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Think Lab 井上一鷹氏 インタビュー(全2記事)

独創的なアイデアは「独りの時間」から生まれる 夢中を育むサードプレイスの条件

在宅勤務やテレワークを取り入れる企業が出てくる中で、働き方も大きく変わろうとしています。オフィスワークとテレワークの一長一短が見えてきた今、この先の働き方と働く場所はどうなっていくのでしょうか。ソロワーキングと集中に関する研究開発を行ってきたThink Lab取締役の井上一鷹氏にお話をお伺いしました。後編では「独りの時間」を持つ大切さや、新たなサードプレイスの構想を語ります。(写真提供:Think Lab竣工写真/阿野太一氏)

独りの時間を持たないと、独創的なアイデアは生まれない

——井上さんの著書にも書かれていましたが、改めて集中がもたらす利点について教えていただけますか?

集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方

井上一鷹氏(以下、井上):実は集中という言葉はあまり好きじゃなくて。もともと何を語っていたかというと、(当時の世の中の経営層が)みんな「独創的なアイデアがない」と言っていたんです。

beforeコロナでは、日本企業が内部留保して投資先が欲しいなとか新規事業をやろうと言って、ビズリーチ経由で3,000社が新規事業開拓のミッションで人を集めようとしていました。上場企業がみんな新規事業を欲していて、社内から出てこないからCVCを立てて。経営イシューとして、新しいものがないよねという話をしていました。

でも、独創的という言葉は「独りで創る」と書きますよね。だから、独創的なアイデアは独りで作るものなんですよ。独りの独創をチームで揉んで、「やっぱりそれってこっちじゃない?」という構想につながって、計画して実行に落としていく。その瞬間の確率を上げようよというのが基本的な手法なんです。

せっかく社員を抱えているのであれば、一人ひとりの脳を信じて、独創的なものが出てくる確率を上げることが、経営のポートフォリオそのものなんじゃないかと。つまり、一人ひとりにめちゃくちゃ深い思考をさせてあげることで、新規事業が生まれる確率が上がるんじゃないのかということなんです。定量的にはあまり言えないですけどね。

そんなに難しい話じゃなくて、たまに独りの時間を作らないと本当にバカになってしまうと思っているんです。例えば新卒で入って、超優秀な若手として過ごしたら、中間管理職や課長としてミドルマネジメントのジェネラリストを志向させられるじゃないですか。

そうすると、脳が一番働くはずの30代から50代ぐらいを、人との折衝が大事だとされて過ごすんですよね。それって本当に正しいのかなと感じているので、よりクリエイティブだったり、より他の人には出せないような答えを出すために、独りの時間を作ってあげることが大事だと思っています。

糸井重里さんも「ひとりの時間を持たない人は、あまり信用できません」と言っていて。なんだかその感覚なんですけど、独りの時間を持っていないと、人はバカになるよと。個の時代を是だとする前提なんですけど、そう思っています。

自発的・能動的な人ほど集中力が高い

——在宅勤務をせざるを得ない環境になったことで、「独りのほうが集中できる」という話があったり、独りの時間の大切さに気づいた人が増えている気がします。

井上:そうですね。JINSMEMEのデータの話をすると、あきらかに自分で「何をするか」を宣言した人の方が集中しているんですよね。

結局、言われたことをやるんじゃなくて、自発性や能動性があって、やりたいことをやっている人のほうが集中力が高いんです。そういう人のほうが、新しいものを生み出す可能性も高いと思います。もっと一人ひとりを自立させて、能動的に仕事をしたほうが、会社にとってもいいものが出てくるはずで。

僕らのブランドコンセプトは「Live Your Life」なんですけれども、自分でものを決めて、いろんなことを提案していこうよと。Think Labは、能動的に仕事をすることって楽しいなと思ってもらうための環境装置だと思うんですよ。

——集中する人というよりは、夢中になれる人を増やすということなんですね。

井上:ただ、「夢中になれ」という時点でもう押しつけなので、そこはけっこう難しいんですよ。若手に「自発的にやれ」と言っていると、あれ、このまま動いても自発的じゃないよねと。

ストレスも集中力のトリガーになる

——ふだんの自分の集中度合いを知る方法はありますか? たぶんJINSMEMEを使ってみるのが一番いいのかなとは思うんですけれども。

井上:そうですね。それが一番楽ではあるんですけど、学者の方によく聞く話だと、後から振り返ったときに「時間が経つのが早く感じるか、遅く感じるか」ということと、集中の度合いはほぼ相関するという説があります。だから、早いなと思う時間をチェックしておけばいい。

もっと簡単な方法は、自分ルールを決めるというのもあります。僕は時計をしていたら絶対に仕事をするとか。

今はやっぱり、切り替えが大変なんですよ。なぜかと言うと、感情の起伏が少ないから。心理状態と生理状態は両方とも体に内包されているんだけど、当然お互いに干渉しあっています。それが同じ環境でずっと過ごしていると、めちゃくちゃ楽しいとか、めちゃくちゃイライラすることがないんですよ。

だから、心理状態をトリガーにして生理状態を動かせない。例えばむかつく上司がいたら「なんだよ、あいつ」と思って、むちゃくちゃ交感神経が上がるじゃないですか。

——(笑)。

井上:その後の集中度って高いんですよ。

——えっ、そうなんですか? 逆にイライラして気が散りそうな……。

井上:感情が動いているから。感情が動くぶん、副交感神経が優位になりやすいんです。

——ストレスを感じても集中力が高まるんですか? 

井上:アドレナリンは出ますよね。スポーツの世界だと想像がしやすいと思うんですけど、スポーツ選手が大舞台に立ったときは、すごく大きな声を出したり、逆に静かに瞑想したりするわけじゃないですか。

それはやっぱりギャップを作っているんです。感情を落とすか上げるかして振り切る。だから、そういう感情をトリガーに生理状態を動かすほうが、集中しやすいはずなんですよ。でも、家だとその振れ幅が生まれにくいというつらさがありますね。

集中のスイッチは、触覚と嗅覚が有効

——さきほど、「集中できない人」と「集中が続かない人」がいるというお話がありました。今はリモートワークによって効率化が進んで、逆に集中しすぎて疲れるという話も聞きます。それはどう対処したらいいんでしょうか?

井上:そこに関しては、僕自身はけっこう単純なことをしていますね。風呂に入るんです。僕は今1日4回ぐらい風呂に入っているんですよね。

それはなぜかというと、人は視覚と聴覚を中心に仕事をしているので、目と耳から入る情報は、どんなに切り替えてもアクティブな状態であることに変わりがないので、刺激になりにくいんですよ。

だけど、嗅覚と触覚と味覚はそんなにアクティブにしていないから、切り替えのスイッチになりやすいんじゃないかと思っていて。エビデンスライクには語れないんですけど、僕にとっては触覚と嗅覚を刺激するのが風呂なんです。

あとは風ですね。ベランダに出て風を感じるだけでも本当に変わるので、僕はその2つをおすすめしています。味覚の刺激もいいんですけど、食べ過ぎもまたヘルシーではなくなってしまうので、触覚と嗅覚をスイッチにするのがいいなと思っています。

僕は仕事をする場所は、グレープフルーツの香りにしていて、寝る場所はレモンにしています。柑橘系が好きなんですけど、香りで少しずらしたりもしています。

集中できなくて困る人と休めなくて困る人ははっきりと分かれているので、集中状態に入るためのルーティンと出るためのルーティンは、両方持っていた方がいいですね。

コワーキングとソロワーキングの一長一短

——Think Labは大手企業さんでの導入事例もありますが、経営層の方々は集中というものの必要性をすでに認識されているんでしょうか?

井上:いや、ぜんぜん人によります。ソロワーキングよりもコワーキングのほうが大事だと思っているのが、1~2年前の経営者だと思います。でも、それは絶対に正しくて。僕も新規事業をやっている立場なので、新しいことを生み出すには社内に閉じていてはいけないと思っています。

自分が会う人たちの多様性が高ければ高いほど、やっぱり新しいものを生み出せる確率は絶対に高いので。だから「早く外に出て、まったく関係のないやつと絡めよ」という感覚の経営者が多いと思うんですよね。それは絶対に正しいし、今の世の中全体でそこが足りないのも確かで。

わりとうまくいっている会社の経営者で「外とまったくつながりがありません」という人はいないですよね。経営者や立場が上の人ほど、ほぼ間違いなく外に出ていて、「なんでうちの社員はぜんぜん外に出ないんだろうな」と言っていたのが元だと思うんですよね。

だけど、すごく言い過ぎたことを言えば、外に出て輪を広げるタイプの人って、そもそも会社が提供せずとも勝手にやるし、提供されて受動的にやった人は永続的にはやらないですよ。

だから、コワーキングを用意すること自体が後手に回った瞬間で、なんだかしんどいなと思っている。あまり成功しているパターンを見たことがないというのが僕の感覚なんです。

もう1つは、コミュニケーションと集中は両方とも大事だけど、オープンオフィス過ぎると、あきらかに個々人の集中は低くなる。そこをサポートする空間が欲しいよねという話は、刺さる人には刺さります。

これが刺さるのはエンジニアのいるところですね。IT人材は特に、独りでものをちゃんと突き詰めて考えたいという人は多いんです。それなのに全部オープンオフィスにして、フリーアドレスにして、「なんかみんなすごく活発に話しているけど、俺にこのソースコードを書かせてくれ」という人たちをサポートするようなニーズは、けっこう多かったかなと思いますね。

サードプレイスに求められるのは「わざわざ行く価値」

——これからはどんな働く場所が必要とされるのでしょうか?

井上:まずは「ファーストプレイス」「セカンドプレイス」「サードプレイス」という言い方があって。ファーストプレイスは家ですね。セカンドプレイスはオフィスで、サードプレイスはその他だと思ってもらえればいいんですけど。

絶対に起きると思うのは、セカンドプレイスであるオフィスの機能のうち、通常業務インフラの30~70パーセントは家にシフトするということです。そうすると、個人のレベルでは「非日常に行きたい」という感覚が出てくると思っていて。

今後は自宅に押し込められるわけなので、ワーケーションのような感覚で、2週間に1回とか半日だけとか「ちょっと気持ちを切り替えられる場所で仕事をしたいよね」というトリップニーズは絶対にあるなと思います。

そのときに、Co-workも僕らがDeep Thinkと言っている独りの時間も、両方とも大事だなと思っていて。所有から利用へという話なんですけど、WeWorkやThink Labのような設備を自社に全部持てるのはすごく限られた会社だと思っています。

サードプレイスに何が求められるかと言うと、テーマは「わざわざ」です。70パーセントぐらいの仕事は家でもできるから、外に出るからには「なぜわざわざ行くか」という言葉に応えられる場所しかいらないと思っているんです。

そうすると合宿みたいなものがほしいなと思っていて。個人的に社員旅行とかはちょっと嫌なんですけど、合宿ってけっこう大事になると思うんですよ。

例えば、JINSは国内に400店舗くらいあります。店長たちはみんな同期とかなのに、お店が日本全国にあるから会えないわけですよね。でも、こういう小売店って絶対に半年に1回とか、3ヶ月に1回は、みんなを集めて飲むんですよ。「がんばろう」という場がないと、もうぜんぜん同じ方向を向けないんです。

オフィスワーカーも、ふだん集まらなくなると、それぐらいの状況になるなと思っていて。だから、店長会議みたいな感じになると思うんですよ。合宿のような「楽しいね」という劇場がほしくなるだろうなと思っています。

「非日常の場」には2種類ある

井上:それ以外でもうちょっと頻度が高いのは、この2つだと思っています。非日常の場にも2つあるんですよ。1つは、知らない人に肩を組んで挨拶されるようなハイタッチ系の劇場。もう1つは、Think Labとしては、ロータッチ系の“市中の山居”を作りたいんです。そこに行くと、もう誰も知り合いがいないし単純にほっとするな、という場所。

個人的には、ワーキングマザーみたいなペルソナを想像しているんですけれども。働くママはどこに行ったってママだし、会社員だし、「あれ、私って私じゃない?」というふうになってしまう。だから、自分でいられるような、ゆとりとゆらぎがある場所がほしいんじゃないかなと思っていて。

サードプレイスに求められるのはそういうものかなと思っています。Think Labでは、近々その問題を解決するものを発表できると思うので、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います。

——市中の山居、いいですね。今はまさに過渡期だと思いますが、もっと楽しく働ける未来がくるといいなと思います。お話ありがとうございました。

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