2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
田中研之輔氏 インタビュー(全1記事)
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——今の就職の状況は氷河期の再来とも言われています。過去の就職氷河期と今回でなにが違うのか、どこか希望が見いだせる部分はありますか?
田中研之輔氏(以下、田中):これまでの氷河期と違うのは二極化という現象です。
日本型雇用の変化に伴って、新卒採用も通年採用型に移行していたので、企業側も早期に新卒獲得を行なっていました。なので、大学3年の夏か2年の後期ぐらいから中長期インターンに動いていた子たちは、コロナの前にもう内定が決まっていたんですね。
ただ、一括採用の名残で、6月の大企業の新卒採用に向けて準備をしていた学生たちが、コロナの影響を受けてしまっている状況です。実はうちのゼミでも、今の段階で4割ぐらいは決まっていないですね。通常は6月1日に内定が出ることが多いんですが、例年なら決まっていただろうなという子たちがまだ内定が出ないのが、やっぱり今年の厳しさだなと思います。
——21卒と22卒では置かれている状況もそれぞれ違うと思いますが、これからどう対応していったらいいでしょうか?
田中:21卒でまだ決まっていない子たちは、企業の採用調整を待つしかないんですよね。就活に関していえば、今は何もできないというのがリアルなところなので、その間に大学での学びを進めてくださいと言っています。
結局、途中で選考が止まっている企業が多くて、企業側も取り消しにはしたくないから内定ではなく内々定だったり、最終面接までいかないで2~3週間空いてしまっている状況です。
企業側もおそらくこれから人員のボリューム感を調整していくと思いますが、その調整が後々まで続くというところに、逆説的に通年採用という言葉が使われそうな気配があります。
一括採用はもう内定を出さなきゃいけないから決めていくんだけど、私がヒアリングしている限りでは、人事に詳しい方たちは、この通年採用を「秋採用に回せる」と判断されている方が多いですね。
田中:22卒に関するコロナの影響は、学生の動き出しの二極化ではなく、産業構造の二極化が決定的に出てきます。例えば、新卒採用をしないと言っている航空会社に行きたいとなると、戦略を変えないとならない。
一方で、いわゆるネット系やオンライン会議サービス、教育系などの人員が欲しくてしょうがないところもあります。22卒はまだアフターコロナとは言えないかもしれないですが、産業構造の変化によって起きる二極化にどう対応していくかがポイントですね。
こういう状況では、学生に「今回のコロナで何が起きたのか」を伝えなきゃいけない。つまり、「組織に自分のキャリアを預けることは決定的なリスクだよ」ということです。
歴史的なフレームで考えると、今までの氷河期とは決定的に違うなと読んでいます。働き方改革などの働き方のダイバーシティがあり、日本型雇用崩壊という話があって、コロナがあって。この2~3年の間に、3つの波が来たんですよね。
そこで学生たちに伝えているのは、自分のキャリアは自分でハンドリングすべきだということ。キャリアオーナーシップという概念をちゃんと持って、1社目で副業することもあるだろうし、チャンスがあれば2社目に行くこともあると。
それがマジョリティの働き方になっていくと思うんですよね。なぜなら、産業構造的に飲食や航空、観光など、入るのがかなり厳しい業界が出てきているから。
学生側もこれまでと同じ就活をしていたら、ダメージを食らうのは自分たちだと気づいてきている。よく過去の産物を駆逐して新しいイノベーションが起きると言いますが、やっぱりこういうときに創造的破壊が起きるんだなという肌感覚がすごくあります。
田中:私は以前から、「プロティアン」という環境の変化に応じて自分自身も変化させる柔軟なキャリアが必要だと思っていて。メインターゲットとしては30歳~40歳の方に伝えていたんですけど、今は大学1年生に「18歳からプロティアンが必要だよ」と教えています。
——確かに、田中先生がプロティアンの資質として挙げられていた要素や15項目のチェックリストには、学生のうちからできそうなこともありますね。
田中:そう、できます。今年の学生はすごくまじめになったんですよね。ある種、日常が壊されてしまったから、「やっぱりやらなきゃな」とか、学びや就活情報のありがたみを感じ始めていて。
いみじくも2年前に、経団連の中西宏明さんが「自らキャリアを形成しようね」と言ったわけですが、企業側も「指示待ちみたいな人はもういらない」ということですよね。「僕はこれしかできません」だと、その仕事が必要なくなればいらないわけです。
変化の速度は本当に早まっているので、これから求められるのは自分の変化を楽しめる人材。それも、メンタリングをして丁寧に育てるような、いわゆる新人ライン研修モデルではなくて、放任していても必要なことは聞いてくるし、勝手に育っていってくれるような人。
今は学生の間にインターンをしながら、自分で新規事業を作る癖がついていて、そのまま会社に入っていくような子たちも生まれていますね。
——なるほど。企業側にいる人材も、働きながら自分をアップデートしないといけない。今度は学生のほうがぜんぜん優秀ということがあり得ますよね。
田中:ありますね。もう入社2年目3年目ぐらいの経験を積んだ子たちがバンバン入ってくるので。キャリア形成が個人化したので、ある種の大谷翔平や錦織圭と同じなんですけど、個で秀でた子がビジネスシーンにも出てくるんですよ。
そうすると学生とか社会人というのは関係なくなってくるので、私はもう「大学生・社会人」ではなくて、「ポスト高校生」「プレ社会人」「社会人」というくくりで考えています。受け身で授業を聞いているだけの「ポスト高校生」を、大学の間に「プレ社会人」に切り替えると。「授業を聞く」じゃなくて「授業を作る」とかね。
田中:私が学生に伝えているのは、「どう動いてもいいから、キャピタルを貯めよう」という話です。プロティアンは、ビジネス資本と社会関係資本と経済資本という3つのキャリアキャピタルで構成されています。
私は「学生時代にどう動いたって、どんな一歩を踏み出したって、いずれかのキャピタルは貯まるから、失敗という価値観を持つ必要がない」と伝えているんです。結果的に失敗しても、動いた分はなんらかの経験というキャピタルが貯まったからいいんだよと。
一番よくないのは、今の状況で打ちひしがれて動けず、不安ばかり増幅させて何も日常を変えないことです。これはキャピタル論で言うと、何のキャリア資本も貯まらないんですよね。
だから、noteを使って発信したり、Twitterで何か自分のしっかりしたプロフィールアカウントを作って、考えていることを発信するようにと伝えています。就活はするんだけど、キャリアオーナーシップを持たなければということは、かなりの学生が意識していますね。
プロティアンで一番大事なのは、アイデンティティとアダプタビリティなので、自分らしく変化に適応していけること。自分の芯がないと変化に翻弄されてしまうので、都度書き換えながらでも、「人生でこうなりたいな」というデッサンは絶対に描いておくべきです。
自分のキャリアの軸を大事にしながらも変化に適合するという、2つのコンピテンシーを駆動させていくのが大切ですね。
——先が見えない時代でも、キャンバスが白紙というわけにはいかないと。自分なりのキャリアの軸を作るにはどうすればいいんでしょうか。
田中:私は自分の中で、人生100年時代になりたい姿や手に入れたい領域といった、緩やかなビジョンを3つくらい持っていたほうがいいと思っていて。私自身も今、そういうことを継続しているんですけれどもね。
キャリア形成には一定の時間がかかるから、やりたい方向に向かって自分のキャピタル形成をしていくことがすごく大切なんです。例えば、国際シーンで活躍したい学生が「英語がしゃべれるようになりたい」と言って1,000万円を投資しても、翌日から英語がしゃべれるようにはならないですよね。
やりたいことを目指しながら、自分の中にポータブルスキルを貯めていくことがセーフティーネットになりますし、それは減るものじゃないので、かけ算で組み合わせていくのがいいですね。
——3つのビジョンを描くとき、具体的にどんなことを意識するといいですか?
田中:私はプロティアンの中ではゾーンと言っているんですけれども、自分が夢中になれることが1つの軸になると思っています。従来型ではその軸だけにすがっていたんだけれども、例えば「PRを軸にしながら、財務系もやっておいたら」とか。
ブランチ戦略と呼んでいるんですけれども、3つをフラットにやっていくよりは、1つの支柱を枝分かれさせていくイメージなんですよね。幹が太い方が価値が出やすいから、7年~10年くらいは自分が夢中になれる働き方を模索して、しっかり自分の専門性を作る。それを活かしながら別のブランチを作っておこうねという話をしています。それがキャリアキャピタルだと捉えられるかなと思っているんですよね。
——なるほど。とは言え、目の前の就職先が決まらない学生さんもいる中で、例えば起業などの別の道を選ぶのはありですか?
田中:これはぜひ伝えてほしいんですけど、「今回コロナで就職できない状況だから起業します」という子たちは全員つぶれますね。起業のほうが苦しいから、絶対にそんな感じで意志決定しないほうがよくって。必要としている企業はあるから、第一志望ではなくても、まず企業に飛び込んだほうがいい。
ただ、なかには中長期インターンをしながら、3年生の時点で起業を見据えて準備をして、半ば学生起業をしながら就活をしている子たちもいます。そういう子たちが内定をとれなくなった場合に、そのまま事業をスケールアウトしていくのはかまわないんですけど。
あと、「就活できなかったから大学院に行きます」というのはいいと思うんですよ。それはある種の逃げの選択としてあり得るので。
でも、就活がうまくいかなかったから起業して成功した子はほぼいないね。私も起業家の友人が多いのでよく話すんですけど、経営者のほうが熾烈ですよ。社会関係資本というネットワークがない中で、自分の事業を作っても相手にされない。
M&Aやバイアウトを狙って、サービスやコンテンツだけ作り上げて、それをどこかに買ってもらうとか。一人でコードを書いて、アプリを作って、そのままリリースというような起業はあり得るんだけれど。
となると、やはり今の選択肢としては、自分が夢中になれるものにできる限り近い企業に入って、そこで経験を積んで、そこから自分のやりたいことに近づいていくか、もうちょっとしっかり勉強をして専門性を高めていく。その選択肢のほうがまあいいだろうなと。
——就活がつらくても、起業の苦労よりはまだマシということですね。
田中:就活がうまくいかない中で一番必要なことは、今まで思い描いていたキャリア観を本人の中で変えることなんですよ。
自分の夢やキャリア観は捨てなくてもいいけど、今この2~3年はどう考えても厳しい戦いになる。だから、客室乗務員になりたいという夢を思い描きつつ、オンラインでのコミュニケーションが養われるような企業に行くとか。そこの方向転換はすごく大事なんですが、学生にとってはそれが相当難しいみたいです。
目指してきた道が断たれることで、ある種の自己否定に陥るんですよね。だけど、プロティアンではそこを転機と考えるので、すごくポジティブなキャリア論なんです。「できなくなったのは外発的な要因で、あなたが理由じゃない」ということですよ。
今は観光業界に入るのが難しいなら、「市場のアダプタビリティ」と呼んでいるんですけど、市場のニーズに適合させてキャリア形成をしながら様子を見たらいいんじゃないかと。その養成期間もキャリアキャピタルが貯まっていくから、別に損じゃないよね、というキャリア観を持ってもらいたいなと思いますよね。
田中:だから今は、学生たちに「やれることを日々やりながら、その蓄積をTwitterやnoteに書き残せ」と言っているんですよ。そうすると面談で「実はこういうことを考えていたんです」と言って、URLでポンと送れるじゃないですか。
例えば、コロナで大変だったけど、この時期に「デザインやってました」「コードを書いていました」「文章を書いていました」とか。そこにビジネス資本があるなと思えば、学生のジョブ型採用はぜんぜんニーズがあると。
つまり「自分がどんなキャリアキャピタルをためているか」を見える化するために、キャリアポートフォリオを作るように話しています。その準備は無料ですし、そういうことをやっている子たちは簡単に決まっていくんですよね。
オンライン面談が始まって自己紹介をするときに、「実は私はポートフォリオを作っていまして」と言って送る。そうすると、やっぱり「おお、いいね」となる。中途採用はレジュメを見せたりしますが、ある種、学生の中途採用方式というかね。やっぱりそういうことをやっておくべきです。
今、企業側は景気回復に向けて試行錯誤をしていて、必ず浮上してくる企業はあります。通年採用なので、企業側も4年生の11月に採用しても、卒業したあとの5月に採用してもいいわけです。
私は「いつからどこからでも就職はできる」と伝えています。自分で動いて変幻自在にやっている子たちは焦る必要はまったくない。企業はそういう学生を必ず必要とするから、それまでのキャリア形成を見える化させておけと言っています。
——今年や来年ですぐに決まらなくても、その間何をしていたかをちゃんと伝えられれば怖がる必要はないということですね。
田中:まったく大丈夫です。チャンスがあるときに成果を出していけばいいので。発信をしたり、ビジネス経験を積んだり、クラウドワークスで仕事を受注したり。
学生だろうが社会人だろうが、ツールや場所は無限に開かれていて、今は実は平等な社会じゃないですか。だから、クラウドワークスで受注するときに「学生だから受けられない」ということはまったくない。
出したら「いいものがいい」となる、ある種成果主義型の市場があるから。そこでバッターボックスに立つか立たないかってけっこう大きいんですよね。
結局そういう働き方ができなければ、その子が50歳とか60歳になったときに本当に苦労するので、やっぱり変幻自在にキャリア形成をしていくことが大切だと思いますよね。そこしか道はないと思っています。
ただ、受け身で待ち続ける子たちは厳しいですよね。企業側も変化に適応できない人材だと認識して、その子たちを受け入れることがリスクになると考える。そういう意味では本当に厳しくなっています。
——企業側もプロティアン人材を採らないと存続が危ういとなれば、採用段階で変化に対応できる人材を見極めたいですよね。ポイントがあれば教えていただけますか?
田中:さっきのプロティアンの15点表記を人事の人に使ってもらって、3点以下だったら絶対に採らないほうがいいよね。3点以下はノンプロティアンで、もう絶対に変化に適合できないから。最初の1~2分で学生に解いてもらってから面談を始めれば、もうわかりますよ。
あのチェックリストには実は因数を入れていて、それが資本とリンクしているんですよ。各項目にビジネス資本と社会関係資本が組み込まれているので。
私は、4点から11点ぐらいは「セミプロティアン」と呼んでいます。企業の力にも因りますけれども、11点に近いほうは変化していく可能性がある。行動習慣としてプロティアンに近いので、ぜんぜんプロティアンになれる可能性があると。
あと、12点以上の人は絶対に採ったほうがいい。なぜかというと、キャリアを主体的に形成していく自走ができるんです。プロティアン人材は、いかなる変化にでも力を発揮しうると考えています。
——層の厚さで言うと、今の学生のなかにはプロティアン人材はどのくらいいるんでしょうか?
田中:ぜんぜん少ないです。いろいろな大学の子たちに会うときにチェックリストをやってもらっていたんですけど、私の見立てで言うと、セミプロティアンは6割ぐらいで、12点以上のプロティアンはだいたい100人中10人ぐらいですね。
ただ、実際のところは健康診断的に使ってほしいので、4点から11点の中間、つまり7~8点ぐらいから上は、ちょっとのことで変わっていきます。大切なのは日々継続していくことなんです。1日の思いつきではなく、行動の継続診断表にしているので、それがプロティアンな生き方として表れます。
田中:あとは、キャピタル分析をしていくことがすごく大事で、私が人事だったらそこをやりますね。学生時代にどんなことに取り組んできたか、何を資本として貯めてきたかを言語化できるかどうかがすごく大切です。
学生はよく「部長をやっていました」とか「アルバイトリーダーをしていました」と言うんだけど、それによってどういう武器が培われてきたか。つまり、ビジネス資本としてどういう武器を培ってきたのかを言語化できる学生かどうかが決定的に重要です。
私は、卒業生も含めて12年間ぐらい学生を見ているんですけど、今この時代に必要な地頭は、経験の言語化なんですよね。だから、それをトレーニングしているんだけれども、プロティアン人材の子たちは、18歳の大学生だろうが、言ってしまうと高校3年生ぐらいでもしっかり言語化できる子たちがいます。やっぱり、そういう子たちをどんどん増やしていきたいと思いますね。
——プロティアン人材が増えてくれば、日本が大きく変わる原動力になりそうですね。お話ありがとうございました。
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