2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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塩谷歩波氏(以下、塩谷):よろしくお願いします。
小林味愛氏(以下、小林):よろしくお願いします。さっそく始めていきたいと思います。今日はお昼後にお集まりいただきまして、ありがとうございます。最初に私から簡単に自己紹介をさせていただいて、そのあと塩谷さんにお話をいただければと思っています。
私自身は東京の立川市で生まれ育っておりまして、社会人になった時は国家公務員をやっていたんですね。そのあとに民間の会社に転職して、2017年に福島県国見町という、宮城県との県境にある人口約8,000人の小さな町で会社を立ち上げました。
農家さんの平均年齢がなんと69歳で、60代が超若手みたいな地域になります(笑)。そこで地域に埋もれていた資源を私たちの目線で発掘して、磨き上げて、お届けしていく。製品やサービスにしていく、さまざまな事業を展開しています。
例えば農産物。「規格外品」と呼ばれているような、ちょっと見た目が悪いものを全量買取して流通させたり、加工品の企画販売等、いろいろやっています。その中でさっきご紹介にもあった「明⽇ わたしは柿の⽊にのぼる」という、オーガニックのデリケートゾーンケアのブランドを立ち上げています。
私たちの地域は、この「あんぽ柿」という干し柿が特産品で、発祥の地でもあるんですね。柿を育てて、1個1個ピーラーみたいな機械でむいていくんですよ。それを干すのも全部手作業ですね。1ヶ月ぐらい経ってようやく、さっきのあんぽ柿ができあがるんですけど。なかなか地域の所得が上がらないこともあって、この未利用資源だった「柿の皮」の分析・研究を一緒に始めました。柿の皮から取り出した成分を使って、「明日 わたしは柿の木にのぼる」というブランドを立ち上げてます。
小林:なんでこういうデリケートゾーンのブランドを立ち上げているのかというと、今日のテーマにも通じるんですけど、心の声を聞いたというところがすごくあって。(私も)サラリーマン時代に10年近く、だいぶ無理をして(笑)。いかに男性と一緒に、男性として働くかみたいなことを意識して働いた20代だったんですね。
そんなことをやっていると、睡眠不足はもちろん、食事のバランス、ストレスとかいろんなものが、自分が知らないうちに溜まっていて。体調を崩したり、デリケートゾーンに不調が出たり、さまざまなトラブルを経験してきました。
デリケートゾーンはいろんな菌が住んでいるんですけど、ストレスや睡眠のバランスを欠くことで、菌のバランスも崩れるんですね。そうするとさまざまなトラブルに結びつくという、女性にとってはある意味特権。自分が本当に不調になる前に、自分の状態に気づけるところだと思っています。1日10秒でもいいので、ちゃんと自分の心と体と向き合う時間を大切にしていきたい。そんな提案をしたいと思って、このブランドを3年かけて立ち上げました。
なので、私たちのブランドはこんな感じで、ポエムみたいなコンセプトになっています。「わたしは柿の木にのぼる」という言葉で、女性が自分自身で人生を選んでいくという意思を込めています。
「明日」というのは、「今だ」「今だ」とずっと言われて、もちろん今やれるのがいいのかもしれないけど。やっぱりまだまだ社会から、仕事だけじゃなくて家のことや子育てもなんとなく女性がメインの役割だという風潮があって。
その中で、本当にいろんな女性ががんばり過ぎていて、心身ともに体調が崩れていくことを、私自身も経験してきたし、いろんなところで話を聞きます。それで、私たちはあえて「明日でも大丈夫だよ」とお伝えしたくて、こんなブランド名にしています。
こんな感じでいろいろ、デリケートゾーンのケアの普及をしたりとか。あと女性の体に寄り添うだけじゃなくて、いかにこの製品でサステナブルに、農家さんの所得につながるか。そんなところを日々追求しながら、会社を経営しています。Instagramで最新の情報とか、ヘルスケアや地域のことなど、いろんな情報を発信しているので、よかったらあとでご覧になってみてください。
というところで、さっそく塩谷さんにバトンタッチをしたいと思います。ぜひ自己紹介からよろしくお願いします。
塩谷:はい。じゃあ自己紹介を、簡単にさせていただきます。改めまして、絵描きの塩谷歩波と申します。もともと私は、高円寺の銭湯・小杉湯で番頭として働いていました。その前は設計事務所で設計士としても働いていたので、今は設計事務所の時の建築の知識を活かして、かつ銭湯の絵を描き始めて。そこから絵のお仕事をいただいたりしていくうちに、絵描きとして独立した感じですね。
過去には『情熱大陸』とか『人生デザイン U-29』などのドキュメンタリーにも取り上げられたりしつつ、今はエッセイを書いたり、いろんな活動をしています。メディア実績は、こんな感じでいろいろ出ています、という感じなのと(笑)。
あとこの「建築図解」が、私の描く絵の中で一番軸になっているものです。先ほど言ったようにもともと設計出身でして、これは「アイソメトリック」(等角投影図)という描き方なんですね。簡単に言うと、屋根を取り外して斜め上から建物の中を見下ろすような描き方です。
銭湯の絵をいっぱい描いていく中で、最近だと図書館や、「sio」というレストラン、あと茶室とかギャラリーとか。そうやって幅を広げながら、いろんなものを描いています。
この絵の描き方はなかなか特殊でして。最初に全部建物の長さを測ります。これ、本当に自分で実際に手を動かしています。そこからそのデータをもとに下書きを描きます。下書きはアナログで描いているんですけれども。それからペン入れ。もともと下書きはコピー紙に描いているんですけれども、それを水彩紙に描き写すという作業です。一番最後に色付けをして完了、という感じで。
このサウナ室の絵だとだいたい2週間ぐらいでできたんですけれども、浴室だけだと1週間。建物全部だと1ヶ月、1ヶ月半、2ヶ月、みたいな感じですね。こういう描き方をしています。
この図解の描き方は『銭湯図解』という本が有名になってから、いろいろ幅を広げてきたんですけれども。これが中央公論新社から出ている『銭湯図解』ですね。こういった感じで、いろんな銭湯を図解する絵ですね。
塩谷:ストーリーとしては、私が設計事務所で設計士として働いている時に、1回体調を崩してしまいまして。その時に銭湯に出会って、すごく体調が良くなったと。それで、銭湯にどハマリしていくうちに、銭湯の良さをいろんな人に伝えたいなと思って、何となしに描いたのがこの銭湯図解という描き方だったんですね。
これをネットに上げたらいろんな人の目について、何枚も描くうちにいろんなところで話題になって、2019年には書籍化しました。その様子は『情熱大陸』とかでも取り上げられています。
銭湯図解がきっかけとなって広まった「図解」という描き方をやりつつ、ほかにもいろんなお仕事をしておりまして。例えば、デジタルでかわいく挿絵を描くお仕事もありますし、図解のようなあったかい絵も描いています。
エッセイも書いたりしています。エッセイは現在『40℃のぬるま湯につかって』というものを月2本、連載しています。あとこのポートフォリオに書ききれなかったんですけれども、講演のお仕事なんかもしています。ちょっと前には法政大学での講義もさせていただきました。大まかに、私の自己紹介はこんな感じですかね。
小林:ありがとうございます。聞いてくださっているみなさんもぜひお気軽に、何か聞きたいことがあったら、このQ&Aに質問を投げかけてみてください。私のほうでピックアップをさせていただきます。
さっそくいろいろ聞いてみたいんですけど。私たちが初めて会ったのが、(塩谷さんが)まだ小杉湯にいらっしゃる頃で。私たちのプロダクトを小杉湯で販売いただいたりとか、女風呂ならではの取り組みをしたいという塩谷さんの思いもあって、お風呂場に女性の体にまつわるPOPを作っていただいたりとか。出会いは、そんな取り組みからでしたよね。
塩谷:そうですね。それが、去年の春先とかだったような気がするんですけれども。私がまだ小杉湯の番頭として働いていた時で。番頭ってお風呂のお掃除とか受付だけではなくて、イベントの企画とか運営もやるんですけれども。その中で小林さんとお会いして、小林さんの活動をいろいろうかがううちに、すごくすてきだなと思って。
小林:ありがとうございます(笑)。
塩谷:いえいえ。「自分の心と体に耳を傾ける」というお話も、私も1回休職したことがあるのですごくよくわかるし。あと私も婦人病を1つ持っているので、女性の体のことを考えるのは、早いうちにどんどんやってたほうがいいという危機意識もあったので。その取り組みはすごく協力したいなと思いましたし。
塩谷:あと銭湯のいいところって、女性と男性、体の違いで部屋が分かれていることだと思うんですね。例えば自分の体のこと、女性ならではの体のことって、例えば男性も女性もいるような百貨店とかで見るのは恥ずかしいという方もいるかもしれない。
でも、女湯だったら女性しかいないから、時間をかけてゆっくり見られるんじゃないかなって。そういう場所にピッタリなんじゃないかなと思って、一緒にやっていきましょう、って話だったんですよね。
小林:めちゃめちゃ楽しくやらせていただきまして、ありがとうございます。
塩谷:いやいや、こちらこそです。
小林:今日の本題に入っていきたいんですけど、そんな出会いだったので、このタイミングで独立されるということにけっこう驚いて。
塩谷:(笑)。
小林:幼い頃から絵描きを夢見ていたという記事もあったし。幼い頃からどんな感覚とか思いとか夢を持っていらっしゃって、このタイミングでどうしてその道を選ばれたのかをお話しいただけるとうれしいです。
塩谷:ありがとうございます。絵描きになりたいというのは、実はすごくちっちゃい時から思っていたんですよ。ちっちゃい頃に、両親にいろんな美術館に連れられて行くのがすごく好きで。特に、ダリとかゴヤとかレンブラントみたいな濃い絵がめちゃくちゃ好きで(笑)。その場から動けなくなってずっと見てしまうような。とにかく絵を見るのがすごく好きだった。
小学校くらいの頃って、女の子同士で4コマを描いてリレー形式で回す、みたいなことをやっていたんですけど(笑)。ありませんでした?
小林:あー、あった!(笑)。
塩谷:私それ、めちゃくちゃ好きで。四角いメモ帳をリレーして、端っこを帯状につなげていったら、これぐらい分厚い束ができてしまって(笑)。未だに家にあるんですよ。
小林:へぇー、すごい。
塩谷:それぐらい、やっぱり描くことがすごく好きだったんですけど。中学とか高校になって、美大系の学校を見てみたら、私なんかよりめちゃくちゃうまい人ばっかりなんですよね。
小林:なるほどね。
塩谷:それで、心が折れたというか。たぶんプロとして手を出すにはムリな世界、才能がないとムリだと思って、その夢を夢にする前に沈めちゃったんですよね。
塩谷:でも、やっぱり絵が好きだという気持ちがあったから、建築の道に行こうと決めた時に考えたのが「建築家としていろいろやりつつ、ある程度生計を立てられるようになったら、趣味として絵の仕事をしようか」とか思ってて(笑)。今思うと本当、浅はかだなと思うんですけど……(笑)。
塩谷:そんな感じで、絵描きにはなりたいけど、夢にはしなかったんですよね。でも設計事務所で体調を壊して、銭湯図解を描き始めたら、いつの間にか人気に火がついて。そこから銭湯に転職して、メディアに取り上げられていったので。
「絵が描きたい」「絵描きになりたい」という夢はあったけれども、それを実現させようとは思っていなかった。でも、いろんなご縁とかきっかけとか、周りのいい方たちに恵まれて、気づいたら絵を描く人になっていたんですね(笑)。
銭湯で働いてる時は、まだ「絵描きとして生きる」という決断はやりににくくて。働き始めの時とかは特に、ぜんぜん自信がなかったから。でもそれが『情熱大陸』に取り上げられたり、Twitterのフォロワーも増えたりとか。あと本がどんどん売れるようになったりしていくうちに、「私の絵って実は価値があるし、プロとしてやっていけるのではないか」と、ちょっと思っていたんですね。
でも踏ん切りがつかなくて……。「絵を描く人としてやっていきたいけどなぁ」「でも小杉湯で拾ってもらった恩はあるしなぁ」という気持ちの葛藤が、今年の初めぐらいはすごく強かったんですね。
私が「絵を描ける」という今の状況に来られたのって、やっぱり小杉湯の平松(佑介)さんが見つけてくれたところがあるから。それを思うと、突然辞めて自分のことをやるのって恩知らずなんじゃないかな、とか思ってたんですよね。でもやっぱり描きたくて(笑)。……って思ったら、今年の2月にまた体調を壊しちゃったんですよ。
うつだったのか何だったのかよくわかんないんですけれども。朝起きたら体が重いと感じたり、会議中に突然泣き出すこともあったり。これは良くないと思って、3ヶ月休みながら、病院行ったりとか、あとは海見に行ったりとか(笑)。そういう感じでとにかく、すごくぼーっとしていたんですね。
そんな時期でも、やっぱり絵は描いていたんですよ。絵を描いている時だけはすごく正直な気持ちになれたと思ったし、その時、図解のお仕事もやってたんですけれども、ぜんぜんつらくないんですよね。
こういう時間を過ごしてみても、絵を描くことが自分にとってすごく大事なものだから。体を壊してしまったこともあるし、この機会に自分のもとからあった夢は、ちゃんと追いかけるべきだと思って。それで独立したんですね。
小林:なるほどねぇ。
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