2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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森まどか氏(以下、森):それでは、柏の葉イノベーションフェス本日最後のプログラム、クロストーク4を開始いたします。司会を務めます、森まどかと申します。どうぞよろしくお願いいたします。
柏の葉イノベーションフェスは、千葉県柏市柏の葉にある柏の葉スマートシティを舞台に行われる、オープンイノベーションフォーラムです。2021年は「READY FOR FUSION?」をテーマに掲げています。
人種やジェンダーによる差別、医療格差や貧富の差が顕在し、世界中の国や地域、社会のさまざまな場所で日常的に人と人とが分断されている今、イノベーションとテクノロジーで分断を乗り越え、希望に満ちた未来を創造する手がかりとして、多くのゲストとともに「FUSION」、つまり融合への道筋を探るトークイベントを実施していければと思います。
さて、本日最後のトークイベント、クロストーク4のテーマは「FUSION of real and digital 挑戦を生む、クリエイティブな働き方と場」です。2年におよぶコロナ禍によって働く環境が一変し、対面でのコミュニケーションチャンスが減り、出会いそのものの機会が奪われる中で、新しいビジネスを生み出していくことが難しくなっているとも言われています。
そして新しいビジネスや産業の創造は、少子高齢化で国力の低下が懸念される今、社会全体の課題ともなっていると言えます。
クロストーク4では、新しいビジネスイノベーションを起こしていくうえで必要なスキルや働き方について、またリアルとデジタルがミックスされた新しいビジネス創造の原動力となる、情報や出会いを生み出す環境のあり方について探ってまいります。
今回の「FUSION of real and digital 挑戦を生む、クリエイティブな働き方と場」というテーマについては、お二人に語っていただこうと思います。お一人目は、食べるスープの専門店、スープストックトーキョーを始めとする数々の事業を展開し、一昨年にはアーティスト支援プラットフォーム「ArtSticker」を立ち上げられ、自らもアーティストとして活躍される遠山正道さん。
そしてもう一方は、日本を代表する建築設計会社で建築のデザインやコンサルティング、ブランディングを手がける一方、モデルまで多岐に渡って活躍されているサリー楓さんです。それではあらためて、お一方ずつご紹介させていただきます。
まず、遠山さんです。遠山さんは「自分のやりたいことをやるのが自分のビジネスの処世術である」とお話しになるなど、既成概念に囚われず、生活の新しい形を提案してこられました。また「21世紀は文化や価値、個人の時代」ともおっしゃり、アートの文脈をビジネスに適用した試みを実践されていらっしゃいます。遠山さん、今日はよろしくお願いいたします。
遠山正道氏(以下、遠山):よろしくお願いします。
森:続いて、サリーさんをご紹介させていただきます。サリーさんは「トランスとは越境することであり、建築も同様」と話し、固定概念に縛られた建築のあり方をブレイクスルーするトランスバウンダリー、つまり「越境」する建築デザインや空間、環境設計に取り組んでいらっしゃいます。サリーさん、今日はよろしくお願いいたします。
サリー楓氏(以下、サリー):よろしくお願いします。
森:ご紹介でおわかりの通り、ビジネスと建築デザインと分野は異なってはいますが、既成概念に囚われずに、常に可能性を探索し続けているという共通点があるのではないかと思います。
クロストーク4ではそんなお2人に、ビジネスパーソン同士の出会いやコミュニケーションが停滞・分断を余儀なくされている状況をブレイクスルーし、創造的な融合を果たすための取り組み方や、新しいイノベーションを創造するための方策について、私たちの常識や思い込みを覆す視点から一石を投じるディスカッションをしていただければと思っております。
ご覧いただいているみなさん、ぜひ最後までお付き合いいただければと思います。
森:それではさっそく始めていきたいと思いますので、あらためまして遠山さん、サリー楓さん、よろしくお願いいたします。
遠山・サリー:よろしくお願いします。
森:初めに簡単にお二方のご経歴や現在のお仕事の内容、また今はどういったことにご興味をお持ちでいらっしゃるかなどについて、おうかがいしたいと思います。まずは遠山さんから、自己紹介を兼ねてお願いいたします。
遠山:大学を出て三菱商事に入ったんですが、33歳の時に絵の個展をやって。それで、自分で作って世の中に提案することに味をしめて、起業してスープストックトーキョーを作りました。そして(今は)スマイルズという会社をやっています。
スマイルズという会社で芸術祭に作品を出したりとか、今はThe Chain Museumという会社で「ArtSticker」というアートのプラットフォーム事業、「新種のimmigrations」というコミュニティをやったりしています。
森:常に新しいことに挑戦し続けているイメージがあるんですが、事業をいろいろとやられる傍ら、ご自身もアーティストとしてアートにも造詣が深くていらっしゃるんですね。
遠山:そうですね。アートとビジネスはすごく似てるなぁと思ってまして。最初は「こんな世界を作りたいよな」という、コンテクストや思いがあって。アートだとわりと1人でできあがることがあるんですが、ビジネスも「こんなシーンを実現させたい」というのが最初にあります。
でもビジネスは1人じゃできなくて、周りを巻き込んでいくのにいろいろ言語化したり、見える化しながらチームでやっていく。だから、最初のスタートはすごく似ているなぁと思うんですね。
でも、ビジネスやマーケティングが悪いわけじゃないんですが、市場に耳を傾けてばっかりなものがすごく多くなっちゃっているので。アーティストって、マーケティングをして絵を描かないじゃないですか。お客さんに「どんな絵を描いたら良いですかね?」って、アンケートを取って描く人はいないので。
だから、最初の取っかかりの「誰が何を作るの?」というところがやっぱりおもしろいので、ビジネスもそこを忘れないように。それが最初にないと、ビジネスって大変ですから。うまくいかない時に立ち戻る根っこがないと、続いていかないよねって思っています。そういう意味でも、アートとビジネスの最初のスタート地点はすごく似てるなと思っているんですね。
森:「自分の思いを描いて形にしていく」という共通点ですかね。
遠山:そういうことですね。
森:ありがとうございます。それではサリーさん、お願いいたします。
サリー:サリー楓と申します。日建設計という、設計を行っている会社で建築のデザインやコンサルティングをやっています。私の活動は、やや複雑な予見を解きながら建物を提案したりだとか。
それから「アクティビティデザイン」と呼んでいるんですが、建物を建てるだけじゃなくて、建物の中で人々のどういう過ごし方や振る舞い方があるか、建物とセットで理想的な過ごし方を提案させていただいています。
また、私自身がトランスジェンダーでLGBTの当事者ですので、私のドキュメンタリーを映画にしていたんですが、そういったもので発信したり。あとは講演でLGBTに関する発信を行うことで、新しい世代にジェンダーフリーやダイバーシティのバトンを渡していきたいなと考えています。
森:ありがとうございます。人々の過ごし方を考えて設計するというお話がありましたが、逆に言えば、建物や環境によって人々の過ごし方やイマジネーションも変わってくるんですかね?
サリー:そうですね。建物とアクティビティって、一対のものではないので。例えば、「図書館ってどういう場所ですか?」と聞くと、多くの人は「本を読む場所です」と言うんですが、本を読んでる人に「どこで本を読みますか?」って聞くと、ほとんどが「電車の中やカフェで読みます」「仕事の合間にご飯を食べながら読みます」だったり。「図書館」って言う人が、そんなにいなかったりするんですね。
そうであるならば、本を読むための場所を作ることは、必ずしも図書館を作ることではない。そういった疑問から始まって、活動させていただいています。
森:なるほど。今日のテーマが「クリエイティブな働き方と場」なので、いろんなアイデアを生んでいく場がどういう場なのか、それをサポートする都市がどういうふうにあるべきかなど、また詳しくうかがっていけたらと思います。よろしくお願いいたします。
森:それではこれからは、具体的にテーマに沿って進めてまいりたいと思います。まずは遠山さんにおうかがいしますが、新型コロナウイルスの感染の広がりで、働く環境は一変したと言えるかと思います。リアルなビジネスミーティングができなかったり、出会いの機会もかなり減ってきた中で、「新しいビジネスを生み出すことが難しくなってきた」という声も一部では聞かれています。
こうしたコロナ禍による働き方の変化や影響を、遠山さんご自身はどのように捉えていらっしゃるか、お聞かせいただけますか?
遠山:働き方で言うと、実際にこの2年は私もほとんどリモートでして。現時点でも会社は2週間に1回、ちょっと寄るくらいなんですね。
コロナになって最初の頃に、Zoomの朝礼で社員みんなに「自分の人生はちゃんと自分でちっちゃく設計してね」「会社に依存しないでね」と言ったんです。そんなの当たり前なんですが、自分の人生は自分が主役ですから。会社が何かできるわけじゃないんですが、そういうことをすごく気付かせてくれた時期でした。
コロナ前は私も「全部が仕事」みたいに、仕事にかまけて、いろいろ家族のこともおろそかにしながら進めてきてしまったんだけれども、いざ家で(仕事を)やっていると、当たり前に自分の人生や幸せがあって。「部分」として仕事や会社や家族があったり、いろいろあるねと。
だから、仕事で全部をひっくるめて済ましちゃってるわけにはいかないというか、幸せは幸せで、ちゃんと自分で考えなきゃいけないなと思ってるんですね。会社に依存しない、というか。
今はサブの「副業」じゃなくて、「複業」もすごく良いと思っていて。いろんな社会関係資本を持っていたほうが良くて、軸になる会社があって、複業がいくつかあって、私だったらコミュニティや家族や健康やセカンドハウスとか、いろんなものがあって。
その中で、いろいろな社会関係資本を掛け算しながら、一人ひとりが価値を広げて魅力的になって、その集合体である「会社」というチームとしてさらにユニークになっていこうと。ある種リアリティとして、そういうことを一人ひとりが感じられる時期になったんじゃないかな。
なので、個人性や自立はそうありたいなと前から思っているんですが、一人ひとりがもっと切実にやっていかないと、どっかに頼っている場合じゃないなと感じさせられた時期だと思います。
あと、大きな変化の時だと思うんですね。我々も、今までビジネスをやってきたことをすごく大きく変換したりとか。「この部分はやめて、次はこっちへ行ってみよう」ということがしやすくなった。
コロナの言い訳じゃないけれども、動きが止まっちゃった時に「このままもう一回やるんだっけ?」じゃなくて、ビジネスにおいてもピボットがやりやすい時期ですね。だから、人の暮らし方や場もある種のピボットというか、どんどん複数・多様に掛け算していったほうが良いんじゃないか、トライしていけば良いんじゃないかなと、むしろ前向きな感じがしています。
森:従来の働き方や考え方ですと、1つの会社があってそこに就職して、会社があって仕事があるから、出勤して自分は働いているという意識だったのかなと感じているんですが。
今のお話だと、コロナによって何が起こるかわからない中で、結果的に頼りになるのは自分。自分が何をやりたいか、主体的に仕事を捉えて働いていく。それについては、いろんな選択肢を自分で持つことが、より重要になってきたという感じですかね?
遠山:そうですね。私はサラリーマンの時期も長かったんですが、サラリーマンって楽というか。「朝9時に行く」とか、仕事や命令が放っといても降ってくるので。何も考えなくても、1日中、1年中やることだらけで済んじゃうんです。
コロナになって家に居てみると、自分で主体的に選択したり動いたりしていかないといけないので。「自由ほど大変なことはない」という、『自由からの逃走』という有名な本が、昔ありましたが。今まで管理されていたのがいかに楽だったのかも分かっちゃったので、どうやって自分たち一人ひとりが「管理されない状態」を泳ぎきっていくかですよね。
森:逆に言えば、人と人が出会う場がなくなったり、話し合う場所としてのミーティングがオンラインになったことで、雑談がなかなかしにくくなった。そんな中で、ビジネスの創造やアイデアを生み出すのにマイナスに働いたと感じることは、そんなになかったんですか?
遠山:もちろん、マイナスの面もたくさんあるんでしょうけれども、あんまりそこを意識しても先に進まないので。オンラインだからこそできるミーティングもあるじゃないですか。
あるいはビジネスでも、アート・バーゼル香港はリアルよりも(オンラインでの)来場者が増えて、売上もリアルより多かったんだっけな。そういう、より良い面もあるわけですし、そっちをいろいろと探っていったほうが良いんじゃないかなと思います。
森:そうすると、ポストコロナでどういった働き方が求められてくるのか、どういう人が求められてくるのか、ビジネスシーンではどういったニーズになってくるとお考えになりますか?
遠山:これからの人はA・B・Cがあって、お声がかかる人か、自ら仕掛ける人か、そのどちらでもない人。「どちらでもない」はダメなんですが、今までは「お声がかかる人」で良かった。それはこれからも重要で、上司やお客様からの覚えが良くて大いにけっこうなんですけれども。
でも、今は世の中がフラットになってしまった。組織で守られない時に、100歳まで仕事をする中でずっとお声がかかり続けるのは相当難しくて。だから、ちっちゃくても良いから自分から仕掛けて、まだ自分の生活や仕事がそれなりに盤石にあるうちに、自分から生み出していくようなトライをどんどん試行しておいたほうが良いと思うんですね。
アーティストって上司がいないから、「あれやりなさい」とか、言ってくれないので。常に自分で次なるテーマや関心ごとを発掘していかなきゃいけない。
自ら仕掛けることを、意識的にトライする人。ひいてはそれが、会社にとってユニークな良いチームの力になっていく。ハンドルとアクセルと燃料を自分でくべて、自走できる人が求められると思いますね。
森:小さなやりたいことや、小さなアイデアをどんどん自分で出して実現できていける人が、これからのビジネスシーンで求められてくるということですかね。
遠山:そうですね、映画みたいな感じです。映画を1本撮るのに、映画監督、主演の人、スタイリストとか、いろんな人がいて。チームを組んで映画を撮ったら解散して、今度は時代劇を撮ろうとか、そういうふうになってくると思うんですね。
そういう時に、常に主役でお声がかかるなんてなかなかないので。今はたまたま映画って言いましたけど、YouTubeとかいろんな世界がある中で、「自分だったらこういう場で、こういうことを仕掛けていこう」と。降ってきた話と自分からハッチしてやるのは、似ているようでずいぶん違うと思うんですよね。
森:能動的に、ということですよね。ありがとうございます。
森:サリーさん、今の遠山さんのお話をお聞きいただきながら、どのような感想を持たれましたか?
サリー:コロナを通して、私も働き方の変化を身を持って感じているんですけれども。コロナになる以前からオフィスのコンサルティングもしていて、「ワークライフバランスを整えましょう」ということが言われていたと思うんですよ。
その時の価値観って、今思うと「ワーク=会社」で「ライフ=家」。ワークライフバランスとは、要するに「会社で過ごす時間と、家で過ごす時間のバランスを取りましょう」という話だった。冒頭で遠山さんが言われたように、私も家で仕事をすることがほとんどになってきているんですよね。
そうなるとワークライフバランスは、会社と家で過ごす時間を切り分けることじゃないので。家で過ごす時間を、どう仕事と趣味と自分のインプットに当てられるかが重要になってくるのかなと思っていて。
コロナになってから私の会社でもほぼ在宅勤務になって、今は半年に1回とかしか会社に行ってないんです。会社でも勤怠管理があって、「何時まで仕事をしてました」と入力するんですが、勤怠管理はそろそろ有効じゃない時代になってきているなと最近感じていて。
勤怠管理って、「勤めている時間」と「怠けている時間」を分類するわけじゃないですか。でも、怠けてるんだけどインプットになってるとか、自分の趣味の時間だけど仕事につながっているとか、「勤」でもあり「怠」でもある、オーバーラップする時間が増えてきているので。勤怠管理の二分律が成り立たなくなってきているという、最近の問題意識を思い出しましたね。
そうなると、ただ怠けて寝てるとかじゃなくて、自分では怠けているつもりだけれど「楽しい」と思うことだけをやっている状態。私はジェンダーに非常に関心があるので、その問題に取り組んでいる時はやりがいがあるんですよ。それは私の勤怠管理で言う「怠」の部分なんです。
そこからのインプットで、「こういうビジネスがあるんじゃないか」とか。例えば最近だと、トイレって設計がすごく古いなと思い始めていて。ジェンダーという観点から言うと、もっとできることがいっぱいあるのになと思って、プロジェクトを始めてみたり。
そういうふうに、実は仕事をしていないワークライフバランスの「ライフ」の部分、勤怠管理で言う「怠」の部分を自分の核として、仕事が始まる。それが自分の興味に沿っていることなので、上から降ってくる命令よりも主体的に取り組める。
これからどんどん、みんなが自分の興味や問題意識を起点に仕事を始める状況になっていくんじゃないかなと思っていて。私は会社に所属していますが、「1人1企業」というか、これまで会社に使われる人間だった立場から、どっちかと言うと会社という場を使い倒す。
「そういえば、この会社の看板があれば大きい仕事を取れる」「資金調達しやすい」「ステークホルダーを集めやすい」とか。そういうふうにして、自分の会社を使い倒す個人の選択していく力が、これからどんどん試されていくんじゃないかなと感じながら聞いていました。
森:会社と個人がより対等な関係になってくる、ということですよね。
サリー:はい。
森:そうすると、先ほど遠山さんもおっしゃっていた、アイデアと企画が重要になってくるんですが。会社に限らず、趣味活動だったり、例えば家でぼーっと何もせずにいる時に生まれてくるアイデアこそが、次のビジネスや次のプロジェクトにつながっていくんでしょうかね。
サリー:そうですね。やっぱりみんな、趣味や問題意識や自分が熱心になれることを持っていて。これまでは、それがビジネスとしては成立しなかったから「趣味」として片付けて、会社では仕方なく金のために働くみたいな。
「楽しいけれど儲からないこと」と「儲かるけど楽しくないこと」の二分律だったのが、どんどん融解していって、趣味の中でビジネスになれるものを探していかないといけない時代になっていくんじゃないかなと思います。
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