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【新しいわたしの見つけ方】生き方は自分の心の声を聞いて決める 塩谷歩波 x 小林味愛(全3記事)

塩谷歩波氏が語る、離職した仕事に戻る魅力 体を壊して辞めた設計の仕事を再開して気づいたこと

東京・立川を拠点に起業に関連したさまざまなイベントを開催しているStartup Hub Tokyo TAMA。本記事では、スタハTAMAの起業コンシェルジュの小林味愛氏が、『情熱大陸』でもフィーチャーされた絵描きの塩谷歩波氏をゲストに迎えて行われた登壇イベントの様子をお届けします。再び生まれた塩谷氏の設計への関心や、本当にやりたいことを前にした時の人間の行動など、続々と届く視聴者からの質問に答えています。

銭湯に詳しくない人も楽しめる『銭湯図解』

小林味愛氏(以下、小林):いっぱいご質問をいただいています。ありがとうございます。ちょっと読み上げますね。「出版社さんから注目されたのはなぜだと思いますか? 単純に絵ですか? それとも視点? それとも他の要素ですか?」。

塩谷歩波氏(以下、塩谷):うーん。まず1つは話題性だったんじゃないかなと思うんですよね。実際にお話をいただいた時って、Twitterでけっこう伸びている時期だったので。やってることがおもしろい。かつ、設計事務所から銭湯に転職したというストーリーもおもしろいというのもあると思うんですよね。

あとは、絵かなぁ。出版社さんの視点じゃないとわからないんですけど。1つはそのストーリーとかも強いんじゃないかなと思いますよ。

小林:うん。あと、やっぱり絵が大きいですよね。私も、そんなに銭湯利用者じゃなかったけど、読んでいておもしろい。

塩谷:ありがたいです! 

小林:さっき話されていましたけど、確かに、あんまり銭湯に詳しくないと全体像がわからないし、銭湯の造りがいろいろあることもわからなかったりもするからすごく楽しい。

塩谷:ありがとうございます。

小林:一般的なマニアじゃないけど。

塩谷:でも、そう感じてもらえるように絵を描いているので、一番うれしいですね。

小林:それを描けるとはすごい。じゃあ次。「TwitterなどのSNSで、同業の方とつながったり、交流会をされたりしているんでしょうか」。

塩谷:いやぁ、何かしたいんですけど、今コロナとかもあってできないという感じで。逆に私は設計事務所から(銭湯の)番頭になって、そこから絵描きになったという異色すぎる経歴なので、同業とか友だちがいないんですよね。

小林:(笑)。

塩谷:同業の友だち、めっちゃ欲しいです! 

小林:なるほどね~! 

塩谷:本当に悲しいぐらい友だちがいないです(笑)。

体を壊して辞めたけど、再び生まれた設計への関心

小林:ありがとうございます。次が「元設計事務所勤務、現在専業主婦です。もともと自分は何が好きだったかがわからなくなり、新しい業種に目を向けられず、建築業界に再就職するか悩んでいます。塩谷さんはやっぱり設計がしたいと思う時はありますか?」。

塩谷:あー、なるほど。私はしばらく設計がぜんぜんしたくなかったんですよ。というのも、設計事務所にいて体を壊しちゃった時って、後悔みたいな葛藤がすごくあって。設計をやりながら、私はいったい何の建築を作りたいんだろうと思い始めたらわかんなくなっちゃったんですね。

特に作りたい建築がなくって。たぶんただ建築が好きで、見るのが好きだったけど、自分が作りたいというビジョンがぜんぜんなかったんですね。そう思った時にまた葛藤が出て、体調を壊しちゃったので。

私は、設計で自分が何をしたいのかがわからなくなって絵描きに移ったので、しばらく「設計したい」という気持ちを持てなかったんですよね。

むしろ設計事務所にいた時も、学生時代もそんなに成績がいいわけではなかったから、業界に対して、ものすごくコンプレックスがあって。だから、なんか距離をとろうと思ってたんですけど、最近設計の依頼をもらいまして。

小林:へー! 

塩谷:サウナの設計を今やってるんですよ。最初は監修みたいな感じで進めていたんですけど、いつのまにか今図面も描いてるし模型も作ってて。

小林:そうなんだ。

塩谷:そうなんです。やってたら「めっちゃ楽しいじゃん」って思ってきて。だから距離が離れたほうが、そのものを好きになるというのはあるなと思って(笑)。

小林:わかる。

塩谷:ありますよね。

小林:それある。なんか私、もともと性格はこんな感じなんですけど。こんな自分でも、何か世の中の役に立てたらなというテンションで公務員になったんですね。

距離を置くことで、自分がいた場所の良さが見えることもある

小林:明確な夢はなかったけど、社会から不必要とされることが怖かった。社会に出たことがなかったから、ちょっとでも役に立てるような仕事がしたいなという、漠然とした心の声から公務員になったんですね。

だけど、いろいろ思うことがあって。現場から遠かったので近いところに行こうと思って、民間企業に転職したり。でも東京の大企業に転職したので、どうしても地域との関係が「お金の切れ目が縁の切れ目」になっちゃう。そういう仕事のやり方が、自分の倫理的にちょっと許せなくて、10円はげができちゃうんですけど(笑)。

塩谷:(笑)。

小林:それであまり大きなことはできなくなるかもしれないけど、1個の組織の中じゃなく、自分で会社を立ち上げて自分でできることをやっていこうと思って起業したんですね。

もちろん、起業してプロダクトやサービスを作ったり、いろいろやっています。とはいえ、昔から何となく社会の役に立つことがやりたいと思っていたから、プロダクトを販売するだけじゃなくて。

結果として、公務員がやるような仕組み作りや、地方の女性たちがもっと医療にアクセスしやすくなるような取り組みとかもやっています。何か違うかたちで戻ってくることはいっぱいあるんだろうなと感じています。

塩谷:本当にそうだと思います。

小林:ねぇ、一瞬だけ宅急便取っていい? 

塩谷:(笑)。

小林:すみません。でも、本当にそうなんですね。

塩谷:そうですね。距離が離れたり、違う目線に立った時に、改めて「自分がいた場所って、こんなにすてきだったんだ」とか、「自分がやっていたものってこういうかたちがあったんだ」と見える瞬間はけっこうあると思うんですね。

質問いただいた方は、今は専業主婦ということだったと思うんですけれども。専業主婦になられてから、設計の時の自分ってどうだったのかなと思い返してみるのもすごくすてきだなと思いますし。

再就職というのは、すごくいいと思うんですよね。いったん離れた上で、また戻ってきた時に見えるものはちょっと違うんじゃないかなと思いますね。

あとは、いったんぜんぜん違うことをやってみる。その上で、また設計に戻るのもちょっとおもしろいかもしれない。私は設計を1回離れたから、もう戻っちゃだめとはぜんぜん思っていなくって。また戻った時に、より楽しいことが起きるようになれたらいいなと思いますね。

気持ちの乗らない作業は、やりたい仕事の合間に挟んで切り抜ける

小林:本当にそう。昔の日本だと、一生涯この会社に自分を捧げるぐらいの終身雇用の文化が強いから、1回辞めたら戻れないかもとなることが多いけど。戻れるし、やめられるし、また何か新しいことがやりたいと思ったら、それもやっていける。そういうふうに思えると、気持ちも楽になりますよね。

塩谷:うん、そうだと思います。答えになったかな? 

小林:ありがとうございます。じゃあ次。「いつもすてきな小林さんのファシリテーションに元気をいただきながら拝聴しております」、本当にありがとうございます。

「お話を聞きながら、『好きだから』という言葉が響いています。仕事に対して義務であったりマストになって、思考が止まったりされることはないでしょうか。私自身がそういったことが多くあり、その沼にはまってしまうと抜けるのに時間がかかることがあり、お聞きしてみたいです」ということです。

塩谷:マストに感じられるところは、私はマネージャーに任せていますね。やらなきゃいけない、例えば事務作業とか、いろんな細かな連絡だとか。それをすると確かに手が止まります。だから、自分がやらないという手段を取りました。それはそれでありかなと思っていて。クリエイターって、手が動かない瞬間が生まれちゃうと良くないんですね。

やっぱり気持ちを乗せた状態でないと進まないし、作業になっちゃうから。義務になっちゃう部分は全部切り離したほうがよっぽど効率がいいと戦略的に考えて、そういう決断をしました。

でも、会社員時代には義務もあるな、そういう仕事もあるなというのはめっちゃわかるので、言っていることはすごくよくわかります。その時にやっていたのは、やりたい仕事の合間に義務を挟むという感じですかね。サンドイッチにして、これが終わったらこれをやれるから、というふうにして毎回やってます。

小林:いや、そうですよね。私も独立してから、それこそ請求書とか絶対やらなきゃいけないことって、いっぱいあるじゃないですか。そういうものは、得意な人にやってもらうというコントロールができるようになったけど。

サラリーマンの時にどうしてたかなって思うと、確かに義務、マストでやらないといけなくって、「くぅ~、これやるのか……」ってなることはやっぱりあって。とはいえ、やりたくないという思いがけっこうあったから、だいたい2パターンの行動をとっていました。

事務作業をめぐる、高圧的な上司のかわし方

小林:1個目が「本当にやる必要があるのか?」という問いかけをする。

塩谷:あ~(笑)。

小林:「本当に!?」って。

塩谷:それ、やる必要がなかったらどうなっちゃうんですか? 

小林:あ、いらないよねっていう。「本当に必要でしょうか」というところを、聞くようにはしていました。誰かが問わないと結局、それが「本当に必要かどうか」を考えるきっかけってないと思うんですよね。

本当に必要だったらやらなきゃいけないんだけど、本当に必要かどうか疑問に思う義務ってあるじゃないですか。

塩谷:あぁ~、正しいですね。

小林:それはなぜか? というところは、問いかけるようにはしてましたね。

塩谷:うん、確かに。

小林:じゃないと心がもたない。とにかく心を無にしてやるのが、本当にきつい。

塩谷:たぶん、これが答えです(笑)。今、答えが見えました。

小林:あとは、例えば上司とかが、その問いかけ自体をするなというような超高圧的な場合もあるじゃないですか。

塩谷:あるある。

小林:その場合は、正面から突破することはできなくて、問いかけがあまり効かないこともあるので、しれっと「これは上司がやることだ」ということにしておくという。

塩谷:(笑)。

小林:しれっと、「ここへ記載お願いします」とか、当然かのごとくメール送るみたいな。「ここやったんで、ここお願いします」みたいな。

塩谷:なるほど、すてきなかわし方です。そのあたりはうまくかわせてなかったから(笑)。バッチリいいですね。

本当にやりたいことを前にしたら、迷うことなく体が動く

小林:ありがとうございます。あと、「やりたいこと、本当は仕事にしたいことがあるのですが、芽が出ない可能性が高くても、業務の経験がなくてもやっていくべきか悩んでいます」と。

塩谷:本当にやりたいことだったら、やっちゃうと思うんですよね。そこはいったん、自分でちょっと考えたほうがいいかもしれない。それって、もしかしたらやりたいことじゃない可能性もあると思うんですよね。

小林:なるほど、確かにね。

塩谷:本当にめちゃくちゃやりたくてしょうがない場合って、けっこう体が動く可能性が高くて。でも、もしかしたら、「やったほうがいい」と誰かに言われているか、世間的なものを見て「やったほうがいいんじゃないか」と自分で思っていることもあると思うんですよ。そこかなって気がします。

小林:ありがとうございます。あと「絵描き以外のことに目を向けるために、やってみて楽しかったことなどはありますか」と。

塩谷:文章かなぁ。私、中高時代、実は文芸部だったんですよ。表現することが好きだったけど、絵を描くのは自信がないという時に、文章をいっぱい書いていたんですね。その時は絵だと思い入れがあまりに強すぎて、自分よりうまい人がいた時に木っ端微塵にされて、だいぶメンタルに傷を負うことがあったんですけど。

文章は好きだけれども、絵ほどの思い入れがあるわけではなかったので。私よりうまい人がいても、「うまいよね。そりゃそうだ」という感じでいられたから、気が楽で。でも、それでも書くのが好きだったから続けていったら、今は文章も武器になっているので、やってよかったなってすごく思います。

小林:ありがとうございます。

塩谷:私にとってコンプレックスにも近いものが、絵に対する気持ちがあまりに強すぎるので、もう1個そういうものをやったということはよかったかなという。

小林:なるほどね。ありがとうございます。もうあっという間にあと5分切っちゃったんですけど。

塩谷:え、はやっ。

時間とお金の面で、自立したことで減った不安感

小林:最後にちょっと聞いてみたいことがあります。幼い頃から絵に対する思いがあって、その夢を今選んで生きてらっしゃると思うんですけど。絵描きになるという道を選んでからまだ短いかもしれないですけど、何か変化とかありましたか? 

それは体調面も心理面もそうだし、出会う人もそうだし。変化があったら教えてほしいです。

塩谷:ものすごくありますね。

小林:そうなの? 

塩谷:なんでしょう。今、家に引きこもってずっと絵を描いているんですけれども、全部が自分で決める時間なんですね。

今までみたいに会社員をやっていると、どうしても自分の時間を全部決められるわけじゃないじゃないですか。打ち合わせが入ったから、この日はこうだとか突然こういう連絡があったから、この日はこうやらなくちゃいけない。悪い言い方をすると、振り回されることがあると。

今は完璧に全部自分が決める時間なんですね。打ち合わせとかも、「この日だったらいいよ」と決められるし。例えば今日も、「絵の仕事するか。でも気分が乗らないから別に文章でいいや」という感じで。全部が自分で決められるのが初めての経験で、それがすごく心地いいんですね。

あとお金ですよね。独立して自分で全部稼ぐ。自分で全部税金を払う。自分でいろんな諸経費も払うと、今は自分は一人で生きているなという感覚がすごくあるんですね。私はそれが心地よくて。税金をいっぱい払って「うわ、今月やべー」と思う時もあるんですけど、それがけっこううれしい。楽しい。

今までは自己肯定感がめちゃくちゃ低かったり、けっこう不安なことがあったんですけれども、逆に今は自分の足でしっかり立っているなという実感があって。そういう不安感が、すごくなくなったんですね。

なんだかお金の問題とかで今月やばいと思ったら、来月がんばればいいじゃんと思うし。自分の足で立っていることが自信につながっている感じがあって、毎日すごく楽しいですよ。

「自分の声を聞く」とは、「もう1人の私」から自分に問いかけること

小林:なるほどね。ありがとうございます。あっという間に時間になってしまったので、最後にぜひ、今日聞いてくださっているみなさまにメッセージをいただけたらうれしいです。

塩谷:そうですね。今回のタイトルにもある、「生き方は自分の心の声を聞いて決める」ということ。正直けっこう難しいと思うんですね。私も目の前のことが忙しすぎたり、未だにあんまりやれていなかったり。

あとは、絵を描いているのが楽しかったりしすぎると、例えばその時は絵を描くのが楽しい、すごくうれしい気持ちに包まれて、実は別の出来事に傷ついたことを忘れちゃうこともあったりするし。

実は絵も楽しいようで、うまく描けてないところでがっかりしている自分もいたりします。そういう声を全部すくいとることは、けっこう難しい。なので、自分の心の声を聞いてみようと言っても、みんながすぐにできるとは私も思わないです。

だけど、これもやっぱり訓練みたいなもので、ちょっと意識するだけでけっこう変わったりすることがあったんですね。

自分の声を聞くってどういうことなのかというと、「今どういうふうに感じているの?」とか、「どういう体調なの?」と、本当にもう1人の自分を立てて聞くようなことで。そういう時って、本当に何もしないでぼーっとするのが一番いいです。

小林:確かに。

塩谷:だから、もう携帯もそばに置かないで、手足を全部放り出して、1点をぼーっと見ながら、今何を感じている、今どう思っているということを真剣に考える。それだと思います。

最初はけっこう難しいと思うけど、1分だけ、寝る前の5分だけでもやってみると、ちょっと変わるかも。でも難しいと思うので、ゆっくりやっていきましょうという感じかなと思います。

小林:ありがとうございます。本当に一気にやるものじゃないけど、徐々に自分の心に意識を向ける瞬間を、ちょっとでもいいから作ってみる。それがぼーっとすることかもしれないし、ひょっとしたら環境を変えることかもしれないし。たぶん、人によっていろんな心の向き合い方があると思います。

今日は聞いてくださった方は、意識をちょっとずつ向けることを、ぜひやってみていただけるとうれしいなと思います。あっという間に時間が過ぎてしまいました。今日は本当にありがとうございました。

塩谷:ありがとうございます。

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