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コロナ時代急激に注目を集める組織のウェルビーイング(全3記事)

優秀な学生ほど陥りやすい「ローラーコースター人生」 選択肢は多くても、目標が見つからない若者の共通点

コロナ禍によるつながりの希薄化で、より重要性が高まっている社会や組織のウェルビーイング(幸福な状態)。そんな中、グロービス主催の「コロナ時代急激に注目を集める組織のウェルビーイング」のセッションに、幅広い見識を持つ各業界の代表4名が登壇。職員満足度が向上した三重県の取り組みや仏教視点のウェルビーイングなど、政治から宗教まで幅広い観点でウェルビーイングを語っています。

組織も地域も、身近なところにウェルビーイングの答えがある

矢野和男氏(以下、矢野):それでは鈴木知事。ウェルビーイングという視点から見て、このコロナを含めた変化の時代に、先ほどの調査結果の深掘りも含めて、組織や経営、あるいは県民に向けて今後何をどう変えていくことが必要だとお考えですか。

鈴木英敬氏(以下、鈴木):ありがとうございます。実は松永(貴志)さんにはうちの妻が出演している報道番組の曲も作ってもらったみたいで、ありがとうございました。

(一同笑)

実はうち「幸福実感日本一の三重」と言っているんですが、僕が知事になった時に最初に書いた「みえ県民力ビジョン」の中で、ほかと比較して日本一じゃなくて「自分たちの県は幸福実感度が日本一だと胸を張れるような、そんな三重県に」と、掲げているんです。(松山)大耕さんが言ってくれたことがもうどストライクだったので、本当によかったなと思ってます。

うちの調査結果をちょっと深掘りして申し上げますと、県民のみなさんの幸福度が一番高かったのが、伊勢神宮で神宮式年遷宮があって、過去最高の1,400万人の人が来た平成25年度でした。要は三重県の魅力がめちゃくちゃ発信されて、ふだん当たり前のようにしている自分たちの当たり前が、いろんな人たちに認識をされた。あるいは自分たちも改めて認識をしたのが、過去最高の(10点満点中)6.75点。

今回コロナの中の令和2年度が6.74点なんですけど、特徴は30代の人の幸福度が一番高いんです。次に有配偶、結婚されている方。あるいは一世代世帯、あとは女性の幸福度が高い。

実はもう1個コロナのアンケートもその中でしていて「家族と自宅で食事をする機会が増えた」という答えが一番多いのも30代なんですよ。それから「三重県で自然体験をする機会が増えた」と答えたのも30代が一番多い。で、「県内を観光する機会が増えた」という答えが一番多いのが20代で、30代が2番目に多いんです。

つまりさっきの神宮式年遷宮は、自分たちの魅力が発信されたことに伴って、自分たちの当たり前にいいところがいっぱいあると気づくことができた。今回のコロナの場合は、行動が制約される中で家族や自分たちの地域の自然などに魅力を感じられた、と。

そういう意味では組織のウェルビーイングも地域のウェルビーイングも、身近なところに答えはあるんだと思います。小難しい理屈をこねくり回すんじゃなくて、身近なところにウェルビーイングがある。組織も地域も同じじゃないかなと思います。

三重県の職員満足度を高めた「ワークライフマネジメント」

鈴木:あと一言だけ。職員の​満足度調査​も一番になった年が、G7伊勢志摩サミットの準備をしている年だったんですね。で、コロナで大変だった令和2年度は、そんな中でも総勤務時間がそんなに増えなかったとか、あるいは仕事や配置に対する納得感が高まるマネジメントをやったということですね。

なので忙しさというよりは、そういう中にあっても身近なところでのやりがいとか、配置に対する納得感などを感じられるようにしていくのがウェルビーイング。だから「ウェルビーイングは身近に答えがある」ということではないかと思いますね。

矢野:確かにそうですね。身近って、まさに我々の生活の中にいろいろあるし。ポジティブサイコロジーにもずいぶん実験があるんですけど、ほんのちょっとしたことで人間の評価とか、満足度・幸せ度はけっこう変わるんです。例えば、「1週間にいっぺん、今週よかったことを3つ書いてね」ということをたった5回やっただけで、幸せ度も行動もものすごく変わるという結果が出てますので。

だから我々はどんなことを経験したとしても、どこにアテンションを向けて見るかで「昨日は最悪な日だった」と思うこともあれば、「たくさんいいこともあったね」と思うこともある。いろいろな見方ができるってことなのかなと思いました。

これが具体的に、例えば三重県の職員はこういうやり方をしているとか、こういうことを心掛けてきたとか、もう少し踏み込んだ話はありますか。

鈴木:うちは平成26年度からかな。ワークライフバランスじゃなくて、「ワークライフマネジメント」という言い方をしていて。つまり、ワークをめちゃくちゃがんばりたい時もあるってことです。僕も通産省で働いている時がそうでした。一方でライフを、うちは子どもが2人いてめちゃくちゃかわいいんですけども、その時間を大事にしたい時もある。

それを毎日五分五分でやるのもいいけど、その人の人生のそれぞれの時に、自分で「今はライフが大事」「今はワークが大事」と判断するようなマネジメントの手法を入れたんです。

毎年、期首と期央に所属長が職員と面談をしますけど、面談で使うマネジメントシートに、仕事のことだけじゃなくて「ライフの充実」という1ページがあるんです。そこに自分たちのライフで思うことを書く。そうしていると「小っちゃい子がいるんだな」とか、「介護で大変なお母さんがいらっしゃるんだな」というのがわかる。それが、いざという時の所属長のマネジメントに活きてくるんですよね。

そのワークライフマネジメントを平成26年度からやり始め、2年後に職員満足度が高くなって、そして今回、過去2番目の満足度になった。ライフのところは、プライバシーとかがちょっと難しいかもしれないですけど、そういうところを共有できるような仕組みを入れているのが1つの工夫ですかね。

視点を変えると、幸福は自分に近づいてくる

矢野:ありがとうございます。ちなみに、これ興味本位なんですけど、松永さんのところもある種の組織として、やっぱり若いお弟子さんとかがいっぱいいたりするんですか?

松永貴志氏(以下、松永):いや、僕自身は教えたりとかは基本的にやっていないので。やっぱり人と比べないことがウェルビーイングにつながっていくと思うんですけど、その中でも僕自身は、幸福になろうと努力した人のところに、幸福はやってくるんじゃないかなと思ったりします。

コロナの中で職場の環境が変わり、行動も制限されている中で、どうすれば幸せを見つけられるか、という発想ができた人は、どんな環境でも「幸福ってなんだろうな」と考えられるのかなと思ったりするので。

今までだったら出社の時にバーッと歩いてた道も、よく見たらタンポポが咲いてたとか。そういうことって子どもの頃だったら気がついたんですけど、今はどこにタンポポが咲いているかまったくわからない。でもそのタンポポ自身も見てもらえたらたぶんうれしいですし、こっちも見つけて何か幸せな気持ちになれるんですね。

松山さんはふだんお庭とかやっているからたぶんおわかりでしょうけど、そういうふうに、ちょっと違う視点で見ていく努力をすることで、幸福は自分のところに近づいてくるんじゃないかなという気がするんです。そこはすごく大事なところなのかなと思いますね。

ネガティブな時は、どうしてもネガティブになってしまう。でもアイデアって、ネガティブな時に出ることもすごく多いと思うんです。高さを自分で上下できる椅子を開発した人だって、たぶん最初「この椅子座りにくいな」と思って「じゃあ自分で調節したらいいんだ」という、ネガティブな目線で見つけて、アイデアで商品化したってことだと思うので。

ネガティブ自体は決して悪いことではないと思うので、その中で自分がどう幸福を見つけられるかが、すごく大事なんじゃないかなと思いました。

善悪の二元で見ず、「1つのものとして見る」のが仏教

矢野:なるほど。どうなんでしょう、松山さん。そういう意味で言うと、仏教にネガティブ・ポジティブという概念はそもそもあるんですか?

松山大耕氏(以下、松山):ネガティブ・ポジティブという、二元的なものの見方をやめましょうというのが仏教ですね。例えば光が当たると影ができる。でも光と影って分離不能ですよね。コインの裏表。なのでそれを良いか悪いかとか、黒か白かという見方じゃなくて、1つのものとして見ていくのが仏教的な見方ですね。

矢野:それと、先ほどの「身近なものをとらえていく」というのは、何か関係してくるんですかね。

松山:おっしゃるように、小さなもの・身近なものに幸せを見出すのがウェルビーイングの1つのすごく重要な視点だと思うんですよ。例えば先日、私の知り合いの娘さんが東大に入ったと。で、東大に入っても授業は体育しかやってないと。あとは全部オンラインだと(笑)。何していいかわからん、みたいな。高校時代のほうが、むしろ「受験」という目標があってよかった、と。

同じような話を、日本人の子で今ハーバードの2年生かな。ついこの間うちに来て、いろいろ話を聞いてたんですが、その彼が「今、ハーバードの就職先の一番がコンサルティング会社である」と。なぜかというと、コンサル会社は3ヶ月に1回プロジェクトにかかるから、その中で自分の目標ややりたいことが見つかるんじゃないかという理由で選ぶやつが相当いる、と。

つまり自分のやるべきことが見つからない。「選択肢が多い」ことと「本当にやるべきことを見つけられるか」というのは、まったく違うわけですよね。さっき松永さんがタンポポの話をされましたけど、最近の子たちを見て思うのは、みんなすごくゴール・オリエンテッド(目的志向)な感覚が多くて。

目標を見つけて、それにいかに効率的に早く到達するか。そればっかりやっているんですね。それはある意味エキサイティングなんですよ。でも、さっきの仏教的な裏側で言うと、エキサイティングであることは常に不安なんですよね。お金が儲かるとかゴールを達成する、それはすごくエキサイティングですよ。でもそれは常に不安との裏合わせというか、いわゆる「ローラーコースター人生」と私は呼んでるんですけど、すごく浮き沈みがある。

「500年間ひたすらメンテナンス」の充足感

松山:私のところの庭なんかもう500年経っているんですけど、ゴールがないんですよね(笑)。500年間、ひたすらメンテですよ。でもそこにやるべきことがあるんですよ。そういうところに身を処していくと、なんとも表現できない幸福感というか、充足感があるんです。そういったところに、ウェルビーイングのヒントがあるんじゃないかと、個人的には思っております。

矢野:ウェルビーイングは状態じゃなくて、日々作り出しているものだとお聞きして思いましたけど、それと大きな目的や目標、ミッションやゴールという話と、先ほどのローラーコースター人生のようなものは、おそらく違うんでしょうね。そのへんはどうなんでしょう。

松山:よく「私は欲がなくなりません、どうしたらいいんですか」みたいなことを質問されますが、『理趣経』というお経の中に「大欲清浄句是菩薩位」というフレーズがあります。要は大きな欲というのは素晴らしくて菩薩ぐらいの価値がある、と。つまり「いい車に乗りたい」とか「ちょっといいものを食べたい」とか、そういう小さな欲ばかり追い求めているのは、やっぱり苦の根源であると。

でも本当に世の中を変えたいとか、苦しんでる人を助けたいとか、そういう大きな欲は本当に素晴らしいものだ、と。やっぱりそこには利他の心があるし、人のために尽くすというところですよね。そういう欲であれば私は問題はないと思うんですけどね。

矢野:「欲」と広い意味ではとらえられるものでも、求めているものとか種類が違うということですね。

松山:なんでもそうだと思うんですよ。例えば「節約する」と「ケチ」は違うじゃないですか。節約するというのは誰かのために使う、もしくはピンチの時に使うとか、次の世代のために使うわけで。ケチというのは結局、自分で独占するためにやっているわけでしょう。例えばそういうことですけど、同じように見えても違うことはけっこうあると思います。

矢野:そういう観点で見て、組織だったり、そういうものをこれからどう変えていったらいいかということについて、何かご意見はありますか。

松山:最近はESG経営(環境や社会、ガバナンスに積極的に取り組む経営)とかよく言われますけど、それって当たり前の話ですよね(笑)。今までがちょっとおかしいというか。めちゃくちゃ稼いでグローバル化して、みたいなのがもてはやされていたのが、むしろおかしかったのであって。本来的には、やっぱり昔ながらの組織のあり方にようやく価値が見出されてきたのかなという印象ですね。

生物として弱い人間が繁栄できるのは、協力できるから

矢野:ついでにちょっと、そういうものと仏教なり宗教なりはどういう役割だとお考えなんですか。

松山:人間って例えばほかの動物と比べてみても、チーターみたいに速く走れないし、ゾウみたいに大きくないし、皮膚も弱いし。単独でいたらむちゃくちゃ弱いと思うんですよ。でもこれだけ繁栄できているのはなぜかというと、協力できるからですよね。人のために働くことができないと、人間として存在できないようになっているわけです。

もちろん全部が利他だったら、社会は成立しないですよ。でも全部が利己でも成立しない。今までがあまりにも個人の能力とか利己的なところにフォーカスされていたわけですけれども。それをせめて半々ぐらいにもっていきましょう、やっぱり人のために尽くそうと。人のためだし、地球のためだし、みんなのためってことですけど。そうしないとやっぱり存在できないよという、人間の存在そのものを問われているようなことだと思うんですよね。

矢野:ありがとうございます。今のようなことって、鈴木さん、何かコメントありますか。

鈴木:先ほどチャットを見ていたら、どなたかが僕の話の時に「ダニエル・キムの『関係の質』を思い出す」と書かれていたんです。実は僕、毎年80人くらいの新任所属長……課長級に初めてなる人たちに、研修で1時間しゃべるんですけど、毎回ダニエル・キムの「関係の質」の話をするんです。それに気づいていただいて、大変ありがたかったなと思うんですけど。

今の大耕さんの話の続きでいけば、僕らは幸福度調査を毎年1万人を対象に10年間やっていて、回答率がだいたい55パーセントぐらいなんで、5~6万人のぶんのデータがあります。今はうちの職員と大学の先生とでクロス分析とかしているんですけど、このデータをAIとかで貯めていって、それを政策にどう結びつけるかですね。

例えばこの10年間で一番実感値が上がったのが「教育」と「医療」と「防災」なんですね。これは僕らが一番力を入れてきたことなので、一定合っているものの、さらに分析をより科学的に深めるようなことをやっていければいいなと思っています。

僕らは行政なんで、政策にして県民のみなさんに還元しないといけないので。分析して満足しているだけでは意味がなく、それを政策に還元する手法をもっと高度化していかないといけないと思いますね。

矢野:わかりました。

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