぁ」と説教している感じ。嫌いなものリストを減らすと同時に、そういう思考習慣を持つことも柔軟性のためにはとても重要ですね。
高橋:もう1つの「主体的」は、先ほどリフレーミングのところでお話した、仕事の主体性が学びの主体性につながるという「主体性の連鎖」です。例えば顧客との関係性で言うと、今はお客さんの言われることをやるだけの御用聞きになっていると。これを、顧客から「こういう問題があるけど、お前はどう思う?」と聞かれるような対等なパートナーにアップグレードすると。これもリフレーミングです。
そして、そのためにはネタが必要です。いろんなネタを振りまくから、「なるほど」と思われ、「じゃあ相談したいんだけどさ」となる。そのネタを仕入れるために「主体的な学び」が出てくるんですよ。それが機能するとおもしろみを覚え、またリフレーミングし、また主体的に学ぶ。
仕事の主体性も学びの主体性も、人間関係に対する布石を打つ的な主体性も、そこからチャンスが来るみたいなことも含めて、全部互いに関係し連鎖しています。その連鎖にうまく乗らないといけません。スタートをどこにするかは人によって違うと思いますが、まず一歩を踏み出さないといけない。すべてにおいて受け身ではだめなんです。
「ワークライフ」を変に誤解している人がいます。ワークは魂が震えないので、全部受け身でいい。お金をもらうためだけにやっているんですと。趣味で、ライフを主体的に生きていますと。でもそんなに簡単にアーリーリタイアなんてできないし、どうせ長いこと仕事をやるんだったら、楽しくやったほうがいいですよね。そうしたら、人生も楽しくなります。
ーー先生は著書『プロフェッショナルの働き方』の中で、What・How・Do・Checkのサイクルを「自分で回すのがプロフェッショナルの働き方」だと言われていますが、この働き方が主体性につながりますね。
高橋:おっしゃるとおりで、この中の「What」を作ることが主体性ですね。この仕事でこういうことをやるべきだとか、お客さんにこんな提案をしてみようとか、言われてやるのではなく、自分からやり方を考えたり、勉強をする。正解のないことを考える思考習慣は、頭の良さとか知識の量ではないですから。私はよく言うんですけど、どんなに知識があっても、そういう思考習慣がない人は「自論」を言いません。
ちなみに「じろん」ですが、一般的には「論を持つ」の「持論」が正しいわけですが、この字は「常に持っているその人の考え」というニュアンスが強いので、「その場その場で構築しアウトプットしていく考え」というイメージで、私はあえて「自論」を使っています。
その自論について、イギリスに長く住む日本人があるコラムで、「イギリス人は知識がなくても自論を言うが、日本人は知識があっても自論が言えない」と書いていました。知識のある・なしと、自論を常に考えて、自分はこう思うという意見が出てくるのは、ぜんぜん別のことです。
知識をつけることも大事ですけど、常にWhatを考える習慣。正解のないことを考えて自論を形成する習慣。仕事じゃなくても、目の前のニュースについてでも何でもいいんですよ。自分はこう思うというのを整理してみる。誰かいなくてもいいから、それを口に出して言ってみるというところからやってもいいんじゃないかと思います。
ーー同じく『プロフェッショナルの働き方』の中で、「『これはヒントになる』というものを見つけたら、自分が持っているどの課題解決のアイデアと組み合わせたら一番機能するかを考えなさい。それが普遍的な理解力を高めて、Whatが出やすい頭を作る。「Whatを構築する能力」が直感力となり、意思決定にプラスに働く」とも言われています。
高橋:そうです、意外なものと結びつくんですよね。テレビを見ていて、「なるほど! これ、いただき」みたいな話があるわけです。そういうことがふだんから起こる人と起こらない人がいる。その違いは何かというと、問題意識を潜在的に持っているかどうかなんですよ。
「これって問題だよな。なんとかしなきゃいけない」と思っても、すぐに答えが出ない。でも意識の下にはずーっとその問題意識がある人は、ピッと刺激が出てきた時に、「これ、これ!」となるんです。でも、問題意識としてキープしない人は、刺激に気づかない。だから問題意識を持ち続けるのはすごく大事です。
ーーありがとうございました。最後に、あらためて予測不可能な時代に生きるビジネスパーソンに向けたメッセージをお願いします。
高橋:狩猟採集の時代って、5年後の目標とか考えていなかったわけですよ。とりあえず今日食えるものを獲ったら、あとは歌って踊って遊ぶ。明日がどうなるかなんてわからないから、先々のことを心配してもしょうがなかったんですね。
それが定住農耕の時代になって、雨が降らなかったらどうしようとか、自分たちの都合に合わないことが起きた時に、どうしたらいいんだという心配をするようになった。初めて長期的な計画を考えるようになったわけです。種をまいてここで雨が降って、と1年間のことを考える。こうなっちゃったらどうしようと心配しながら計画を立てる。
時代が進んで産業化社会になると、それがもっとすごくなった。工場では、生産計画を立てて予定どおりに物を作る。鉄道はダイヤグラム(運転計画を図示したもの)を先に作っておく。計画と実行の分離と言いますけど、人間は事前に全部綿密に計画を立てて、そのとおりに進めるというやり方でストレスを回避しようとしてきた。工業技術がそれを可能にしたわけです。
ところがITの技術は、それを根底から逆のほうに回してしまった。つまり先がわからず、予定どおりにいかなくなってしまった。一気に歯車が逆回りしだした時に、5年後、10年後の具体的なキャリアゴールを立てて、それに固執して向かっていくのは工場生産の発想ですと、私は言い続けています。
口ではVUCAとかITなんちゃらとか、AIとかと言っておきながら、産業化社会のパラダイムにあまりにも縛られている。物事の本質がわかっていないんじゃないですかと。じゃあどうすればいいのかと言うと、狩猟採集に戻れとは言いませんが、主体性と柔軟性の組み合わせを基本的なスタイルにしないとだめなんだろうなと考えています。
ーー一番幸福を感じられる「柔軟で主体的な人」を目指すということですね。本日はどうもありがとうございました。
高橋:ありがとうございました。
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