2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
『マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう』刊行記念トークセッション 社会課題とビジネスは、どのようにつなげられるのか?(全6記事)
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澤田智洋氏(以下、澤田):今、すごくおもしろかったのが、僕もさとなおさんも本業の話をしていない。本業の周辺の話をしているのが、1つの象徴なのかなと思っていて。
さとなおさんも、本業の広告業がありつつも並行してブログを立ち上げたり、3.11のサポートに回るようなことって、もともと習慣としてやっていたということなんですか?
佐藤尚之氏(以下、佐藤):やはり、個人サイトを作った時が僕の人生で一番大きな転換点ですね。1995年当時って、ようやくネットができて「インターネットって何?」みたいな話で、モザイクというブラウザが主流だった頃なんです。その頃に個人サイトを立ち上げた僕の実感としてあったのは「生まれて初めて、ほぼタダに近く、世界に発信できるメディアができた」ということなんです。
今だったら、「何の話? 当たり前じゃん」と思われるかもしれませんけど、当時としては衝撃的で。個人が何かを発信しようとしたら、同人誌ぐらいしかないような感じだったんですよ。で、ネットをやってみたらおもしろくて、次々に生活者から反応が返ってくるわけですよね。
その頃、テレビCMとかを作っていても反応なんか返ってこないし、テレビの向こう側に誰がいるかわからなかったわけですけど。でも、次々と反応が返ってくるネットに出会って、本当に衝撃でした。でも、周りの広告人たちに「みんなもやんない? こんな発信の仕方があるよ」と言って回ったんですが、誰も始めなかったんですよね。
「佐藤、馬鹿じゃないの? 書いたり表現をしてお金を貰っているのに、それをタダで出すんだよね? お前何やってるの? しかも何人読むの?」と。「何千人とか、多くて何万人」と答えたら、「お前、CMを作ったら何百万人に伝わるのに何やってるの?」みたいに言われた。
それを聞きながら、「いやいや、僕たちは何かを伝えたくて広告会社に入ったんじゃないの?」ってモヤモヤしてましたね。「伝えたい」という思いが先にあって。なにかしら伝えることをしたかったから広告会社に入った部分があって、そこにネットが出てきたので「これだ」と思ってやっていったんです。そこのスタンスは今も変わらないですよね。広告だろうが、自分の本業周りだろうが、全部そういうスタンスです。政治にもまったく興味がなかった。
澤田:そうなんですか。
佐藤:まったく。だけど「政治のコミュニケーションはひどいな」とは思っていたので、機会があったから関わった。震災支援にしても“伝える”というフィールドとしては、なにも違いはないというか。本業やボランティア、個人的なプライベートという境目は今もないです。
澤田:確かに今、活動の数々を見させていただいて、すべてに「何か伝えたい」「ちゃんと伝わっていなくてもったいない」といった感情が中心にある気がしますが、それって昔からあるんですかね?
佐藤:“自分に伝える役目がありそうなこと”だけですよ。完璧に自分ごとになりきっていないこと、例えば僕なんかが急に「ジェンダー」と言い出しても、自分的なモチベーションがそんなに長く続くかわからないんですね。
でも、被災した経験があってコミュニケーションまでちゃんとスキルがあるんであれば、「ここはやったほうがいいだろう」という。そういう使命感やモチベーションが出てこない、自分ごとにならないことはあまりやらないですね。
澤田:今の話が今日の1つの大事なポイントになると思うんです。いわゆる“使命感”って、やはり誰かから与えられても持てない。「SDGsやりなさい」とか、象徴ですけど。
佐藤:そう思います。
澤田:使命感は自分の中で育たないけれども、自家発電的にちゃんと燃やせた人は生き生きとしているなと思うんですが、そこが多くの方が悩む1つなのかなと思っていて。
佐藤:「悩む」というのは?
澤田:自分が働く、あるいは生きる上での「自分がこれをすべきだ」みたいな。さっきさとなおさんは「仕方なく」とおっしゃっていましたけど、仕方なくであろうとも、「これをすべきだ」ということとの遭遇が極めて少ない。日本が特にそうなのかもしれないですけれども、僕も活動をしていて「羨ましいな」と言われるんですよね。
僕はやはり、マイノリティの方の見えざる価値を磨いて社会に提示したい。それは「自分がやらなきゃ誰がやるんだ」という、勝手なコーリング(使命感)が降ってきて。「あなたがやりなさい」と言われた気持ちに勝手になってやっているんですけど、「羨ましい」と言われるんですよね。
僕の場合は、息子という非常にわかりやすいシンボリックな立場の人がいるんですが、さとなおさんの使命感はどういうふうに作られているんですか?
佐藤:使命感というよりも、なんでしょうね。みなさん急ぎ過ぎというか。
澤田:ああ、なるほど。
佐藤:世の中に早熟な例がありすぎて。僕だって政治の自主提案をしたのは、48歳かなんかですよ。取り組みとして25年前当時としては早かったけど、個人サイトを始めたのも34歳だからね。震災支援の団体を作って動いたのは50歳ですよ。
僕、今年60歳になるんですけど、今年はアニサキス・アレルギーや成人食物アレルギーの活動を始めようと思っているんですが、ようやくそこのフェーズに入っていくわけですよね。
澤田:ああ、なるほど。
佐藤:みなさん、「自分にはそういう使命感やモチベーションがない」と思っているかもしれませんけど、まだまだこれからなんじゃないかな。人生100年時代と言われていますよね。最初の20〜30代で課題を見つけた人もいるかもしれないけど、その方はその後ずっと何にもぶち当たらないかもしれない。
でも、40〜50代とかってスキルも経験も付いているわけですよね。その頃に社会課題にぶつかることって、だから山ほどあると思うんですよね。自分にできる社会課題というか、自分が関われるなにかしらのことは、後半生で必ず出てくると思います。
僕は遅かった例で、晩成ですよね。みんな20〜30代でいろいろやったりしている早熟な例が多いので、周りを見たら焦るかもしれないけど、でも、本当に焦らないほうがいいと思いますけどね。
澤田:確かに。近代社会の例でいうと、わりと早熟の例が蔓延しているけれども。
佐藤:蔓延している。
澤田:例えば長い目で見ると、キリストは30代前半頃まで大工だったし、ムハンマドだってアラーから啓示を受けたのは40歳の頃なんですね。
佐藤:すごい上になってからですよね。
澤田:(笑)。当時の人としてはかなり上だし、それまで普通に実業家とかやっていたわけで。
佐藤:そう思います。いろんなスキルが付いた後に出会うほうがいい場合もあるので、みなさんは着々と自分の本業でスキルを固めればいいかなという気はしますけどね。
澤田:最近よく「社会課題が」と言って、自分の外側にある情報を学ぼう・取り入れようという動きは活発ですけれども。「自分の本業の延長で何をもっと蓄えられるか」という発想も、けっこう重要な気が。
佐藤:発想というか、僕は基本的には「本業自体が一番の社会貢献」だと思っています。例えばあるメーカーに勤めているとすると、それは生活者の課題を解決するなにかしらの商品を出しているわけですよね。
例えば「喉が乾いた」という課題があったら、それをおいしく解決するとか、生活者の不便を商品で解決したりとか。それって生活者の課題を解決しつつ、生活者を笑顔にしている。そのうえ雇用まで作っている。これが社会貢献でなくてなんなのか。
CSRやCSVやSDGsをやるのはもちろんいいんですけど、企業の本業こそが一番の社会貢献だと思います。まずは本業が社会貢献。
だから無理に「SDGsとかをやらないとね」と思うよりも、まずは本業だとは思いますね、ちょっとつまんない意見ですけど。でも、そこがないと浮ついた社会貢献や社会活動になっていって、「やらないといけない」「流行りだからやる」みたいな、ブーム的になっちゃうと思って。
澤田:そうですね。すごく大事だなと思ったのが、ある種“人生の尺を意識する”じゃないけれども、「自分のキャリアや人生は、恐らく長いであろう」という前提条件を持つ。
佐藤:そうですね。
澤田:長い目を持つ。
佐藤:一応ね。
澤田:一応。もちろん一概には言えないんですけど。
佐藤:一概には言えないですけど。
澤田:もう1個重要だと思ったのが、人生って後半に行けば行くほど悩みが増えていく。親が認知症になったとか、あるいは僕でいうと「まさかの子どもが障害者だった」とか。
人生は後半戦にこそ、小さい・大きい悩みがどんどん降ってくるわけであって。長い目で人生を見た時に、「人生はそういうものである」とまずは捉えて、長い射程を見据えた上で目の前の本業に集中するという2つの視点が大事なのかなと。
佐藤:悩みも増えるんですけど、共感値もものすごく増えるんですよね。よく「年齢を重ねると涙脆くなる」というじゃないですか。
澤田:はいはい。
佐藤:別に涙腺が急に緩んだわけじゃなくて、要は共感力が増えたわけですよね。人の悩みに対してはすごく共感できるし、そこに対してちゃんと寄り添えるのは、年齢がある程度行くのも大事だと思う。
若い時からちゃんと共感力がある人もいっぱいいますけど、年を取るからこそ有利になる部分もたくさん出てくると思うんですよ。
澤田:現時点で“利”をちゃんと捉えているかどうかで、働き方って随分変わるなと思っていて。それさえ見えていれば、外側にあるSDGsよりも目の前の本業に全投下したほうが、もしかしたら人生後半戦の自分に何か役立つかもしれないな、力になれるかもな、と接続される。
佐藤:そうですね。周りにアンテナは張っておいたほうがいいと思いますけど、自分の問題意識は変わっていくじゃないですか。問題意識が変わっていく時に、ちょうどタイミングよく入ってきたことじゃないと、本当に自分ごとにならないので。しかも、問題意識は本当に変わっていくので。
例えば、今はずっと「ジェンダーが課題だ」と思っていても、また自分の中で変わっていくことがあるので。本業だけやっていればいいというわけではなくて、そこは決めつけずに。ちゃんと全員にグッドタイミングが来るとは思っています。
澤田:タイミングが来た時、例えば3.11が起きたり、あるいは去年のコロナで飲食店がピンチになった時みたいに。今日のタイトルが「社会課題とビジネスを紐付ける」ですけど、たぶんさとなおさんは脊髄反射的に動いていて、「社会課題とビジネスを結びつける」って思ってないじゃないですか。
佐藤:思ってないです。
澤田:思ってないですよね。
佐藤:目の間に辛い人がいるだろうから、「スキルが少しでも役立てるのであれば」と、モチベーションとタイミングがあるので飛び込もうという感じですかね。
年齢が行くといろいろと荷物も増えます。でも、経験値はすごく上がっていて、いくつかの違う分野に“山”ができているんですよね。小さくてもそれなりの山になっている。僕は本業として“広告の山”を作っていましたけど、震災とかにのめり込むとまたそこに小さな山ができる。
澤田さんはわかると思うけど、広告山から震災支援山を見ると穴だらけなんですよ。逆に“震災支援山”に入って広告山を見ると穴だらけだったりする。気づきだらけなんですよね。そこがとても重要で。
澤田:お話を聞いていると、どんどん質問が湧いちゃいます。さとなおさんの場合でけっこう特殊ケースだと思うのが、広告山を築き上げながらもその途中で“ブログ山”も築き上げて、ブログ山が大きくなることで広告山も大きくなって完成する、みたいな。
佐藤:僕の持論を1分だけ言うと、もうこの時代、「1万人に1人の存在になるのは無理だ」と思っているんですよね。「1つの分野で一流になる」ってよく言いますけど、変化の激しいこの時代、その分野なんていつなくなるかわからないし。僕自身がそんなに尖ってない人間なんで、凡庸なんですよ。だけど、広告でなら100分の1、つまり100人に1人くらいにはなれたなと。
澤田:なるほど。
佐藤:がんばれば、“2クラスで一番くらい”にはなれる。100人に1人ってそんなもんですよね。で、僕は、広告で100分の1になって、食の分野で100分の1になったんですね。本とかを出したり、連載したり。そうすると実はかけ算で言うと1万人にひとりなんです。
それに加えて、当時としては珍しくネットに詳しかった。ネットと広告って同じような分野に今はありますけど、昔は同じところにいなかったので。「広告と食とネットがそれぞれ100分の1」だと、100の3乗になるので、それで「100万人に1人」になるんですよね。
震災支援でも“100人に1人”になっていくと、今度は100万×100なので、1億人に1人になるんですよ。そうやっていくと、SMAPじゃないけど「世界でひとつだけの花」、つまり「オンリーワン」になってきます。高い山をいくつも持ったというよりは、低い山を結びつけたら山脈になった、という感じですかね。
だから、あまり1個のことを突き詰めてはいないんです。ただ、広告とネットと支援という分野でそれぞれに“100分の1”を持っている人間が、他にあまりいなかったので、ワーッと行けたという。僕は1個1個は大したことないです。本当に凡庸だと思います。
澤田:いえいえ。さとなおさんの1個1個は1,000分の1のような気もしますけど、それはさておき(笑)。僕もすごく同じようなことを考えていて。
佐藤:たぶん、澤田さんも一緒だと思う。
澤田:僕こそ、広告で芽がぜんぜん出ていないタイプ(笑)。
佐藤:何を言っているの。僕も若い頃はまったく芽が出なかったから。賞とかぜんぜん獲れなかったもん。
澤田:僕もぜんぜん獲れなくて、だからこそ「広告以外の強みをどんどん作ろう」と一時期思っていて。漫画連載をしたり、音楽を作れるので漫画と音楽を掛け合わせたんですけど。
佐藤:そう、そう。
澤田:ただ、それでも僕はイマイチだったんですよね。何でかというと、僕が100分の1だと思っていたものが、100分の1じゃなかったというか。20分の1×10分の1×15分の1ぐらいだったと気付いて。
佐藤:そんなことはないよ。
澤田:いやいやいや、そうだったんです。少なくとも、当時の僕の実感からですね。
佐藤:感覚的にね。
澤田:感覚的に他分野に進出していっても、ぜんぜん。
佐藤:「キメゾーの『決まり文句じゃキマらねぇ』」とか描いていたよね。
澤田:キメゾー、描いていました。
佐藤:『R25』か何かに連載していたでしょ。
澤田:そうですね。当時フリーペーパーだったので。
佐藤:漫画が描けて連載を持っている人って、日本全国で見たら100分の1どころじゃないからね。
澤田:なるほど。
佐藤:業界の中で100分の1になる必要はまったくなくて、大きく見たらぜんぜん100分の1だと思いますけど。
澤田:当時の僕の周りにはクリエーターばかりいたので、その狭い箱庭の中では「すごく凡庸だな」と思っていたんですけど。
佐藤:いやいやいや。
澤田:僕がスパークしたのはやはり息子が生まれた時で、特にゆるスポーツでいうと「自分がマイノリティだ」と思ったので、その3枚のカードの組み合わせを変えたんですよね。「広告をそれなりにやっている」「コピーが書ける」というそれぞれのカードに、「スポーツが不得意」というカードを掛け合わせたんですよね。つまり、特技ではなく苦手を入れた。
佐藤:素晴らしい。
澤田:そしたらスパークしたというか。広告の人間で、運動音痴のための授業をする人はもちろんいないので。そこで初めて僕は「あ、100万人のうちの1人になれたんだな」と。
佐藤:そう思います。そこにちゃんと広告のスキルを入れられるしね。
澤田:入れています。
佐藤:100分の1でも、じゅうぶんなので。
澤田:そうなんですよ。“強さカード”の中に“弱さカード”を入れることが、僕の中ではすごい大事で。
佐藤:素晴らしいね。
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