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労働市場の大変革時代〜働き方のグレートリセットの未来〜(全3記事)

10年前より「紙幣は6倍」刷られているのに、平均給与は横ばい 広がり続ける貧富の格差にある、正社員システムの限界

新型コロナウイルスの流行によって、労働市場は大変革期を迎えています。新たな働き方の広がりや、企業と個人の関係性の変化、それぞれに求められる役割はどのように変わっていくのか、グレートリセットされた働き方の行方を議論します。本記事では、昨今話題になっているシェアリングエコノミーの概念について、歴史的な背景と照らし合わせながら解説しています。

リモートワークで急速に知名度を上げたZoom

吉田浩一郎氏(以下、吉田):じゃあ続きまして、Zoomの佐賀さん、お願いします。

佐賀文宣氏(以下、佐賀):こんにちは、Zoomの佐賀でございます。Zoomはビデオコミュニケーションのサービスをご提供していますが、本社はアメリカの西海岸のサンノゼというところにございまして、今は世界で約6,000名の社員で運営をしている会社です。設立して今年で10年になり、2019年の4月にNASDAQに上場しております。日本のオフィスも、今はもう130名の体制で、日本のお客さまをご支援させていただいております。

それではここから労働市場の変革ということで、お話を続けさせていただきます。今までも、ビデオコミュニケーションのツールってけっこうあったよねと。20年以上前からあったんだけれども、2年前は全く名前も聞いたことがなかったようなZoomが、こんなに圧倒的に急に使われるようになったのかと。

「他のビデオコミュニケーションのツールと何が違うんですか」というご質問をいただくことがよくあるんですが、不思議に思っている方がたくさんいらっしゃるんだなと思うのですけれども。

よくお客さまに「Zoomは圧倒的につながりやすくて切れづらい」「基本性能が優れているよね」と、おっしゃっていただくことが多いんですが、一番の理由はそこかなと思います。後発ならではのグランドデザインの違いだと思いますけれども。

会議だけではなく、チームビルディングにも使用できるZoom

佐賀:今までのように、ネットワーク環境を改善することで基本性能を担保しようとするだけではなくて、Zoomの場合は「インターネットは遅延が発生するものだ」ということを前提にして、ソフトウェアのレイヤーでもリカバーをして、映像が自然に伝わるような技術をたくさん使っていたり。

それからサーバー側だけじゃなくて、最近性能がどんどん上がっている端末側のパワーをうまく使うことで、つながりやすくて切れづらいということをご提供していると。そういったサービスでございます。こういったツールを使って、この2年間「以前はできなかった在宅勤務ができて、本当によかったよ」とおっしゃっていただくことも多いです。

今まで(Zoomの使用は)会議へ参加をするだけだったんですが、それだけではなくて商談やチームビルディングも。「会社に行かなくても、本気になればほとんどの業務がリモートでできるようになって、働き方が本当に大きく変わりました」とおっしゃっていただくことも多いんです。

ただ、例えば経団連のレポートで発表しているような「9割の企業が在宅勤務やテレワークを導入しました」「11都道府県で65パーセントの出勤者の削減ができました」と言っているのは、日本人全体で見れば、本当に一部のオフィスワーカーに限られていたという現実があると思うんですよね。

リモートワークで犠牲になっている、エッセンシャルワーカーの存在

佐賀:いわゆるエッセンシャルワーカーを中心にして、日本人の大多数である現場で働く方々は、どんなに危険な状況になっても職場に出勤し続けなければいけなかった。誤解を恐れずに申し上げると、そういった方々の犠牲があって、初めてオフィスワーカーはリモートワークを実現できていたという、今までの現実があると思うんですよね。

ある日突然、すべての仕事がリモートワークに置き換えられるとはまったく思っていませんが、こういった仕事の10パーセントでも20パーセントでも、リモートコミュニケーションのテクノロジーをご提供して使うことができれば、日本全体の生産性・安全性は飛躍的に向上するんじゃないかなと思います。

これは、ビデオコミュニケーションを会議の置き換えのためだけに提案してきた業界全体の問題ですし、私自身大きく反省をして、考え方を変えた1年半でした。

そこで私どもは、つながりやすくて切れづらいという、先ほど申し上げた特徴を活かして、通信環境の悪い場所でも、さまざまな現場でご利用いただくご提案を積極的に進めております。教育や医療のリモート診断だけではなく、地方自治体と包括連携協定を結ばせていただいて、市民サービスや保健・福祉、観光でもご利用いただいていたり。

今は金融の窓口でご利用いただいていたり、ドローンやスマホと組み合わせて農業や工場などでの利用にも広がっていますし、こういった現場でのリモートコミュニケーションの普及が、これからの労働市場に大きく影響を与えるだろうと考えています。

ビジネス活用と一般消費者向けを両立したZoom

佐賀:Zoomのもう1つの大きな特徴は、ビジネスでも、それから学校や一般消費者の方も、圧倒的に使われる共通のプラットフォームになっていることだと思います。今までもこういったツールはありましたが、ビジネスの世界だけで使われるツールと、教育や個人の間だけで普及しているツールが分かれていて、共通のプラットフォームはあまりなかったんですよね。

Zoomが初めてそれぞれの要件を満たして、圧倒的に多くの方にお使いいただけるようになった、共通のプラットフォームになれたと思います。このことはすごく重要で、企業や団体がその先の一般消費者に向けてリモートでサービスを提供しようとした時に、この共通のプラットフォームが必要とされていたということだと思うんですよね。

ですから、これからのリモートコミュニケーションはオフィスワーカーだけのものではなく、本当に必要としている方はもっともっと他にいらっしゃって。日本中の現場の仕事を変えていかなければならないし、企業や団体がその先の一般消費者向けにサービスを提供して、今まであった壁を壊すことで暮らしが便利になって、日本全体の労働力がもっと柔軟になっていくんじゃないかなと考えています。

「テクノロジーが人に寄り添うようにデザインすること」が重要

佐賀:企業で、しかもオフィスワーカーやオフィスだけで利用されている場合のセキュリティの考え方に加えて、その先の一般消費者とつなぐとなると、不特定多数の方が利用することになりますので、今まで以上のセキュリティの配慮が必要になります。それに先ほど申し上げたような現場では、キーボードを使わなくても利用者が認証できるような工夫も必要になってまいります。

FISCやISMAPとか、そういったセキュリティ標準に準拠するのは当たり前のことなんですが、悪意のある参加者をコントロールしたり、排除したり。それから、接続できるサーバーの国を制御したり、参加者がどの国からは入っていいけれども、どの国からは入れないという制御をする。

そういった必要がありますし、音声やスクリーンショットは、コピーされることを前提にして(スライドの)右下のような透かし機能で、どの参加者からコピーされたかが追跡できる、そういった必要性も出てまいります。こういったセキュリティの問題にも対応する必要があるのかなと思います。

ただ、こういうテクノロジーを使いこなすためのデジタル人材を確保するとか、育成をするという議論がよくありますけれども。人がテクノロジーを使いこなそうと奮闘するのではなくて、テクノロジーが人に寄り添うようにデザインすることで、もっと多くの世代や生活形態の方が柔軟に働くことができるようになる。そういったことも、私どもは重要だと考えておりまして。

そうすることで、地方人材や障害者雇用とか、それから育児・介護をしながらの柔軟な働き方、労働意欲のある方が広く活躍できるようになると考えています。以上です。

吉田:ありがとうございます。

ビジネス向けとコンシューマー向け、両方を成しえた理由とは

吉田:佐賀さんに1つご質問したいのは、おっしゃるように2つ目の特徴の「ビジネス・コンシューマー共通でのプラットフォーム」。確かにLINEを仕事で使うとなると、なかなかだなという中で、なんでZoomは両方を成しえちゃったんですかね?(笑)。その経緯や理由というか、どういうポイントがウケたのか。

佐賀:かなりチャレンジがありまして。まず、使いやすさを追求していたので、比較的一般消費者の方の利用は早く人気が出たんですけれども。やはり、企業でのセキュリティの守り方というのと、IT(管理者)のいない個人の方のセキュリティの守り方はまったく別物で。それを製品の中に入れるというチャレンジを、去年はかなりやったんですね。

吉田:へー!

佐賀:そこが大きなチャレンジでした。

吉田:そういう意味で、商用利用の際の問題点、さっきのセキュリティの件とかがかなりクリアされているので、企業での導入がきちんと進んだと。

佐賀:そのとおりですね。

吉田:なるほど、ありがとうございます。すごく勉強になります。じゃあ、続いて私から。そういう意味では、「働き方」と言われると、だいたいお声がかかるようになっているクラウドワークスですが。Zoomさんと一緒で10年目になるクラウドワークスから、10年の中でどう労働市場を見ているかというお話を、私からできればと思っています。

現代社会の日本は「国・企業・個人」が一体になっている

吉田:我々は今、450万人のクラウドワーカーと74万社のクライアントが、本当に小さい仕事だと、1,000円から上は100万円や200万円といったものをオンラインでダイレクトに個人と企業がやり取りをしている。そんなプラットフォームになります。

ギグワークって、今はいろいろ問題点とかも指摘されていますが、これは正社員のシステムのアップデートだと考えています。正社員が整備されたのは、戦後1945年をスタートとする中で76年培ったシステムを、派遣法が35年前にアップデートしようとして、月貸(Rental)みたいなかたちの人材に。

ギグワーク(Pay per use)やオンデマンドで人材が使えるというのを、ここ10年やっている。なので、正社員のどういった背景があるかをまとめてみてます。

言わずもがなですが、日本は個人が大学を出たら企業に所属をして、「みんな大学に行ってください。大学を出たら企業に所属してください。そうしたら源泉徴収で税金が収められるので、個人に社会保障が提供されます」という、国・企業・個人が一体になったシステムとなっているわけですね。

これはもう、歴史をすべてサマライズするとこの1ページになるんですが。実は明治維新以前は、転職・住所を移動することはできなかったんですね。受け入れ側と出す側の両方がOKしないと、そもそも引っ越しができない。なので、農地保護が急速に重要視されていたわけです。

「戦争を前提とした時代」に作られた働き方が、未だに主流

吉田:それに対して明治維新は、今度は「全員を自由に動かそう」「都市部を活性化させよう」と言って、転職率100パーセントになっていた時代もあるんですね。

そういう中から明治5年に、学制発布ということで。国体主義に基づいた尊王攘夷、当時は藩ごとに分かれてバラバラだった意見を、欧米列強に対抗するために、国体主義で天皇を中心としてやろうというかたちで。そこの思想が色濃く小学校教育に反映されているので、軍隊のような教育が前提になっていると。

そこから戦争に行くにしたがって、富国強兵を背景に、政府主導の職域保険に移動していきました。実は、戦争の徴兵を体系的にやるために、社会保障制度は整備されていったという背景がございます。

太平洋戦争の真っ只中で、戦争に行く人と兵器を製造する人を確保しないといけないので、国や厚労省が一律で新卒の賃金を決めるんですね。年1回の定期昇給もその時に定まっています。退職金も支給するから、「この会社に所属しろ」ということを国が推奨するという、賃金制度の統一もこのタイミングで行われています。

なので、今のこの働き方のシステムは、実は戦争を前提とした時代に作られたシステムなんですね。なので、当時の計画的に国が設計をして計画的に発展をする時代から、21世紀は全体経済が縮小されており、働き方を自分で選ばないといけない。企業があらゆることを保証するシステムではなくなってきているということですね。

シェアエコ概念は、実は古くから存在していた

吉田:所有というので、我々はオンデマンドでいろんなものを提供するシェアエコ(シェアリングエコノミー)という業界にいますが、シェアエコってじゃあいつから? そんなに新しいものなのか? ということでいくと、実は所有という歴史も産業革命や資本主義と密接に関わっていて。

1780年の私有財産制、あるいは1810年の産業革命で、1人1個物を持つことが許されて。1人1個物を持つことによって消費を増やして、経済を活性化させるシステムで、200年ぐらいのものなんですね。それ以前は、公共財で人が暮らすのは至極当たり前だった。つまりシェアエコが新しいのではなく、所有が一時的な概念だった可能性があると思っています。

現在は産業革命以降、貨幣経済になってどうなっているかというと、日本のマネタリーベースという、お金がどれぐらい刷られたかという指標が、今はだいたい10年で6倍になっているんですね。日本円って(10年前よりも)6倍刷られていて、流通があるということです。だから、物の値段は6倍になっていないとおかしいんですね。

そういう中で、右側の平均給与は10年で横ばいになっている。残り5倍の刷られたお金はどこに行っているかというのは、基本的には投資家に回っているんですね。産業革命以降、これ(スライド)は右が時間軸で、縦軸が所得の差になるんですけれども。1810年以降で、貧富の差はもう拡大の一途をたどっているわけですね。

なので、「労働者が生産した製品の対価は資本家の所有である」という構造がある限り、基本的にはこういう構造をずっと進むということです。1パーセントが持つ富の合計は、69億人が持つ富の合計の2倍以上になっていると。トーマス・ピケティも、「労働に人的資本を投下する限り、基本的には全体資本の成長より必ず劣後する」ということを言っているわけです。

旧来の「正社員システム」が行き詰まりを迎えている

吉田:なので、ギグワークは社会全体が最適化する意味で、現在の正社員システムでは補えないシステムを自律的に開発し、自分で発展していってるのかなと私は認識していて。別にクラウドワークスがやったからギグワークが発展しているわけではなくて、正社員システムがそもそも今、行き詰まりを迎えていると。

10年間給与がまったく向上していないけど、貨幣は6倍の量になっている。正社員は専業を強いられているというかたちですね。これに対して、クラウドワークスを始めとするギグワークは、非常にアクセスが容易な就業機会を提供している。キャリアを取り戻すことができるので、社会の必然にもなっているのかなと思っています。

夫の病気で働かないといけなくなった奥さまが、がんばってライティングのお仕事で年収800万円にできたりとか。あるいは、65歳になった今、本当に幸せを感じているというシニアの方がいらっしゃったり。特別なスキルはなかったけど、踏み出してみてよかったという方とか、そんな方がいるわけです。

あと、副業のお話で、衝撃的な資料だけお見せしたいなと思うんですが。うちに登録している「クラウドリンクス」という副業の登録一覧があるんですが、これがけっこうすごいことになっていて。

実はもう、ソニー、凸版印刷、ウォルト・ディズニー・ジャパン、富士通、キヤノン、JT(日本たばこ産業株式会社)といった日本の大企業の方々が、軒並み実名で副業の登録をされているんですね。そういった意味では、日本社会って想像以上に急速に変化しているなと感じます。そういった方々が、ベンチャーの仕事とか、普通に正社員をしながら手伝う時代になってきているんですね。この方々は当然、会社にはOKを取っています。ただ、2パターンあって。

「会社のOKを取っているけど、名前はオフィシャルには出さないでね」というのと、「オフィシャルに出してもいいよ」という、2種類の方がいらっしゃいます。

副業人材ということで、トヨタ自動車、ソニー、NTT、伊藤忠商事、資生堂、こういった日本の名だたる企業が軒並み副業で登録をしている。そんなかたちで、正社員システムだけでは補えない働き方を、ギグワークや副業が急速にカバーをしている状況なのかなと思っています。

ということで、私から「クラウドワークスから見える『労働市場の変革』」というところをお話しさせていただきました。

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