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『これからの生き方。』購入者限定 北野唯我さんオンライントークイベント(全7記事)

人生で本気になれるものがあることの幸せと苦労 『これからの生き方。』制作の舞台裏

新型コロナウイルスによって、リアルイベントの開催がままならない中、著者と読者をつなぐ新たなかたちの書店イベントとして、史上初の「書店チェーン横断型のオンラインイベント」が開催されました。本記事では、数々のベストセラーで知られる北野唯我氏の新刊『これからの生き方。』刊行を記念するオンラインイベントの模様をお届けします。本パートでは、作者である自分自身とはまったく違うキャラクターをリアルに表現する方法や、ものづくりへのこだわりについて語りました。

自分とはまったく違う人物をリアルに描くコツ

岩崎祥大氏(以下、岩崎):漫画についての話じゃないけど、めちゃくちゃ聞きたいことがあるのでいいですか? 『これからの生き方。』の後ろのほうで、キャリアを(意志型・スキル型・バランス型・チーム型の)4パターンに分けているじゃないですか。僕は弁護士という士業なので、スキル型に入ると思うんですけど、スキル型の弱点とか、なんでこんなにリアルにわかるんですか?

これからの生き方。自分はこのままでいいのか?と問い直すときに読む本

(他の3パターンについても)全部なんですけど、北野さんとは違うじゃないですか。主人公も女性だし、言っていることも違うし、スキル型とか意志型とか、いろんなキャリアも全部、北野さんが経験していることじゃないのに、なんでこんなにリアルに書けるんですか?

北野唯我氏(以下、北野):なんでですかね?(笑)。それはよく言われますね(笑)。『天才を殺す凡人』のときは、「なんでこうやって網羅的に書けるんですか?」と聞かれたんですけど、なぜなんでしょうね。

大森春樹氏(以下、大森):でも、この原稿は確かスルスルっと来ていましたよね。

北野:そうですね。よく人を見ているんだと思いますけどね。

岩崎:インタビューなどをしたんですか?

北野:ぜんぜん。でも、人のことを見るときに「その人の本質はどういうものなのかな」と、ものすごくよく見る癖があります。それがたぶん、自分の中に膨大な量で溜まっています。

「だいたいこういう人って、こういうところでつまずくな」とか、「こういう傾向があるな」とか。それがなぜかと言うと「こういう思考の方法だから」というのが自分の中にあるので、そんなに困らなかったです。だいたいパパパっと、「こうだな」というのが頭に浮かぶ感じでした。

最後は前向きになれる本をつくりたい

大森:バランス型の分析だけちょっと時間かかっていたことを覚えています。

北野:あー、そっか。

岩崎:へー!

大森:最初の3つのタイプは「バン!」と来て、バランス型だけ「ちょっと待ってくれ」と言われたんです。でも、あがってきた原稿を見ると、すんなり腑に落ちる内容でした。

岩崎:スキル型も「まさに!」という感じなので、僕は同業者の友達にも薦めているんですけど、本当に「うわ、めちゃくちゃ刺さった!」という感想をもらっています。「これを書いている人は士業ではないのに、なんでこんなに士業に刺さることを書けるんだろう?」という話で盛り上がったんですよ。

北野:えー!? でも、会計士の人にも、めちゃくちゃ刺さっていました。あとはコンサルティングファームの人にも、めちゃくちゃ刺さっていましたね。やっぱり士業の方などはスキル型のところで、「グサっときた!」という(笑)。「言われた!」という感じでおっしゃっていましたね。

岩崎:そうだったんですよ。

北野:(コメントを読み上げながら)「北野さんの本はただ現実を俯瞰的に分析されていて、ただそれで……なんだっけな……とにかく、ありがとうございます(笑)。

(一同笑)

「……ただ現実を俯瞰的に分析されていて、その課題が厳しくても『諦めるしかない』とただ割り切るのではなく、解決法まで提示してくださるところが好きです。がんばろうと思います」。めちゃくちゃうれしい! どこかで会ったら、本当に握手させてください。

でも、こういうことのために書いているんです。やっぱり「これが課題です」というだけで終わる本は絶対につくりたくないと思うんです。

大森:確かにそうですね。

北野:最後は希望がある本にしたというか。これまでの作品も漫画化の話をいただくことがあるんですけど、そのときにいつも1つだけ「最後はやっぱり希望があるというか、前向きになれる本にしたいな」と言うんです。

正解が分からないがゆえの苦労

大森:ありがとうございます。次は「最も苦労した点はどこでしょう?」という質問です。

岩崎:これは2人に聞きたいですね。

大森:僕も!?(笑)。

岩崎:北野さんと、編集者としての大森さんに聞きたいです。

北野:確かに。大森さんから見たらどうなんですか?

大森:苦労した点ですか?

岩崎:めちゃくちゃありそう(笑)。

北野:苦労しまくりました?

大森:正解がわからなかったところが苦労したんじゃないですかね。つまり、著者の北野さんの正解と、漫画家の百田さんが描きたかったポイントの折り合いがわからないときがありました。

漫画の制作過程に詳しい人はわかるでしょうけれども、「ネーム」といって、原作・プロットに対して、漫画家さんがまずフレームに起こすんですね。そのときにすごく時間かかりましたね。まず北野さんの「ここの表情が違う」で始まるんですよ(笑)。

一見なんでもないカットなんですけど、実は重要なカットで、本当にけっこう時間がかかったのがこれです。(変更前と変更後のカットを同時に示しながら)これはかなり描き込んだあとに……。どう違うかわからない方もいらっしゃるので一応言うと、左の変更前の上山くんという若手シェフの表情ですね。

最初は、ああいう(目を見開いて泣きそうな)表情だったんです。師匠である土尾シェフに、2人で過ごした月日の回想で「楽しかったな」と言われて、「……はい」と答えるだけのシーンなんですけど。この左側のシーンが、北野さんには引っかかったんですね。

「違うんじゃないか」と言い始めたんです。僕と漫画家の百田さんは「いや、けっこう泣きそうな顔しているし、いいんじゃないか」という話をしたんですけど、「いや、泣きそうなのはわかる。でも、このときの上山はもうちょっと違う感情なんじゃないか」と言い始めたんですよね。「もしかしたら、目をつぶって『……はい』って言うんじゃないか」と言い始めて……。

北野:確かになぁ。

大森:急遽、校了間際に描き直していただいたんですよ(笑)。

岩崎:えぇー(笑)。

北野:大森さんはすごくオブラートに包んで言ってくださったんですけど……。

大森:あはは(笑)。

売れるものというだけでなく良いものをつくりたい

北野:本当にこの1ページだけで、僕は1時間半ぐらいしゃべっていました。「いやこれね、上山は今こういう状況でこういう感じゃないですか。こういう性格ですよ、上山はここまで泣きそうになりますか? ならなくないですか?」と。

あるいは、「あるとしたら、たぶん目をつぶるんじゃないですか。自分の感情を抑えられなくて、いろんなものを思い出して、『はい』と。『ありがとうございます』と言うんじゃないですか?」というようなことを、もう延々と(笑)。1時間半ぐらいしゃべってできたものを……。

岩崎:百田さんは途中、イラっとされたりしなかったんですか?

北野:百田さんは「いやいや、またか!」という感じでした。最初めちゃくちゃイラっとしてるなぁと思ったんですけど、1回目くらいまでまだ「わかりました」という感じだったんですよ。一応これまである程度売れているので、僕から見ると「北野さんが言うならそうだろうな」という感じで1回直してくれるんですよ。でも2回目は「うーん、うーん」という感じになって。

(一同笑)

それで僕も、「これは百田さん、完全に嫌がってるな」と思って、プレゼンをしたんですよね。「この本は一生残るものじゃないですか。どういうものが売りたいんですか、つくりたいんですか」と。「別に売れるものじゃなくて良いものをつくりたいですよね」と。

「良いものをつくりたいですよね。僕は自分の名前が載る作品になる限り、やっぱり妥協できないんですよ。百田さん、すみません!」という感じで(笑)。それで、百田さんはその時に覚悟が決まったみたいで、「わかりました!」と言ってくださって。次ぐらいに挙げてきてくださった絵が「うおっ!?」となるくらい、めちゃくちゃ良くて。

大森:そうでしょうね(笑)。

北野:「これが見たかったんだ。そう、これです!」と(笑)。そうしたら百田さんもたぶん、もう完全にクリエイターモードになって、もはや一緒に「もっと良くなる場所ありますよね?」と言い始めました(笑)。

自分の仕事をより好きになれた瞬間

北野:でも、僕が一番うれしかったのが、制作過程の最後の4分の3くらいに入ったときに、百田さんが「漫画が好きになりました」と言ってくださったんですよ。

僕はそれがめちゃくちゃうれしくて。要は、これまでも漫画が好きだったけど、キャラクターの造形や表情をより考えるようになって、好きになったということだと思うんですよ。百田さんの中で、このキャラクターが明確に生き始めてたんですよね。その感覚を覚えてくださったんじゃないかなと僕は思っていて。

大森さんもそうだと思うんですけど、一緒に仕事をするプロセスの中で、その人が仕事を好きになってくれることが本質なんだなというか。そう感じられる瞬間って、最高におもしろいじゃないですか。そういうことが今回の作品ではあったなという気がしましたね。

大森:私もそう感じます。

岩崎:百田さんがイラっとしているなと思った時、北野さんはどういう気持ちなんですか? 「これはやばいけど、俺がプレゼンしたら変わるだろう!」という気持ちなんですか?

北野:いやいや、「後悔したくない」という感じですし、何よりも読者の方の期待を裏切りたくないなということが大きくて。たぶん大森さんもnoteに書いてくれたんですけど、これが売り物になるかどうか、本当に1.600円の価値があるかどうかはものすごく気にするんですよ。

だから、適当に作って1,500円くらいで売る本は絶対に作りたくない。死んでもイヤだと思うタイプなので、1,600円のお金を払っていただいて、しかも2〜3時間使っていただくのであれば、その読者の期待値だけは絶対に越えたいという気持ちがあって。

それを越えられなければ、途中でもう出すのやめようかなというくらいに思うので。だから、その時に思ったのは、このまま怒っている百田さんを……明らかに怒っていたんですが。今見ている百田さんは笑っていると思います、たぶん(笑)。

でも、ここで僕が妥協して、「いいですよ、わかりました。このままでいきましょうか」と言ったら、絶対に読者を裏切るなと思ったので、言わざるを得ないというか。

最初のストーリーのプロットはおよそ17稿

岩崎:それは自分の文章も同じで、めっちゃ書き直したりしたんですか?

大森:文章は書き直しましたよ(笑)。

北野:文章も書き直すところは直しますよ。でも、3章はほぼそのままパシン! といったので。

岩崎:へえー!

大森:最初のストーリーのプロットは、もう気が遠くなるぐらい書き直します。たぶん17稿ぐらいまであると思いますよ(笑)。

岩崎:あはは(笑)。一般的には何稿ぐらいあるんですか。

大森:一度原稿にして見直すパターンが多いんですけど、北野さんは1回来て、その時に原稿が全部来るわけじゃないんですけど、次に来るときに「すいません、書き直しました」と来て。

岩崎:大森さんは途中で後悔しました? 北野さんに書いて欲しかったけどこんなに大変なんだったら話が違ったよ、と思うことはありました?(笑)。

大森:ははは(笑)。後悔というよりは、必死だった感じですかね(笑)。大変より必死というか。ゴールがないので、途中で……当初の発売日は2月14日だったんですよ。

岩崎:バレンタイン……チョコだからですか(作中の登場人物がショコラティエ)。

大森:サロン・デュ・ショコラというチョコレートのイベントにも合わせてとか、いいじゃないですかなんて言ったんですけど、2月14日なんてまだ何もできていない感じでした。

本気になれるものがあることの幸せと苦労

北野:(コメントを読み上げて)「鬼のような映画監督みたいですね」。僕はクリエイターとしてはそうだと思います(笑)。でも、僕は思うんですけど、大森さんも編集者としてものづくりの人なんですよね。こだわりがある方なので、やっぱり最後までついてきてくださいましたし。

ただ、Zoomの画面共有などが遅いので、正直スタートアップの経営者の目で見るといちいちイライラするんですけど。「なんでこんなこともできないんだろうなぁ」と思うんですけど、おおらかな気持ちで待って(笑)。

でも、ものを作るのは本気を引き出さなければいけないじゃないですか。だから、一緒にできてすごくよかったなと思うし、大森さんがこの作品のレベルをすごく上げてくださったなと思います。

結局、それは働く人みんなが求めていることなんですよね。だから、クリエイター気質とか、何かものを作る人や、心の底に何か熱いものがある人は、どこかで本気になれるようなものを求めているんですよ。でも、だいたいみんな「もうすぐ販売だから」となって、妥協するじゃないですか。

そこにたった1人でも絶対にやり切るという人がいれば、みんながある種諦めて、気持ちいいかたちで巻き込まれていって、作品を創り上げていける。人生において、そういうものが1つでもあることは幸せですよね。僕はピクサーをつくるのが将来の夢なので。これを聞いてくださっている方々、いつかぜひ一緒に仕事ができればと(笑)。

(一同笑)

嫌かもしれないけど(笑)。けっこう嫌ですかね?

岩崎:けっこう嫌かもしれないですかね(笑)。大森さんのnoteに、正月にゲラが送られてきたような話があったじゃないですか。

大森:あぁ(笑)。はい、そういう体験は初めてでしたね。

岩崎:あれは衝撃ですね。

大森:正月というか、「大晦日に原稿を送ってきた初めての著者」です(笑)。

北野:そうそう、そういうことがありますね。(コメントを読み上げて)「何気なく手に取ったら、最近、買った本の中で一番好きでした。いい意味で裏切られました」。ありがとうございます! うれしいです。

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