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人前に出る勇気と恥のかき方 ~笹川友里×中川諒~(全4記事)

番組ADからアナウンサーという“異例のキャリア”を手放し、起業 元TBSアナが語る「恥をかけるようになった」瞬間

失敗したり、かっこ悪い姿を見られたりした時に感じる「恥」。恥をかきたくないと思うと消極的な選択ばかりをしてしまい、なかなか新しいことに挑戦することができません。「恥」とうまく付き合っていくためには、どのようにすればいいのか。そこで今回は、『いくつになっても恥をかける人になる』発売記念イベントとして行われた、著者の中川諒氏とsetten笹川友里氏の対談の模様をお届けします。本記事では、「恥」の2つのタイプについて、笹川氏が番組ADからアナウンサーに転身するという異例のキャリアを経験する中で感じた「恥」について語られました。

番組ADからアナウンサーになり独立という、異例の経歴

中川諒氏(以下、中川):こんにちは。

笹川友里氏(以下、笹川):こんにちは。

中川:中川諒です。『いくつになっても恥をかける人になる』という本を、6月25日に発売しました。よろしくお願いします。

笹川氏:お願いします。

中川:今日は笹川友里さんをお迎えして、二人で「恥」の話をしようじゃないかということで。

笹川:しようじゃないか、ですね。先輩。

中川:はい(笑)。今日はなんで中川という男が笹川さんとお話しすることになったのかという経緯とかも含めてご紹介できればと思います。

まず「これまでの2人」ということで。笹川さんはTBS入社後、番組のADからアナウンサーになるというかなり異例な経歴をお持ちですよね。

笹川:珍しいといえば珍しいですよね(笑)。

中川:TBSを退社されて、setten株式会社を設立されて、今はモデルだけじゃなくて、ファッションだったりコスメの仕事もされているということですね。

笹川:はい。

中川:もともと実は、学生時代からの友人というか。

笹川:そうですね。初めて会ったのはたぶん大学1年、2年でしたよね。

中川:それぐらいからのお付き合いですね。

笹川:はい。

中川:ちょうど3~4ヶ月前くらいに久しぶりにお会いして、それこそ十数年ぶりに。

笹川:そうですよね。Instagramではつながっていましたね。

中川:メッセージのやり取りとかはしていて、「久しぶりにちょっとご飯でも行こうか」と言ってお茶した時に、「中川さん、実は私今日、会社を辞めてきたんです」と言われて。

(一同笑)

中川:十数年ぶりなのに、そんな大事な日に会っちゃって大丈夫? って。

笹川:ずっと会社と前向きに話し合いをしていて、私はかなり円満退社だったんです。みんなも辞めることを知っていたけど、たまたま退職届を人事に渡した直後に、ナカリョウさんとのお茶するタイミングだったんです。

中川:こんな大事な日に会っちゃって大丈夫だろうかという気持ちでした。

キャリアをもがいていく中で感じた「恥」

中川:その時にこれまでのキャリアとかこれからのこととか、いろいろな話をして、自分が書いている本の話とかも含めて1回どこかで話しができたらいいなと思って、今日お声がけをさせていただきました。

笹川:確か「本の文字数がはみ出にはみ出ているんだよ」という話をしましたよね。何万字でしたっけ?

中川:ちょっと思いが溢れすぎちゃって、11万字まで膨れて、それを「6万字まで絞りなさい」と言われました。

笹川:それでこの本になったと(笑)。

中川:ようやくかたちになりました。いつ終わるんだ、いつ終わるんだという感じでしたね。

そんな僕は何者なのかという話なんですけれども。2011年に電通に入社しました。クリエイティブ、いわゆるCMの制作とかをやりたいと思って入ったんですけど、なかなか配属されない7年間を過ごしまして。8年目でようやく社内の転局試験を受けまして、コピーライターになりました。その直後にGoogleに出向して、しばらく英語で仕事をしていた期間があります。

そうした「こうなりたい」と言ってキャリアをもがいていく中で感じた「恥」とか、それを乗り越えた時に、「ああ、やはり恥というのが一番自分の敵だったんだな」というのが、けっこう自分の中にあって。そこから「恥」についての本を書き始めるという経緯に至ります。

笹川:なるほど。1つ共通点として、職種転換しているというのは似ていますかね。先輩は7年間クリエイティブ職に行きたいという思いがあって、私はもともとADだったので、アナウンサーになりたいという思いは入社当時はなかったんです。

中川:そうだね。その経験によってどう「恥」が変わっていったとか、考え方が変わっていったとか、そんな話も聞きたいなと思っています。

笹川:ぜひお願いします。

「恥」の2つのタイプ

中川:さっそく、そもそも「恥」とはなんだろうということなんですけど。誰しも感じているけれども、恥の話って意外とそんなに語られていなかったなと思っていて。

『いくつになっても恥をかける人になる』という本の中でも、大きく2つに分けています。「外的恥」と「内的恥」と分類しているんですけど、「外的恥」が、いわゆる「恥ずかしい」と感じる時に思い浮かぶもの。

周りから見られたい「理想の自分」から外れた時に感じる恥で、例えば、頭のいい人だと思われたいから発言ができなくなっちゃったりとか、人前で何かをする時に感じる恥が「外的恥」です。

「内的恥」というのは、「自分はこうあるべきだよね」という自分に対しての「美学」から外れちゃったときの恥です。例えばアナウンサーの場合だったら、「こういうアナウンサーだったらこうあるべき」という美学から外れて、失敗しちゃったとかすごい噛んじゃったとか、そういう時に感じる恥です。

大きくこの2つに分けているんですけど、笹川さんって、外的恥と内的恥、タイプでいうとどっちなんだろう。

笹川:ちょっとごめんなさい。的外れかもしれないんですけど、まず1つ質問していいですか? レジで2つのカゴいっぱいに大量の食材を積めてレジに並んで、「お財布忘れた」という時の恥はどっちですか?

中川:それは外的恥タイプだね。

笹川:なるほど。じゃあ、街中でバタッと転んだ時の恥も?

中川:それも外的恥。

笹川:なるほど。それでいうと、たまたまどっちも最近したことなんです(笑)。

中川:(笑)。

笹川:どうでしょうね。直感では、意外と内的恥タイプかなと思ったんです。もちろん歩いていて転びたくはないし、お財布も忘れたくないなという部分では外交恥も感じるんですが(笑)。きっとみんなどっちもあるけど、どっちが強いかということですよね。

中川:そうだと思いますね。

7年間苦しめられた「理想の自分」という呪い

笹川:ナカリョウさんはどっちなんですか?

中川:僕は内的恥を感じるよりかは、外的恥を感じやすいタイプです。「理想の自分」のことを、僕はずっと「呪い」と呼んでいて。

笹川:呪い?

中川:コピーライターになりたいけどなれない。その「理想の自分」にずっと苦しめられてきた7年間だったから、もうちょっとその呪いから自分を開放してあげられたら、あの7年間はもうちょっと幸せだっただろうなって思う。

笹川:なるほど。それで言うとどうだろう。親がサラリーマンなんですけど、「人に迷惑はかけるな」とか「いい人であれ」とずっと親に言われて育ってきたので。

「今の私、性格悪かったな」とか「あの人にバレていないけど意地悪しちゃったな」と思った時に、けっこう恥じるタイプなので、バックボーンでいうと内的恥が強いのかもしれないなと思いました。

ただ、やっぱりよく見られたいし、人間どっちの恥も持っているんですよね。さっそく勉強になりました。

中川:内的恥を感じるタイプの人は、「自分の美学」が自分の行動指針になっているから、意外と周りの人の意見に左右されずに物事を決めやすかったり。

逆に外的恥タイプの人は、周りから見られることをデメリットに感じるんじゃなくてポジティブに感じることができて、周りの人の意見もちゃんと尊重できたり、周りの人の気持ちが考えられたりする。どっちにもいい面があるけど、もちろん悪い面もあるかなと思ってます。

笹川:恥の専門家みたいになってますよね。

中川:恥については、2~3年ずっと考えているから。

笹川:代表的なのはこの2つだけど、本の中では恥を6個に分類されてましたね。すごいおもしろかった。

番組ADからアナウンサーへキャリアチェンジした経緯

中川:さっきの外的恥・内的恥が、経験によって性質が変わってくるかなと思っていて。「経験で変わる『恥』」の話をしていきたいんですけど。

特に笹川さんのトピックスでいうと、番組のADからアナウンサーになるって、今まで聞いたことないキャリアチェンジですよね。

笹川:そうですね。ちょっとだけ説明すると、在京局(東京のテレビ局)とか在阪(大阪)とか名古屋とか、大きい局ってアナウンサーの採用口が違うんですよね。

アナウンサー職と総合職と技術職とに分かれている中で、私はアナウンサー職で何社か最終試験に落ちてしまって。「ということは、決定的に違う理由があったのだ」と自分の中で腑に落ちて。TBSがすごく居心地がよかったので、総合職で受け直したんですよね。

総合職は職種転換ってないんですよね。総合職で入ったら、基本的には退社まで総合職だったんですが、うっかりアナウンス部に異動という……(笑)。「する?」と言われたので、「じゃあ、いいですか?」みたいな感じでしたね。

中川:まったく違う仕事じゃないですか。関わっている番組とかスタッフは一緒かもしれないけど、役割が変わるから。特に人前に出る時に、「恥」とか「心持ち」とかが変わったのかなと思って、聞いてみたかったんだけど。

笹川:おもしろいのは、「王様のブランチ」という番組でADをしていて、その後アナウンス部に異動になって、3ヶ月間研修をして。今度はアナウンサーとして、3ヶ月後に笹川が「王様のブランチ」に戻ってくるんです。

ポジションが変わったことで感じた「恥」の変化

今までディレクターさんとか作家さんとかから、「笹川!」「これどうなってんだよ!」みたいな。テレビの現場ってそう言われるような現場じゃないですか。「はい、すいません!」とかってやっていたのに、アナウンサー笹川として帰ってきた時に......。

中川:それ、けっこう衝撃的な出来事だと思うんだよね(笑)。

笹川:急にいろんなディレクターさんから「あのさ、今まで『笹川』って言ってたけど、これからなんて呼ぶ?」みたいなことを言われて(笑)。

外側の自分的にはポジションが変わったんですけれども、内側の自分は変わらずにいたので、あまり恥の種類は変わらなかったかなという感じです。

ただ、ADの場合はミスをしても、「笹川がミスしたらしい」って伝わるのは直属の先輩と番組内の人たちだけ。でも、アナウンサーになったら放送に乗ってしまうので、「笹川アナ、めっちゃ噛むじゃん」とか、「笹川アナ、自分で言ったことを訂正している」とか。

それが局の信頼を損ねることにもつながっちゃうので、自分個人のミスであり、会社のミスになってしまうというところでは、なるべく恥をかきたくないという思いがすごく強くなりましたね。

中川:そうだよね。特にキャリアチェンジした時は、まったく知らないところに行ったほうが恥ってあまり感じないんじゃないかなと思っていて。

もともと知っている人がいると、前の自分を知られているからこそ、余計恥ずかしいみたいなところもあるじゃん。それもおもしろいよね。

自分の無知をさらけ出す「恥免疫」のすすめ

笹川:それこそナカリョウさんは3つ職種転換してらっしゃるから、営業には営業の恥があって、コピーライターさんというか、クリエイティブにはクリエイティブの恥があってって、3つの恥を味わったんですよね。

中川:そうだね(笑)。アナウンサーの場合は転職・転局はないという話だったけど、僕の会社に関しては、クリエイティブ試験というのが1、2年に1回ぐらいあって、それに受かれば異動できるんだけど。それが本当に、1人受かるか受からないかみたいなテストで。

それまでは「がんばっていれば誰かがいつか見つけてくれる」じゃないけど、そういう気持ちで仕事をしていて。でも、それだとなかなか誰も手を差し伸べてくれないということに気付きはじめて。

自分からクリエイティブで活躍している先輩の話を聞いたり、「僕、こういうことしたいんです」みたいなのをやっていってから、ようやく周りから応援されたり、「じゃあ、これを事前にやっておいたほうがいいかもよ」みたいなアドバイスがあったり。そういう「恥」を乗り越えた瞬間に、新しい道が開けると感じたのはあったかな。

笹川:確かに、聞く時に恥を感じてしまう場合ってあるじゃないですか。「わからないです」って堂々と言うとか、そのたぐいの恥はけっこう社会人になってから向き合いました。

でも、その「わからない」を言い出さないと、誰も教えてくれないし、自分の成長もないし。意外と「自分の無知をさらけ出す恥」というのは、早めに克服してしまったほうが、社会人生活においてより成長につながるのかなと感じますよね。

中川:そうだよね。僕は、恥の免疫みたいなことだと思うんですよ。

笹川:恥免疫。

中川:それを初めに見つけたほうがいいなと思っていたりします。

起業でつきまとった「恥」

中川:番組ADからアナウンサーになって、さらに会社員から独立するということで、またここで変わった部分もあるのかなと思うんですけど。

笹川:会社を設立した際の「恥」というのは非常に感じました。会社を作るって1円から作れるし、昔に比べたらライトになったとは思うんですけれども、やはり急に自分で「会社を作ります」って、何かやりたいことがあるのだと発信するわけだし、その思いがないと作るわけないじゃないですか。

中川:旗を立てるということだもんね。

笹川:それを堂々と伝えることだったり、一方で、会社員の自分からしたら、会社を作るってある程度すごいことだって思っていたのに、実を伴っていない自分がそこにはいたりとか。けっこう自分の内省をしましたね。

「やりたいんだったら、もう飛び降りてやっちゃおう」という直感が勝って会社を起こしたものの、本当に周りが応援してくれるのかなとか考えました。でも考えても仕方がないと思って、最終的には飛び降りましたけど。恥はつきまといますね。

アナウンサー職を手放してでもチャレンジするかという葛藤

中川:「辞めるんです」と言って、「次、何やるの?」という話をした時、構想は聞かせてもらっていたんだけど、たぶん会社の名前とか決まってなくて。

まさかここからファッションとかコスメとか、「陣地を広げていく」じゃないけど、どんどん違う領域に進んでいるから、「そこまでやっていくのかな、すごいな」と思って見ていました。

笹川:もしかしたら今聞いてくださっている方の中に、それこそ例えば「本を出したい」とか、「独立したい」とか思っている方も、もしかしたら恥にテーマを、興味を持っていらっしゃるという方はいらっしゃるかもしれないと思うんですけど。

自分の会社員の8年間の中で、うっすら常々、なんとなく頭のこのへんには「作ってみたい」ということがあったんですよ。でも、いよいよ子どもを産んだり、自分のキャリアと向き合っていくタイミングになった時に、隠しきれなくなったというか。

ちらついても隠していた自分の本音が、いよいよ出てきたぞというところで、「じゃあどうする? 笹川、30代」と。会社でせっかくなれたアナウンサーの職種をがんばるか、それともそれを手放してまでチャレンジしてみるのかという2択になった時に、「恥なんて持っていられない」と思って。

すがるような思いでいろんな人に「悩んでいるんです。2択です」というアドバイスをもらいに行ったというのは、自分の直近の恥エピソードですかね。

出産で「恥」も産み落とした

中川:アナウンサーとものづくりってまったく違う領域なわけじゃん。それを乗り越えていくのはすごいことだよね。「こうやりたい。やってみたい」というのはずっと頭の中にあったけど、それが抑えられなくなった原因というか、きっかけはなんだったの?

笹川:産休中に娘が意外と寝るタイプだったので、その間、調べものやら勉強やらをしようと思って。自分が一番ワクワクする人生ってなんだろうと考えていたんです。

そうなった時に、今は時間がたっぷりあるから、興味がある人に連絡を取ってみようと思って。まったく知らないけどInstagramでフォローしていた、自分でアパレルをやっていらっしゃるお姉さんに「会いたいです」ってダイレクトメッセージを送って。

中川:それが「恥をかけるようになった瞬間」なのかな。

笹川:そうですね。女性あるあるかもしれないんですけど、子どもを自分の体から出した瞬間に、すべての恥が落ちたというか。

中川:なるほど(笑)。それは深い。

笹川:本当にびっくりしたんですよね。

中川:一緒に産み落としちゃった感じなのかな。

笹川:全部の恥が出ちゃって。今でももちろん女性らしくいたいとか思うんですけど、「かあちゃん感」が自分の中で芽生えてしまって。そうなると見た目うんぬんも大事だけど、それよりもちょっと本質的になったというか。恥を産み落としちゃったら、20代の自分よりも恥ずかしさは感じにくくなってきました。

中川:なるほど。おもしろいね。

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